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無色透明のトロイメライ  作者: 皐月凉
2章 力の責任
32/62

31話 前とは違う、新たな日常

2章始まりました。よろしくお願いします

「はーい、みんな座ってー。テスト返すわよー」

「えー」

「マシー?」

「今回ムズかったんですけどぉ!」


 あの激闘から数週間。

 特に何事も起きなく、時間はいつも通り過ぎ去った。

 レーヴェと話していても、周りにロードの匂いはしないと語っていた。まだまだ訊かないといけないことは沢山あるが、何てことのない日常のせいでそんな気はあまり起きなかった。というより、先週に定期テストがあったから訊けなかったが正しいか。レーヴェも日常を大切にしろと言っていたので、素直にそれに従った。


 で、定期テストが終わってからの翌週。

 月曜からちょくちょくテストは返却され、残すところ夏木先生が受け持つ英語だけとなった。


 まず俺の得意科目である現代文は90点、古文は87点と平均を大きく上回った。歴史は74点と平均より10点ほど上。まずまずの結果だ。

 問題の数学。まず数Ⅱの平均は56点。俺の点数は……48でした。普通に平均点届かず。数Bの平均が45とかなり低い結果だった。まあ、この平均は文系だけの平均だから理数のクラス含めるともっと高くなる。で、点数は……その、40点。これでも頑張ったんですけどね。 

 2年からある理数の理の科目――――化学基礎の平均点は63点と俺からしたらかなり高い点だ。俺が頑張って取れた点数は64点。ギリギリ! 超えた!!


「確かに今回難しかったかな? 平均も53と低めだったし。いつも通り平均点より半分以下は赤点で補習あるからねー」


 先生が返しながらそんなことを言う。なるほど、平均が53か。越してるか? うーん、そこまで手応えなかったからな……どうなっているか。


「次、黒江君」


 あ、呼ばれた。俺の番か。さて、問題の英語は……62点。

 はぁ……良かった。平均そこそこ超えたぞ。とりあえず数学以外はどうにかなった。


「はーい。もうみんな届いた? じゃあ、テストの解説始めるわよ。復習大事だからね! 受ける大学によってはもう受験勉強始めてる人だっているんだからウカウカしてちゃダメよ」


 と、夏木先生は気前よく解説を進める。

 間違った箇所についての解説がきたら真面目に聞いて……をしていると授業は終わった。テスト関連だったからか思いの外早く終わった。

 6時間目の授業だったから今日はこれで終わり。


「よー、黒江。お前どうだった?」


 HRが終わった途端鬼塚がやって来た。


「平均は越した。ギリ平均プラス10とはいかなかったけど」

「あー、俺と似たような感じか。俺61だった」

「62」

「クッソ負けたー」

「つっても、これで鬼塚全教科平均以上だろ? いいじゃないか」


 鬼塚は平均より20点上とか飛び抜けている教科はなかったが、きっちり平均は取っている。


「まあな。でも、黒江みたいに高い点数は取れなかったなぁ」

「でも、俺よか今回は成績いいだろ? 俺数学どっちも平均以下だしな」


 総合点ならどっこいどっこいかもだが。


「そこは頑張れよ」

「けっこう頑張った方なんだよな。苦手意識はなかなか消えない」

「ま、しばらくテストに頭悩まされる必要なんてない! これで心置きなく泳げる! じゃ、また明日なー」

「おーう。いや、今日金曜日だからな? 明日学校ないぞ」

「そうだっけ? ま、俺は明日も部活あるから」

「そうかい。じゃ、また月曜」


 鬼塚とも別れてしばらくしてから荷物をまとめて俺も帰宅する。

 玄関を出ると、元気な部活動をしている人たちの声が聞こえる。かけ声、ボールの跳ねる音、吹奏楽の音、色々な音がある。テスト週間やテスト時にはなかった音。

 その音がでやっとテストが終わったと実感が湧く。いやまあ、わりとすぐに期末始まるけどまだ1ヶ月はある。しばらくはのんびりできる。大きな行事も期末始まるまではないかな。文化祭や体育祭は2学期で……6月はないな。楽できるぞー。


「ただいまー」


 さっさと家に帰る。


「あ、おかえり、葵」


 奏さんがソファーでグダっとしている。


「今日は休みですか」

「そうよー。もうちょっとしたら買い物行くから」

「買い物付き合いましょうか? 荷物持ちとか」

「ならお願いしようかしら。あ、テストどうだった?」

「まずまずの結果です」

「あ、数学はダメだったのね」


 一瞬で内容が見抜かれた。

 そんなに分かりやすかったか……?


