兵隊さんたち
「かーっ、たっまんねぇな~。お~い、もう一杯!」
日暮れ前ということもあり、客がほとんどいない大衆酒場を見つけた俺は、そこで取り合えず一杯やることにした。
「兄さん、良い飲みっぷりだね~。あたしの見た所ここいらの人間じゃないね?」
「……ああ、ちょっと訳ありでね」
恰幅の良い女店主が追加のビールを注ぎながら訊いてくるが、俺は口を濁す。口は災いの元だ。俺みたいなのがウィンの真似をしても碌なことにはならない。
「ふふっ、あたしにはわかるよ。あんた兵隊さんだろ? 体格が違うからね」
「……まあ、そんなところだな」
「船乗りたちも良い身体してるけど、兵隊さんはまた違うからね」
こっちが気のない返事をしても、この女店主はまったく気にしない。港町の気風なのか、このおばちゃんの性格なのか。
「兵隊っていや、リネンって中立国だろ、軍隊なんているのかよ?」
「いるにはいるけど、他所の国の警察みたいなもんだね。あたしらが兵隊って呼ぶのは傭兵たちのことさ」
そういえば昔どっかの戦線で、他所の傭兵団と戦闘になったことがあると誰かが言っていた。
甘く見ていたら、かなりの手練れ揃いだったと言うから、その話を覚えている。
『ブランズ』の奴らが敵を褒めるなんていうのは、そいつらが尋常じゃなく強いときだけだ。
「へー、そうかい。で、その傭兵ってのはこの街にもいるのか?」
「いてるいてる。ここいらで有名な傭兵団っていや『パームカンパニー』と『シェールカンパニー』さね」
「……ほう。そいつらは強いのかい?」
「どうなんだろうね。あたしはそういうことには門外漢だから。でもまあ、どっちも軍人と違って素行は良くないよ。パームカンパニーなんて悪い噂しか聞かないし、シェールカンパニーってのはほとんど海賊みたいな奴らだよ。今はベルベット海で一旗揚げるとか言って留守にしてるからここいらも静かでいいよ。……それにしても、あんた、兵隊さんの割にものを知らないね~。どっから来たんだい?」
「遠くからだよ。勘定は置いとくぜ。じゃあな」
いちいち鋭い女店主との会話を切り上げて、俺は店を後にした。
「悪い噂しかない傭兵、ねぇ……」
反芻するみたいに女店主の言葉を口にして、ついつい口元が緩んでしまう。
いやいや、だめだ、だめだ。もうそういうのとは縁を切ったのだ。
俺は馬鹿だが間抜けではない。こういう感情になったときは絶対に碌でもないことが起こる。
「ちっ、くだらねえ。なんかいい商売のアイデアはねえかな」




