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無色透明のトロイメライ  作者: 皐月凉
1章 空っぽの人間から
16/62

15話 ロードの契約

 あれから何事もなく無事に? 家に帰り、自分の部屋に籠もる。まあ、無事とは言い難いかな。でも、怪我はほぼなかったし。

 そういや、家には誰もいなかったな。凪もまだ学校か。奏さんは確か今日は仕事じゃなかったはず。てことは、どこか買い物に行ってるのか。まあ、晩飯とかあるからな。

 ササッと家着に着替える。前に制服で寝て凪に怒られたこともあるから。で、思いっきりベッドに倒れ込む。


「あー……レーヴェ?」

『どうした?』

「話すといってもさ、前みたいに夢の中とかの方がいいのか? だったら今から寝るけど」

『んー……別に大丈夫だと思うよ。あの時、私はただ単に直に君と会いたかっただけたからね』

「そうかい。……で、どこから話すんだ? 何が不味いのかヤバいのか俺はさっぱりなんだが」

『そりゃそうだろうね。ではまず、結界の説明はいるかな?』

「それはいい。ある程度教えてもらったし。そういうもんだと割り切る」

『それもそうだね』

「まあ、お前らがそんなことできるのには驚いたがな」


 いやホント、マジでファンタジーだな。こちとら見事なまでに命からがら逃げてきたのに、まるで夢みたいな体験だ。凪に借りたラノベではそんな感じの話を読んだことあるけど、まさか実体験するとはな。

 何だかこの非現実な現状に少しは慣れてきたような……いやいや、慣れちゃダメだろ。


『それを言うなら、この世界の方に私は驚いたよ』

「驚いた? えーっと……ん? その……例えば?」

『例えばか。具体例を挙げるなら、まずは電気だね』

「電気って……何? 電灯とかの? あー、レーヴェの世界にはなかったのか? なかったら灯りとかどうするんだよ」

『一応言うと、似たような灯りならあるにはあるんだけどね。地球では、誰でもスイッチを入れれば使えるだろう? その点に驚くんだよ。私の世界では、灯りを使える条件はそれなりに厳しかったからね。全員が全員、使えるわけじゃない』

「ほーう。よくある魔法みたいな?」

『イメージとしてはそんな感じ。といっても、私の星はそれなりに明るい場所が多いからそこまで気にならないかな』

「へー」


 夜とかどうなんだ? 白夜みたいな感じか? そもそも向こうは太陽に近い星はあるのか? 朝昼夜の概念は地球だけだと思うが。


『他にも携帯やパソコン、車、飛行機、テレビ。――つまりは、科学というモノが私たちにとって馴染みのない、未知の領域なんだよ。それを自在に使える人間に驚くよ。科学を積み上げてきた人間の発想はとてもロードには真似できないさ』

「なるほど……」


 人間とロードでは、やっぱり文化……というより文明そのものが違うんだな。レーヴェがどのくらい生きてきたのか知らないけど、いきなりこっちに来てカルチャーショックは凄まじかったのだろう。とはいえ、レーヴェが直接何かできるということではないが。俺を通して観察していたらしいだけだし。


「でもさ、知性や理性はあるって言ってただろ? 思いついた奴くらいいるんじゃないか?」

『そうは言うけどね。私たちは君たちが言うようなファンタジーめいた力を使える。けれど、君たちは使えない。逆に、君たちは私たちの考えも及ばない知識や技術を持っている。要するに、ロードと人間では根本が違うんだ。価値観や常識、何もかもが違う。オマケに、私たちと君たちと世界は環境も丸っきり別物だ。空気も鉱物も食物も植物、共通している箇所なんてほぼほぼない。そんな生物が同じように発達すると思うかい?』

