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無色透明のトロイメライ  作者: 皐月凉
2章 力の責任
35/62

34話 お出かけ中に知人と会うと気まずかったりそうじゃなかったりする

「黒江君は、お出かけですか?」

「ああ、うん」


 九条さんと挨拶していると、後ろから背中をツンツンされる。


「お兄ちゃん、あの人誰? やっぱり友だち?」

「……クラスメイトだけど」

「へー……。あ、もしかして前に言ってた読書仲間って人?」

「まあ、そうだな」


 その言い方で間違ってはない。

 というより……凪はいつの間にか俺の背中に隠れているな。

 背中からちょこっと顔を出して九条さんたちを見ている。何してるの。って、まあ、また人見知り発揮しちゃってるんだな。全くこの子は……。やっぱこれに関しては俺より酷い気がする。


「志乃、それでこの人どなた?」

「あ、えっと……クラスメイトだよ」

「ふむふむ。ああ、なるほど、この人が前に志乃が言ってた……」


 向こうも向こうで同じようなやり取りをしている。


「…………」


 とりあえずもう挨拶はしたし、ここは離れようかな。凪も気まずそうだ。


「あー、黒江君、でいいかな?」


 と、切り出そうとしたところで九条さんの友だちに呼び止められた。


 改めて見ると、身長は九条さんよりちょっと高く、160cmくらいだろうか。髪型はショートの凪や多分長い方の九条さんよりもロングでストレートな黒髪。全体的にクールという印象を受ける人だ。

 そういえば、九条さんと下校したときに小学校からの友だちがいるって言ってたよな。ということは、この人も一応は俺と中学校からの同級生なのか? 

 ……うん、記憶を探っても覚えてない。というより、中学3年間同じクラスだった九条さんを知らなかったとこから、まず俺が他のクラスメイトを知っているとかないのだが。


「えー、あー……はい。そうっすね。黒江葵です。よろしくお願いします」


 とはいえ、俺も凪のこと言えないくらいテンパっている。九条さんとは何度か話したことあるから多少はマシとはいえ、やっぱり知らない相手だと緊張する。やはり兄妹。似た者同士だ。

 なんか頭で色々と考えすぎてどう話せばいいのか分からない。絶対変な人みたいに見られてると思う。


「私は村上朱里って言うの。志乃のクラスメイトってことは同級生だよね? よろしくっ。私のことは朱里って呼んでね」

「よろしくお願いします、村上さん」

「……いやいや、朱里って呼んでよ! 今そう言ったよね?」

「初対面でいきなり下の名前で呼ぶ度胸はありませんので」


 小心者ですので。

 もしそんな度胸あったら今ごろ人見知り克服してる自信がある。


「もう。なかなか強情な性格してるね。……あれ? てことは志乃、黒江君って私たちと中学一緒なの?」

「そうだよー。朱里はクラス違うから知らなかったよね」

「志乃からちょっと話訊いたくらいだったなぁ」


 ……俺の知らないところで俺が話題になってたことあるんだ。陰口かな? いや、九条さんのことだから違うと信じよう。九条さんは多分陰口言うような人じゃない。

 それはそうと。


「…………凪、お前引っ付きすぎだって。離れろ」


 背中を掴む力が徐々に増してるぞ。


「ムチャ言わないでよ」

「無茶でも何でもねぇぞ」


 同じ人見知りの俺だって頑張ってるんだ。少しは慣れるために凪も横に立ってくれ。前に出ろとは言わないからさ。


「……黒江君、その子は誰ですか?」


 さすがに俺らの様子を不思議がってか九条さんが訊ねてくる。


「俺の妹」

「あ、そうなんですか。この子でしたか」

「ほー、妹さん。にしちゃやたらくっ付いてるね」

「あー……妹も人見知りなもんで」

「うんうん、なるほどね」


 村上さんはそう納得する。


「黒江君、今から時間ある?」

「まあ、はい、多少は」

「せっかくだしちょっと話さない? 私たちお昼まだでさ」


 ……納得したんだよね? なんでそういう結論になるのか甚だ疑問である。

 俺もさっきから言葉詰まらせながら話してるし、凪のことも説明したのに、なぜ誘うのか分からない。村上さん、クールな人かと思ったら、意外なことに鬼塚タイプの性格だ。わりとお構いなくグイグイくるタイプ。

 これだけで判断するのもどうかと思うが。


「俺らもう昼飯食ったんで」

「ならフードコートにしようよ。志乃もそれでいい?」


 あれ? 一応やんわりと断ったつもりだったのに……あれ? 伝わってないの?


