25話 戦闘
「……ッ!」
あの言葉を発した後、レーヴェといた夢の世界から元の場所に俺の意識は戻ってきた。
色々と考えたいことがあるが、すぐに辺りを見渡す。……あのロード、九条さん、俺の位置関係から見て、俺が意識を飛ばしてからせいぜい10秒前後といったところ。多分1分も経っていない。まだロードが近くにいるからな。……なかなかに怖い。
とはいえ、向こうではかなりの時間を過ごした感覚が残っている。やっぱ夢ってのは不思議だ。前もこんな感じだったな。
「……?」
と、確認を終えてからある違和感に気付く。
え? ……ちょっと待って。これマジか。そんなことある? 何だこれ……。
――――……痛くない? これは痛みが引いてる?
ロードに思いっきり吹っ飛ばされて、俺はかなりの激痛に悶え苦しんだ。そりゃもう、今まで感じたことのないレベルだ。そして、なす術なく、意識を失った。なのに、もう痛みは全くない。ロードにやられたときにの痣が出来てるか、治ってるかは不明だけれど……それでもスゴい。
……これもレーヴェとの契約の影響なのか。こんなにすぐ表れるものということに唖然としそうになる。
それと同時に朗報でもある。痛くないのならすぐに動ける。我慢もしなくていい。
「な、に……!?」
突如としてあのロードの驚く声が聴こえる。チラッと視線を動かすと、俺の方を見ていた。意識が戻ったことに気付かれた。まだ戻ってから5秒と経ってないぞ。気付くの早い。
そして、コイツは俺の一体何に驚いたのか……それを探る前に俺は立ち上がり――――この森を一気に駆ける。
――――やるべきことは理解している。
優先事項として、まずは九条さんをあの鞭から救けないとならない。あれとロードは何かで繋がっている。あれで魔力のやり取りをしている。その気になればすぐに殺すこともできるはず。実際に俺もあの鞭にやられた。魔力をごっそり盗られたからな。あれを最初に何とかしないと。
そう判断し、俺は走ったのだが――
「――――ッ!!」
…………あまりにも速すぎる。俺の倒れた辺りから九条さんの縛られている木まで50mはあったのに、走りきるまで1秒もかかってない。……マジか。スゴいな、これ。
これだけ速く走れるのなら、動体視力が追いつかないかもしれないが、そんなことはない。いつもみたいに何てことなく走れた。河川敷で毎朝ランニングしているみたいに。ブレることなく、普段通りに。ブレーキもごく普通にできた。しかも、特に本気で走ったわけじゃない。
…………これ本気で走ったらどうなるんだ。
力を貸してくれるって言っていたが、この走力だけでも一線を画している。単純で、凄まじい力。契約で俺が得た力ってのはパッと判明しただけで、傷の治癒能力と身体能力の圧倒的強化ってところかか。うーん、こりゃホントにスゴいな。
……いや、感心するのはまだ早い。今はこの縛りついている鞭をどうにかしないと。
とりあえず掴んでみる。見た目は影みたいに実体がなさそうだが、鞭の中にしっかりと芯があるのかガッシリと掴めた。
よし、引き剥がす! ……縛り付けている力自体はそんなに強くない。良かった。これなら問題なくイケる。
まあ、本来ならこれで魔力を吸い取るから縛られている本人からしたら、そう簡単には抜けることのできない代物なんだろう。これにやられたら、マジで立てなくなる。身体に全くと言っていいほど力入らなくなるからな。
「…………」
俺が握ったことにより俺の魔力もそれなりに盗られたと思うが、レーヴェの契約しているおかげか、俺は平気だ。若干の気怠さはあったが、すぐに収まった。
「おっと」
鞭を引き千切ったら、空気に溶けるように消えて失くなった。九条さんを支えていたモノが消え、こっちに倒れてくる。
「…………」
「……すぅー……すぅー……」
首元をそっと触る。……大丈夫、息はある。小さい寝息も聴こえる。無事かどうかはまだ判別つかないけど、今は緊急を促す事態ではない。一先ず安堵する。少しだけ肩が軽くなった。良かった……。
しかし、九条さんを救けると決めたのならば、これで一安心というわけにもいかない。一件落着にはならない。
コイツは九条さんを狙っている。魔力との相性がいいとか……まあ、理由はさほど重要じゃない。俺の知る由もないことだ。それで、この場面はどうにかできても、コイツを逃したら、これからが危険すぎる。
だからこそ、今――――動かなければならない。俺が、コイツを、倒す。
とりあえずの九条さんの安全は分かったから、すぐそばにある木にもたれかけさせ、ロードの目の前に移動する。
――――その最中、気付く。
近くにある小川が俺の姿を照らし映した。曇天であり、もう暗い時間帯。しかし、雲の隙間からうっすらと月が光り、俺をはっきりと照らした。
「え……?」
レーヴェと契約した。そこで俺の見た目は変化が生じていた。
