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無色透明のトロイメライ  作者: 皐月凉
2章 力の責任
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39話 なんで?

 ナザリが去っていったはいいけど……。


「いってー……」


 緊張が解けて思わずその場に腰を下ろす。


「はぁ、助かった……」


 戦っている時間はごくわずかなのに、とてつもない疲労感だ。おまけに大きいダメージ貰ったしな。なかなかのやられっぷりだ。

 周りに人の気配は……ないな。よし、しばらくここにいよう。躰も心も落ち着くまで休もう。


『葵、大丈夫?』

「おかげで何とか。しかしまあ、これスゴいな。もう傷塞がってるよ」

『時間を巻き戻したからね』


 あの謎の攻撃。恐らく肩を貫通したから、あのままだと冗談抜きでヤバかったかもな。痛みはそりゃあるけど、すぐに治るのはありがたい。少しずつ引いていくにしても、肩を貫かれたんだ。まだまだ痛みは残る。

 それにしても、肩に喰らったからまだ良かったな。ホント、これが心臓とかだったら……ゾッとしねぇ。改めて自分の危機を自覚して……冷や汗が止まらない。ああもう怖かった。


「……つーか、アイツはどうして夢幻を突破できたんだ? あれほとんどの攻撃に対応できるよな」

『それなんだよね。さあ、困った困った。まさかあれを突破されるとは。……ただ、予想はできるんだよねぇ。何せ、私も経験あることだからさ』

「ん? というと?」


 経験がある? 


『かつての私が致命傷を負った話はしたことがあるだろ?』

「ああ、あのレーヴェのよく知らない敵から受けた云々のやつだろ? ……え? それを今言うってことは、さっきのって昔レーヴェが喰らったのって同じ攻撃なの?か」

『もしくはあれと類するモノだね。あの攻撃を繰り出す瞬間だけ、ナザリと名乗ったロードは魔力を纏っていなかった。何より、私が死にかけたときに貰った攻撃と雰囲気はかなり似通っていた』

「……なるほどね」


 要するにあの攻撃の正体は掴めないが、レーヴェの天敵というべき種類ということか。実際、最初の方は夢幻で問題なく防げたわけだし。夢幻の力を無効にできる代物? ……これは厄介だな。

 あれ? ということは……?


「なあ、レーヴェ」

『どうしたんだい?』

「じゃあさ、ナザリはロードの世界やレーヴェをを襲った奴と関係あるってことか?」

『……仮定を重ねた話になるけど、恐らくそうなるね。ナザリはロードだ。そこに間違いはない。しかし、やはりあの一瞬だけ別の生物になったようだった。気に喰わないことだがあれは――――』

「レーヴェを襲った謎の奴と?」

『ああ。非常に似ていた。実に腹立たしい』


 ……ええっと、うーん。話がややこしくなってきた。少し情報を整理しよう。 


 レーヴェがロードの世界で王として君臨していたころ、謎の敵によって襲撃され、疲弊したところで攻撃を喰らい、致命傷を負った。そのとき夢幻で身を守ったが、見事に破られた。そして、レーヴェは単身地球へやって来たてのこと。

 それがこちらでの大地震の日。そのあとは俺の中に入って休養に努めていてた。


 で、そこから10年後。つまり現在。ロードがここにやって来て人を襲い始めた。

 まずはあの獣みたいなロード。いつ地球に来たか不明だが、多分そんなに経ってなかったはずだ。でなきゃ、ロードにとって毒である環境のここで生きていられない。魔力を得るために人を喰う。こんな事態がもっと続いていただろう。そうなれば、もっと人を殺してニュースになっていたと思う。

 契約という抜け道があるにはあるが、それを使ったとしてもアイツはきっと10年も大人しくしているとは思えない。だって、人を喰った直後に俺に襲いかかるような奴だからな。実際は九条さんと契約していたが、その前の話だ。


「――――」


 そして、今回現れたナザリ。

 ナザリの目的は俺……じゃなくてレーヴェ。

 レーヴェに復讐するためにここに来たと。まあ、地球に来たのがいつかって言われたら確証はないけど、直近かな。多分最初に会ったロードとほぼ同時期だろう。

 そんなに差は開いていないと予想する。俺らを観察していたらしいし。そこから少しずつ力を蓄え、俺らに挑んできたって感じになるのか。現時点の情報では。


 これは完全に仮定だし、外れている可能性大だが。


 例えば、ナザリがここに来たのがレーヴェと一緒だということも有り得る。

 ……だとすると、レーヴェの言う謎の敵の力を持っていることについての説明がつかないんだよな。レーヴェと一緒に来たら、その謎の敵と関わる機会があまりないように感じる。レーヴェがいない間に何かしらの関わりを持ったとするなら、やっぱここに来たのは最近だと思うんだよな。

