27話 夢幻
掻い潜って攻撃したい。そう決めたのに……アイツがいきなり本気を出したように攻撃の隙間が見当たらなくなる。
「くっそ……!」
一気にあのロードに近付きたい。近付きたいんだ。それは分かっている。――けど、全然近付けない。
いざ突っ込もうとしてから途端に攻撃が激しくなった。あの影の棘は3本だけだと思ったが、いつの間にか数が倍以上に増えてきた。
多くの棘で俺の行く先を予測してどんどん邪魔をしてくる。……ダメだ、避ける動作のため急ブレーキをかけてばかりでなかなかスピードが出せない。こうしている間にも次々と襲ってくる。
なんでいきなりあの棘の数が増えたんだ? さっきまで3本出たら消えてまた出ての繰り返しだっただろ。観察しろ、観察を。相手をよく視ろ。攻撃をよく視ろ。俺の記憶と見比べろ……!
「――――ッ!」
走りながらあることに気付く。それはちょっとした変化。だけと、原因はこれだと何となく理解した。
…………どうも棘の長さが短くなった気がする。そのせいか、地面からだけでなく、木の幹や枝を通じて様々な方向から棘が出現している。短くなった分、数を多く出せたということになるのだろうか。そして、棘の出現スピードも増している。
つっても、原因が分かったところで対処ができないがな。あの棘の切れ味はかなり鋭い。太い木の幹を簡単に貫いたし、それはもう綺麗な穴が空いたから。
どうする? こうなったら多少なりと攻撃喰らう覚悟で突っ込むか? さっきから避けての繰り返しでマジで近付けない。迂回ばかりじゃ始まらないし、いつか殺られるだろう。多分対策はされるだろうが、やってみないと分からない。
前に襲われたときの記憶と比較すれば、単純なスピード勝負なら俺の方が勝っていると思う。そのくらいレーヴェの力は速い。今まで体感したことのない速さ。……それでも、対応されるとここまで追い詰められる。
にしても、レーヴェは俺を心配してくれてから全然反応してくれないな。俺から話しかければ何か言ってくれるのだろうが、その余裕はない。欲を言えば、もうちょいアドバイスとかお願いしたいんだが……。あれか、契約違反ってやつか。
「まあ……」
俺のできることをするだけだ。
とは言うが……簡単にはいかない。今はどうにかしてこの攻撃の数々を掻い潜って近付きたいんだけどな。まず体勢を整えられない。ずっと木から木へ飛び移って地面に着地したら転がって避けるの連続だ。
くっそが……かれこれこの攻防が3分は続いている。ずっと逃げ回るのもそろそろキツいぞ。生まれてこの方、こんなアクロバティックな動作したことないっていうのに。近付けたと思ったら、棘が襲ってきて後退するパターンが多い。
疲労も少しは溜まりつつ、攻撃を避けるためにまた地面に着地したと思ったら――
「ガキが……死ね――――!」
「――ツ! ヤバッ!」
棘に紛れてアイツの爪を飛んできた!!
しかもめっちゃ伸びてる。10mくらいの距離があるのに、即座に飛んできた。棘のせいで意識が逸れていた。おまけに着地した瞬間の攻撃で、避ける動作までの体勢を作れていない。そして、アイツは棘をカモフラージュにしていた。気付くのが遅れた。……あまりにも遅かった。
――――ヤバい。速い。もう、目の前。不味い。喰らう。これは避けれない。当たる。間違いなく。
アイツの爪が目の前に迫ってきて頭が真っ白になった。
ここからムリヤリにでも横にでも跳ぶことはできたのかもしれない。しかし、このときの俺は焦っていた。早く、速くアイツに攻撃を当てないと。その強迫観念に駆られていた。おまけに、疲労もあった。肉体的……ではなく、精神的に。今までこんな経験はなく、俺の精神は思った以上に疲れていた。
だから、反応があまりにも鈍くなり、そこで俺の躰は固まってしまった。
「――――」
いくらレーヴェから借りた力でもこれを防ぐのは無理だろう。そう思った。
殺られる。そう感じ、思わず眼を瞑った。
「…………あれ?」
「な……に!?」
俺とアイツの驚く声が重なった。
攻撃が来ない? 恐る恐る眼を開けると……俺の寸前でアイツの爪が止まっている。俺に当たってない? 何だこれ……。
『あ、驚いた?』
物凄い楽しそうな声が頭の中から響く。そういや、最初もアイツの投擲した石を防いでたな。あのときはスルーしてたけど……。
アイツも爪を伸ばしつつもまだ困惑している上に動いていない。今ならイケる! その隙を逃さずに――――瞬時に距離を詰めて思っきり蹴る!!
「ガハッ……!!」
先程の蹴りは腹に当たったからイマイチ効果が薄かったのかもしれない。だから狙いを変えて今回は最初の蹴りと同じく頭に直撃した。
まだ攻撃のために爪……腕を伸ばしっぱなしにしていたロードは反応が遅れたみたいだ。真正面から俺の蹴りを喰らい、呻き声を上げながらまたもや大きく吹っ飛んだ。
本当はすぐにでも追った方がいいのだろうが、いい加減疑問を解決したい。一先ず追わずに問いかけることにした。
「……なあ、レーヴェ」
『おや? どうしたんだい?』
「じゃないでしょ。さっきの何? 説明欲しいんだが」
『私の力の一端さ』
いやうん、それは何となく予想できてたけども。具体的にお願いしたい。
『まあ、簡単に言うなら……ちょっとした時間の操作というわけだよ』
「時間? 操作?」
簡単とはこれ如何に。
『君の躰の周りの時間は今極端に遅い状態だ。君の躰全体にこう、薄い膜があるとイメージしてくれ。そして、君に近付こうと近付くほどに、相手はより遅くなる。君に触れることはない』
……うーむ? 細部まではよく分からんが、要するに、あのロードの攻撃が俺に当たらずジッとしていたのはそういうことか。
えーっと……あの攻撃が弾かれるわけでもなく、ずっと伸ばしていたのはまだ俺に当たってない、俺が避けていない、ということがなかったから。つまり、まだ攻撃の途中だから動けなかった……ってことか?
