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無色透明のトロイメライ  作者: 皐月凉
2章 力の責任
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32話 女王の失態

「それで、寝ろって言ったのに……。こうしてさ、レーヴェは何がしたいんだ?」


 夢の中でレーヴェに問いかける。

 わさわざ呼ぶなんて……。初めて話したときや契約したときならまだしも、今は特に俺に何かこれといって用事なんてない……よな。俺からも何か用があるわけでもないはず。


 対するレーヴェは真っ白なワンピースと綺麗な銀髪をヒラヒラと揺らしながら、俺の表情を覗き込み、それはとても楽しそうにニコニコしている。


「単純なことだが、私はただ君と話したいだけなんだけどね。私と君はもっと仲良くなる必要がある。だからそこ、雑談しながら仲を深めようじゃないか」

「えーっと……まあ、俺もまだレーヴェのことそんなに知らないし、それも良い考えだとは思うけど」

「けど?」

「その、何、本当にそれだけなのか?」


 何て言うか……それだけでレーヴェは俺を呼ばない気がする。ただの勘だし、これっぽっちも確証はないけど、こう、レーヴェの性格的に? 雑談程度だったら、頭の中から語りかけてきて俺が応える、これだけで充分な気がする。今まで何回かそうしてきたわけだから。

 やっぱり俺に何か頼みごととかの用事があるのだろうか?


「ふぅん……。雑談云々は置いておいて、恐らく君はこう考えているだろう? 私が君自身へと何か訊きたいことはないはずだ……と」

「お、おう……」

「逆だよ」

「逆? というと?」

「おいおい、忘れたのかい。あの日、君が言ったじゃないか。私に訊きたいことが沢山あると。状況が状況だったので、一先ず疑問は後回しにしていたが」

「……言ったな」


 そうだった。普通に用事あったわ。


 そうそう、確かにあの夜に訊ねたな。あのときはロードに対しての攻撃は効いているのかを知りたかったから、詳しくは訊かなかったがな。

 一応はその翌日から訊ねようとしていたけど、あの戦いが終わってから筋肉痛が酷かったり、九条さんとの用事があったり、テストが忙しかったりと、すっかり忘れていた。ちなみに理由の大半は最後が占めている。


 何だかんだ俺はまだ学生。テストは真面目に取り組まないといけなけった。


「――――」


 記憶を確かめる。俺はちょっとしてあのときのロードの言葉を思い出す。

 あのロードはレーヴェの力――――夢幻のことを『女王の力』と呼んだ。時間操作の力=女王の力を指すなら……つまるところ。


「じゃあ、えっと、改めて……レーヴェって王だったのか? ロードの世界で」

「まあね」


 本当にそうなんだ。今じゃ日本には明確な王という存在はいないんで、どうこれからどう接すればいいのやら。

 ま、まあ、敬語は外せと言われてるし、今まで通りで大丈夫か。気にしている様子もないから。


 ん? そういや、王って何するんだ? 政治? でも、ロードって常に戦場みたいな世界って話していたよな。記憶が合っているなら、レーヴェはそう口にしていた。


 次に『ロードの王』についての定義が知りたい。


「でもさ、ロードって日常的に縄張り争いみたいなのをしてたって言ってたよな。だったら、それぞれ縄張り……領地? に国みたいなものがあって、そこにそれぞれの王がいて……その内の1つの王がレーヴェってこと?」


 上手く言葉にできないな。本当に国語の成績優良者なのかってくらい。


「それは違うね。あの世界に国はなかった。ただの実力主義の世界。争いが絶えない世界だった。そのどうしようもないバカたちのトップが――――私ことレーヴェというわけさ」

「……レーヴェってやっぱり強いんだな」


 ロードの王は要するに、ロードの中で一番強い存在ということになるのか。

 そう感嘆しつつ、ふと思い出すのはレーヴェの力。


 あの時間操作――――夢幻。


 俺の周りの時間を自在に操り、何にも寄せ付けない絶対的な壁。それは全て攻撃を防いでしまう。どれだけ強い攻撃だろうと、当たらなければ意味がない。

 あまり戦闘について詳しくない俺でも、これだけでレーヴェは強いと分かるほどだ。


「あれは私の力のごく一部でしかないよ」


 フフンと、レーヴェは俺に褒められたのが嬉しいのか、見事にドヤ顔をする。


「といっても、残念ながら、私と君では躰が違うからか、私の全ての力を渡すことはできないんだけれど」

「いやまあ、大丈夫だぞ。これで充分だと思う」


 そこまでされると、いずれ見返りを求められたら、怖いので思わず拒否をする。

 

 と、この話を訊いてまた新たな疑問が生まれる。


「そんなにレーヴェは強いのに、どうして瀕死まで追い込まれたんだ? えーっと、確か内乱がどうとか……」


 王と呼ばれるくらいだから、それはもう圧倒的な力があるのだろう。

 しかし、前に話されたところだと、内乱でレーヴェは殺られそうになったらしい。……が、これほどの力を持っているのに、どうして地球に逃げてきたのか。そこが不思議でならない。


 夢の中でも立っていると疲れている気がするので、座り込んでから尋ねる。

 気分的な問題だろうか? 本来なら寝ているから疲れないはずだが、あれだ、怖い夢を見たときに汗をかくような現象とと同じことだ。俺なら……そうだな、あの大地震の夢を見てしまったときだな。


 …………嫌なことを思い出した。頭を横に振るって、邪念を払う。

 今はレーヴェの回答を待とう。


「そうだね、どう言えばいいのかな。簡潔に言うと――――私よりも強い敵が現れたと言えばいいかな」

「レーヴェが知らないような強いロードがいたってことか」

「…………違うね。あれはロードじゃなかった」


 というと?