「ちょっと朱里、何言ってんのよ……!」


 ヒソヒソと話してる九条さんだが、距離近いのでわりとはっきり声が届く。

 いきなりなのか九条さんも焦っている様子だ。正直俺だって恥ずかしい。


「だって彼が噂の黒江君でしょ? 色々話訊いてみたいんだよねぇ」

「だからって、いきなりは迷惑だよ」


 と、2人が話し合っているなか、後ろにくっ付いている凪に目を合わす。


「…………」

「――――」


 凪の視線が物語っている。多分俺も同じ想いだろう。


 ここまでくると……その、なに……こ、断りにくいです。



 ――――そして、最終的に断りきれずフードコートの4人席につく。

 村上さんはファストフードのブースへと買い物に行ってて俺ら3人は取り残されている。


「その、黒江君に妹さん、ごめんなさいね。朱里が急に……」

「いやまあ、大丈夫だけども。何か迷惑かけたらごめん」

「わ、私もお兄ちゃんの交友関係気になるから大丈夫ですっ」


 ……ダメだ、人見知りしかいないぞ、この空間。

 まだ俺と九条さんは何回か話したことあるし、まだ何とかなるかなと思うけど、凪には大変じゃないか。無理はさせないようにしよう。

 それだけ話してしばらく黙っていると、村上さんがハンバーガーやポテトを持ってきて戻ってきた。


「お待たせ。あ、黒江君たちも飲み物どうぞ」

「あー、すいません。いくらですか?」


 ジュースを受け取る。


「気にしないで。私が誘ったからこのくらいはね。妹ちゃんもどうぞ」

「あ、ありがとうございます……」

「えっと、じゃあ、遠慮なく」

「ポテト好きにも取っていいからねー。あ、はい志乃」

「ありがとね」


 村上さんが九条さんにハンバーガーを渡し、九条さんが村上さんにお金を渡している。


「そういえば、黒江君の妹ちゃんの名前って何?」


 村上さんがわりと唐突にハンバーガーを食べながら訊ねてくる。

 思い返せば、確かにまだ妹としか紹介していなかったな。凪に視線を向ける。ここは自分の出番だと分かっているのか緊張しつつもゆっくりと口を開いた。


「あ、えと、凪って言います。よろしくお願いします。村上さんと……えーっと……」

「ごめんなさい、遅れました。九条志乃と言います。よろしくね。凪さん」


 あ、まだ凪と九条さん自己紹介してなかったのか。かなりグダグダしているな。段取り悪いですねって言おうとしたけど、まあ、集まっている人選見ればそうなるかと勝手に自分で納得する。


「凪ちゃんね。うん、分かった。凪ちゃんも朱里って呼んでいいよ…」

「それは、その……大丈夫です」

「えぇー、なんでよー」


 俺らこういう人種なんです。ホント、勘弁してもらえたら……。


「だから朱里。そういうこと言っちゃダメだって」

「分かってるよ。言ってみたかっただけ。無理強いは良くないってもうとっくに学んだからね」

「それならよしっ」


 村上さんがオホンと咳払いをして話を強引に変える。


「それで黒江君」

「何ですか?」

「あ、敬語は外して。はい、やり直し」

「……何だよ?」

「よろしい。それで、黒江君と志乃ってどんな風に知り合ったの?」

「お兄ちゃん、それ私も気になる」

「って言われても……」


 どう話せばいいのか困るな。最初は俺が日直なの忘れたところから知り合ったわけだが、そこから下校や本屋でのことを逐一説明するのもややこしいよな。


「クラスで日直一緒になってからちょくちょく話すようになった……てところか」

「そんな感じです、はい」


 コクコクと頷く九条さん。


「ふーん。案外普通だね、お兄ちゃん」

「むしろお前は何を期待してたんだ」

「んー? こう、ドラマチック的な展開?」

「……ごくごく普通の学校でどうすればいいんだよ」

「凪ちゃんの言う通り、うん、普通だね」

「ただのクラスメイトなんだからそりゃそうだろ」


 凪と村上さんに突っ込みを入れる。

 ドラマチックな展開云々がなかったとは言わないが、さすがにロード関連のことを言うわけにもいかないからな。自然とこうなる。そこは九条さんも分かっているらしく黙っている。まあ、あんなの言っても妄想だとか言われるだけだろう。


