33話 2人のお出かけ
「さあ、行くよ! お兄ちゃん」
朝のランニングを終えてから数時間。昼前になると、凪が準備を終えてリビングに降りてきた。凪も1時間前くらいには起きていた。
「おう」
俺も既によそ行きの服に着替えているので、問題なし。
「陽太郎さんたちは?」
「まだ寝てるよ。特にお父さん昨日は夜遅かったからねぇ」
「帰ってきた時間はいつも通りだったけど、遅くまでゲームしてたからな……」
陽太郎さんは次の日が休日だから夜ふかしするとかちょっと子どもみたいなとこがある。普段する時間が少ないだろうからやる理由としては分かるけども。
「あとはまあ、お母さんも休日の午前の家事は私たちに任せてるから」
「あたかも自分もやってますみたいな言い方だが、大概凪も寝てるよな?」
「うっ、目敏いなぁ……」
「たまには手伝え」
「ヤだ、私も寝たい!」
全くこの妹は……。家事は別に苦でもないし、そもそも休日の午前って洗濯物干しくらいしかやることないんだよな。あとは食器とか洗い物してその片付けくらいか。
靴に履き替え玄関から出る。
ショッピングモールへと凪と歩いている最中。
「それで、買いたい物って何だ?」
「んー、新しいペンタブほしいんだよね。前のが悪いってわけじゃないけど、前のやつけっこう安物にしたから。お金もたまったし、新調したいんだよ」
「ペン……何?」
「ペンタブ。イラスト描くのに使ってるの」
ああ、凪がよくネットに挙げているやつか。そういうデジタル関連はさっぱり分からない。アナログ人間過ぎてな。
「といっても、今日見るのはペンの方だけど。タブレットはまだ保つかな。……いや、まだタブレットを新しいのにできるほどお金ないから。もうちょいいいのにしたいなー」
「まあ、よく分からんが、いくらくらいするんだ?」
「ピンキリ。今回買うのは安かったら3000くらい。でも、高いのだったら10000は越すかな」
「……高いな」
あまり値段のする買い物しないことから額の大きさに驚く。
中学生がそんな高い物持ってるんだ。俺がおかしいのか? いや、よくよく考えればスマートフォンも高い代物だけど。っていうか、凪いつの間にそんなに貯めたの?
……もしかして俺もそのくらい持っているのかな。気にしてなかったけど、帰ったら確認してみよう。どうせ確認しても何も買わないけど。
「コツコツ貯めたかいがあったよ。何度漫画やラノベの新刊を我慢したことか。友だちに貸してもらってどうにか過ごしたこの日々が報われる」
「まあうん、それ買ったところで凪の所持金なくなるから、けっきょく新刊やら買えないんじゃないの?」
「なっ……!?」
口をあんぐり開けて驚きの表情を見せる凪。
わざとらしい仕草だが、不覚にも可愛いと思ってしまった。
普段のときやレーヴェと話すときに口にする可愛いは何て言うか、家族愛である可愛いだけど、今のは一瞬……1人女子としてそう思った。ヤバいな、こんな思考は兄としてさすがに気持ち悪いぞ。
とりあえず平静にいつも通り返すか。
「そのくらい気付きなって」
「大丈夫大丈夫。ペン買ってもいくらかは残る……はず」
「まあ、それは置いといて。先に昼飯にする? それとも買いたいやつ見る?」
「んー、先にご飯食べちゃおうか」
「そうすっか。安いファミレスでいいか?」
「さんせーい。今日はお昼にお金かけたくない。……ん? あ、そうだ。いいこと思い付いた。……今日のお昼お兄ちゃんが奢ってよ」
おっと、何を言い出すのやら。
「なんでだ?」
「ぶっちゃけると少しでも節約したいからなんだけど、昨日、お兄ちゃん私に失礼なこと言ったよね?」
「……荷物持ち云々の件か」
「そのせいで私は傷付きましたー、奢ってくれないと許しませーん。罪を償うためにも奢ってー」
……さっき可愛いって言ったの撤回しよう。いきなりめんどくせぇ。
「今日凪から誘ったてきたよな?」
「それはそれ、これはこれ! お兄ちゃんだって私みたいな可愛い子と出かけれて嬉しいでしょ?」
「自分で言うか?」
「いやいや、お兄ちゃんが私のこと可愛いって言ったからね!」
「記憶捏造しないで? あれ一応最初に客観的って言ったぞ」
「そんなの気にせずに。ほらほら、レディーファースト」
「あのな……。普段そうやって主張しないのに、よく言うよ」
「えー、奢ってよー」
凪がこういうその場の思い付きで気分がコロコロ変わるという性格なのは知っているが。主に俺に対してだけ。いやまあ、外の凪は俺レベルの人見知りを発揮するからこんは性格見せる相手はいないだけだが。凪の友だちにはどんな感じかは知らないな。
