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無色透明のトロイメライ  作者: 皐月凉
1章 空っぽの人間から
17/62

16話 事態は少しずつ動いても、変わらぬ日常を

 あのロードに襲われた翌日。

 あのあと、凪が帰ってきてからはレーヴェとは話をしなかった。もうさすがにその日はロードについて会話する雰囲気ではなかった。レーヴェの言う通り、俺は自身の大切な日常を過ごした。

 そして、今は学校にいる。まだ木曜日だし普通に授業があり、いつも通り始業の10分前に教室に着いた。まだ鬼塚は来てないらしく、俺は誰とも会話せずに椅子に座る。

 座りながら適当に単語帳に目を通す。全く頭に入らないな。 

 と、そのままボーッとしつつ昨日の話を振り返る。


「…………」


 あのロードはここで誰かと契約した。そのお陰で、アイツはここを自由に行動できるようになった。しかし、その代価として俺を狙っている。だから昨日俺をまた襲った。……いや、最初に襲った理由は分からないな。多分昨日の理由とは違うだろう。単純に生きるために人を喰う――――欲望を満たすためかな。それに選ばれたのが俺というのは不本意だが。まあ、あんな人気のない場所を通ったからだろう。

 それで、誰と契約したかは当然知らないけど、俺はその誰かを見つけないと、まあ、日常生活を脅かされるわけだ。最悪、命の危機まである。さすがにそれは避けたいからとうにかして探さないといけない。

ここまでが昨日、レーヴェと話した内容。

で、ここから本題になるんだが……探すって言っても、どうやって? 

 如何せん俺には探す手段も方法もない。

 レーヴェが言うには特に契約が一目で分かるような印はないとのこと。だったらと、俺を狙う相応の理由のある人物――――例えば俺を特別恨んでいるような奴か? ……一応いるにはいるが正直もう会ってないんだよな。その人物はもう天生市から離れているらしいのでその線は薄い。そもそも知り合いが少なすぎるからな……もうこの時点で心当たりがない。

 他に方法は…………パッと思い付かない。こうなったら、次あのロードと会ったらわざと捕まってみるか? そう考えたけど止めとこう。いくら昨日アイツが俺を殺す気がなかったような動きをしたとはいえ、あまりにも危険すぎる。そんなリスキーな行動は取りたくない。

色々と悶々しながら頭を悩ませる。


「どうなるんだか……」


 教室のの端で誰にも聞こえないような小さな声でポツリと呟く。

 前途多難だ。どうして俺がこんな目に……。いやまあ、日頃の行いは良いとは全く思わないが。

 あ、もう授業始まる。鬼塚は……今来たな。時間ギリギリだ。朝練長引いたのか。

 はぁ……とりあえず授業頑張るか。




 何事もなく時間は過ぎていき、あっという間に放課後になる。いや、マジで誰とも会話するわけでもなく、鬼塚と適当に挨拶交わした程度だからな。

 今日は嬉しいことに数学も体育もなく実に平和な時間割だった。素晴らしい。毎日こんな時間割だったらいいのに。

 っと、今日も図書室寄ろうかな。

 ……昨日あんなことあって帰るのが遅くなるのはどうかと思うが、あの空間の静かな空気が俺好みだからな。まだ昨日借りた本途中だし、続き読もう。昨日はあのあと九条さんと一緒に買った本を読んでいた。あともうちょいで読み終えるし、晩飯食べ終わってから読むとしよう。

図書室に向かう途中。


『……君。さっさと帰った方がいいんじゃない?』


 廊下でレーヴェから話しかけてきた。思いっきり注意された。まあ、うん、そうなるよな。

 周りを見渡してから誰もいないことを確認して小声で話す。


「いいんだよ。俺の日常を過ごせって言ったのそっちだろ、レーヴェ」

『うーむ。それはそうだが、色々と君自身立て込んでるときにわざわざ寄り道しなくてもね』

「どうせすぐ帰るって」

『とは言うがね。昨日の今日で……君って人は』


 声だけでレーヴェが呆れてるのが分かる。


「昨日の今日だからだよ。さすがに2日連続で襲ってくるか? なんか結界とやらを創るのにだいぶ力使ったんだろ?」

『それもそうだね。君の言う通り、アイツがまた結界を創るのにまたそれなりに時間かかりそうだし。長時間維持するなら尚更』


 それにいくら契約したとはいえ、地球の空気はロードにとって毒らしいから、そんな活発には動けないと思う。なんて言うか、カロリーが今ない状態なのかな。


「図書室は人がいるんだし、大人しくしてくれよ」

『あぁ。素直に寝ておくとするよ。私も疲れているんでね』


 レーヴェからの許可は貰ったので、図書室に向かうとする。

 しばらく歩いて図書室に着くと、昨日と違い少しだけ人がいる。


「…………」


 手持ち無沙汰なのかスマートフォンを操作している男子の図書委員と勉強か宿題をしているであろう女子が2人。それと普通に本を読んでいる女子が1人。

 昨日は俺と図書委員の人以外いなかったからちょっと驚いた。てっきり利用する人あまりいないのかなって。いや、少ないんだけどな。とはいえ、比較しているのは市の図書館とかであって、わざわざ学校の図書室に足を運ぶ物好きは珍しいよな。そもそも本読んでいる人が1人しかいないし。