 そう口に出そうとしたところで、俺に合わせるようにゆっくりと正座に移行しつつレーヴェはすぐに話を進める。


「異国からの……じゃなくて、あれは異星からの敵というところか。一応はロードの世界も天体なんだが、全く知らない敵が攻めてきた」

「それは……内乱というよりかは侵略じゃないのか?」

「その敵は多くのロードを唆したんだよ。扇動というやつさ」


 扇動か。えーっと、確か意味は『人の気持を煽って、ある行動を起こすようにしむけること』だったはず。


「で、私なりに内乱をどうにか解決しようとしたが、私自身色々と消耗したところに、その敵が私に攻撃を仕掛けてきた。結果、私はあっさりと致命傷を負った。そこからは前に君に話した通りだ。逃げた先が……君の心の中だった」


 レーヴェはどこか悲しそうに目を伏せる。

 前に未練はないと言っていたが、それなりに想うところはあったのかもしれない。話を訊く限り、レーヴェは仮にも王と呼ばれた存在。そして、何より自分が生きた場所だ。嫌いと割り切る方がきっと難しいだろう。


「目的も分からない完全に未知なる敵だったね。そして、私より強かった。……悔しいが、それだけさ。今さらあそこに戻れたところで、私にできることなんてこれっぽっちないだろうよ」

「レーヴェがそう言うなら……俺も何も言わないことにする」

「フフッ……ありがと。君は優しいね」

「そんなことない。俺はただ、人が触れてほしくない箇所にあまり深く突っ込まないだけ。根が臆病なもんで」

「……ま、君がそう言うなら、そういうことにしておこうか」


 それだけ呟き、レーヴェはさっきと打って変わって思案顔になる。


「……どうした?」

「いや、1つ気がかりなことがあってね」

「…………あれか、ここにロードが来た方法?」


 小さく首肯する。


「それだよ。多分だけれど、アイツが来た時期は前に君が予想したくらい辺りと思うんだよね」


 初めてここで会話したときに俺が話したあれか。

 地球の環境がロードにとって毒だから、あのロードは最近こっちに来たのかもしれない、そう俺は予想した。


「レーヴェが地球に来たときの扉ってのは?」

「……あれは私には原理不明な出来事だったからね。命からがら逃げ込んだだけだから考える時間もなかった」

「じゃあ、その扉が自在に開くようになったってことじゃないか? 行き来できるようになったとか」


 状況証拠とやらで考えるとこうなるしかない……よな?


「こればかしは結論付けることができないからね……。こう言っては悪いが、正直なところ、どれだけ予想をたてたとしても、イタチごっこだ。もし今後、ロードが現れるようなら何としてでも話を聞き出さないとね。私も色々と考えていはいるが、どれもイマイチピンとこない」

「それなんだけどさ、ロードがどこにいるのか分からないのか?」

「大きく魔力が行使されれば何となくの位置は掴めるかな。この世界に魔力を使える人なんてそうそういないだろうし、異質な感覚は分かる。君と契約する前は魔力の感知はそんなにできないけれど、今ならある程度可能かもね」

「てことは、どちらにせよロードご何かしらの行動を起こさないと無理ってことか。こっちに来た方法も、ここにいるかどうかも」

「悔しいだろうが、現時点ではそうなるね。あの扉をもう一度見ることができたなら、検討のしようがあるのだけれど」


 そもそもの前提として、あのロードが適当なことを言っただけで、ここにロードがいない可能性もあるけれど、事件が起きないと動けないということになるな。

 これからどういう行動方針を取ればいいのか、俺にはまだまだ分からない。


「とりあえず、今日はここまでにしておこう。引き留めて悪かったね。ゆっくり休みたまえ」


 レーヴェは立ち上がってそれだけ言い残すと、一瞬で俺の意識はどこか遠くへと飛んでいくような錯覚に陥った。目の前は黒に塗り潰された。……仰々しい言い方をしているが、ただ精神も体と同じく寝ているだけなんだが。



「――――」


 ピピピ……とアラームが鳴る。ぼんやりとした意識の中、その音が何となく頭に響く。


「…………あ」


 アラームを止める。

 もう朝の5時か。……けっこう体怠いな。寝起きはいつもこんな感じだけども。夢の中でレーヴェと話したせいか、余計にそう感じる。


 ベッドから降りて家着からジャージに着替える。黒と白の2色のよくあるやつだろう。テストがあろうと、休日だろうと、天気が悪くない限りはランニングへと足を運んでいる。もうこれは俺の習慣だ。

 いやなに、そこまで誇れるもんじゃないとは思うが。毎朝5kmという何ともまあ、微妙な距離しか走ってないし、陸上を本気でしている人間と比べられることじゃないな。


「……ああ……眠っ」



 重いまぶたを引きずりつつ顔を洗って無理矢理スッキリさせる。

 水分補給をしてから靴を履き、玄関を出る。


「よしっ」


 新鮮な空気を一杯に吸い込み、はっきりとしてない頭をリセットさせる。

 いつもの河川敷へ移動するか。さっさと走ろう。


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