というより、完全に奢りにしてしまうと、凪は高いの頼みそうだな。何かしらの縛り付けないと。余計に調子を乗らせてしまうかも。
「……上限500までな。これくらいで事足りるだろ」
「やっりぃ! お兄ちゃん愛してるぅ!」
「お前の愛安くないか? 500円ポッチの愛なのか?」
「いいもん。お兄ちゃんにしか言わないし、男友だち全くいないし」
「そうですか」
俺が言えることでもないけど、少しは周りに目を向けようね。ホント、俺の言えることではないけど。
そうやって歩くこと10分ほど。ショッピングモールを見えてきたので中にある安いファミレスへと足を運ぶ。
人気のある店だ。着いたはいいけど、昼ということもありけっこう混んでいる。休日の天生市に住んでいる人たちってほとんどここに集まるもんな。これ座れるかな。
と、店員さんに2名と言って案内を待つ。待つこと5分。無事座れた。俺らはソファーがある2人席に案内された。フカフカでいいね。
「凪何にする?」
「500円までに抑えないとね」
「自分で払うという選択肢は?」
「ない!」
「そうか。俺はミートスパゲッティにしようかな。400円か」
安くね? たまに喫茶店やらの宣伝見るけど、800円は越してるとこあるぞ。さすがファミレス。
「あーでも、ドリンクバーを付けたいな。でもそうすると500円オーバーしちゃうな。うむむ……」
メニュー表を親の敵のように睨み唸る凪。そんなに悩まなくても。
「よし、ドリンクバーは諦める。ハンバーグにする!」
「はいよ。店員呼ぶか」
店員を呼び、決めたメニューを頼む。頼んでから水を取りに行き、待ってる間ダラダラと喋る。
「ねー」
「どした?」
「前にさ、お兄ちゃん帰ってくるとき遅かったことあったよね」
「……あったな」
「何してたの? 珍しいこともあるもんだね」
「図書館やらで勉強してたら寝てた」
……ビックリした。あの日のことを訊ねられるとは。
咄嗟に奏さんにした言い訳使って誤魔化したけど。レーヴェのおかけで怪我は治ったからこれで大丈夫だろう。奏さんにも何とかなったし。
「ふーん。そのわりにはお兄ちゃんテストの結果微妙だったよね」
「それは言うな。凪はどうだったんだよ」
「ふっふっふ……聞いて驚け、なんと全教科平均以上!」
「おお。……で、国語は?」
「平均ちょうど! どや!」
「ギリギリじゃねーか」
「それでも平均以上は平均以上!」
くっ、そうなんだけどさ。俺は今回理数で落としたし。今回じゃなくていつものことだが。
「失礼します」
「あ、きたきた」
そうこう話していると、料理が来た。
随分と早いな。頼んでから10分も経ってないのに。そういうシステムなのかな。早く料理を出すための。場所によっては簡略化するために包丁すら使わないレストランもあるとテレビで見たことある。
店員にお礼を言ってからフォークを手に取る。
「いただきます」
「いただきまーす」
基本ご飯を食べ始めると、俺も凪も黙々と進める。食べる前は話したりするけど。だからまあ、けっこう静か。俺ら家族の前ではわりとうるさい凪も静かに食べる。なんでなのかはイマイチ分からない。
美味しい。400円と破格の値段だが、普通に美味しい。最近スパゲッティ食べてなかったけど、たまにはいいな。自分でも腹減ったときに作ってみようかな。
……さっきからの俺、金のことしか頭にないなぁ。まるで意地汚い奴みたいだ。でも、バイトしてるわけじゃないし、高校生の小遣いだとやっぱり気になるんだよな。
静かな時間や空間は好みだけど、黙って食べていると、頭でグチグチと考えてしまうのが難点だな。よくマイナス思考になりがちな俺だし。だからこそ、頭を空っぽにできるランニングはずっと続いている。疲れればそれだけに思考が囚われ、他の思考に割く余裕はなくなる。その状態が好きなんだよなぁ。
――――なんて色々と思っていたら食べ終えたことに気付く。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
会計してから目的地へ向かう。その場所はパソコンやらそのペンタブとかを中心に売っている専門店だった。家電とか売ってる電化製品店ではないのね。
「ひゃっほーう」
「……もうちょい静かにしてね。恥ずかしいから」
着いた途端凪が早歩きになるからそれを追いかける。
