ミュウは想う
「バイスさん、バイスさん。見てくれよ、明日からは三番街の商店会も抗議活動に参加してくれるってよ!」
「おうおう、いいこった、いいこった! その調子でがんがんパームカンパニーの評判落としてくれよ! 仕事がやりやすくなるからな」
「任せとけって! 次は漁業組合だ!」
そう言ってまた家を飛び出して行く弟を見ると、なんだか嬉しくなってしまう。
最初会ったときは生意気な態度を取っていたのに、どういう心境の変化があったのか知らないけれど、弟はすっかりバイスさんに懐いている。
お母さんが救世主様の下に召されてから、自分が姉ではなく兄だったらと願ったことは何度もあった。
女の私では、弟を世話することは出来ても守ることは出来ない。
でも、そんな願いはもう無意味なのかもしれない。弟は私が思ってたよりもずっと成長しているのだから。
「ラダの野郎、おっさんとか言ってたくせによ。まあ、俺様のすごさに気付いたってことは、あいつも中々見どころがあるけどな」
「弟は嬉しいんだと思います。その、あの子は父親を知らないから……」
「まあ、こっちは商売だからな。あんまりてめえらに懐かれても困るけどよ」
そう言って、私が雇った鼻に大きな傷のある男の人は苦笑した。
この人は、こんなことを言ってるけど。
すごく口が悪いし、女性に対してでも容赦しないけど。
けど、けど……。
「おい、どーしたミュウ? 顔真っ赤だぞ?」
「な、何でもないです! 今日は暑いですよねー、あははは」
「そうか~? まあ無理すんじゃねーぞ。お前最近引っ張りだこだったもんな」
「は、はいっ! 大丈夫です……大丈夫」
私には……私に対しては、すごく優しい。
「あの~バイスさん。ありがとうございます」
「なんだよ、藪から棒に。まだ何もしてねえぞ」
「いえ、皆さんが来てから……私たちは希望が持ててます! それにラダもあんなに……目つきが全然違うんです。前はもっと険があったというか。とにかく、バイスさんに出会ってから私たちの人生が変わった気がするんです!」
何言ってるんだろう……お父さんもまだ見つかってないし、生きているのかもわからないのに。
浮かれてしまっている自分を、恥ずかしく思う自分がいる。
「そうかよ。でもまあ、礼なら父ちゃんが見つかってからにしてくれや。あと、お前はクライアントなんだからよ、もっと色々要求してくれた方がこっちもやり易いってなもんだ」
じゃあ、ずっと私たちといてください!
なんて、口には出来ない。その代わりに、私は必死に微笑んだ。
「はい、何か思いついたら言わせてもらいますね」




