30話 1章エピローグ『夢の在り処』
あの日から何日か経ち、今は日曜日。
九条さんは休養のために学校を休んでいて話すことはなかった。まあ、魔力をいくらか盗られて体調が悪かったのだろうな。無理は良くない。
ロードを倒してから九条さんを何とか起こして、おんぶしながら家まで送った。女子を背負うと言うのは、なかなか恥ずかしかった。
互いにかなり疲れていたから、礼ならまた後でと言い残して連絡先だけ交換した。下手に引き伸ばしてこれ以上悪化させるわけにはいかないしな。
それからは……そうそう、家に帰るころには夜の7時はとっくに回っていた。もうちょいで8時になるくらいだった。何だかんだ時間けっこうかかったしな。
玄関をくぐると、それはもう怒り満点の奏さんがいた。一応遅くなるって連絡したけど、それだけではやはりダメだったらしい。メールしてから帰るまで普通にかかったからか。適当に考えた言い訳として、ギリギリまで学校で勉強してて、帰りに本屋辺りをブラブラしたらかなり時間を使ってしまったって答えたけど。……あれ? この言い訳、次のテストである程度点数取らないと疑われそうなんですけど。自分で自分の首締めてるな……。
これでも高校生なんだからそこまで心配しなくても……とは思わなくもないが、心配してくれているのはありがたいことだ。なので、甘んじて怒りを受けることにした。脳内でレーヴェがとても痛快そうに笑っていたな。わりとうるさくてちょっとイラッとした。もうちょい静かにしてくれませんかねぇ?
そういや、あのロードが殺した人については何故か解決したことになっていたな。テレビのニュースで知った。あれけっこう手酷く殺られていたって聞いたけど……何がどうなってるんだ。ニュースでは、連続殺人犯のせいってなっていたな。これに関してはマジで分からない。不思議なことがあるもんだ。
そして、昨日、九条さんから連絡があった。話がしたいからどこかで会いたい、という内容だ。どこにしようかちょっと迷った。まあ、さすがに互いの家にってわけにもいかないから、前に九条さんと会話した学校近くの公園を指定した。
お昼過ぎ、適当に着替えてから公園に移動。
服は基本的に奏さんが買ってくれる。あとは小さいときは近所からのお下がりとかだったな。
今はジーパンとグレーのシャツに黒色の薄いジャケットを羽織っている。あれ? ジャケットった言うのか、それ? どう言えばいいのか詳しくないし、知らないな。
パッと見、多分おかしくはないはず。いつもなら適当に着るけど、人と会うってなったら少しは気になる。一応俺は明るい色の服は苦手だから、ちょっと暗めの系統の服が多い。寒色ってやつ? 赤とかピンクや黄色の服は何だか……うん、落ち着かない。自意識過剰だけど、周りから変な目でジロジロと見られてそう。被害妄想が過ぎる。これはホント、人見知りの性だな。
っと、公園に着いた。とりあえずはベンチでボーッとするか。ってか、日曜日の昼過ぎなのに人いないなぁ。小さい子どもすらいない。ぶっちゃけ今はありがたいがな。
「……あ、黒江君。お待たせしました」
俺が座ってから5分くらいで九条さんがやってきた。
普段の九条さんは長い前髪で眼が隠れているけど、今日はヘアピンを使って前髪を上げている。……ちょっといきなりでドキッとした。普通に可愛いと思う。
服もどう語ればいいのか、語彙力なくて言葉が詰まる。清楚な感じがしていいと思います、はい。女子ってスゴい。おめかしするだけで、とてもイメージが変わる。……おめかしって言葉古いかな?
