29話 正義の反対は誰かの正義
「戻ったのか……」
ついさっきまであのロードの創った結界にいた。が、今の俺の眼に移る光景は木々の数々。
――――そして、俺のすぐ目の前には蹲っているロードがいる。
結界が解ける前にひたすら攻撃を繰り返したが、どうやらかなり効いているのだろう。俺を散々突き刺そうとしてきた影は弱々しくロードの周りを漂っている。おまけに向こうの息がかなり荒い。
もうコイツの魔力が尽きたのか。ゼロに限りなく近かろうが、九条さんと契約している限り死にはしないだろう。補給できるんだから。つーか、今まで九条さんから取った分の魔力では足りないのか。
「おい、お前……彼女から魔力奪わないのか? まだ契約は繋がっているんだろ。つっても、しようとしたらすぐに止めるが」
「……途中で切れた。どうやらテメェを攻撃したから契約違反らしい。……クソが、もう縛りのツケが廻ってきたか」
――――契約。確かコイツと九条さんの契約内容は、魔力供給の代わりに九条さんと俺と話す機会を作る……だったはず。
改めて、この内容なかなかぶっ飛んてるような……。だって俺と話すだぞ? さすがにメリットなくね? いやまあ、ムリヤリ結ばれた契約だし、脅されていたってこともあるか。咄嗟に出た言葉って九条さん言ってたからな。
で、縛りをコイツは破った。イマイチ俺を攻撃したからってのがピンと来ないが、そこはまた後で九条さんに訊ねてみよう。いや、無理に訊くのも良くないな。休んでもらわないと。
……少しばかし自分でも考えてみたが、話す=俺が無事ってことなら……契約違反になるのも分からんでもない。
縛りのツケが何なのかは知らないけれど、それは恐らくコイツの生存に関わる何かだろう。
「もう保たねぇな。ここまでか……」
その言葉の証拠にコイツの躰が徐々に消えかかっている。足から光になって溶けていってるような感じだ。死んだらこの世から肉体は消えて無くなるのか。
…………そうか、コイツはもう死ぬのか。俺ら地球の生物みたいに死んでも肉体が残るってわけじゃなさそうだ。と冷静に分析する反面、俺が命を奪ったという感触がこの手に残る。
「…………」
それは思いの外、重く俺にのしかかってくる。多分、これから一生慣れないであろう感覚。
戦う前はその罪を背負うと決めたが……それでも、いざ実感してみると、すぐには飲み込めそうもない。
「おい」
瀕死のロードか尋ねてくる。
「何だ」
一言返す。
「言っとくが、オレは生きるためにあの女を喰おうとして、それを邪魔したテメェを殺そうとした。結果は、このザマだがな。……必死にただ生きようとした奴を無残に殺して、それでテメェは満足なのか?」
――――死にかけなのに、愉快そうにケタケタと笑って、軽々と俺の肩に重くのしかかってきたモノについて突いてくる。
「オレに勝てたのはテメェの力でも何でもない。あのクソったれな奴の力を借りただけだ。それで1つの命奪って満足か? 何? 正義の味方気取り? ヒーローにでもなったつもりか? テメェだけでは何も成し遂げてないだろうに」
それはただの負け惜しみかもしれない。放っておけばいい。だけど、俺はコイツの言葉を無視することはできなかった。理由は分からないけど。
少しの間、返答に迷い、律儀に俺の気持ちを言語化しようとする。
「……別に俺は正義の味方なんてなるつもりはない。そもそも俺程度がなれるわけがない。だって、自分の正義の反対は……それは相手にとっての正義なんだろうから」
自身の思いを口にしていく。ロードに言い訳するわけでもなく、俺に言い聞かせるように。
「自分の望みを叶えるために相手の正義を否定して、自分の欲望のために相手の屍の上に立って……さぞソイツは独善的なんだろうな。他の誰でもない、自分のために戦っているんだ。そんな馬鹿げた奴が正義の味方なんてなれるわけがない。だって、誰かの犠牲がなければそう名乗れないのだから」
正義の味方なんて、そんなあやふやな存在かもしれない。
「生きるために行うことを正義として、それを邪魔して、挙げ句の果てにお前を殺した俺は……お前から見れば余程憎みたい相手なんだろう。殺したい人間なんだろう。何せ、俺は自分のためにお前の正義を踏みにじったのだから」
それでも……。
「それでも、それを悪だと言うのならば――――俺は悪でいい。喜んで悪となろう」
それでいい。俺は最初から……自分の願いのために戦うって決めたのだから。
誰かのために自分を犠牲にして動ける人がいるのならば、それはどれだけ崇高で、素晴らしい人なんだろうか。でも、俺はそうはなれない。いつだって俺は独善的で、利己的で、身勝手で、自己中心的……そんな人間だ。だからこそ、俺は俺の願いを叶えるために戦った。それだけだ。
「……生意気だな、ただのガキが」
ロードは何かを諦めたようにため息をつく。
これでようやく終わりか。コイツも躰の半分以上が消えかかっているし。……って、待て待て。まだ気になることがあるだろ。
「俺からも1つ訊くぞ。どうやってここに来たんだ」
レーヴェが地球に来れたのはロードの星での内乱中に地球への扉が開いたから。その扉はすぐに閉まったと言っていた。これでロードの誰もが来れるようならかなりヤバいことになるぞ。ロードには魔力を通した攻撃じゃないと意味ないって言っていた。
「フフッ、さてなァ。それをオレが答える義務はない。義理もない」
はぐらかすか。俺に教えるメリットなんてないし、当然と言えば当然だろうが……クソッ。
「ああ、もしかしたら――――まだまだ多くのロードがここにやって来るかもな。そうなると、かなり面白いことになるな」
「おいっ……! それどういう意味――――」
それだけ言い残して今回の事件の首謀者のロードは完全に姿を消した。全身が光の粒になって消えた。まるで、最初からそこに何もいなかったかのように。
最後に不穏なことを言った。何がどうなっているのかは……また今度考えよう。
「…………」
とりあえずは一件落着を喜ぼう。どうにかなって良かった良かった。さて、これからどうしようかな。もうけっこう夜遅いし奏さんたちへの言い訳とか作らないと。怒ってるかなぁ。そうそう、まずは九条さんを家に送り届けないと。家がどこか分からないし、起こさないと。体調やら大丈夫かな。心配事が多い。、
などと思いつつ長い髪をイジってたら……あ、髪が短くなった。あのレーヴェが混ざった姿から元に戻ったのか。
『……お疲れ、葵。よく頑張ったね』
レーヴェのねぎらいの言葉。とても優しく語りかけてくれる。
「おう。ありがとな、レーヴェ。その、色々と」
『気にすることはないさ。これは君が選んだ道だからね。私はその手伝いをしただけ』
「……本当にありがとう」
――――こうして俺は自分の過去と向き合い、夢を再確認できた。少しは新しい一歩を踏み出せた気がする。
次回、1章のエピローグです
随分と長く書いたな……と思います
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