商売人の条件
「――と言ってる」
「なるほどな。兵隊なんて呼ばれてても所詮はビジネスマンってわけか」
俺とウィンはミュウたちの家で、ようやく斥候から戻ったリーの報告を聞いている。
ルマンたちと手を結んでから、もう二週間が過ぎた。つまり、このおかっぱ変人は、二週間も斥候に出ていたことになる……。
三日目ぐらいから裏切りを警戒した俺とウィンは、意外にも潜伏先におあつらえ向きだったこの家に移動して来た。
まあ、事前に『ヴィシュラフォン』を渡しておかなかった俺も悪いのだが。
「ってかなー、お前やりすぎなんだよ。そこまで調べなくても大丈夫だっての!」
「ふぉあ、ふぉあちゃおあーっ!」
「『俺はプロだ。プロは手抜きなんてしない』と言ってる。まあいいじゃないか、これだけ完璧に相手の情報がわかったんだから」
確かに……。
パームカンパニーのオフィスビル内の図面からビルの建造に使われた資材、構成人数とその名前や家族に至るまで、確かにその情報は完璧だった。いや、完璧過ぎた。
「けどよー、あいつらの家族にまで手え出す気なんてねーぞ」
「ふぉあ? あちょーおーあっ」
「『なんだって? あの『千人殺』が随分と優しくなったもんだな』と言ってる」
「けっ、二度とその二つ名で呼ぶんじゃねーぞ。女にモテなくなるからな! それと俺はもうあの頃とは違うんだ。ちゃんとした商売で、まっとうに稼いで、そんでハーレム作るんだからな! わかったか?」
「……この仕事がまっとうだと思ってるのかお前……」
「ふぉあふ……」
なぜか、呆れたように俺を見る二人はこの際無視する。
俺の崇高なる経営理念をこいつらが理解出来るなんて思っちゃいない。
「でもまあ、あいつらの倉庫とそこの警備網がわかったのは収穫だ。流石だなリー」
「ああ、これなら僕らの報酬に関しては問題ないだろうね。でも……」
ミュウたちの父親に関する情報は何も得られていない。
リーの話では、奴らが誰かを監禁している様子はなかったという。
リーを待っている間に、ルマンたちにも囚われているニーム人についての情報を探らせたのだが、結局何もわからず仕舞いだった。
「……状況は悪くないんだけどね」
外から聞こえてくる、パームカンパニーへの抗議デモの声がする方に目を向けてウィンが呟く。
俺たちの作戦は予想以上に上手く行っている。
パームカンパニーに恨みを持つ人間が想定以上に多かったのと、ルマンたちの裏工作、それにウィンの口車が本領を発揮したからだ。
しかし、一番予想外だったのが……。
今やミュウが「父親を攫われた幼気な少女」として、反ニーム感情をも飛び越えて、このデモのマスコット的な存在になってしまっていることである。
この可哀想なガキに、街の奴らの同情を集めさせるのは作戦の内だったが、これはさすがにやり過ぎなレベルに発展してしまっている。ミュウたちの親父が死んでた場合面倒なことになりかねない。とはいえ、
「まあ、俺としてもクライアントの要求に応えたいのは山々だが、まずは報酬が先だろ?」
そんな俺の言葉に、二人がまた呆れたような顔をした。




