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無色透明のトロイメライ  作者: 皐月凉
1章 空っぽの人間から
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26話 動け!

「うっそぉ……」


 何かもう……めっちゃ勢いよく吹っ飛んだ。ホントなら俺のロクに経験したことのないショボい蹴りのはずなのに。レーヴェの力を借りることでここまで変化するとは……。かなり困惑中。いやホントスゲぇな。


『どうだい? なかなかのモノだろう』

「……おう。マジでスゴいわ」


 しかも、あれだけの勢いで蹴ったのに俺の足にはダメージが全くと言っていいほどない。


『しかし、また生きているね。けっこう不意を突いたと思ったが』

「いや、不意って言うか……真正面から突っ込んだだけなんだけども」


 それに俺が速く動いたのは見ていたはずだし。いやまあ、不意と言えば不意になるのだろう。……にしても、さすがにあれだけじゃ、やられはしないか。

 追いかけようと足を1歩踏み出したところで、思わずブレーキをかけてしまう。


「…………?」


 ……ん? あれ? 何だろう、ある違和感が。

 ……そうだ。何をどうしたらあのロードを倒したことになるんだ? 

 ただただ追い払うだけ? 絶対に違う。それだと、いつかは知らない誰かが襲われる。前起きた事件のようにアイツの餌にされる。つまりは……息の根を止める? それだと倒すというよりかは――――殺す、ということになるのだろう。


「…………ッ」

『……葵?』


 途端に躰が重くなる。そんな錯覚に襲われる。

 その事実に気付き、新しく迷いは生まれた。それもかなり大きいはずの迷いであり、悩みの種。


「……何でもない」


 ……しかし、俺は俺のために進むと決めたばかりだ。その迷いは、罪の意識は、抱えてこれから進もう。


 森の奥まで追いかけてロードの様子を確認する。

 ……いた。ゆっくりと俺の方に向かって歩いてくる。辺りはもう暗いのに加えて、このロードは全身が影に覆われているから表情がはっきり分からないのにも関わらず、この雰囲気……怒りの感情が嫌でも伝わる。


「テメェ……巫山戯んじゃねぇぞ」


 ……っと、ようやくこっちに近づいてきて、姿が見えてきた。わりとピンピンしてるな。けっこうな勢いで吹っ飛んだくせに。というより、こんな姿だからダメージを負っているのかどうかすら分からないな。

 で、まあ、当たり前だが、めちゃくちゃ睨むんでくるな、コイツ。……眼を紅く光らせ、かなりの迫力で俺にプレッシャーをかけてくる。

 そういや、もう獣みたいな唸り声は上げずに流ちょうな日本語を話すな。……さっきは流していたけど、これは一体どういう原理なんだ? レーヴェみたいに1から学んだわけではなさそうだ。さっきは若干カタコトたったのに。


「ハッ! そりゃこっちのセリフだ」


 確かにロードの迫力に気圧されるが、もうこれ以上ナメられるわけにもいかない。後すざりしそうになるが、我慢して、精一杯の虚勢を張って、俺も上から大きな態度で返す。


「九条さんに手を出して、俺を散々痛めつけて、よくそんなことほざくことできるなぁ」

「それがどうした? わざわざ喰ってあげてるんだから文句言うな」

「――――あ? 黙れよ」


 少しでも時間を稼げ。怒っている風の演技をしながら、これからどうするか、どう動くか考えろ。


「あの女にしてもそうだ。あれの魔力が美味いから、メインディッシュとして楽しみにしてたのに、邪魔しやがって……」

「するに決まってるだろ」

「さっきまで地面に転がっていた雑魚のくせに。その姿……どこの誰だが知らないが、ロードの力を借りているな。それだけで粋がんじゃねぇ」


 このまま戦闘に持ち込んで俺に勝ち目はあるのか? さっきはレーヴェの言う通り、確かに不意を突けたはずが、あのロードの機動力は凄まじい。結界内ではアイツが手を抜いていたのに、俺は簡単に追い詰められそうになった。

