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無色透明のトロイメライ  作者: 皐月凉
1章 空っぽの人間から
14/62

13話 転換

「よー、黒江。元気だったか?」

「それなりにな。てか、休み言っても、たかだか1日だけだろ」

「そりゃそうだけとな」


 朝。学校で鬼塚と挨拶を交わす。そう、ここは学校だ。俺が通ってる椿坂高校。

 ……まさか休みが昨日だけだったとはな。昨日は九条さんと別れてから普通に買い物して普通に飯食って普通に寝ただけ。

 ただまあ、どうしてだろう。休み解除されるの早くないか? 


「にしても、随分と学校再開早かったよな」

「だな。同感だ」

「もうちょい欲しかった」

「分かる」


 鬼塚も同じようなこと思ってるか。

 で、俺もできるならもっとだらけたかった。


「なあ、どうしてか知ってるか? まだ犯人捕まったわけじゃないんだろ?」


 あれを捕まえるとか無理あると思うしな。


「あー……ネットで確認したけどよ、もうここにはいる痕跡がないから外に逃亡したとか言われてるな。本当かどうかは定かではない……らしいけど」

「なるほどなー」

「ま! 俺は良かったけどな! これで好きに泳げるし」

「程々にしとけよ。っていうか、昨日は大人しくしてたか? こっそひ市民プールに行ってないだろうな?」

「行こうとしたが、さすがに止められた」

「お前な……」

「気にすんなって。行ってないんだしよ」

「それ結果論じゃないか」


 思いっきり注意しようとしたが、昨日の行動を思い返して……うん、それは無理あるな。がっつり外出たし。格好つかねぇな。


「……?」


 ――――ふと、考えた。もし何かしらの形で今回のロードの事件が解決したとしよう。しかし、どう報じられるんだろう? 

 まさかロードのこと知ってる奴なんて精々俺くらい……いや、もしかしたら詳しい奴らとかいるかもしれないが。いたとしても、マイノリティだろう。数が多かったとっくにニュースになっている。警察だって知る由もないかもしれない。どう解決したなんて俺含む一般人が知る機会なんて限りなくゼロに近い。

 …………別にいいか。こんなの俺が頭悩ませて動向なるような問題じゃない。そもそも俺が気にかける必要なんてないだろ。きっと誰かがやってくれる。

 誰かがやってくれる、そんなこと考えてるのに、事の顛末がどうなるかどうなるか気になっている。……そのくせ、跡地に行ったり自分で動いたりもしている。バカみたいな矛盾だな。どっちつかずだ。


「黒江? どうした?」

「いや……宿題とかなかったよな?」


 咄嗟に誤魔化す。


「おう、そのはず。てか、もし黒江が宿題やってなかったら俺とか確実にアウトだぞ」

「威張るな」

「いやなに、一応宿題やろうとはしてるんだぞ? ただどうしても最後まで終わらないんだよな。練習疲れで寝落ちしてしまうからな」

「まあ、やろうとしてるだけマシだとは思うけど」


 さすがに全くの手付かずの奴に加えて、やる気のない奴には宿題やら見せたくないからな。


「そうそう、これ。ほらよ」

「ん?」


 渡されたのは……チョコ菓子?


「この前の課題の礼。アイスは学校で渡すのキツいからな」

「あれか。ありがと。ま、これに懲りたら自分で頑張れよ。学校の課題なんざ教科書見れば大抵すぐ終わるぞ」

「それは分かってるんだけどなぁ。やっぱ部活疲れがなぁ」

「おいおい、勉強は学生の本分だろ。……俺自身そこまで成績良くないから偉そうなことは言えんが」

「いや、黒江。お前文系科目はいいだろ。理数で落としてるだけで。羨ましぜ。俺なんか平均取れたらどの教科もいい方だからな」

「理数を平均取れるだけでスゴいんだぞ。ハァ……。なんでこの学校は2年まで理数があるんだよ。他のところは2年全部文系科目とかなんだぞ」

「自称進学校ってやつだな。中途半端に勉強させる感じの」

「3年からようやく選択できるもんな。先は長い」

「そうだな。ハァ……」

「ため息つくな。幸せ逃げるぞ。とにかく、授業頑張るか。でもぶっちゃけ寝たい」

「午前は体育あるんだしそこは乗り切れ。部活少年」

「体育つっても、黒江の苦手なサッカーだぞ。お前こそ頑張れ」

「うっ、それを言うな……」


 ――――いつも通りの朝の会話。

 そんな鬼塚との軽口の応酬が心地良かったりする。

 普段学校では全くと言っていいほど口を開かない俺が、鬼塚と話すときだけはわりと楽しく話す。

 高1の入学式。俺と鬼塚は見事に迷子になった。俺が独りで校舎をウロウロしていると、鬼塚が声をかけてきたんだよな。俺も迷ったから一緒行こうぜ、的な感じで。そこから同じクラスって分かり、朝の時間それなりに会話するようになった。鬼塚は部活をしており、生憎と放課後遊びに行くというのはないがな。

