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無色透明のトロイメライ  作者: 皐月凉
2章 力の責任
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49話 喜怒哀楽

「……分かりました。あなたたちと協力します」


 迷ったが、けっきょくはこう答えることにした。……あまり断る理由がない。俺1人だとロードを追うのに限界がいつ来てもおかしくない。


「うん、ありがと。そうしてくれると、こちらとしても助かるわ」


 後藤さんは一安心といった感じに肩の荷を降ろしている様子だ。実際、緊張でもしていたのか。そんな雰囲気は漂わせていなかったが。


「じゃあ、改めて――よろしくな、黒江君。……いや、葵君。君も慶や遥のこと名前で呼んでな」

「えっ、それまたどうして?」

「名字で呼ぶよりかは安全やからな。過去にもおったねん、僕が名字で呼んだばっかりに身元が暴かれそうになったっていう事件が。それもロード絡みのな」

「随分とまあ、こっちに精通しているロードですね」


 そういう危険性も存在するんだ。それは初耳というか盲点だった。

 そうだよな、もし地球に長くいたロードならそんな考えを持つこともあり得るってことか。……その辺りも考えながら戦わないとならないんだな。


「全くやなぁ。だから少しでもそのリスクを減らすために下の名前で呼び会っているんやけど、慶は僕のこと名前で呼んでくれへんな」

「後藤のおっさんにそんな大層な関わり持ってる奴ここにはいねぇだろ。あれだろ、おっさんの家族地方に暮らしているんだろ」

「せやけど、こう、呼んでくれてもええやん? 仲ええ感じするやん。あ、それ言うなら人数も増えてきたしコードネームとかもええかもなぁ。どう?」

「……小学生じゃねぇんだから恥ずかしいっての。誰がするか」


 藤原の意見には同意するな。

 今後のとこを考慮すると、そういうのは確実なんだろうけど、今の段階だと羞恥心の方が勝る。


「ああそうそう、葵君。……葵でええ?」

「お好きにどうぞ」

「よしっ、なら葵やな。それで……今葵が追っているロードについて教えてもらってええか?」

「……はい」


 協力するとなったら、その辺りの情報は共有しないと同じ問題に当たれない。


「名前はナザリ。見た目は人間の姿をしていて、金髪の外国人ですかね。身長は多分180前後。あとは……あれです、なんだか訳の分からない力を持っていました」

「あー、俺も葵さんって呼ぶぞ。葵さんも慶でいいからな。で、葵さん。何だその中途半端な説明は?」


 藤原――慶はゲンナリと微妙な表情をしながら突っ込みを入れる。


「と言っても、実際分からないんだよな。……慶も後藤さんもロードが魔力を使うのは知っていますよね?」

「そりゃな」

「まあ、カールにそのくらいは教わってるよ」


 慶と後藤さん、それぞれ反応を示す。


「て、俺は俺と契約しているロードの力を借りている状態だと、基本魔力も物理攻撃も通さない力があります。俺とそのロードは夢幻と呼んでいますが、最初の戦闘のとき、夢幻がその訳の分からない力で突破され、怪我を負ったことがあります」

「あれかぁ……けっこう遠くやったから詳しくは見れんかったけども、確かにどんな攻撃も防いでいたように見えたな」


 前の獣みたいなロードとの戦いを見たらしい後藤さんは納得の表情を見せる。


「んだそれ。強すぎんだろ。……で、それを突破する力も強すぎだろ」

「ただ、ナザリの不明な力を使うにはそれ相当のリスクがあるっぽくて、一度使ったらすぐに即座にナザリは退きましたけどね。今は恐らく回復に努めているでしょう。俺の契約しているロードが言うにはあと数日で復帰するかと」

「なるほどなるほど。ソイツは誰かと契約しているかな? してたらけっこう厄介なんやけども。保護する必要あるし」

「これも恐らくですが、していません。アイツは人を襲わないで自分で魔力を徴収する力を持っているみたいなので、契約はしてないかと」


 と、しばらく話していると、後藤さんの携帯が鳴り響く。


「むっ、ちょっとすまんな」


 席を外し、何やら会話しているのを何となくボーッと見かける。

 なんだか電話越しにペコペコお辞儀しているから上司か何かの電話なのかな。


 ……会話が止まったな。まるで3人仲良く話していながらも、うち共通している友達がいなくなったら残り2人の会話が途端に止まるあの微妙な雰囲気がここに流れている。いや、別にそんな状況に陥ったことはないんだけどね。そもそもそんな数の友達がいなかったからな。……自分で言っていて悲しいな。まあ、今さらか。


 遠坂……えっと、遥? 遥はひたすら直立不動で何を考えているか分からない。慶は俺みたいに暇そうにボーッとしている。チラチラ俺の方を見てくるけど、どうしたんだろう。


「すまんすまん。待たせた」


 って、もう後藤さん戻ってきたか。


「ちょっと悪いけど、僕今から面倒な相手に呼ばれたからここから離れなあかんくなったわ」


 申し訳なさそうにそう話す。

 その相手とやらはここに関係ある人なのか。


「ああはい。お疲れさまです」

「それで帰りなんやけど、これでタクシー捕まえてくれ」


 そう渡されたのは10000円。……え? こんなに?