まず髪がレーヴェと同じく、腰までストレートに長くなっている。レーヴェの綺麗な銀髪と俺の黒髪が混ざり合った色をしている。両眼の色も変わっていた。細部までははっきりと確認できなかったが、恐らくはレーヴェと同じ蒼色だろう。黒ではない。
これはどう表現すればいいのら……まるで、俺とレーヴェが一体化したみたいな姿になっている。だから、ロードも俺を見て驚いたのだろう。……いやまあ、レーヴェの美貌に特に秀でた容姿を持たない俺が敵うわけないのだが、えーっと、敢えてそこは突っ込まない方向で。
「…………」
……ああもう、切り替え切り替え。
さて、ロードの目の前に立ち塞がったはいいが、どう動けばいいのやら。ケンカなんてほとんどしたことなんてない。小さい頃は庇ってただけで暴力は振るったこともない。その度胸がないだけども。
ロードもこちらの様子を窺っているらしく、まだ大きな動きはしていない。
2mは超える狼以上の体躯で、4本足にはそれぞれ人間くらい余裕で引き裂けそうな鋭い爪を持っているが、実体はボヤケていて、どことなく影を纏っているような姿見をしているロードは、俺を睨み付け何かを警戒しているみたいだ。
……そういや、ふと思ったことがある。コイツに名前ってあるのかな。ロードって種族の名称らしいし、例えば、俺のことをずっと人間って呼んでるようなもんだよな。うん、別にどうでもいいか。
さっきより、ちょっとだけ距離を取りつつ俺の心の中にいるであろう奴に語りかける。
「……レーヴェ」
『おやおや、何だい?』
あ、この状態でも話せるのね。
「できればコイツを倒したいわけだけども、どうすればいい? 教えてくれ」
『適当に殴ればその内やられると思うよ』
「……雑!」
え? それだけなの? 脳筋かよ。
『だってー、私たちの世界では基本殴り合いだからね。殴ったり色々したりして、ギリギリまで追い詰めて服従させるか殺すかの毎日さ』
思った以上の脳筋だった……。いや、前に話は聞いていたけど。それでも、他にもっとアドバイスとかを期待していたのに。
「俺殴り合いとかしたことないんだが」
『大丈夫大丈夫。今の君の思う通りに動けるから好きにやりな』
「えーっと……何だか、こう、ゲームみたいな弱点とかは?」
『そんなのあるわけないだろ。あったとしても、敵には見せないものさ』
「そうですね」
当たり前と言えば当たり前のこと。一応言うと、ゲームなんてほとんどやったことない。凪がやっているのを覗き見した程度。だったら、人間でいうところの心臓とか脳とか知りたいな。
『…………ほら、ボーッとしない。来るよ』
「――――ッ!」
レーヴェの一言でハッとする。ヤバい、アイツが動き始めた!!
だいたい5、6mほど離れていた距離から、ロードはどうやらそっちの足元にあったそれなりの大きさのある石を牽制とばかりか蹴飛ばしてきた。それも、とてつもない速さで。
レーヴェの会話に気を取られていたから反応できずに当たると思った…………が、当たった感触はない。
コツンと俺の目の前で何かにぶつかって変な方向に跳ね返った……?
「……え?」
え? え? どういうこと? 確実にぶつかったと思ったのに。
『ふふっ……』
楽しそうなレーヴェの笑い声が頭に響く。
どういうことか訊こうとしたが、今度はロードがこっちに突っ込んでくる。
「死、ね――!」
アイツの持っている鋭利で大きい爪で俺を横から薙ぎ払ってくる。
影みたいな姿だからか、見た目以上のリーチがあり、これも俺の腹に当たる、裂かれる、斬られる……! そう感じだ。けれど……当たらず。
「ふぅ……」
今度は動けた。すぐにその場から後退し、アイツの攻撃をやり過ごせた。わりと余裕を持って。
なんつーか……さっきの石の蹴飛ばしもそうだが、アイツの動きがかなりスローモーションに見えた。それはもうゆっくりと。しかも、ただ見えるだけじゃなくて、見てから避けれるくらいの動きができる足もある。多少遅れても反応できる。まだアイツも本気ではないだろうけど、これならイケるかもしれない。
さっきは完全に気を抜いていたから当たりそうになったけど。いや、あれなんで当たらなかったの?
まあいい。何かレーヴェがやったんだろう。次は俺が攻撃するぞ。アイツに攻撃されたんだし、やられたからには反撃だ。やられっぱなしは嫌だ。救けるって決めたんだから俺からも攻撃しないと。
……とはいえ、何をどうすりゃいいのかまるで分からん。
「うらっ……!」
とりあえず――――その場で思いっきり踏み込みつつの跳び蹴りを放つ。かなり不格好な形の蹴り。それだけの蹴りのはずなのに――
「が、ガバッ!!」
――――メキメキッ!!
俺の蹴りは一瞬でロードの頭にかなりめり込み――――凄まじい勢いで吹っ飛んだ。どこまで遠くまで吹っ飛んだかよく見えねぇ……。
……え? うん? えーっと……マジか。こんなに吹っ飛ぶの?
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戦闘シーン書くの難しいですね




