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無色透明のトロイメライ  作者: 皐月凉
1章 空っぽの人間から
22/62

21話 判明、急転

「――――――――」


 急に目の前が真っ暗になったような気持ちになる。


「――――――――」


 頭が今の状況の処理に追いついていない。とてもじゃないけど追いつくことなんてできない。


「――――――――」


 そのくらい意味が分からない。

 ……いや、もしかしたらこの状況を認めたくないのかもしれない。認めるのを拒否しているのかもしれない。


『――――……ぃ! …………ぉい!』


 …………あれ? 今……何がどうなっているんだっけ? だんだん……意識が暗くなって……――――


『――――葵!!』

「……ッ!」


 頭に大きく鳴り響くレーヴェの声で現実に引き戻される。

 逃避しかけていた意識がようやくはっきりしてきた。


「…………悪い」

『大変かもしれないが、気を長く持ってくれまたえ』


 くそったれ。どうしてこうなった……!? なんで九条さんがソイツと……そう思ったが、違うな。こうなったら『なぜ』は重要じゃない。

 もう受け入れるしかないんだ。今、視界に移っていることが全て。そこからどういうことか考えないと。

 理由は不明。でも、あのロードがいる。……嫌なことだが、これで会うのは3度目だ。

 

 最初は跡地で襲われた。命からがら逃げてきた。レーヴェがいなかったら確実に死んでいただろう。

 2回目は学校の帰り道。あのロードが創ったという『結界』に閉じ込められまたそこで襲われた。しかし、そのときは俺を気絶させる目的だった可能性があり、命の危機はなかったかもしれない。それでも危険だったことに変わりはない。普通に危なかったし。

 ただ、結界を創る力はあのときは不十分だったからか、俺は元の場所に5分ほどで戻れた。レーヴェの助けもあり特にケガもなかった。


 そして、今回――――また俺の目の前に現れた。


「なあ九条さん、どういうことだ? なんでソイツと……」


 その鍵を握っているであろう人物に問いかける。

 さっきも思った通り、ここまで来てしまった以上、『なぜ』はさほど重視する事柄ではないが、せめて時間は稼がないといけない。


 本人はバツが悪そうにこちらに視線を合わせてくれない。九条さんの隣では狼以上の体躯があるあのロードが控えている。とても大人しくしつつ唸っている。

 ――――まるで、九条さんが従えているかのように。まるで、何かのチャンスを狙っているかのように。


「黒江君は、コレが何か分かっているんですね」

「まあ、だいたいはな」

「私なんて、まだ何にも分からないのに、スゴいですね」

「…………」

「……ごめんなさい」


 そう先に謝られてもな。こっちとしてはまだ状況が飲み込めない。変に汗だって掻きまくっている。分からないことだらけだ。


「――――」


 …………いや、もう薄々は勘付いている。


 どんな経緯があったのかはまだ疑問が残ることだが、俺を散々襲ったロードの契約者は――――九条志乃だということ。


 ここに九条さんがいる。そしてロードは九条さんを襲わない。これが充分な証拠だ。


 最近ちょっとは仲良くはなれたと感じたせいか、少なからずショックはある。

 しかし、今での九条さんを振り返ってみたら兆候はあった。

 まず、ショッピングモールの本屋で会ったときに、レーヴェが何かしらの反応を九条さんに示していた。


「あのときには気付いていたのか?」

『……半信半疑だね。本屋での彼女にはロードの匂いが薄っすらと残っていた。もしかしたらとは思ったが、ただすれ違っただけの可能性もあったし、回復のため、彼女の近くに鳴りを潜めていただけかもしれなかった。だから、断言は避けていた。君に下手に混乱させたくはなかった。すまないね』


 俺の独り言への返答。

 なるほどな。それに加えて、学校では俺に話さないでくれとレーヴェに伝えた。そこからレーヴェは休むと言っていた。レーヴェもいつも俺の視界から色々と視ているわけでもないらしいから。そのせいか、今まで気付かなかったのか。

 本屋での出来事が1つ目。


 兆候2つ目は……今日までの体調だ。

 前もそうだが、どことなく体調が悪かった。熱もないし、風邪でもなかった。

 その理由はロードと契約したからということ。確か契約すると、身体の生命力やらを奪われるらしい。そのせいであそこまで身体がヤラれていたというわけか。


 どのタイミングで九条さんと契約したかは分からないが、結界で俺を襲う前のはず。そのあとだったら回復するためにもいつも以上に生命力やらを奪っていただろう。結界を創るのにはかなり力を使うとレーヴェが教えてくれたからな。


 むしろ、ここまでヒントがあったのに気付けなかったのは俺の落ち度だ。

 ……さて、ここからどうする? すぐに逃げる? どうにか時間を稼ぐ? 稼いで何か変わるのか? 説得? ロードを? 何が最善なのか? 何が目的なのか?