「……思わない。そうか。できることがそもそも違うから、文明が似つかないのも当然だな」

『そういうことさ』


 ちょっとタメになった。そこはホント生物の違いだな。


『っと、君と話すとよく脱線してしまうね』

「悪い」

『ふふっ。謝らないで構わないよ。私だって、楽しんでやってるからね』

「そうかい」

『それで、前にロードが地球で生きるためにはどうするかって話をしたのを覚えてるかな?』


 夢での出来事か。地球の環境はロードには毒だからそれをなくすためにどうするかって話。


「あれだろ。……人を喰うってやつ」

『あぁ。でも、他にもいくつかあるんだよ。前は説明しなかったけれどね』

「それまたどうしてだ?」

『君を狙っているロードに焦点を当てると、関係ないからと思ったからだよ。現にもう1人喰われているわけだからね。わざわざ他の方法を試すとは思わなかったから』

「ほー……。てことは、その別の方法で今あのロードは生きてるってことか」

『そういうことになるね』

「なんでその判断をしたんだ?」

『そうでもしなきゃ、あの結界を創れないからだよ。さっき言っただろう? 結界を造るのに色々と力がいると』

「そんなこと言ってたな」

『今回当てはまる方法は所謂――――契約だよ』

「契約……?」


 学生の俺ではあまり聞かない言葉が出てきたな。


『というよりは触媒に近いかな』

「触媒っていうと……。電柱や電池みたいな?」

『概ね、そんな認識で大丈夫だよ。要するに、ロードが地球で充分に力を発揮するために、人間を媒介に必要があるのさ』

「契約って具体的には何するんだ? 人間に何か被害があるのか?」

『被害ね。契約者の……何て言えばいいのかな? 精神力? みたいなのを貰うんだ』

「……なんつーか、曖昧だな』

『うーん、どう表現すればいいのかなぁ。あ、そうそう。君も軽くやられたよ?』


 やられた? 思い当たる節は……あれか。


「……あ、あの何だかよく分からないのが巻き付いたときか?」

『お、正解』


 あれそんな効果あったんだ。ちょっと怖いな。


「その精神力って寿命みたいなもんか?」

『とは違うね。あれを喰らったとき君はどんな感じだったかい?』

「えーっと……なんか全身に力入らなかったような」


 あ、とりあえず寿命は大丈夫なんだ。良かった。


『だろう? 口では上手く言えないが、元気を奪うと表現すればいいかな。命まで奪ったら契約する意味がないからね』

「なるほどな。てことは、あのとき俺の体力やら色々奪われたのか。……ん? でもさ、アイツ前にもう人食べてたんだろ? わざわざ契約とかする必要あるのか?」

『君たちだって、カロリーが極端に少ないよりかは多い方がいいだろ? それと同じこと。それに人間を食べたところで、これは感覚だが、せいぜい1週間しか保たない。なら、安定して生きていけるようにするのは当然と言えば当然さ』

「言い方はアレだが、まあ納得した」


 危険かどうかは知らないが、わざわざリスキーのある人喰いするなら安定した供給源がある方がマシだな。


「じゃあ、その契約者は誰?」

『…………さぁね。私には分からないよ』

「……そうか。あ、レーヴェは契約とかしているのか?」


 ちょっとレーヴェの反応遅かったな。まあいいか。また後で聞き直せば。って、別にそこまで俺が気にかける必要あるか? って、命狙われているし多少は聞かないと。


『いいや? 私は君の中にいるだけだからね。それに体もないから契約する必要はないんだよ』

「ふーん。ならレーヴェがもし……俺と契約したらどうなるんだ?」

『それこそ分からないよ。何分、こんな状態は初めてなんでね』

「まあ、そうだな。……ていうかさ、さっきから話聞いて疑問に思ったことあるんだが」


 一拍置いて続ける。


『何かな?』

「ロード同士が契約する意味ってあるのか? だって、人間とロードは本来関わりないんだし、この契約の話ってロード同士がするんだよな? 地球での契約はロードが生きるために必要なんだろうが、ロードの世界では触媒とかいるのか?」


 人間と契約すると、ここでも生きていけるってのは分かったが、普通は人間とするものじゃないんだよな。


『ふむふむ。君の疑問も最もだ。確かに私たち同士だと契約の内容は微妙かもしれない。まあ、基本、私たちはあまり使ったことないんだよ』

「え、使ったことないの?」


 意外だ。


『ああ。使うにしても、せいぜい勝者が敗者を付き従わせるためのモノだからね。君たちの世界みたいに、対等な立場が行う契約とは違うんだよ』

「んー……イマイチピンとこないな。ロード同士が契約するメリットって何なんだ?」

『勝者は今まで以上の力を使えるとかだね。凪ちゃんのしているゲームに倣うなら、MPやHPの上限が増えるって言えばいいかな? 私たちはよく争っていたから、自然とこうなるんだ』

