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彼女は白く美しく、どこまでも黒く残酷で

「――おい」


 抱き合う二人に声をかけたのはサタハだった。


「感動のところ悪いが時間がない」


 端的に告げるサタハの言葉に同調する声が続いた。


「その方の仰るとおりです、ラパラ様」


 声の方向に目をやると、少し離れた草陰から女性が姿を現す。


「あんたがチェスカか?」

「はじめまして、サタハ様。ルントゥよりすべて聞き及んでおります」


 チェスカの返事にサタハはうなずくと、身を寄せ合う少年と少女に目を向ける。


「なら、わかっているな。もう時間だ。事が発覚する前に逃げねばならん」


 言い聞かすようなサタハの言葉に、ファラとラパラが身体を離す。けれどその手は固く繋がれたままだった。その手を見てサタハが目を細める。どこか眩しげに見えるそのまなざしは盛夏の太陽を見るようでいて、けれどそれは過去の憧憬に過ぎないと厳冬の曇天に想うような、複雑な色を帯びていた。

 そんな感情を払うようにサタハは顔を上げ、チェスカに訊ねた。


「あんたも来るつもりか?」


 その問いにチェスカは一拍置くようにラパラを見て、答える。


「ラパラ様がそれを望むなら――」

「置いてはいけない」


 チェスカの視線に応えるようにラパラが即答する。その迷いのない言葉にサタハはうなずくと、腕を上げて三人を誘導した。


「よし。こっちだ」


 先頭に立つサタハの後ろに、ファラがラパラの手を引いて続き、チェスカが後尾につく。

 翠緑苑(コメ・ムヤ)に繁る草葉や梢を払いながら、サタハは背後のファラに北の言葉で言った。


「……置いてはいけないだとよ。皮肉に聞こえるな」


 ルントゥのことだ。彼女はファラの脱出のために身代わりとして王の寝所へむかった。それが彼女の最後を意味することを二人は最初から知っていた。たとえその役割を本人が望んだとしても、迷いなくチェスカの身を案じたラパラの姿を見たサタハの胸に、ざらりとして飲み込めないつかえを生んだ。


「――彼女は」


 ファラが口を開く。その声を聞いたとき、サタハは自分がこの少女にどんな答えを求めていたのだろうかと自問した。

 その声には微かに笑う音が混じり、


「彼女はただで残る訳ではないわ」


 その言葉は酷薄にルントゥの人生の役割を決めていた。

 背筋を走る怖気に振り返ったサタハは、そこで暗闇に白く浮かぶ少女の顔を見た。

 その艶めく唇は静かに緩み、その煌めく瞳は細く滲む。それは(くら)い水底でゆったりと澱み蠢く泥渦(でいか)流紋(りゅうもん)のように、生々しく艶めかしい微笑みであった。


(そうか――)


 サタハは思い出す。自分が選んだ彼女の選択がどのようなものであったかを。

 少女はただひとつを得るために、他のあらゆるを捨て去った。今さら自分はこの少女に、なんの共感を求めようと思ったのか。

 今の彼女は白く美しく、どこまでも黒く残酷で、純粋な破滅をかたちにしたような――狂気なのだから。

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