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無色透明のトロイメライ  作者: 皐月凉
1章 空っぽの人間から
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12話 何気ない日常を③

 二度寝した。それはもうがっつりと。で、起きたらもう正午を余裕で過ぎてた時間帯。めっちゃ明るい。カーテン越しでも明るさが伝わってくる。

 これは……うん、寝すぎたな、さすがに。少し反省。いやまあ、起きてたところで何をしたかって言われると、寝ててもあまり変わらないと思うけど。せいぜい勉強少しくらいはしたかどうか、かな。だったら、寝てても問題ないよな。ぶっちゃけめっちゃ気持ちよかった。

とりあえずリビング行くか。喉も乾いたし。

 ……っと、リビングにはもう凪と奏さんがいたか。凪も起きてたか。どっちもテーブルで昼飯の用意をしている。俺も手伝いにいく。


「おそよー、お兄ちゃん」

「何だ、そのおよそーって」

「いやいや、おはようの時間帯じゃないでしょ? もう昼だし、遅いから、おそよー」

「よく寝たわねぇ。ほら、昼ごはんちゃっちゃと食べちゃいなさい」

「いただきます。凪はいつ頃起きたんだ?」


 用意が終わり、食卓に座る。で、3人で昼飯を食べ始める。

そのついでに凪へと質問。何てことのない、ごくごく普通の会話。


「んー、1時間前くらいかな?」

「ここまで寝てたら2人ともそこまで大差ないわよ。そもそも葵は早く起きてるんだしね。ちょっと寝すぎじゃない?」

「何も気にせずがっつり寝るのは気持ちよかったです」

「お兄ちゃんに同じく」

「全く……。あ、凪」

「なに?」

「夜ご飯任せていい?」

「んー……いいよー。冷蔵庫にあるもの好きに使っちゃって大丈夫?」

「別にいいわよ。でも、今冷蔵庫何もないのよねぇ。色々足りなかったら葵に買いに行かせなさい」

「はーい。じゃ、よろしく」

「それは別にいいんですけど、外に出て大丈夫なんですかね?」


 さっきそれで怒られたわけだし。


「この時間帯以降なら大丈夫でしょ。あ、行くならきちんと人通りが多い場所通りなさい」

「まあ……はい、分かりました」


 この時間帯って、一応昨日この時間帯に襲われたんだけど。あれはまあ、人が全くいない跡地だったから仕方ないっちゃ仕方ないか。


「とりあえずお昼ご飯食べ終わってからお使い頼むかもね」

「おう」


 凪に返事をする。行くとなったらついでに本屋覗くだけ覗くか。買いはしないけど。いや、買いたいけど、そうそう無駄に金は使いたくないからな。他にも適当にブラブラするかな。立ち読みは俺の主義に反する。あらすじを読む程度ならともかく、がっつり読みたいなら買って読むし。


「奏さん夕方からでしたよね?」

「そうよ。3時から。いやー、ホント凪たちいて助かるわ。時間までのんびりできるしね」

「お仕事頑張ってください」

「任せないっ」


 と、昼飯を食べ終えてから各々だらだらと過ごしている。凪はヘッドフォンをつけて何やら動画を見ている。奏さんはスマホを弄っている。何をしているのかは分からない。

 俺は……何しようかな。図書館から今は本借りてないから、読む本がない。家にあるのあらかた読んだし。もう1回読むのもアリだが、なんだか今はそういう気分ではない。

 とりあえず部屋に戻った。

 何もすることないならせめて勉強するか。ベッドに寝転びながら英語の参考書を開いてボーッと眺める。……何書いてるか全然分からねぇ。なんでこんなに熟語やら多いんだよ。しかもやたら1つの熟語に複数の意味があるやつ多いな。覚えようにも目が滑るっていうか、なかなか頭に入らない。


「…………」


 ダメだ、集中切れた。いつもならもうちょい続くんだが、今日はやる気が起きない。寝すぎたからかな。


「凪になんか本とか借りるか」


 そう呟く。

 家にある本は読んだと言っても、それは凪にの持っている本や漫画以外。前までイマイチ食指が動かなかったけど、今は色々と借りて読んでる。面白いものが多い。

リビングにまた戻り、凪に話しかけようと……あれ? 凪どこ行った? って、あ、台所いる。そっか、夕食の準備か。


「あ、お兄ちゃん。どしたの?」

「おう。凪の本でも借りようかなって思ったが……今取り込み中か?」

「そうでもないけど、そろそろお使いお願いするよ。いやー、冷蔵庫ほとんど空っぽだよ。あってお肉くらい」

「ふむ。何にするんだ?」

「簡単だし、シチューにしようかなって。必要なものメモするからちょっと待ってて」

「はいよ」

「あ、別に部屋からいつでも本持ってっていいからね。後で戻してもらえれば問題なし!」

「ありがと。そうさせてもらうわ」


 さすが凪。素晴らしい妹だ。


「ほい、これメモ」

「あ、葵。お金ここ置いとくわね」


 凪にメモを渡され、奏さんからお金を受け取る。


「じゃ、行ってきます」


 そして、歩くこと20分。天生市御用達のショッピングモールに到着。その地下の階に食品とかが売ってあるデパートがある。いわゆるデパ地下ってやつか? まあ、家の近くにスーパーにないからな。あったらわざわざここまで来ないが。