「レベルアップってことか?」

『そうそう。それで、敗者は絶対服従とか……そんなところかな? 私は使ったことがないから、あまり分からないんだよね』

「要するに、この契約を持ちかけた側が有利ってことか?」

『まあ、そういうことになるね』

「でも契約なんだろ? 互いにメリットがないと契約にならないんじゃないのか?」

『んー……そうなんだよね。敗者は絶対服従の代わりに衣食住は安定させるとかになるのかなぁ。私ならこうするよ』


 なんつーか、フワフワしてるな。レーヴェも詳しくないならそりゃ分からないもんは分からないか。まあ、なんだ、敗者が死にかけたときに勝者が契約しようと持ちかけるってことになるのかな。普段ならしない珍しいことなんだな。


「なんでそんな契約しないんだ? そのレベルアップができるならしたらいいじゃないか。強くなるんだろ? 争いが多いならなおさら」

『君も言ったじゃないか。契約を受ける側もメリットがないといけないってね。正直メリットを与えるのが面倒なんだよ。確かにレベルアップはできるかもしれないが、そんな奴らだと契約しても得られる力は大概微々たるものだ。何せ、かなりの力の差があるから契約を持ちかけれる。力近しい者同士ならそんな明確な決着は着かない。大概、お互い避けるんだよ。コイツには手を出さないでおこうって』


 本気で戦ったらどっちも怪我では済まないから危険な橋は渡らないんだよ、と笑っているように話すレーヴェ。

 ……スゴい弱肉強食の世界だな。俺ならロクに暮らせない。


『だったら、契約するよりかは、さっさと殺した方がマシなんだよね。他にも、する必要がないんだよ』

「というと?」

『争いがよく起こるって言ったけど、その争いというのは個人対個人じゃないからね。国とのいざこざだよ』

「国ってあるのか?」

『そりゃそうさ。同じ星に暮らすロードでも、思想や主義は違う。似ている者たちが集まる。そこは地球と似ているだろ? ただ、君たちで言う国ほどの規模じゃないね、あれは。縄張りって表現の方が近いかな』

「へー」

『個人の賭け事などで契約をする奴らがいたかもしれないが、ホントその程度のモノなんだよ。だから、あの夢で君に言わなくていいかなってなってたんだ』

「あー、そんな事情が一応あったんだな」

『まさか人間と契約すると、ああなるとはね。私もビックリさ』

「……そういや、よくすぐにその契約の効果が分かったな。ロードと人間じゃ、契約の内容は違うが」

『そのくらい想像つくよ。君がアイツと初めて遭遇したときよりも力は増してるって分かったからね。力の上限が増したわけではなく、力を取り戻したという感覚だった』

「手を抜いてるって普通に分かってたもんな」


 ……話を纏めると、あのロードが俺を結界とやらを用いて襲ってきた。それを可能としたのは、見知らぬ誰かと契約して自身の身体の無事をある程度確保できたからってことか。

 で、その契約とやらは本来ロード同士がする行為。特に俺ら人間は関係ない行為。

 しかし、あまりロード側にはメリットがなく、わざわざ面倒な契約する必要がないらしい。そりゃ、力が同じような奴らを契約できたら、そのレベルアップとかも大きくなるんだろうが、ほとんどできないっぽいけどな。

そして、話を纏めた結界、新たな疑問が湧いて出る。


「レーヴェ」

『……君の聞きたいことが何となく分かるが、一応聞くよ。何かな?』

「契約して、あのロードが無事ってのは分かった。だったら――――あのロードと契約した奴のメリットって何だ? 人間側もメリットがないと契約にならないらしいが」

 

 人殺しに加担するのか。そんな危険を犯す必要なんてどこにある?


『さてね。私にはチンプンカンプンだ』

「チンプンカンプンってなかなか聞かねぇぞ……」


 言葉が微妙に古くさい。


『パッと考えたのは、命の選択の余地なんてなかった……といったところかな? 契約を持ちかけるときに相手側の生殺与奪権を握ってて、助かりたいなら契約しろとか』

「命の補償ってわけか。それならあり得るかな……。でも、ロードも契約したらその内容を叶えないといけないんだろ?」

「もちろん。ロードの契約とは、ある種の縛りなのだからね」


 ――――縛り、か。


「もしその契約を破ったら?」

『我が身に何かしらの不幸が降りかかる。最悪死に至るまでね。その不幸はそれぞれ違うのだけれど』


 ……マジか。確かにそんなことがあるなら、誰も契約なんてしたくはないな。


「てことは、もし今回の契約の内容が、ロードは生きるために精神力とやらを得る、受けた側は命の補償として……そのロードは契約者を一生守らないといけないのか。何か危険があったら守らないとならないんだな」


 気が遠くなりそうな話だな。


『まあ、私たちの予想が外れてる可能性だって充分にあるんたけどね。お互い利害が一致したかもしれない』

「……だな」


 ここまで話をして……何か忘れてるような…………。

 本当に契約の内容ってこれで合ってるのか? 決定的な何かを見落としてないか?

