十字路
「へへ、まあそこまで悪かぁねーな」
「うむ。生地が薄い服というのも悪くないものだな」
店員が見繕った服は思いのほか悪くはなかった。薄い生地は少しスース―するが、潮風が吹くこの街ではむしろ心地良い。なによりも、ここに来てから感じていた軽蔑するような視線が、今では別のものに変わっている。
「おいおい、あのねーちゃん俺たちの方見てるぜ。ちょっと声、かけ、て……」
「ふっ」
こっちを見ていた女に声をかけようかと動き出すが、その女の視線が真っすぐにウィンを追っているのを見た俺は、思わず言葉を失ってしまう。
よく見ると一人ではない。道行く女たち――子供連れの女、その子供、老人まで女と名の付く奴らは悉くウィンを見て、振り返ったり、足を止めたりしているのだ。
そういえば、変てこ扱いされていたニームの服を着ていたときですら、こいつはパブのねーちゃんたちにモテていた。それが今や土地に馴染んだ服を着て、小ぎれいになっているのだ……。
決めた。
「おい、俺は別行動を取る。あのねーちゃんたちに貰ったホテルまでの地図をよこせ。てめえはどうせ覚えてるだろ?」
「なんだ藪から棒に。別行動を取るメリットなんてないだろう」
「いーや、俺には大いにあるね。とっとと地図だせ」
「……まあ、お前がそうしたいなら……だがいいか、極力目立つなよ。それからどうせ別行動を取るのならあとでお互いが得た情報を共有出来るように、なるべく有益な時間の過ごし方をするんだ、いいか?」
ごたごた言うウィンから地図をひったくると、俺は近くの十字路を曲がる。
「おい、ちゃんと夕食までには帰って来いよ。無駄遣いするんじゃないぞ!」
「てめえは俺の母ちゃんか、ったく」
ウィンはモテるし、基本的に優秀な奴だが、決して完璧ではない。
さっきも服屋で、リベット紙幣を出して店員の不信感を買ってしまうという一幕があった。
慌てた俺たちは店員にすぐに戻ると告げてから、急いで換金しに行ったのだが、リベット自体が今はどこの国でも取り扱われていないと知らされた。
つまり、俺たちの持ってきた現金から預金口座まで、全てがゴミになったのだ。
何とかその場は誤魔化したものの、ウィンは銀行を出てから露骨に取り乱した。金がない生活など送ったことがないからだ。
だが、特殊部隊養成所に入る前は、路上で生きていた俺は違う。
すぐさま、あいつと俺の持っていた金目のもの――貴金属類や軍からちょろまかしてきたナイフなんかを、バックパックを隠した場所まで取りに行ってから、一癖も二癖もありそうな質屋に持っていくことを思いついた。そして、とっておきのファインプレーが、『ミロク』をぶっ壊したときの欠片だ。これが特に高額で引き取られたことで、俺たちは当面の金に困らなくなったのだ。
「ちっ、こんなことならもっと拾っとけばよかったな……」
俺は一人ごちると、まずは飲み屋を探すことにした。