 で、地下に行く前にちょろっと本屋を覗くとしよう。買った後だと荷物になるからな。行くなら今のうちにだ。

 ショッピングモールにある本屋なだけあって、めちゃくちゃ広い。色々と欲しい衝動に駆られてしまう。際限なく買ったらキリがなさすぎるので控えてはいるが。たまに自分の唆られる本を買ったりするほどである。


「えーっと……」


 新刊、文庫、漫画、雑誌、ライトノベル、エッセイ、参考書……はいいや。論文……論文? そんなのもあるんだ。あ、色々な人の論文まとめた感じか。ただ買うならやっぱり小説だよな。新刊か文庫本でも。

 などと見て回り物色している際中、ふと見覚えのある人物がいた。


「…………え、あ、く、黒江君」

「あれ、く、九条さん。どうも」

「ここ、こんにちは」


 珍しく……かどうかは知らんが、九条さんがいた。髪は前話したときと同じくらい前髪をおろし、目はけっこう隠れている。薄っすらと見える程度。服装はジーンズにグレーのシャツを着ている。その上から白の薄いパーカーを羽織っている。

 危うく敬語を使いかけだが、既のところで堪えた。

 別に会う場所は珍しくないけど、今の状況は珍しいと思う。

 正直内心けっこう緊張している。街中でいきなり知り合いと会う経験なんてまずなかったからな。威張れることじゃないけど。まあ、俺も九条さんもわりと人見知りだから会話が難しい。現に、2人とも見事に噛んだ。すんなりと喋れない。


「今日はどうされたんですか?」

「あ、えっと、晩飯の買い物前にフラッと寄っただけ。そういう九条さんこそ、住んでるの北って言ってたよな? わざわざこっち来たのか。……その、なんだ、俺が言えることじゃないけど、一応学校なんで休みになったのか知ってる?」

「も、もちろんですっ! 私は母親と一緒に買い物に来てるので。今は別行動しているだけです。馬鹿にしないでもらえると助かります」

「馬鹿にはしてないし、まあ、そんな日に来てる俺も同じ穴の貉だけどな」

「……ひ、否定はしません。現に私たちここにいますから。それに、それを言うならけっこう……いえ、椿坂の生徒かどうかは分かりませんが」

「ああ、うん、確かに学生ちらほらいたよな……」


 危機感の欠如って言うか……人が沢山いる場所なら安全だという固定観念が働いているっていうか……いや、ホント俺が言えたことじゃないんだけどな。俺だって出かけるつもりはなかたが、言い訳にもならない。


「それにここの本屋広いですから。私の家の近くにもあるにはあるのですが、ここほど商品揃っていませんので。あっちは古本屋でそれはそれで好きなのですが」

「あー、なるほど。古本屋か。こっちには見当たらないな」

「そうなんですよ。こういう大きい本屋では売ってない掘り出し物とかもあったりするのでよく重宝してます」

「それはいいな。一度行ってみたいかも」


 古本ってことはあまり値段かからないかな? それは個人的に魅力的。いや、きちんと新品買った方が作者にお金いくからそっちの方がいいのは分かってるんだけどな。高校生のお小遣いは無限ではないんだ。


「で、何か買うの?」

「欲しいのはありますが、やはりお小遣いが心許なくて。あとでお母さんに交渉してみようかなって」

「ちなみにどんな本? 新刊か何か?」

「はい。私の好きな先生が今月新作出したので」


 と、案内されたのはさっき俺が通り過ぎた新刊コーナー。

 確かにこの人はよく原作が映画化しているな。テレビで放送されていたのを見たことがある。その後で原作読んだけど、設定よく練り込んでて面白いという印象だった。俺は設定がしっかりしている方が好みだからわりとこの人の作品は好きの部類に入る。


「……俺も買おうかな」


 財布の中身は3000円程。値段を見ると、だいたい800円。……どうする。


「えぇ、オススメですよ!」


 隣の九条さんが同士を見つけたのか喜びの声をあげているのが分かる。


「俺この人のそこまで読んだことないけど、他にオススメとかある?」

「でしたら、こっちの方に――――」

「……」


 新刊を持ったまま案内してくれる九条さんを横目に見る。

 何と言うか、最初に話したころより九条さんの感情豊かになっている気がする。ホント、気がするってだけだけど、普通は好きなことに対しては顔に出るような感じの性格なのかもしれないな。他クラスには友だちいるって言ってたし。新鮮な感じがする。