「あー、そんな待ってないから大丈夫。それより、あれから体調はどう?」
「かなり元気になりましたよ。おかげさまです。もう学校にも行けます」
「それは良かった」
「黒江君こそ、あのあと大丈夫でしたか?」
「うん、俺も問題なし」
と、挨拶を交わし、九条さんは俺の隣に腰を下ろす。
「……で、話したいことって何?」
早めに本題を切り出す。
「まずは助けてくれたお礼を。改めまして、ありがとうございました」
「どういたしまして」
「そして、同時に謝罪を。……本当にごめんなさい」
「……別に九条さんが謝ることなんてないでしょ」
「でも、私は巻き込んでしまって……その…………」
「迷惑かけたって? そんなことないぞ。ぶっちゃけ、九条さんがアイツと合う前からちょっとした因縁あったからな」
「えっ、そうだったんですか?」
「まあ、因縁って言うけど、ただだだ襲われただけだ」
「だけで済ませれる問題じゃない気がしますが……」
それには同意。こちとら死にかけたしな。
「それは置いといて、ホントに謝らなくていいよ。まあ、確かに嫌な思いはしたけど、それ以上のモノを取り戻すこととはできたから。それに加えて、九条さん被害者だからね。謝る必要なし!」
「そう言われると、もう口出しできませんね」
俺の力説に苦笑しつつ答える九条さん。
「ところで、取り戻すって……何のことですか?」
「……内緒。それを口に出すのは普通に恥ずかしい」
「むっ、そう言われると気になりますね」
「いやホント、追求しないで」
マジで誰かに聞かすのは恥ずかしすぎて無理。
「ふふっ……はい、分かりました。もう尋ねません」
「ぜひともそうしてくれ」
「えぇ。――――それと、もう1つ訊きたいことが。どうやってアレを倒せたんですか? もう体が気怠いなんてこともないですし、完全にいないのですよね? 見たところ、アレは異形な者で、何と言いますか……色々と気になりまして」
そっか。途中で気を失ってたから事の顛末詳しくは知らないんだな。九条さんを起こしたあとは、アイツを倒してもういないから、って声をかけただけだ。
「確かにもうアイツはここにはいない。で、内容とかだけど……それも内緒ってことにするか」
「な、何故です……?」
「んー、九条さんがわざわざ知る必要ないから……かな。あれは一時の悪い夢ってことにしておこう。これからの人生あんなのに関わることなんて、もう九条さんには起きないと思うしね。誰かに言っても信じてもらえるような話でもないし。九条さんはそれでいいよ」
「でも、黒江君は……傷付きましたよね。その、私を守ってくれたがために」
「あれは俺の選択だから。九条さんが責任を感じることはない」
「……そうですか」
あまり納得してない様子。無理もないか。
「これは俺のワガママってことで訊いてもらえると……その、助かる」
「そんなこと言われると、もう訊くしかないじゃないですか。私の恩人は卑怯ですね」
まあ、薄々とは自覚している。けれど、もう九条さんを巻き込みたくないというのも俺の本音でもある。ごくごく普通の日常を送ってほしい。
「というわけで、この話はこれでお終い……ってことでいいかな?」
「はい。重ねて、お礼を。本当にありがとうございました」
「……さっきも言ったけど、どういたしまして」
こうもお礼をされるととてもこそばゆい気持ちになる。
「…………」
「――――」
そして、しばし訪れる静寂。
九条さんと下校したときもこうだったような……。話題がない。本題も終わったし、帰っていいのかな。とはいえ、こちらから切り出しにくいな。
『君、何か話題振りな。見てる私がもどかしいよ』
…………レーヴェ、いちいち覗かないでくれ。というより、いきなり話さないで。唐突に来られるとめっちゃ驚くから。変に反応取れないんだよ。
「あ、1ついいですか?」
また九条さんから声をかけてくれた。なんか自分が情けない。
「えーっと、何?」
「お願いがあるんですけど、休んだ分の授業のノート見せてほしいのですが」