うーん、上手く言えないな。
「なら、お前が警告てくれた最初のあれはなんで変な方向に跳ね返ったんだ?」
『あれはまあ、私が適当に弾き返しただけ』
「あっそう。なあ、なんでそれ教えてくれなかった? もうちょい早く言ってくれたらあんなに必死に避ける必要ないのに」
『ふむ。とは言うがね、アイツの影を用いた攻撃にも、私のこの時間操作にも、当然それなりの魔力はかかる。そりゃ私は優秀だから君が充分戦えるレベルの魔力は持っているし、加えて、君がいるから使い切ることは早々ないかもしれないが、温存できるのに越したことはないということ。といっても、私がここまで力を取り戻せたのも君と契約したお陰だが』
「自分で優秀言うならもっと早く説明してくれよ……」
こちとら訳も分からず初めてのことだらけなんたよなぁ。
『まあまあ。この先、生きていたらこんなこといくらでもあるさ』
「だからって命まで取られる危険ってなかなかないぞ。……で、その膜とやらは常に俺に張り付いているのか?」
『ああ。何か攻撃を受けたら勝手に守ってくれる。一応言うと、この膜……どう呼ぼうかな。何がいい?』
「知るか」
『即答とは釣れないね。……まあ、夢、幻と書いて夢幻と呼ぼうか』
まあ、ネーミングは好きなすればいいと思います。俺はそういうの苦手だし、レーヴェはどことなく楽しそう。表情は分からないけど、声で何となく分かる。掛け声決めるときもそうだったな。
『話を戻そう。夢幻は先程言ったように常に魔力を使う。といっても、微々たる量だ。しかし、相手の攻撃を受けると、魔力はより多く必要になる。だから君が攻撃を避けるのは都合がいい』
「なるほどな」
と、それだけ言ってからロードを追いかける。
……いた。そこまで吹っ飛んでいなかったな。わりとすぐそこにいた。いや、レーヴェと話している間こっちに戻ってきたのか。
そして案の定、見た目でダメージの判別はつかない。これ本当に倒せるのか不安になってくる。
……待てよ? レーヴェが言っていたな。アイツや攻撃する度に魔力を消費すると。で、その魔力はレーヴェや目の前のコイツ……ロードが生きるためのエネルギー。これがなくなると、ロードは生きていられなくなる。地球の空気は毒らしいから。
ということは――――持久戦を持ち込めば俺に勝機があるということでは? いやでも、九条さんとの契約があるならそう期待できないか?
確かめないと。
「レーヴェ。あれと九条さんの契約ってまだ続いてるのか?」
『まだ繋がっているね、残念ながら。あれだけ乱暴にしたら切れると思うんだけど……。それにコイツが野良だったら、それこそもうここに留まるのも厳しいはずさ』
「……そうか」
くっそ、宛が外れたか。不味いな、まだ続いてるってことは九条さんから魔力の供給がコイツに行われているということ。一気に魔力を奪うことはできるかどうかは分からないが、早く倒さないと九条さんが危険なことには変わりはない。
「なに一人でブツブツ言ってる……」
うげっ、コイツに聞かれていたか。ん? あ、当たり前だが、コイツにはレーヴェの声は聞こえていないんだな。
『あ、ちなみに私たちロードには魔力の通った攻撃しか通用しないからね。つまり、私の力を受け取っている君の躰も魔力でしか傷付くことはない。と、私は補足するのでした』
……うるせぇ。つーか、お前キャラ変わってない? そんでそういう大切なこと早く言ってよ。報連相は大事なことだぞ。
ああ、道理でコイツはそこに疑問を持ったわけか。つっても、俺の姿やら変化しているからそれ以前の問題かもな。
気にしてなかったけど、この長い髪……あまり邪魔にならないもんだな。
「しかもテメェのその力……まさかアイツの……」
今度は目の前のロードがブツブツ呟いている。
しかし、互いに警戒は解かずに臨戦体勢を取っている。俺だってもう遅れはしないようにロードだけでなく、自分の足元、周りへと神経を尖らせている。
距離は5mほど。これなら俺から一気に蹴ることはできるから、先手は取れる可能性がある。けれど、こんなに真正面からに加えてこうも警戒されてたらまず当たらないだろう。向こうも俺の速さは理解しているはずだ。また何とかして不意を付かないと。
「まぁいい。何だろうと……邪魔をしたテメェを殺すだけだ」
そうロードが言った瞬間――――辺り一帯が輝いたかのように眩しくなった。
「……ッ!」
思わず眼を瞑る。
眼を開けると…………俺がいる場所は荒野になっていた。
そこは薄暗く、何もない枯れ果てた大地。たまに吹く乾ききった風。まるでこの世界に終わりがないように地平線が広がっている。
ここは見覚えがある。目の前にいるロードが創る――――結界。
次回は三人称視点で書いてますが、やっぱり難しいです
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