「いや、多くないですか?」

「そう? んー、まあ、今日わざわざ来てもらったお礼ってことで。お釣りは小遣いにしぃ」

「あ、はい。ありがとうございます」


 押しきられてこれだけしか言えなかった。


「しばらくここにいて大丈夫やからな。どうせ慶はだらけるやろうし、遥はここに暮らしているしな」

「うっせーぞ、おっさん」

「ああせやせや。連絡先だけ教えといてくれ」

「分かりました」

「ん、ガラケー?」

「別にスマホいらないんで」

「ふーん、そういうもんか。今時の若い子にしたら珍しいもんやなぁ」


 連絡先を交換してから「またよろしく」と言い残して後藤さんは去っていった。

 話しやすい人ではあったけど、全面的に信用していいのかはまだ判断つかないな。協力するからには頼ろうとは思うけど、何だかなぁ……。後藤さんもというか、この組織は打算的で俺を利用しているだろう。だったら、俺も利用できるだけしよう。


「…………」


 さぁて、それは置いておいて――――ここからどうしようか。


 さっき後藤さんが電話に行ったときと同じ状況だ……。

 何をするか正直かなり迷いどころだ。このまま帰るか。もう少し居座って情報を集めるか。どう動くべきか。


「――――」


 ただ何だ、まだ気になることはある。それは……は、遥が契約しているロードについてだ。どうやらこのビルにいるらしいが、簡単には姿を見せない。……心の中とは言え、女子を下の名前で呼ぶのは恥ずかしいお年頃です。

 後藤さんが契約しているカールはもう姿を消している。どこかで寝ているのか、後藤さんに付いていったのか、それとも自由に行動を許されているのか――分からないな。


 時刻はもう昼近い。そろそろ腹は減ってきたな。奏さんに何時ごろに帰るか連絡してないし、もしかしたら俺の飯を準備しているかも。今からでもいいし連絡入れておくか。それにはどうするかさっさと決めないと。


「――ところでよ、葵さん」

「……どうかした?」


 いきなり話しかけれた。びっくりしたぁ……。


「飯、食ってくか? どうせそこのお地蔵にも作るから2人も3人も変わんねぇけど」

「えーっと、じゃあお願いしていい?」

「おう、なんか食えないもんあるか? 俺はキノコが無理だな」

「んー、これといってない」

「おうよ。そりゃいいことだな。ま、しばらく待っておいてくれ。それなりに時間かかるし、わざわざご足労願ったんだ。その間もう1人のロードでも紹介してもらえば? おい、漬け物石、案内してやれ」

「………………分かりました。葵さん、付いてきてください」

「お、おう。慶もありがと」


 それにしても、慶の呼び方バリエーション豊富ですね。どんどん酷くなっている気がするのは気のせいですかね?


 スッと音もなく起立した遥の後に続く。ほんとにこの人無表情だな。


「葵さん」

「今度は何?」

「…………あんま気落とすなよ」


 部屋から出る直前に慶からそのような忠告を貰う。

 ――――気を落とす? それはどういう意味だ? とりあえず奏さんに昼はいらないと連絡しておこう。



 さっきまでいた部屋から2個隣の部屋。ここが遥の暮らしている場所か。


「おじゃましまーす……」


 ヅカヅカと部屋に入る遥の後に続く。あ、かなり小声です。凪以外の女子の部屋におじゃするのは初めてで緊張します。

 内装は、うん、至って普通。1人用のソファーにデスクにノートパソコン。あとは家具がちらほら。何て言うか、ホントにそれだけ。私物の類は多分俺より少ないくらい何も置いていない。


「それで、遥……お前のロードはどこにいるんだ?」


 早く本題に入るか。下の名前で呼ぶのは恥ずかしいけど、もう気にしないことにしよう。


「はい。――――来てください、アンリ」


 遥はそう静かな声で呼ぶと、部屋の置くからゆっくりと何かがこちらに飛んでくる。あ、肩に止まった。


 これは……鳥? 全長60cmくらいの鳥に見える。全身は黒に覆われていて、その眼はひたすらに紅い。実物は直接見たことないけれど、宝石のルビーの如く綺麗な瞳だ。くちばしも尖っており、羽は相手を威圧できるくらいには大きく迫力がある。