「あー……テスト近いもんな」
「ですです」
「別に渡すだけなら全然問題ないけど、あれ読めるかな……」
いや、特別俺の字は汚いわけじゃない。ただ、女子と比べるとそりゃ雑く書いてる自信はある。
「そういや、九条さんのお友達は?」
「あの子、私たちと違って理系なので。英語とかは共通のはずですけど、文系科目が……」
「ああ、なるほど。うーん……渡して大丈夫か……読める字か……」
ブツブツと呟く。
「その、そんなに悩まなくても大丈夫だと思いますよ? 日誌の字は充分綺麗でしたので」
「そうかな?」
「はい」
「じゃあ、また明日放課後辺りにノートやプリント渡すよ。あとは……えーっと、写すなりコピーするなり、そこはご自由にどうぞ」
「ありがとうございます。すぐに返しますね」
「おう」
……。
…………。
…………アカン、また途切れてしもた。……なぜ関西弁。テンパってる。少しは慣れろよと言いたい。ダメだこりゃ。
か、帰ろうかな? いや、このタイミングはさすがにダメだと人付き合いの経験が少ない俺でも分かる。
『ほら、勇気を出して話しかけよう』
レーヴェがうるさい。お前は母親か。関西風で言うとオカン。
『あんなにカッコよくロードと戦えて、なーんでそこまで緊張するのかね』
悪かったね、ヘタレで。
「――――」
ただ……何だ。彼女が元気そうで本当に良かった。もしあのまま見捨てて、彼女が命を失っていたら、とても後悔していただろう。
それはただの後悔ではない。前々からしているようなモノじゃない。もう俺という人間の存在価値の悉くを否定して、これから先生きる意味なんて到底見出だせなかったかもしれない。かつての夢を思い出すこともできなかった。叶えようともしなかった。
少しは誰かに誇れる『何か』に近付けただろうか。以前のような下らない、しょうもない、空っぽな人間から変われただろうか。
答えは当然――――分からない。始まったばかりだ。答えを得る日は、きっとまだまだのこと先だ。
それに、あのロードは言った。まだ地球に新たなロードがいるかもしれないと。全員が全員、俺の前に……というより、天生市に現れるかは知らない。そんな都合よく物語が進むかは分からない。加えて、なぜロードたちが地球に来れるのか、レーヴェについてやここにいるかもしれないロード……色々と解決しないといけない問題が多い。
けれど、どれだけ困難があろうと、目の前に救える命があるなら――――迷わずその手を掴みたい。
きっとそれが、俺のちっぽけな夢を叶えるための一歩になるのだから。
「……黒江君?」
「…………ん? あれ、呼んだ?」
「いえ、黙りこくって……どうかしましたか?」
「ああゴメン、何でもない」
下手に考え込むのは俺の悪い癖だ。せめて時と場合を選ばないと。
「よし、今日はこのくらいにしとくか。九条さんいくら回復しても、まだ本調子じゃないんだろうし」
「あ、お気遣いありがとうございます」
実を言うと、ロードを倒した翌日かなりの筋肉痛に襲われた。いくらレーヴェの力によって躰が強化されても動いたのは俺の躰。普段使わないような筋肉が酷使されて、全身筋肉痛がスゴかった。さすがにほとんどマシになったけど、俺も本調子じゃない。あの日の翌日は珍しく朝のランニングサボっちゃったし。
「じゃあ、また明日。帰りも気を付けて」
「はいっ。また明日、です」
公園で彼女を見送る。
九条さん、笑うようになったな。以前より彼女の笑顔を見る機会が増えた気がする。
それだけで、俺の選択に意味はあった――そう思える。
「……さて」
俺も帰るか。
天気も良い。寒くもなく、ほどよく暖かい気候。ポカポカしていて気持ちがいい。……せっかくだ。こんな日なんだからのんびり歩こう。
これにて1章完結です。書きたかった話を詰め込めたと思います!読んでくれた方ありがとうございます。
2章はまだプロット練ってる最中なので投稿まで時間かかります……w
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