港街ライオット10
「総員に伝達! 港の倉庫だっ! 総員に伝達せ……ッ!!?」
ようやく地上に戻ってきたイラは、階段を上りきるやいなや遮二無二叫んだが、目に入ってきた光景を見て口を噤んだ。
一階のフロアには、そこら中に兵士たちが倒れている。
それらを跨ぎながら、外に出たイラの目に飛び込んできたのは。
「一体何が起こっているのだ……」
ビルの周囲には瓦礫が散乱し、階段の下では人々がパームカンパニー団員を相手に詰め寄っている光景が散見される。
階段前で警備をしている軍人の一人がイラの姿を目にして、駆け寄ってきた。
「これは支部長殿。ご無事で何よりです。見ての通りいま外に出るのは危険です。まだ、なかの方が安全かと」
「……これは一体どういうことだね?」
軍人らしいキビキビとした態度を向けられ、イラは思わず平静を装う。
「今日開かれていたデモの最中に、突然、御社のビルに向けて何らかの攻撃がなされたようでして。それを皮切りに、住民たちが暴徒と化し……」
「ビルが……攻撃……?」
イラは正面玄関の前にある階段を半ばまで下りてから、振り向き、息を飲んだ。
ビルの上半分四階から上が丸々消し飛んだような異様。
ロケット弾などではこうはならない。
一体、どうやったらこんな有様に……。
思わず、叫び出しそうになるのを抑え、イラは階段を下りて隣に並んだ軍人に問う。
「して、その賊は?」
「現在、捜索中でありますが、見ての通りの有様でして。中々、思うようにぐあっ!」
「き、貴様らが……軍人風情が我らの邪魔などと……!」
一刻も早く、港に向かいヌーロンを死守せねば。
その焦りの前では、イラの自制心は無力だった。
軍人なんていうのは、所詮、住民側の公僕であり、パームカンパニーのために必死になるわけがない。
「し、支部長! 今ご自分が何をされたかわかっているのですか? 申し訳ありませんが、公務執行妨害で逮捕させていただきます」
殴られた頬を押さえながら、こっちに向かってくる軍人の眉間に向けてイラは銃を向け、——撃つ。
後ろに倒れ、糸が切れた人形のように階段を転げ落ちていく軍人。
銃声に気づき、階段を駆け上ってくる他の軍人たち。
「邪魔だ……」
理性を失ったイラには、軍人を撃ったことの代償を鑑みる余裕はない。
事ここに至れば、イラの刑事処分は免れず、パームカンパニーはもはやこの街では活動出来なくなるだろう。
しかし今、イラの頭にあるのは、港に向かい「決められた事案」を完遂することのみ。
「貴様らっ! 全員邪魔だ―っ!!!」
そう叫ぶと同時に、天の助けか、鋭いブレーキ音を立てながら、階段下に一台の装甲戦闘車が横滑りに停車し、数人の兵士――栄えあるパームカンパニーの兵士が踊り出てきた。
そして、一斉に膝を突き、銃を構えると、
「撃てーーーっ!」
背後から軍人たちを一網打尽にする。
「……ふっ、ふはははっ」
その様子を見ていたイラは、込み上げてくる笑いを抑えられなかった。
何を取り乱していたのかという、己に対する自嘲。
そう、そうなのだ。これは決められた事案。
全ては、予定されていることなのだ。




