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無色透明のトロイメライ  作者: 皐月凉
2章 力の責任
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47話 ナカマ? ミカタ?

 ――――な、何だ、コイツ……。いきなり現れていきなり探していた云々言われても……。


 そもそも誰だ? 特に見覚えはない。もしかしたら九条さんパターンか。過去同じ学校だったみたいな。いや、それにしてもわけが分からなさすぎる。

 と、俺がいきなりの事態に困惑していると、今度はワゴン車の運転席からまた1人新たな人物が出てきた。……30代後半くらいのおっさん。見た目は若いが無精髭を生やしているから余計に年を取っているように見える。


「あー、ちょいちょい。お前さんなぁ、そんな初っぱなからストレートにぶつける奴があるか」


 で、そのおっさんはめんどくさそうに頭を掻きつつ目の前の人を制止している。

 大人の男と高校生くらいの女……どういう組み合わせだ。まだ話が通じやすそうだな。


「いきなりごめんな。コイツ、猪突猛進だからよ……」

「はぁ……そうですか」

「そうそう、それで君は黒江葵君で合っとるか?」

「……はい」


 さすがに意味不明すぎるし、警戒しながら答える。

 これはただの勘だけど敵意は……なさそうだ。何と言えばいいのか、人当たりがよさそうな性格。一部の大人が持っているような威圧感はない。……いまいち、信用ならないのは置いておいて。っていうか、どうして俺の名前を知っているんだ?


「あなたは? それにあの人も」

「悪い悪い、まずそっからやな。俺は、後藤淳一ってもんだ。よろしく頼むわ。で、隣にいる奴が遠坂遥。高2だから多分同い年か」

「…………」


 後藤淳一……後藤さんは自己紹介を気さくに行ったが、その隣にいる遠坂遥――――遠坂さんは軽くペコッと会釈するだけ。寸とも言わない。なんなら会釈したときも無表情。反応に困る。


「……それで、後藤さんたちは何なんですか? 通報しますよ」

「おい、自己紹介していきなりそれはないや……いや、俺ら確かに怪しすぎるわな。黒江君の反応もそりゃ妥当か。端から見れば俺ら不審者やな。ああ、ごめんごめん。話逸れたな」


 頭をまた掻きながらゴホン! と、後藤さんは大きな咳払いをしてこの意味不明な状態を改めて仕切り直した。


 そして、その口から発せられた言葉は更に俺の予想外のモノだった。


「――――単刀直入に言えば、君の力が必要なんや。ロードの力を持っている君が」

「…………ッ」


 まるで意識の外からぶん殴られるような感覚。

 起きてからここに来るまで眠気のせいで若干はっきりしていなかった意識が一気に覚める。


 ――――どうしてロードのことを? どうして俺のことを? どこまで知っている? 一体何者なんだ? どうしてどうしてどうしてどうして――――


 後藤さんが言った言葉はたったそれだけだが、疑問が尽きない。……くそっ、思考がパニック状態に陥る。

 頭は完璧にこんがらがっているが、俺の体はそうじゃない。まるで頭と体が別物かのように腰を低くし自然と警戒体勢を取っている。このまま『ブースト・オン』と呟いて戦闘に備える……?


「ちょーっと、ちょーっと! ストップストップ! 何もここでバトろうなんて思ってねぇよ。っていうか、黒江君と戦ったら絶対負けちゃうからね、俺は」

「……なら、何だって言うんですか。こちらこそ単刀直入に訊ねますが、あなたは俺の敵ですか?」


 俺の両肩を掴み、かなり焦った様子で俺を止める後藤さん。その演技ではなさそうな迫真の行動に少しだけ冷静になることができた。若干引いたけど。


「違うって。……あれ、俺言わんかった? 力貸してほしいとか……言ったよな? な?」

「…………逆に訊ねますが、初対面の怪しい人たちに『力貸してほしい』云々言われて信用できますか?」

「できへんなぁ……」


 後藤さんもしかめっ面で妙な形で納得する。


「理由は分かりませんが、あなたたちは俺の素性を知っている。俺にとってはそれだけで充分怪しいんです。敵ではないと言うなら――その証拠を見せてください」


 主導権を握られないよう俺にしては口数多めで話を進める。

 それに加えてさっきからレーヴェの様子がおかしい。いつもなら何かしらの反応を示すが、しばらく黙ったまま。おまけに驚きで喉を詰まらせたような吐息が俺の頭に響き渡る。


「証拠、証拠ときたか。うーん、黒江君の立場からしたらその要求も当たり前やなぁ。しかしまあ、どういう風に説明しよか……。黒江君、今日は時間ある?」

「ありますが」

「なら付いてきてくれへんか?」

「どこへ?」

「僕らのアジト」

「……そもそも、後藤さんたちはどういう集まりなんです?」

「それも含めてアジトで話すよ。ほら、車乗りぃな。こっからだいたい20分ほどで着くから」


 そう意気揚々とワゴン車に案内される。いざとなったら、逃げればいいし、ここは従ってみるか。レーヴェの力を過信しているところはあるだろうが、実際逃げ切れはできるだろう。そのあとどうなるかは予測できないけど。