「……あっ」

「ん?」


 俺も席につこうとしたところで本を読んでいる女子と目が合った。クラスメイトの九条さんだった。

 軽く会釈だけする。九条さんもペコリと返してくれたので、改めて読書の姿勢に入る。ここは図書室なのでお互い静かに。その辺りは一応理解している。マナーだからな。


 ――――それから1時間は経った頃。

 時間もいい感じなので今日はもう帰るとする。さすがに昨日みたいに遅くなるわけにもいかないからな。だったら図書室寄るなよって気がするけど、そこは……まあ、一応俺の趣味なわけで。

 にしても、昨日ここで借りた本はもう残り1/3まで読んだ。昔から読まれている本はいつ読んでも面白い。

などと、ボーッとしながら図書室から退出する。すると、俺に続いて図書室から出てくる人がいる。あの勉強している2人はもう途中で帰って、図書室はまだ閉める時間ではないから残るは……。


「あ、その、黒江君」

「……どうも」


 九条さんだわな。


「九条さんも帰るの?」

「は、はい。キリのいいとこまで読めたので。それに家で少しは勉強しないと」

「真面目だなぁ」

「もうテストまで3週間ですからね。いえ、もう2週間くらいになりますかね?」

「そのくらいかな。とはいえ、まだそこそこあるから、俺はなかなか勉強する気になれない」

「ま、まあ、テスト勉強もありますが、宿題も終わってないので……」


 廊下を歩きながらのんびりと九条さんと話す。

 人見知りの俺だけど、波長が合うのか自分でも驚くくらい九条さんとは特に問題なく会話できる。そりゃ、内心けっこう緊張してたりはするが、それでもすんなりと言葉が続く。


「あ、あの本読みましたか?」

「ん? あぁ、あれか。まだ途中。あとちょっとかな。今日の夜に残り一気に読もうかなって」

「私も似たような感じですね。文量があると読み終えるまでが大変ですね」

「その分、読みごたえがあって好きだな」

「てすね。同感です」

「それでさ――――」


 ――――お互いに色々と話しつつ靴に履き替え、校門まで移動する。

 校門に着くと、九条さんが俺の方に向き直り。


「あの、黒江君。ちょっと寄り道しませんか?」

「……寄り道?」


 そんな意外なことを言ってきた。


「あ、寄り道といっても、すぐ近くの公園なんですけど」

「公園って……あそこか」


 学校から徒歩5分といったところにブランコとベンチが数台あるだけの小さな公園がある。広さは教室一部屋分くらいあるかもしれないけど、中身がスカスカだから小さく感じる。たまに学生が集まっているのを見かけるくらいで、あまり人は見かけないかな。


「ちょっとくらいなら大丈夫だけど、何しに?」


 実際問題、何もないだろ、あそこ。小さい子どもなら遊び場として充分な気がするが、俺たちはこれでも高校生だ。


「えーっと、それは……そのですね…………えっと……」


 九条さんは目を泳がせ、焦ったように見える。


「……とりあえず、歩こうか?」

「は、はい……」


 頭が真っ白になったのか何か今から言うことが恥ずかしいのか言葉を詰まらせた九条さんを少しばかし宥めて公園へと足を進める。……女子を宥めるって、凪にしかしたことなかったな。珍しいこともあるもんだ。

 そして、また少し歩き、九条さんの目的の公園に着いた。

 ブランコやベンチはボロくはないし寂れているってわけではないけど、人が少ないな……ていうか、今日は1人もいないな。

 今どき公園で遊ぶような子どもたちとかいないのかな。もしかしたら、ここよりもっと大きな公園があってそこに行ってるとかか? あの跡地は薄暗くて人が寄り付かないし、もっと別の場所かな? 正直どこに公園があるとか一々把握してないから分からないな。中・高生ならショッピングモールとかに行くだろう。ここは一応学校の近くだから知ってはいたけど。

 そんなことをボンヤリ考えながら俺と九条さんは近くのベンチに腰をおろす。


「……」


 改めてこの状況……めっちゃ緊張する。前まで鬼塚以外とはロクに学校の人たちと会話しなかった俺だ。それがまだ知り合って間もない人と一緒に……ましてや女子と一緒に並んで座っているのが驚きだ。ダメだ、変な汗流れそう。


「それで、話したいことって?」


 ゆっくりと、俺の緊張が伝わらないように言葉を口に出す。

 待つこと数秒。


「ここまで来て、その、話したい内容はそんな大したことじゃないんですけど……」

「まあ、別に気にしないよ」

「そのですね、気になっていることがあると言いますか、知りたいことがあると言いますか……」


 と、一拍置き、九条さんは話を続ける。


「失礼な質問ですが、黒江君はどうして黙っていたんですか?」


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