「……その、ちょっといいですか?」


 と、これ以上どう話を広げるか迷っていると、さっきまでの話題を切るように九条さんが手を挙げる。


「どしたの、志乃?」

「さっきから何となく見比べてたんですけど、黒江君と凪さんあまり似ていませんですよね……?」

「――――っ」


 いきなりの質問に思わずちょっとだけ息が詰まる。


 ここの席に着いてから真正面に九条さんがいて、俺と凪をずっと視界に入れていたからな、そう思っても別段不思議ではないだろう。村上さんが戻るまで話していたことだし。

 そもそもの話、地毛の段階で別物だ。俺が黒髪で凪が明るい茶髪。染めてるとかって意見もあるだろうが、中学生で染める奴は少ないと思うな。

俺らが見た目で共通点がないのは当たり前のことだ。


「んー……? ふむふむ、確かに兄妹ってわりには似てないね。あれだね、お父さん似やお母さん似で完全に別れてるの? とはいえ、志乃も随分思いきった質問するね」

「ああ、いえ、その、迷惑ですよね。いきなりこんなこと言われて。……ごめんなさい」

「このくらい何回か言われてきたから大丈夫だよ」


 平謝りする九条さんをなだめる。


 確か、凪の友だちと奏さんや陽太郎さん繋がりの知人には言ったことはある。

 ただまあ、今回は急にで驚いて心の準備ができてなかっただけなんだけど。


「それで……別に母親似とかで別れているわけでなくてだな、俺と凪は兄妹だけど、血繋がってないんだよ」

「お兄ちゃんはあれだよね、いわゆる養子ってやつ」


 凪、お前……九条さんと村上さんと面と向かって話すのが恥ずかしいからか、最終手段の俺を見て話すのがさっきからやってるよな。俺を見るんじゃなくてきちんと前向いて話しなさい。


「え、え、養子ってどういうこと? 複雑な家庭?」


 驚く村上さんに説明する。


「えーっと、簡単に言うと、10年前の大地震で俺孤児になったんだよな。そこで凪の母親に拾ってもらった……という流れだな」

「え、あ……そうだったんですか……」

「なるほどなるほど。……なんかごめんね? 気悪くしちゃったかな?」

「だから大丈夫だって。もう過去のことなんだし」


 前の両親のとこは正直ほとんど覚えていない。どんな顔だったか、どんな声だったか今では思い出せない。

 ――――でも、覚えていること確かにはある。それは俺を愛してくれたこと、あの日俺を命を投げ売って救けてくれたこと。

 それだけで今の俺には充分だ。


「というより、拾ってもらったって……まるで犬みたいですね」

「否定はしない。実際そんな感じだから」


 切り替えるように苦笑する九条さんに対してできるかぎり朗らかに返す。


「そ、そうなんですよ。当時、母親が避難所運営手伝っていて私と父親は親戚の家に暮らしていたんですけど、突然お兄ちゃん連れて『この子、家で暮らすことになったから』って言ってきたんです」

「ほう。それはなかなかパワフルなお母さん。うちのとは大違いだー」

「す、スゴいですね。何だか行動力や諸々が」


 おお、凪がちゃんと2人に向けて喋った。


「訳が分からない方向に吹っ飛んで、誰彼構わず進むことがうちのお母さんにはたまに起こるので……」


 また喋った……! さっきまで噛んだりしてたのに今度はわりと普通に喋った。え、なにこれ嬉しい。

 と、妹の成長? に打ちひしがれている場合ではないな。それは後にしよう。


「って、お兄ちゃん。何か失礼なこと考えてない?」

「…………気のせいですよ」

「何その間。それにわざとらしい敬語」

「気のせいだってば」

「むぅ。後で説明してもらうからね」


 ホントたまに勘が鋭いときあるのが怖い。


「しかしまあ、黒江君と凪ちゃん仲いいねー。私ひとりっ子だから羨ましいよ」

「そうか?」

「同じくそうですね。えぇ、仲いいと思いますよ。凪さんも黒江君に懐いてるのが見て取れますから」

「ちょっとお兄ちゃん、その言い方! この私がお兄ちゃんを嫌っているように見える?」

「全く。ただ周りがどうとか知らないし」


 鬼塚は3歳くらい上の兄がいるって言ってたな。もう大学生で下宿しているからしばらく会ってないらしいが。何でも国立のかなり偏差値の高い大学に行ったとか。


「そう言われると、そうだよね。比奈ちゃんは妹ならいるけど、弟や兄はいないって言ってたもんね」


 比奈ちゃん? ああ、凪の友だちか。けっこう前に家に泊まりに来たあの子か。


 ――――と、30分ほど談笑を続け、九条さんも村上さんも昼飯を食べ終えた頃。


「じゃあ、今日はこのくらいかな。わざわざ付き合わせてありがとね。また話そうねー」

「では、黒江君。また学校で。凪さんもまた会いましょうね」

「おう。じゃ、またな」

「あ、はい。また機会があればぜひ!」


 それだけ言ってから、一旦お別れになった。

 意外なことに凪が後半になるにつれ普通に話せるようになっていたな。九条さんも村上さんもきちんと凪が言い終えるまで待ってたからか凪もスゴい話しやすそうだった。凪にとってはありがたい心遣いだっただろう。


「それじゃ、メガネ屋行ってみるか?」

「うん。いやー、緊張したけど、いい人たちだったな。お兄ちゃん、いい友だち持ったね」

「それはどうも」


 ――――で、夕方までブラブラして、奏さんに頼まれた買い物して、家に帰って、今回の凪とのお出かけは終わった。


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