 …………考えが纏まらない。


「九条さんはいつソイツと出会った?」


 ジリジリと周りながら移動する。九条さんとロードを視界に捉えつつ階段を背にする。せめて逃げるまでのルートは確保しないと。


「えーっと……最初学校が休校になったころです。黒江君と駅で別れてから、家に帰る途中に」


 ……俺が跡地で襲われたあとのことかな。多分あれから10分くらいか? 大ざっぱに計算したら。ということは、そんな短時間で北の方に移動したのか? いくらなんでも速すぎだろ。


「最初は何が何だか分からなくて、逃げたんです。そしたら、学校行っても家にいても私にまとわりついて」


 ポツリ……ポツリと自信なさげな状態で話は続く。


「その翌日、家に帰る途中の……ちょうどこの辺りで、コレに話しかけられたんです。『欲しいモノは何か』……って」


 これが契約の話か。いきなり問いかけて、何ののことだが理解してないはずなのに……なんつーか、詐欺のやり口みたいだな。そもそもロードなんて存在がこちらにとってはファンタジーめいているからな……。そんなことイチイチ考えられないか。

 なんて他人事みたいに思う。


「……で、九条さんが何て答えたのかは知らないが、俺が関係するからここに連れてきたって感じか」

「よく、分かりましたね。そうです。……訳も分からず、ポロッと口から零してしまったんです」


 自分で言っててなんだが、九条さんの望みが俺に関する事柄か……何を契約内容にしたのかさっぱり思い浮かばないな。わりとマジで。俺と九条さん、中学からの同級生でそのよしみで最近話したくらいの仲でしかないし。

 この際、内容はどうでもいいか。少しは気にはなるけどな。

 にしても、なんであのロードは静かにしている? 前ならすぐに襲ってきたくせに。


「――――」


 とはいえだ、もっと距離を取らないと。目算だが、俺と九条さんたちの距離はまだ3mくらい。せめて路上に戻りたいが、奥深くまで降りたせいでそう簡単には戻れそうもない。しかも地面は落ち葉や土で走りにくい。

 誰か助けは……って思ったが、ここら近辺人通りほとんどなかったし、民家や住宅街もまだまだ先。大声出しても届くかどうかだ。車は見かけたが、さほど多くもなかった。

 ……ダメだな、大声出しても厳しいだろう。だとしたら――


 ――――ここから一気に駆け上がるか? 一か八かかで?


 ……厳しいだろうな。視界に入れないで、走ったらいざというときに反応できなくなる。さすがにリスキーすぎるか。この場に九条さんを置いておくのも……あのロードと契約しているわけだし、命の危機はないのか? 分からないな。もしないならめちゃくちゃ逃げたいが。

前みたいにレーヴェのあの盾みたいな力を借りれれば――――


『葵。すまないが、今の私では逃げきれるまで君を守り通せる自信はない。前回の襲撃でかなりの力を消耗してしまってね』


 俺の考えを読んだかのような忠告だが…………マジかよ。まあ、致し方ないか。10年前からずっと俺の身体で回復してたとか言うし、時間がかかるもんなんだろう。

 1回目助けられたときと2回目じゃ、あの盾を使った時間もだいぶ違う。それにどれだけ頑張って走っても、深くまで降りてしまった小川のところから階段まで、相当斜度がキツくて足場の悪い坂道だ。俺の足じゃ最低でも3分はかかる。その間ずっとというのは無理ということか。


 くっそ、八方塞がりだな。時間をかけるにつれ、日も落ちて暗くなっていくというのに。


「ソロソロ……イイ、カ……」


 ――――と、途方に暮れていたら、あのロードが唸り声を上げつつまた拙い日本語を口に出した。


「えっ、いいって何が……!」


 すぐに反応したのは九条さん。喋ったことがあるのは前回知っていたが、今まで黙っていたし、驚きで俺は反応できなかった。

 何やら慌てている様子な九条さん。……いやまあ、俺も慌てないとダメなんだけども。正直、手詰まりで動くにもなかなか動けなくて静観しているだけになっている。

 

 そんな俺を気に介せずロードは話を続ける。


「オマエノ、ノゾミ……ソイツト、ハナス、コト……」


 ……え? どういうことだ? 何て言った?

 コイツの言葉通りなら、九条さんの望み――――つまりは九条さんとあのロードの契約の内容って俺と会話するだけ……なのか? 

 本当に? 話す? 俺が? 俺と? たったそれだけのことなのか? 俺たち今までロクに話したことなんてないのに? 


