ニーマン・イン・リネン
薄汚れた、なんて可愛い物じゃない。
ミュウの住処は、俺が戦地で見てきた孤児たちのものと大差なかった。
「――すいません汚いところで……今お茶を入れて来ますね」
「ん? ああ」
家具は椅子が二脚と見たこともない寝具――床に直接敷くのだろう――が二つ、規則正しく折りたたまれているだけだ。
「なあ、この床にあるのはなんだ?」
「あ、それは東洋の寝具で布団と言います! 恥ずかしいですが、弟と私はそれを使って寝てるんです」
台所から俺の質問に答えるミュウ。恥ずかしいと言っているが、口調からしてあまり恥ずかしがってはいないようだ。
貧困慣れした人間たちは外聞なんて気にしなくなる。そういう人間はたくさん見てきた。
「お前はあの店の常連なのか?」
「あ、常連というか……」
答えると同時に、カップを一つだけ持ってミュウが台所から出てくる。
「あそこのおじさんは食べ物とかお茶をツケで売ってくれるんです。とても親切なんですよ」
「ほう……俺にはそんな風には見えなかったがな。人は見かけによらねえな」
「おじさんにはすごく良くしてもらってて、あっ、この布団もおじさんがくれたんです」
「俺からはしっかり金取ってたけどな。そうか、悪い野郎じゃねーんだな、あいつ」
「はいっ! 親みたいに思ってくれていいって、だからその内これで一緒に寝ようねって言われました」
……前言撤回だ。
人のこと言えねえが、冗談にも程があるぞあの下衆オヤジ。
「まあ、俺からのアドバイスだが一緒に寝るのはやめとけよ。うん。絶対にやめとけ」
「は、はい……わかりました」
きょとんとしながらも首を縦に振るミュウ。
「それで、一体俺に何の用なんだ――いや、その前にどうして俺をここに連れて来た?」
ミュウは俺にカップを手渡すと、向かいの椅子に腰をかける。
「ここまで来てもらったのはあなたに迷惑をかけないためです」
ミュウは自分の手をぎゅっと組んで床を見つめる。
「この街では私のことをあまり良く思ってない人もいるので……あまり人目に付かないようにここまで来てもらったんです」
「へー、なんだ、お前は悪いことでもしてんのか?」
「救世主様に誓って、私は悪いことなんてしません! お腹が空き過ぎて逆にお腹が膨らんできても盗みをしたことはないです。親切な方の施しは受けますが、お金をあげるから下着を売ってくれという人からはいつも逃げます」
修羅場の種類が異次元だが、世の中にはこんなガキ相手にそんなことを言うクソが存在するのか。
「じゃあ、なんで良く思わない奴らがいるんだ?」
「……それは私がニーム人だからです」
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