 しかし、今はレーヴェの力を借りており、俺の身体能力はかなり速いことになっている。


「それに言ったはずだぞ。邪魔すれば殺すと」

「殺れるなら殺ってみろ。じゃなきゃ、ここにはいない」

「そうか。――――なら死ね」


 今度はあのロードがこっちに一直線で突っ込んできた。俺は咄嗟に横へ跳びつつ回避する。

 

「……ッ!」


 かと思いきや、寸でのところで止まり、俺のいる方向へ腕を振るってくる。俺の回避した距離からして届かないと考えたが――――アイツの爪は鞭のようにしなり、確実に俺を捉えるように追尾してくる! それが視えてしまう。

 くっそ、マジか。俺にはまだ横に跳んだときの勢いがあり、完全に体勢が整っていない。不味いぞ。このままじゃ、みすみすと喰らってしまう。


 …………いや、大丈夫。この躰は動いてくれる。


「うっ……おぉ!」


 急ブレーキかけながから踏ん張りつつ片足だけで跳躍。不完全な姿勢での動きだが、それだけで上空を軽く跳ぶことができた。

 ……何とか避けれた。着地も不格好ながらも成功。追撃は……ない。


「……」


 コイツの表情は分からないけど、どことなく驚愕しているであろう雰囲気が伝わる。なんかさっきと違って紅い眼がチカチカしてるし。俺があれを避けれるとは思わなかったのか。

 とりあえず1つ学習した。アイツの爪は射程は不明だが、ある程度伸びる。どちらかと言えば、あの影が自在に伸びてるようにイメージだ。最初にはしてこなかったけど、まあ、俺をナメてくれたからかな。……さすがにもうないだろう。


 さて、どう動く? 考えろ。

 あまり突っ込みすぎると、またあの伸びる爪や知らない攻撃に殺られるかもしれない。俺だって戦闘に関しては素人もいいとこ。せいぜいランニングしかしてこなかった人間。だったら、一撃与えてはすぐ離脱する……ヒットアンドアウェイ戦法でいくか。九条さんの方には行かせないように気を付けながら。

 今までの動きで俺がどれだけ動けるかは多少なら理解した。跡地と結界でのことを思い出す。アイツの本気のスピードはどんなものか分からないが、この感じならレーヴェのスピードの方が速い……はずだ。


「行くぞ」


 それだけ呟き、また一気に駆ける。


「うらっ!」


 効果的な蹴り方なんて分かるわけもないから、今度はボールを蹴る要領でロードの腹に思いきりの蹴りをぶちかます。


「……チッ」


 けっこういい感じに当たったが、思った以上に効いてない。数m下がっただけで普通に耐えられた。やっぱ最初みたいにはいかないな。一応は効いていると思うんだよなぁ。咳? をしているし。

 そう判断しつつ俺はロードの攻撃を警戒してすぐに距離を取る。


 ……次はどうくる? 

 ロードの一挙手一投足を見逃さないように観察する。少しでも違和感があればすぐに対処できるように。――――つまり、俺はロードしか注視していなかった。だから、俺は気付けなかった。自身の周りの異常に。


 パキッと音がした。


「……?」


 どこから? ……俺の足元から。


「うおっ!」

 

 もうこれはただの反射。何かが迫ってきた。ただ勢いに任せて転がった。


 何が起きた? ……あれは? アイツの体の部分である影か? 地面からアイツの影と同じようなモノが棘状に変化して突き出している。ただの黒いモヤモヤとした物体ではやく、あの爪みたいにかなり鋭利な刃物に変化している。パッと見2mくらいの長さか?

 ……って、止まりながら分析している場合じゃない! すぐに走らないと!


「ちょっ! ヤバッ!」

 

 そして、俺の予想通り――あの棘状のモノは次々に地面から生えてくる。走って走って避けまくる。木々の間を通り、幹を蹴り、枝を掴んでは飛び移り――俺とは思えないほどにアクロバティックに動く。

 その間に色々と確認できた。幸いにもあの棘の出現するスピードはそこまでだ。それに加えて、3本ほど出したら引っ込めるのも視えた。あれを出せる上限があるってことか。ならば、やられっぱなしにもいかない。


 どうにかして攻撃を掻い潜って――――もう一度アイツに近付き攻撃する。



長くなりそうだったんで中途半端ですけどここで一旦切りました




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