 あー、でも、アレだ。確かレーヴェが言っていたな。謎の敵はロードの世界で扇動してからレーヴェを襲ったと。扇動ってことは、ロードを煽る必要がある。そこでナザリは謎の敵と関係を持ったのだろうか。


「……あー、ダメだ」


 纏めだしたら余計にこんがらがってきた。

 やっぱりレーヴェを追ってきてすぐに地球に来た? それともここ最近に来たのか?


『君が考えていることは予想付くが、あまり考えすぎないようにね。どれだけ多くの仮定を作ろうとも、情報がないのでは結論に辿り着かない』

「いやまあ、もちろんそうだけどさ」


 ――――ただ、こうやって整理して1つ分かった気がする。

 これも仮定に仮定を重ねた話だが、もしナザリと謎の敵に何か関わりがあるなら、ロードが地球に来れた原因はその謎の敵にあるだろう。つまるところ、レーヴェは異星からの敵と呼称していたし、もしかしたらいわゆる――異世界へ行く力があるのかもしれない。


 ……異世界か。たまに凪から借りるラノベにそのような設定を用いた話があるが、レーヴェもよくよく思い返せば異世界の住人なんだよな。普段の俺ならバカバカしいとか思っただろうか。そんなものはないと一蹴したかもしれない。

 本来なら地球とロードの世界は交わることはなかった。しかし、どんな因果が働いたのか知らないが、こうして俺はロードの力を借りてロードと戦っている。


 何ともまあ、ファンタジーな事態に巻き込まれたな。その道を選んだのは他でもない俺だが。


『あれから大分時間は経ったが、そろそろ落ち着いたかい? 傷も綺麗さっぱり治ってるだろう?』

「……そうだな。もう傷跡なんてないな」


 って、なんでこんなにはっきり傷跡がどうのって見えるんだ? 

 ……あ。そうだ。制服に穴空いてるじゃん。攻撃が肩を思いきり貫通したんだから当たり前だけど、あれだ、これを放置してたら絶対ヤバい。


「レーヴェさん」

『おや? どうしたんだい?』

「……その、制服も直してほしいんだけど。いいかな? このまま帰ったら奏さんに問い詰められる」

『仕方ないなぁ』


 すると、肩が蒼く光る。おお、あっという間に元の制服に戻っていた。

 こうも間近で見ると、やっぱりレーヴェの力ってマジでスゴいな。時間を操るってどこからどこまでかの程度とかチンプンカンプンだが、とてつもない力だということには変わりない。


「ありがと」

『いやいや、このくらいはね』

「……よしっ。一旦帰るか。あ、魔力の反応とか追えないか?」

『それはちょっとばかし厳しいね。ナザリは隠れるの相当上手なロードだと思う。今回はわざと魔力を使ってくれたらから分かったが、次はそうはいかないかもね』

[そうか。……ならどうして逃げたんだ? あのままなら仕留めようと思えば仕留めることできただろ]


 ナザリからしたら絶好のチャンスだっただろうに。怪我で動きが鈍っていたので同じ力で狙えただろうに。

 そこがどうしても疑問に残る。


『おいおい、君がそれを言うか……』

「ああいや、別に好き勝手ヤられるつもりはなかったぞ。まあ、その可能性もあったんじゃないかって。けっこう余裕そうな態度だったし」

『どうだか』

「そこは信用してくれ」

『はいはい』


 若干呆れながらも楽しそうに笑っているのが分かる。


「――――それで、引いてくれた理由分かる?」

『さあ? 大方、力を消耗し過ぎたとかじゃない? あれはロードには合っていない、かなり相性の悪い力だろうしね』

「そういうの、視ただけで分かるのか」

『何となくの雰囲気だけどね。大ざっぱな予測』


 さいですか。まあ、その辺りの理由が妥当って言えば妥当だよな。じゃなきゃ、わざわざ引き下がる理由なんてないし。


 ……というより、もうこれ以上はここにいるのもあれだ。遅くなったらまた説明が面倒だ。早く帰らないと。変な奴らに絡まれるのも嫌だし。ただでさえそういう奴らが集まりやすい場所なんだ。

 レーヴェも同意見のようで。


『とりあえず早く帰って休みたまえ』

「……そうする」


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