 ただの印象だが、俺が初めて戦ったあの獣のようなロードと色彩は似ている。まあ、あれは影みたいなモヤモヤがあったけど、このアンリと呼ばれたロードは毛並みが黒いと言っただけだ。似て非なるという様子だ。


「紹介します。この子が私の契約しているロード。アンリと言います」

「――――」


 と言われても、黙っているだけ。まあ、カールと違って鳴き声も発するとこはないロードなのか。


「えーっと、は、遥はこのロード……アンリが何て言っているのか分かるのか?」

「はい。ですが、この子は多くを語りたがりません。基本無口です」


 そこは契約している同士似ているんだな。

 アンリと目を合わせてみたが、そっぽを向かれた。えぇ……。


 ていうか、カールやアンリと言い、ここにいるロードは動物みたいな容姿だな。人間の姿をしているレーヴェやナザリとはかなり違う。……あの獣のようなロードも狼や虎を彷彿とさせるような印象だったからおかしくはないのか。

 もしかしたらまだ姿が変わったりでもするのかね。


 っと、話を戻して。


「……いつぐらいから契約しているんだ?」

「もう8年は経ちます。私は10年前に目の前で家族をロードに殺された後、後藤さんの助力を得てロードを追っていました。最初は後藤さんが街にいたロードをどうにかしていたのですが、すぐに限界が来ました。そんなある日のことです。私たちはまた現れたロードを追いつめたときに、仲間に引き入れようと私たちに協力するよう呼びかけました。それがこの子です」


 なるほど、スカウトのような形か。ロードをスカウトか。なんか絵面スゴいな。


「当時はカールがこの子と話してくれたのですが、今は恐らく私としか会話を試みないでしょう。そして、ロードとどうしても戦いたかった私が契約をしました。この子に私に戦う力を下さいと」

「それは――――復讐心から?」

「はい。昔も今も私には家族を死なせたロードを赦すつもりは毛頭ありません。今も私の脳裏にあの日の惨劇は刻み込まれています」


 俺はあの大地震のせいでただただ空っぽになっただけだが、俺とは状況がまるで違う彼女は俺とは違う道を、茨の道を選択したのか。――――当時、まだ小学生にもなってない年齢で。


「私はこの子に魔力を与え、この子は私に戦う力をくれました。しかし、それだけでは契約の天秤と釣り合わなかったのでしょう。だからか、私はこの子に奪われました」


 淡々と話を進める。その様子は今日遥と会ってからずっと見てきた。


「奪われた? それは何を……?」


 こうやって不安になりながらも問い質しているが、もう俺は答えを見付けているかもしれない。薄々と勘づいてはいた。彼女はどこまでも無表情、全く眼も頬も口も、表情を表すために動こうともしない。不気味ではなく、あまりにも不自然なカタチ。

 俺はそれを認めたくないだけかもしれない。見てきたけど、本当に見ようとしてこなかった。


 しかし、もし俺の予想が当たっているのなら――――


「恐らく察しはついてると思いますが、私は契約する代償として感情を奪われました。私には復讐以外の感情を表現できないのです」

「――――ッ。……あっ…………」


 ――――言葉が出ない。

 今まで様々な出来事があり、その度に驚愕などで言葉に詰まっていたことがあったが、それら全てが嘘かのように、口を開こうにも何か喉に突っかかって言葉を発することができない。何を言おうか、何て言えばいいのか、それすら分からずただただ黙っていることしかできない。

 ……ああもう、ダメだ。あまりにも思考がぐちゃぐちゃだ。


「…………と、言うのは……その、ぐ、具体的に?」


 何とかこれだけは絞り出せた。もっと訊きたいことは山ほどあるはずなのに。


「正確に言うと、喜びや悲しみなどの感情を感じることがあります。しかし、感じたと同時にその気持ちが消え去ります。だから、結果として私は何も思わなくなり、何もなかったことになります。……例え、どんな感情を抱こうが」

「…………」

「私という人間はそういう存在なのです。契約前ですら、ただロードに復讐するしか頭になかった人です。感情が私から失くなったとはいえ、特にこれといって支障はありませんので。私には復讐心さえ残っていれば大差ありません」


 事務的にそれらを述べたてる遥にどう返せばいいのか頭が混乱して――


「……そろそろご飯ができていることでしょう。先に戻ります」


 後を追いかけることができずに、部屋を出ていく遥を呆然と見送ることしかできなかった。


だいぶ日が空きましたね

ようやく大学の授業が始まってまた忙しい日々がやって来ました。次回もよろしくお願いします

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― 新着の感想 ―
[一言] 契約の対価?が感情の喪失とは 葵と全然違うんだ。やだなぁ、契約って怖い
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