 どこに連れて行かれるか不安になりつつ後部座席に座る。隣にはずっと無表情の遠坂さんがいる。気まずいので助手席に座ってほしかったな……。

 どこを見ているのか、俺のこと意識にあるのかマジで分からない。何考えているのかさっぱりだ。俺もどちらかで言えば、無表情な方だが、ここまでポーカーフェイスはなかなかできない。


『事態が落ち着いたようなので、忠告しよう』


 車が走り出して3分頃、レーヴェがどこか真剣な口調で話し始めた。さっきまで何か焦っていたように感じたが、大丈夫なのか、

 周りに人がいるので俺は目立った反応はできないが、耳を……正確に言うと頭を傾ける。なんかそれだと意味違うなぁ。まあいいや。


『君の隣にいる娘からロードの気配がする。魔力の残り香もある。……恐らく彼女はロードと契約しているね。前にいる男も少し異質だがロードの気配は残っている。この男が契約しているかとどうかは――ちょっと不明だ』

「――――」


 反応に困る。しかし、薄々とそんな予感はしていた。後藤さんがロードの名前を口にしたことから、何かしらの関係があるのだろうと。そして、後藤さん自身は戦えない的なことを口にしていた。だからまあ、直接的な関係があるなら、遠坂さんだろうと……。


 っていうか、今まで俺と一緒にいてレーヴェはその他のロードに気付かなかったのかな。…………まあ、俺のなかにいる大半は回復に努めていたと言うのだから無理もない。自分に手一杯だったら周りなんてとことん疎くなるし。とりあえず話を訊いてみないことには始まらない。

 それにしても、こちらから主導権を握るつもりだったが、どうにも後藤さんにノせられているな。ペースが掴みにくい感じはある。


「到着~。駐車場に停めるからもうちょい待っててくれ」


 ――――走っていること数10分。警戒心は解かずに過ごしていると、どうやら目的地に着いたみたいだ。


 目的地はショッピングモールから西へ数km離れたところにあるビル。だいたい10から15階くらいの高さ。


「まさかここ一棟丸々ってことはないですよね?」

「さすがにそりゃねぇな。せいぜいワンフロア借りてる程度。ま、こっちにも事情は色々あるんや」

「……それでも充分すぎるような」


 思わずぼやく。

 この人たち、いわゆる金持ちなのか。いやでもマンションではなくビルだし会社とかなら当たり前になる……のかな? 小市民的な思考をしているのでこんな立派なビルに入るのはドキドキする。


 駐車場から降りて、綺麗なフロントを通過し、エレベーターに乗る。11階で停止。そして、廊下を歩いて案内され、俺はある一室に入る。


「…………あの、ここってビルですよね? 多分ビジネス系の」

「まあ、言いたいことは分かるよ。これじゃあ説得力ないよなぁ」


 入った部屋というのは、なんていうか……普通の家みたいな内装。

 エアコンは効いており、部屋の真ん中にはかなりでかいソファーが置かれている。ていうか、テーブルもテレビも様々なゲーム機も冷蔵庫もキッチンもあらゆる家具や家電が、何もかもが高級そうな雰囲気を漂わせている。パソコンも数台あり、自堕落に過ごそうと思えば、過ごせるだろう。


「おー、お前ら戻ったのか? 随分と早かったな。もうちょいゆっくりでもいいのによ。で、目当ての人物は連れてこれたのか……って、いるじゃねぇかよ。早く言えよ、恥ずかしいだろうが」