 といっても、俺が人見知りすぎて最初は迷惑かけてたと思うな。今では普通に話せるけど、マトモに話せるようになるまでかなりの時間を要した。根気よく話してくれた鬼塚に感謝。


「てか、俺もサッカーだけどよ。ウチの体育って選択式だろ? 例えば水泳や陸上選べばいいじゃないか」

「あー……水泳は苦手だし、陸上は抽選漏れた。その代わり2学期はまるまる陸上」

「なるほどな。良いじゃないか。その調子でサッカーもファイト」

「……マジで狙った場所に蹴れないんだよな。近距離ならまだしも遠距離となると。ドリブルめっちゃ難しいし」

「確かにムズいけども」 

「それとチーム競技ってのが苦手」

「お前はそうだろうな」

「何をどうすればいいのかイマイチ分からん。あ、でも、キーパーは楽。シュートしてきたやつにはある程度反応はできる」

「確かにお前率先してキーパーやってるな」

「だろ?」

「だったらさ、卓球とかはまだできるのか?」

「……ピンポンみたいにゆっくりでいいなら」

「それ勝てないだろ」

「正解。勝てた試しねぇ。力加減ができん。弱くか強くかしか俺の選択肢にはない。で、強くするとアウトになる」

「扇風機みたいな奴だな……いや、扇風機ですら中があるぞ」

「でもまあ、まだ個人競技だから卓球の方がいいんだけどな。チーム競技だと下手すりゃチーム全員に迷惑かけるし」

「人見知りの癖してそこだけはマトモだな」

「失礼な。俺は周りの視線に敏感なだけだ」

「なおさらだ、バカ」

「何でも卒なくこなす男は違うな」

「うん、俺もめちゃくちゃできるってわけじゃないけど……っと、もう席つくわ」

「お、もうそんな時間か。じゃ、また」

「おう」


 そして、時は経ち放課後。

 サッカーはボロボロな状態で終わり、昼は鬼塚が部活仲間の食べてたから独りで食べた。その際なんか視線を感じた気がしたが、誰からかは不明だった。こういうことはよくあるが。『こいついつも独りで飯食ってるな』みたいな感じの視線は。でも、今回は何て言うか……違った。スゴいジロジロ見られてた感覚。……やっぱり敏感になりすぎかな。でもこれはもうただの性格だしな。治らないと思う。

 で、午後は特に問題はなく授業を受けた。まあ、数学は何言ってるかチンプンカンプンだけどな! 教科書見ながらだったら何とか解けるけど、さあ実際にテストで解いてみろってなると途端にダメになる。


「…………」


 教室でしばし留まりながらこれからのことを考える。

 帰りに図書室にでも寄ろうかな。学校の割にはけっこう本揃ってるからな。いやでも、市の図書館にするか。いや、学校からだとそれなりに距離があるし。……今日は図書室にしよう。

 1年のころ目ぼしい本は借りたから、新しいジャンルでも開拓しようかな。あまり読んだことのない海外の和訳された本にしようか。有名どころは目を通したけど、あまりにも数が多いからな。実はシャーロックシリーズはそんなに読んでない。推理ものはちょっと苦手。じゃなくて、俺も犯人やトリックを考えながら読むから読むスピードがかなりかかる。

 図書室に移動して、本を探す。……お、あったあった。時間あるし、静かだから図書室で読んでから借りるか。読み終えることは……ないかな。

 そして、読み始めてからしばらく経つ。


「あのー、すみません。もうそろそろここ閉める時間なんですけど〜」


 図書室のテーブルで読んでいると、図書委員の人に声をかけられた。あ、そうだ、ここ5時頃には閉まるんだ。今は……ゲッ、10分前だ。

 それと、話しかけてきたのが活発そうな明るい女子が委員でちょっとビックリした。


「……え、あ、やっば。ごめんなさい」

「そんな急がないで大丈夫ですよー。まだ時間は余裕ありますしねぇ」

「そういう訳にもいかないんで。あ、これ借りてきます」

「はぁい。じゃ、貸出カード出してください」

「はい」

「じゃ、印鑑押しましたんで、再来週までには返してください」

「分かりました」


 と、言ってからさっさと荷物を纏めて図書室から退出。ちなみに2時間くらいで半分も読めてない。ただ、昔から読まれてる作品っていうのはいつ読んでも面白い。かなり難しいから好みは人それぞれというのは承知の上で。