「…………」


 チラッと九条さんの方を覗くと、知られたのが嫌なのか顔を赤くして恥ずかしそうに視線を逸らす。


「――――」


 まあ、ポロッと口から零れた云々言ってたし、そこまで気に留めることじゃないのか……な? ただ、それをあのロードは叶えようとして俺を結界で襲ってきた。


「ナンカイモ、ハナシタ。モウ、ジュウブン……ノゾミ、ハタシタ…………」


 カタコトでそれだけロードは言い終えると、黒く、揺らめいている影みたいな身体の一部分――――アイツの眼が紅く輝く。


「……え?」


 と、呟いたのは俺か九条さんどっちだったか、あるいは両方か。

 眼が光った、そう感じた途端――――黒くモヤモヤしていて捉えどころのない影が、アイツの身体と似たような色合いをした鞭と思しきモノが九条さんの周りにグルグルと纏わりつく。


「え、やだ。なにこれ?」


 纏わりついたと思ったら……今度は九条さんに蛇みたいに巻き付いてしまった。


 これは、俺が一度喰らったことのあるやつだ。最初、跡地で会ったときに足に絡みついてきたのと同じだ。巻き付いている感覚なんてなくて俺も全く気付かなかったとても奇妙なモノだ。

 確かあの鞭みたいやモノの効果は、ロードが地球で生きるために必要なエネルギーみたいなのを人間から奪う目的で使う。あれをやられたら、かなりの脱力感に襲われる。数秒ほどアレに巻き付かれて俺は立てないほど力を奪われた。


 しかし、なぜ九条さんから奪おうとする? 契約しているなら、わざわざそんなことしなくても、ある程度は供給されるとレーヴェが言っていた。だから、九条さんは昨日辺りから具合を悪くしていた。なのに、する必要がどこにある。まだ俺を狙う方が……合理的、だ――――…………え?


「きゃあ!」

「――――ッ!」


 今度はあの鞭らしきモノをロードは操り、近くの木に九条さんを縛りつけた。

 全身を固定させており、九条さんは宙を浮いている。ジタバタと暴れているが、あの鞭は全くと言っていいほど外れない。

 

 コイツは本格的に何をするつもりだ……?


「ちょっと、どういうことよ! ……前と言ってることが違うじゃない! もうしばらくしたら解放してくれるって!」


 俺が見たことのないくらいの声で叫ぶ九条さん。大人しそうな性格のこともあり、かなり焦っているのが嫌でも分かる。

 何ができるわけもなく、途中からただボーッと眺めていただけだが、この状況、イマイチ飲み込めないけど、ヤバい気しかしない。


「オマエ、トテモイイ……。テバナスノ、モッタイナ…………」


 そこで不自然に言葉を切り、黙ったと思ったら。


「……しばらくはここで…………オレの栄養源とさせてもらう」


 と、流暢に日本語を喋り始めた。

 いやいやいや、いきなり急になんで!? さっきまでカタコトだったくせに。レーヴェだって日本語は時間かけて学んだらしいのに。


 って、そうじゃない。そこも驚いたが、喋った内容はどういうことだ? 


「栄養源……?」


 俺はそう呟く。ロードはこちらに向き直り、また口を開く。


「そうだ。ここの空気は毒。生きるためには人間の魔力がいる。オレが主に選んだこの人間の気力はオレに合っている」


 魔力? ……レーヴェが言っていた精神力やらのことか。呼び方統一してないんだな。いや、レーヴェも魔力とか言ってた気がする。


「そこらにいる人間を喰ったところですぐに力はなくなるが、この人間は別だ。とても良い。長く使える。気に入った。今までけっこう喰ってきたが、こんな上質な人間は初めてだ。すぐに喰うのは勿体無い」


 ――――コイツは何を言っている?


「な、何よそれ! ふざけないでよ!」

「…………うるさいぞ。少し、黙れ」

「え、あっ……うっ…………」


 ロードがそれだけ言っただけで何が起きた? 九条さんはガクッと項垂れている。……これは九条さんの意識が失った……のか!? あんな一瞬で? 

 思い返してみれば、あの影の鞭で俺の精神力やらも奪われたことがある。あれでしばらく立てなくたったし、その延長線上の力なのだろうか。

 それは分かったが……。


「――――――――」


 …………俺はどうすればい? ヤバいヤバいヤバい、テンパって何も思い付かない。さっきまでは静観していたが、今は俺とロードの一対一。対面している状態だ。どうする? 


 そう俺が慌てふためいている中で、あのロードは俺なんか気にも介せずにゆっくり口を開く。


「どうせすぐに死ぬだろうが、まあいい。……じっくり味わうとするか」

 

 





 

 








 






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この話で10万文字突破したのですが、思いの外1章が長くなった。あと5話から10話までに収めれればいいなーって考えてます

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