「まあまあ。ていうか一応連絡はしといたで?」

「はぁ? ……ゲッ、マジかよ。履歴あるじゃん」

「だからいい加減サイレント止めてって言ってるでしょうに。いざってときに連絡できないんじゃ、携帯の意味ないでしょうに」

「俺はスマホの音鳴らすの好きじゃねぇんだよ、察しろ」


 そして、そのソファーに寝転んでだらけていた奴がいたらしく、後藤さんに愚痴を言いながらもムクリと体を起こしてこちらを一瞥する。

 男子中学生か高校生の年頃。髪はワックスで固めているのかオールバックみたいに上げている。目付きはわりと鋭い。


「今いるの慶だけか?」

「ああ、他の面子は出払ってるよ。つか、イチイチ揃ったことねぇだろ」

「そうやけど、一応や。せっかく黒江君が来てくれたんやしなぁ」

「へぇ。コイツが噂の……。おい、後藤のおっさん、紹介しろよ」

「はいはい……。全く慶は言葉遣い乱暴なんやから」


 後藤さんは俺の方に向き合い、少し疲れた様子で。


「改めて、ここが僕らのアジト。ホントはもうちょいメンバーいるんやけど、今は僕ら3人だけみたいやな。召集かけたねんけどな……。ま、追々紹介するよ。で、この口調が荒くいかにもグレてそうな少年が藤原慶。年齢は15。高1やから黒江君の1個下やね」

「おいコラ、グレてそうってなんだよ。……ハァ、まあいいか。後藤のおっさんにイチイチ愚痴ってもしょうがねぇ。それで、アンタはえーっと、黒江……何って言うんだ?」

「黒江葵。高2だ。……正直いきなり連れてこられてよく状況が分からないが、とりあえずよろしく」

「……それって誘拐なんじゃねーの? なあ、後藤のおっさん。通報するか? 逮捕歴つけるか? その年でついたら復帰大変そうだな」


 呆れ顔で突っ込みを入れる藤原君。後藤さんは流し目でやんわり否定する。


「い、一応了承は得てるから」

「ハッ、どうだかな。じゃ、改めて俺からも言っとくわ。俺は藤原慶だ。こっちこそよろしくな」


 確かにガサツっぽく見えるが、根はいい子そうだな。多分ここにいる人たち全員ロードと関係がありそうだが、藤原君は……まだまともそう。遠坂さんはよく分からないし、後藤さんはどうも胡散臭いという印象が拭えない。


 一通り自己紹介を終えたところで、俺含めて立っていた3人はソファーに腰をかける。テーブルを挟んでソファーは2人がけが2つある。俺の隣に遠坂さん、真正面に後藤さんと藤原……君。やっぱ藤原って呼ぶか。君づけは向こうのキャラじゃなさそうという勝手な判断だが


「話す前に……慶、紅茶淹れてきてくれる?」

「……ったく、しゃあねぇなぁ。お前ら一向に上手くならねぇからな。しばらく待ってろ」


 ぶつくさ文句を言い、キッチンへ消えていく藤原を見送る。

 え、藤原が淹れるの?


「僕らの中では慶が淹れるの一番上手なんよ。っていうより、僕らが下手すぎて相対的に慶を頼る機会が多くなってその結果上手くなったみたいやけどな。ま、元々慶は器用やし」

「へぇ……」


 何て言うか、意外の一言に尽きる。

 ほぼほぼ初対面の相手に言う言葉ではないかもしれんが、めちゃくちゃ大雑把な性格してそうなのに……。

 俺は淹れたことないのでさっぱりです。家では飲む人少ないしな。凪は苦手、陽太郎さんはコーヒー派、せいぜい奏さんがたまに飲むくらい。


「あ、黒江君は紅茶大丈夫やんな?」

「まあ、あまり飲むことないですけど、大丈夫です。ただ、猫舌なんで」

「そかそか。そのくらいなら冷ませばええし、全然問題ないな」


 ――――それにしても。


「…………」


 チラッと横を見る。

 遠坂さん、最初に意味不明な問いかけをしてから一切合切喋ってないな。俺は誰も彼も好かれるタイプではないが、ここまで黙っていられると……嫌われているのか。まだ何も知らないのにこんなにも嫌われるとは、居心地悪いな。


「……おら、待たせたな」

「ありがと。うんうん、慶の淹れる紅茶はやっぱ美味しいなぁ」

「へいへい。おい、遥。お前も毎度のことながら何か言えよ。せっかく俺が淹れたんだぞ」

「……ありがとうございます」

「ケッ、そんだけかよ、つまんねー女だぜ」

「まあまあ。慶も落ち着け」


 紅茶を運んだ藤原は不機嫌オーラ丸出しにしながらさっきと同じ席に着く。


「――――じゃ、頃合いやしそろそろ始めようか」


 藤原が紅茶を淹れてくれてからようやく話の本題へと入る。

 後藤さんが話を切り出し始め、対する俺は耳を傾ける。藤原はもう事情を知っているのだろう、テーブルに足を伸ばし、ただただ面倒という態度をとっている。遠坂は言わずもがな、ボーッとしているだけ。


 そして、後藤さんはこちらが下手に緊張しないようにか朗らかな語気で話を進めようとしていた。



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