「……よし、買おう」


 さっきの決断はどこへ行ったのやら、その流れでレジに行ってしまう。すぐに会計は終了した。


「こうなったら、私も買うしかありませんね」

「……金、厳しいんじゃなかったの?」

「我慢すれば何とかなります!」

「まあ、無理はなさずにな」

「はいっ。黒江君、後でまた感想言い合いましょうね」

「おう。そういうのもいいな」

「とはいえ、いつ学校再開されるんでしょうね……」

「さてな。未だに何も解決してない……らしいからな」


 ちょっと言い淀んだ。下手に断言すると疑われるかもしれない。危ない危ない。いやいや、俺犯人ではないけれど。

 そもそも、俺は今回の事件を解決しようとしてるのか。したいのか。……それさえまだはっきりしてない。レーヴェに言われた本音がまだ見付からない。じゃなくて、まだ探そうともしてない方が正しいかな。

 ってか、レーヴェがあれをどうのできるとか言っても正直実感湧かない。あれに会ったのはたった1回だけ。それでどうこうしろってのが無理ある。よく小説に出てくる主人公みたいな奴だったら迷わず動くのだろうけど、俺は知らない誰かのために動けるようなできた人間じゃない。それは俺が一番理解している。

 ただ、俺の意識の片隅に何か残っているような――――


「……黒江君?」

「ん? あぁ、何?」

「いえ、さっきから黙っていたのでどうかしたのかなって」

「悪い。何でもない」

「それなら良いのですが。体調とかは」

「万全。異常なし」

「そ、そうでしたか。それで、あの、その――――」

「志乃ー! お待たせー!」


 九条さんが何かを言いかけたところで、恐らく九条さんの母親であろう声がする。


「あ、お母さん」


 当たった。

 あ、九条さんの名前は『志乃』っていうのはこの前日直になった時にふと気になって名簿を見て知った。ただ、女子を下の名前で呼ぶようなことはできない。人見知りだからな。そんな度胸もないと断言できる。


「じゃあ、すみません。私はここで失礼します」

「はいよ。気を付けて。じゃ、またな」

「……は、はい。また、です」


 と、手を軽く振ってから小走りで本屋から九条さんは去っていった。何やら九条さんの母親と色々話してるようだ。流石に内容は聞こえないけど。

 俺もさっさと買い物済ませるか。

 そう考え、俺も本屋から出ようとした時。


『ねぇ、葵』


 レーヴェの声が聞こえた。周りに聞こえるような声で返すのは恥ずかしいから、人のいない場所まで移動しつつ小声で応える。

 というより、葵って呼んでたっけ。あの夢の時はやたら君とかで呼んでたような気が……。まあいいや。


「どうした?」

『あの子のことだが……』

「というと、九条さんのことか? 一応は俺のクラスメイトだけど……どうした?」

『…………いいや、ううん、何でもない。可愛いなって思っただけさ』

「あんまり顔は見えないけどな」


 俺はオシャレとか詳しくないから何とも言えんが、髪とかきちんと整えればかなりの美人だろうな、とは薄々感じてた。まあ、どんな格好するかは個人の自由だから特に口出しなんてする気はないがな。……そもそもそんな勇気ないし。


『………………まさか、ね』

「ん?」

『いや、何でもない。忘れてくれたまえ』


 と、頭の中からレーヴェの気配が消える。レーヴェと話してる時は、頭の中にレーヴェがいるような感覚があるんだが、それが今はない。

 ……で、そんな反応されて気にならないわけないんだがな。何か隠してるってバレバレな気がする。まさか九条さんに何かあるのか。

 今の俺らの共通の話題だったら……思い付くのは1つしかないんだよな。要するに――――あのロードと何かしらの関わりでもあるのか? 


「…………ハァ」


 馬鹿馬鹿しい。そんな俺じゃあるまいし、普通の人がロードと関わる機会なんてないだろ。そんな可能性考えたくないな。もしかしたら、九条さんが殺人犯とかな。

 それこそ俺だって思い過ごしでいたいんだが。ただ、今ではその確証が持てないな。レーヴェの予想なだけあるし。杞憂で終わる可能性だってある。

 それとも、言い方はアレだが、ただ単に何かしら九条さんのことを気に入った……みたいなことだってある。

 今話しかけても相手にしてくれなさそうだから、ここで一旦打ち止めにしよう。

 買い物に行くか。さっさと帰らないと余計に心配かけてしまう。






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