「赤点は取ってないです!」

「取ったらかなりヤバいわよ。無理に90点取れとは言わないし、平均取れるくらいには頑張りなさいな」

「もう数学の内申は諦めてます。他で補いますので」

「はいはい。というより、進路どう考えてるの? 進学? 就職?」


 その話題か。あまり訊かれたくない。

 うーん……進路って言われると…………。何も考えてないんだよなぁ。


「……まだ何も決めてないです」

「別に何選んでもいいわよ。大学でも就職でも葵がやりたいことなら」

「って言われても……」


 誰かに誇れる『何か』になりたい。そう願った。これは俺の夢。でも、それは俺という人間性についてのこと。

 しかし、目先の進路について問われると、また完全に別の話。俺が何をしたいのか全然はっきりしない。特にやりたいことがこれっぽっちも見付からない。


「また考えときます」

「そうしなさい。あと30分くらいしたら行くわよ」

「はーい。凪は?」

「まだ帰ってきてないわ」

「遅いですね」

「葵が早いのよ。もうちょっとゆっくりしなさいな」

「してるときはしてます」


 図書室行ったり、図書館行ったり、本屋に行ったり。……あれ? 本関係しかなくない? 知ってたけど。


 その後、奏さんとスーパーで買い物して、晩飯食って、風呂入って、部屋でゴロゴロしようとリビングから部屋に戻る途中、2階の廊下で凪がパジャマ姿で壁に寄りかかっている。

 誰か待っているのか……って2階の部屋は俺と凪しかないから俺しかいないよな。

 ちなみに奏さんと陽太郎さんの寝室は1階にある。だから、2階にいるってことは消去法から俺になる。


「あ、お兄ちゃん。お風呂上がった?」

「おう。凪、どした?」

「ねぇねぇ、明日暇?」


 ふむ。明日か。朝に日課のランニングするくらいで、残りは読書に費やそうと思っていた。あとは……本屋か図書館に行ったりか。誰かと約束があるわけでもない。

 つまり――――


「これといった用事はないけど」

「だったらさ、お昼から一緒に出掛けようよ」

「どこに?」

「いつものショッピングモール!」


 まあ、そうだろうな。特別遠出しない限りは大抵そこになる。

 あそこ何でも揃っているから。加えて、ショッピングモール周りに様々な施設が集まっている。そりゃ選ぶならハズレがないショッピングモールになるよな。


「いいけど、何か買いたい物あるのか?」

「まあね。色々と物色しようかなって」

「……あれか、奢れと? そんなに金ないぞ」

「むーっ! 違いますぅー。単純にお兄ちゃんと遊び回りたいだけなんですぅー」


 ちょっと拗ねたような表情を見せる。

 どうやら言葉の選択を間違えたらしい。詫びを兼ねて明日おやつ奢るか。財布何円あったっけ。


「悪い。ちゃんと付き合うから。そんな拗ねないでくれ」

「全く……。そういうところ、ダメだからね!」


 ビシッと指摘される。

 

「はいはい。以後気を付けます。……それで、明日のいつ頃だ?」

「えーっとね、昼過ぎくらいかな。午前はたっぷり寝たいし」

「了解。昼飯はここで食ってからにする? それとも向こうで食べる?」

「どうしよっかな。休日はどうせお父さんもお母さんも起きないからね」

「凪みたいにぐっすり寝るよな」

「そこで私を引き合いに出さなーい。ま、向こうで昼ごはんは済ませようか。ファミレスなら安く食べれるからね」


 予定も決まったところで。


「おう。じゃ、明日な。お休み」

「おやすみなさーい」


 凪とも別れ、部屋に入る。

 ……さて、明日に備えて早めに寝ようか。いや、テストも全部返ってきて肩の荷が下りたから心置きなく読書するか。まだ10時だし、時間には余裕がある。

 ベッドで寝転びながら本を読み始めていくらか経ったころ。


『凪ちゃんは可愛いねぇ』


 ……なんかおばさんみたいなこと言ってくるロードがいる。


『誰がおばさんだ』

「……あれ? 心読まれた?」

『これくらいなら何となく君の考えてることは分かるよ』

「そうですか」


 申し訳ありません。というより、レーヴェって何歳くらいなんだろ。ロードの時間と地球の時間が同じとは思えないけど……気になる。


「で、いきなりどうした?」

『いや、もう凪ちゃん寝たから話しかけていいかなって。テストも終わって少しは君も楽になっただろうからね』

「なるほど。って、凪が寝たとか分かるのか」

『そのくらいならね』

「一応この部屋防音だから俺には分からんな」


 さすがロードということか。


『それで凪ちゃん可愛いね』

「いやうん、そこは同意するけど、あれ訊いてたのか?」

『まあね。君の塩対応もきちんと訊いていたさ』

「……いや、まあ……うん」


 あれは俺が悪かったです。


『さて、君も明日出掛けるんだろ? もう寝たまえ』

「お前は母親か」

『まあまあ……』


 つっても、レーヴェの言う通りだな。俺も寝るか。

 

 ――――それである程度経ち、寝たはいいけど。


「……おい」

「おや? どうしたんだい?」

「じゃないでしょ」


 何度か訪れたことのある真っ白い空間。すぐ目の前にはさっきまで話していたレーヴェがいる。

 体は寝ているが、俺の意識は起きている。いわゆる明晰夢……みたいな感じだ。

 レーヴェはレーヴェで楽しそうに、愉快そうに微笑んでいる。レーヴェ、美人なだけにとても画になるな。中身はただのサディストだけどな。


「寝ろって言ったのレーヴェでしょ。これ寝た気しないんだけど」

「ふふっ……寝るにはまだ早い時間だよ」


 ……言ってることがまるで違うじゃないか。

 そう俺が若干呆れていると、レーヴェは静かに俺に近付き、内緒話のように俺の耳元に唇を寄せて、小さな声で囁く。

 長い銀髪を揺らし、綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。――――その動作一つ一つがとても美しく、簡単に目を奪われる。


「夜はまだまだこれからさ。――――私と沢山話そうではないか」



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