 1年からよく図書室は利用してたけど、あまり女子の委員は見かけたことないな。まあ、クラスに男女1人ずつ選ばれるからいるのは当然いるんだがな。あれか、俺が行くときはピンポイントで男子の委員ってことか。

 俺は委員やってないし、クラスで誰かやっているのかは知らない。むしろ、クラスの名前鬼塚と九条さんしか知らない。こんな奴でこの先社会で生きていけるのかな。少し不安になる。

 そんなことをぼんやり思いつつ靴に履き替え、帰路につく。下校道を歩きながらまた色々考える。

さて、晩飯食い終えたら、早速続きでも読もうかな。あ、でも凪からラノベ借りてるし、そっちでもいいな。続き結構気になる。今借りてるのはラノベの中でも人気のあるそうなラブコメだ。わりとSFっぽい内容。描写が丁寧で読んでてスゴいドキドキする。ヒロイン可愛い。んー……図書室の方は期限2週間あるから、ゆっくり読んでも充分読めるしな。先にラノベにするか。

 ……って、昨日九条さんに進めれて新作買ったんだ。あれも読まないと。せっかく感想言い合おうと約束したし、それを無碍にするわけにはいかない。予定変更だ、ちゃっちゃと、そしてじっくりと読もう。まあ、昨日で半分以上は読んでるからあと数時間あれば読み終わる。

 最近の俺は前に比べて充実していた。趣味は相変わらず少ない俺だが、それでもちょっとだけ共有できる友だち? ……知り合い? ……クラスメイトと知り合えた。それだけでだいぶ違う。周りと不用意に関わりたくない、積極的に関わるのが苦手な俺だからこそ、いつもと違う日常に少しウキウキしてしまう。


「…………」


 そんな俺だからこそ、頭から抜けていたことがある。昨日そのクラスメイトを怪しんだこと。特に、俺の中にいる人物が。今朝、学校が再開されて不思議に感じたことも。たった半日もかからず、失念していた。


 ――――俺には、もう1つの、いつもと違う日常があることを、俺は忘れていた。




「…………は? どこだ、ここ…………?」


 途端に非日常はやって来る。俺の人生など気にせずに、まるで破壊するかのように。

 俺の目に移るのは、いつもの天生市とはかけ離れた光景。

 空が暗く、明かりはほんの少し。全体的に赤みがかっている荒野みたいな場所だ。辺りは真っ平らに見えて、ところどころが凸凹している。草木は1本もない。今まで見たことないくらい荒れ果ててる。地平線も見えてしまい、ここはかなり広い空間ということが分かってしまう。


「くっそ、何が起きた……!」


 思い出せ、思い出せ。俺は家に帰るために普通に歩いていた。普段の俺とは似つかわしくないことを考えながらだ。それで、どこまで歩いた? ……そうだ、前に凪と登校したときに別れた交差点までだ。………そこまでは覚えている。そこからは……確かいきなり突風が吹いて目を瞑ったはず。そして、目を開いたら――――


「ここってわけか……」


 状況は確認できた。いや、意味が分からないことだらけだな。思い返してみても、何がどうなったのかは分からない。これは夢か? ……この風の感覚、現実のように感じる。

 北国じゃないんだから。……よし、適度にボケれるくらい俺は冷静だ。

 出口はどこだ? どうすればいい? とりあえず適当にフラついてみないと。何か判明するかもしれない。

 そう足を踏み出したとき――――


『葵』


 頭から響く綺麗な声。その声色はいつもの余裕のある感じとは違い、どこか焦っているように聞こえる。


「おいレーヴェ、これが何なのか知ってるのか」

『あぁ。……すまないね、相当不味い展開になってしまった。これはさすがに私も予想外でね』

「御託はいい。とりあえず説明くれ。何だこれ」

『そんな時間はない……ほら、来るよ』


 その言葉の瞬間――――後ろにとても嫌な気配がした。


「ガルルルッ…………!」


 聞き覚えのある唸り声が聞こえた。

 ……あぁ、嫌だ。とてつもやく嫌だ。せっかく日常が楽しくなってきたというところなのに。どうして日常はこんなときに崩れ去るのか。なぜ俺から日常を奪うのか。

 そんな思いを抱えながらゆっくりと振り向く。……いた。モヤがかかっていてはっきりしない輪郭。それでいて、並の大型犬よりも体躯のある、まるで虎のごとき――――あの獣。

 この街を襲ったロードが。


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