どうやらペンタブのコーナーがあるらしい。……ふむ、こうして見るとかなり種類があるんだ。こういう場所にはあまり寄らないからちょっと新鮮だ。
もしこの先大学に進学するにしろ就職するにしろ、いずれはパソコンとかには詳しくならないとな。普段使うにしてもせいぜいが調べるためにちょっと検索する程度だ。ワードやエクセル? みたいなソフトは一度も使ったことがない。アナログ人間だから卒業するまで少しは慣れないといけないだろう。詳しい凪に教えてもらうか。
「お兄ちゃん、どれがいいと思う?」
と、アナログ人間脱却計画を練っているときに話しかけられた。
「それ俺に訊く? よく分かんないけど、予算内に収まるギリギリくらいのやつでいいんじゃない? さっき話してたし」
「だよね。やっぱ値段張るペンいいよー。ううっ……こうして見るとタブレットも欲しくなるなぁ」
へー、タブレットか。値段は、と……た、高い……! みんなこんな高いの持ってるの!? いや、でも、5年くらい使うなら年単位で割るとそこまでか……? うーん、世の中の絵描きはスゴいな。
つーか、凪もよくこんなに高いの買えるよな。俺も同じくらいの小遣い貰っているはずだから多分俺も凪以上のお金はあるはずだけど、一気に買おうという度胸はない。
むむっ……と悩んでる凪を横から見守る。こういうときの凪は表情豊かだな。人間、好きなことしているときが一番楽しいだろう。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「…………ちょっと店員呼んできてくれない?」
「……自分で行けば?」
すると凪は首を勢いよく横に振り。
「ムリムリ。いきなり知らない人に話しかけるなんて……」
「そこは頑張りなよ。だったら、もういっそのことネットで買うとかさ」
「私は実物見たい派なの。ネットだったら同じ商品でも高かったりするから」
「そんなに考えてるなら、なおさら自分で行こう。ほら、頑張れ。あそこに女性の店員さんいるぞ」
目を向けると見回りをしてる女性の店員がいる。
凪にとって男性よりも同性の女性の方がまだハードル低いだろう。
「に、逃げないでよ!」
「どこも行かないって」
それだけ言うと、凪はおずおずと店員に話しかけていく。ちょくちょく俺へと振り返る仕草がちょっと可愛らしい。頑張れ。
――――それから5分。
店員と話し、どうやら買う商品を決めて会計も終えた。俺は遠くで見守っていただけ。
「ふー、満足満足」
「そりゃ良かったな。荷物持たなくていいか?」
「大丈夫。カバンにちゃんと入るからね」
「次どこか行く? ないなら奏さんに電話して買い物しようかなって思うけど」
「発想が主婦のそれだよ、お兄ちゃん……」
なぜか呆れられた。解せぬ。
「そうだねー、あとはブルーライトカットのメガネが欲しい」
「また高そうなの……」
凪も俺も視力はいい。どっちも裸眼だ。
「度無しだったら4000円あれば買えるから! もっと安いのもあるから!」
「まだ金あるのか?」
「大丈夫!」
「じゃ、とりあえずメガネ屋行くか。そこで相談してみようぜ」
「うん、そうする。やっぱ最初は本業の人に訊かないとね」
「ついさっきマトモに話すのに時間かかった奴が何を言ってる……」
「それは言わないで……。次も頑張るからね」
「はいはい。応援してるぞ。メガネ屋って確か2階の方だっけ?」
今現在は4階にいる。
「そうそう。あれ、お兄ちゃん。エスカレーターはどっちだっけ?」
「こっちだぞー」
エスカレーターのある方向へ足を向けた瞬間。
「……黒江君?」
不意に凪ではない誰かに名前を呼ばれ足を止める。
この呼び方をする人って。
「ん? ……あ」
そこにいたの九条さんだ。それと隣にもう1人……? 九条さんの友だちかな。
驚いた。またショッピングモールで会うとは思いもしなかった。お互いインドアタイプのはずだから余計にそう感じる。
今日は前公園で会ったときみたいではなく、学校と同じく前髪を目が隠れそうなくらい降ろしている。あのときはヘアピンとかで上げていたな。服装は前とそんなに変わってないかな。本屋で会ったときと似たような感じだ。
「九条さん……どうも」
「あ、こ、こんにちは」
ぶっきらぼうな反応しかできない悲しみ。
「志乃。どしたのー? 友だちでもいた?」
「あれ……? お兄ちゃん、知り合い? ……うそっ、お兄ちゃんに?」
…………ここからどうしようかな。それと凪! 兄に失礼なこと言うんじゃありません!