 あのときのロードと会って……何があった? 最後の方に……あのロードが――――


「『あっ』」


 レーヴェと声が重なった。


「……なぁ、レーヴェ」

『……うん。見事なまでにすっぽかしてたね。君とのお話が楽しくてね』

「それは光栄だが……」


 アイツ、めちゃくちゃ喋ってたじゃないか。拙い感じだったが、俺がほしいだの何だの……。色々とレーヴェと話してて忘れてたな。俺もレーヴェも。


『君がほしいとか言ってたね。アハハ……』

「そうだよな。てか、元気なく笑うなよ。いつものサディスト的な態度はどうした」

『いやー、私とあろう者がこんなことを忘れるなんて……ちょっと凹んだ』

「知るか。凹んだとか心底どうでもいい。で……あまり言いたくないけど、その契約の内容で人間側の目的って…………」

『まあ、君だろうねぇ』

 

 たよな。思いっきり喋ってたし。俺が狙われてる云々初めに考えたのに、なーんで忘れてたかね。


『それで、葵。……君、昔に誰かに恨まれるようなことをした覚えは?』

「………………あります」


 正直思い出したくない出来事だけどな……。

 あの事件のせいで、今の人見知りの俺が完成したと言っていい。当時は人見知りというより軽く人間不信に陥ってたからな。今ではだいぶマシになったけど、ホントにあのときは精神が参ってた。


『……あぁ、あの頃のことか』

「そうか。お前普通に知ってるだろ。なぜ掘り返す?」

『きちんと君が認識してるかどうかを確認しないとね』


 さっき萎れてたくせにもう調子取り戻したな。切り替え早い。


「……まあいい。それで、その契約者を見分ける方法あるのか?」

『ふむ。いつになくやる気だね?』

「これでも狙われてるからな。そりゃ自分のことなら知りたいって思うだろ、普通」

『まるで他人のとこならどいでもいいような言い草に聞こえるねぇ』

「……さてな」


 自分の触れてほしくないことをレーヴェはズケズケと踏み込んでくる。そういう性格とは知っているけど、だからといって無視できるほど俺の心は強くない。気分が悪くなる。


「……で、どうなんだ?」

『契約を見分ける方法か。うーん、これといって特にないね』

「マジか……。どうしよ」

『一応あるにはあるけどね』

「……というと?」

『今回、あのロードは人間の精神力やらを欲しているからね。アイツは生命を維持している上に結界を創り出した。だったらその皺寄せは人間側に来ているはずだ。極端に疲れている人や気分が優れてない君の知り合いでも探したらどうたい?』

「あー、なるほどな」


 それならイケるかな……いや、それでも自力で探し出せる可能性は低いな。

 いくら俺が過去にやらかして恨まれているからといって、その恨まれているであろう人たちとは今現在これっぽっちも関わりがない。誰がどうなったとか全く知らない。……ダメだ、あまりにもヒントがなさすぎる。

 これ無理あるだろ。てか、その人を見つけたとしてもそれからどうするんた? 

 なぜ俺を狙ったのか聞く? 理由を聞いて互いに解決できるのか?

 もし俺を含む当人が解決したとしよう。その後は? ロードはどうなる? 消えはしない。これからも居続ける可能性は充分にある。もしその契約が終わったら次々に被害が増えるのではないか? …………キリがないぞ。というより、何をどうすれば解決になるんだ。分からない、分からない分からない――――


『葵』


 頭に響く綺麗なその声で思考が引き戻される。


「……何だ?」

『問題を先送りにしている感は否めないが、とりあえずは今日はここまでにしておこう。外に人の気配がする。恐らくは凪ちゃんだね』


 レーヴェがそう話すとすぐに玄関の勢いよく扉が開いた音がする。「ただいまー」と元気よく帰ってきた凪の声が微かに耳に届く。


『君の人生を彩る大切な日常だ。そこを疎かにしてはいけないよ』

「……そうたな」


 それだけ呟きベッドから立ち上がる。


「ふぅー……」

 

 大きく深呼吸。

 さて、可愛い妹でも迎えに行こうか。





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