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多難領主と椿の精  作者: 春紫苑
第四章
78/515

獣人

 ハインと、夕飯の賄い作りを終えたサヤが戻り、マルとサヤが、情報交換の時間を取ることとなった。

 おかげで夕飯が一時間ほど遅れてしまった。ギルが空腹の限界を訴えて、やっと夕飯となったのは、八時を過ぎてから。

 マルは久々だと大喜びでサヤの料理に舌鼓を打った。


「なんかねぇ、やっぱりサヤくんの料理は美味なんだって実感したんですよ。

 食べるのが面倒くさくなるのは、わざわざ美味しくないものを、頑張って食べる気が起きないからなんだって分かりました」

「今更だな……」

「僕、一生餌付けだけはされないと思ってたのに……サヤくんにはされちゃいましたねぇ」

「御託はいいから黙って食え」


 マルとギルがしょうもない会話を繰り広げている。この二人は、なんやかんやいいつつ、二人でこんな風に話していることが多い。

 けれど、今日はギルが乗り気ではないから、いまいち会話に発展性が無い。理由は分かっている……ハインだ。


 ハインは黙々と食事をしている。

 特に話すことがない時は、いつもそうではあるけれど、今日は特に、寡黙だった。

 昨日、マルが人足の中に兇手を潜ませていた話をした時、彼は激怒した。マルが帰ったら斬って捨ててやると口走り、人足に紛れた彼も、斬りに行こうとした。

 必死で止めたのだ。言葉を尽くして、体も張った。ギルは殴られ、口内を切ってしまった程だ。

 それで結局、最後にはとうとう、命令する……という形になった。

 マルや兇手の彼を害することを禁止したのだ。

 俺が、兇手を利用した作戦を提案した時は、まるで絶望したかの様に打ち拉がれ、蒼白になっていた。

 それ以後、この状態だ。ハインは、周りの空気がヒリついていると感じる程に、張り詰めていた。


「ご馳走様。美味でした。さぁて、英気も養ったことですし、この後の準備を始めないとねぇ。

 レイ様って本当に運が良いですよぅ。通常、交渉役を呼ぶには、数日掛かるんですから。

 今回は、僕が一人借りてるので、連絡役が一人メバックに滞在してくれてたんですけどね、その方が交渉役を買って出てくれました」


 食器を重ねつつマルが一人で喋っている。

 それに合わせて、ハインの鬼気が膨れ上がる。

 言葉は発しないが、眼はおかしなほどにギラついていた。

 まるで内側に、炎を燃やしているかの様。


「サヤくん、お茶だけ用意しておいてもらえる?

 場合によっては数時間話し込むことになるだろうから」

「はい。あの、お茶受けも用意できますよ? クッキーでしたら、半時間ほどあれば」

「えっ⁉︎ じゃあお願いしても良い?」


 のほほんと平和な会話を交わすマル。ハインの殺気を感じていない訳ではないだろうに……マルも大概、物事に動じないよなぁ……。そう思いつつ、俺も食事を終え、食器を片付けに掛かる。サヤに手渡そうと席を立つと、ハインの後ろを通り過ぎる時、押し殺した声が俺に問うて来た。


「…………兇手と関わるという意味が、分かっているのですか……。

 一度踏み込んでしまったら、もう引き返せないのですよ。二度と」

「勿論、分かってるよ。

 だけど万年人手不足の俺が使える手段は限られる。兇手でもなんでも、使えるなら使うと、決めたんだよ」

「エゴンなどの為に、そこまでする必要がどこにあるのです……」

「エゴンの為だけじゃない。工事を無事終わらせる為でもあるし、俺が自分を守る為でもある」

「何故、私に言って下さらないのです⁉︎ 黒幕は、突き止めたのでしょう? 誰でも、私が始末をつけて来ます。必ず。命に代えても!」

「俺は、お前をそんな風に使う気はない。それに、誰かの命を絶つ様な解決を図る気も無い」


 食器を、サヤに手渡す。

 不安そうな顔のサヤに、大丈夫だよと笑いかけておく。

 ギルとマルを伴って、先に戻っておくよと伝えて、俺は自室に向かった。


「……胃に穴が空きそうだ…………」


 腹を摩りつつ、渋面のギルがそう零す。

 俺も少々疲れていた。そりゃ、反対されるだろうなってことは分かっていた。ハインは過保護だしな。けど、まさかあそこまで頑なだとは思っていなかったのだ。

 むしろ……違和感が強い。

 ハインは、手段を選ばない。俺を守る為なら、自分は卑怯な手だって平気で使う。

 なのに、なんで俺が、兇手を使うことにあそこまで拒否反応を示すのか……。

 普段のあいつなら……使えるものはなんでも使おうとする筈だ。


「まあ僕は、彼がああなる可能性は高いと、思ってましたけどねぇ。

 あの反応があるってことは、僕の予想は当たってるのかな?

 なら、全部を(つまび)らかにしてなかったのは正解でしたねぇ」


 ギルの呟きに、意味深な言葉を返すマル。

 その言葉に胃を刺激されたのか、ギルが渋面になる。じっとりと半顔でマルを見下ろすが、マルはそんな視線など意に介さない。にんまりと笑って、ギルを見上げた。


「全部伝えてたら、絶対僕、生きてないですよ」

「お前……まだ他にも何か企んでやがるのかよ……。ハインを刺激して楽しいか?」

「楽しいわけないでしょ!

 ガクブルですよ、正直本当に生きた心地しないんですから。

 けどまぁ……僕ら、一蓮托生なんでしょう? それなら、ハインにだって幸福になってもらわないと困っちゃうのでね」

「ガクブルってなんだよ……」

「あ、サヤの国の言葉です。ものすっごい怖いのを表現する言葉だそうでねっ」


 パッと顔を輝かせて、ガクガクブルブルすることの略式だそうでと語り出すマルに、ギルが真面目な話ししてたんじゃないのかよ⁉︎ と、溜息を吐く。

 その言葉にマルは、あ、そうでした。と、我に返った様子を見せて、更にギルの精神を削っていた。

 全部を伝えてたら……か。それはつまり、俺の思惑とは別に、マルの思惑も、今回のことには含まれている……ってことだよな……。


「マル……兇手を俺が使おうとすることに、ハインがあんな風に抵抗する理由を、お前は知っているのか?」


 そう問う。

 と、たぶんね。という返事が返った。

 普段、基本は陽気なマル。

 どんな物事にも動じないし、状況を楽しんでいる。彼にとって、目の前で起こることの全てが情報なのだ。だから、予想外のことが起こると、とても楽しそうにしている。そして、考えに没頭すると、頭の中の図書館に意識が篭るから、表情が固まり、抑揚に乏しい喋り方になる。

 食べることよりも知識に貧欲で、食事を忘れてすぐにぶっ倒れる。

 そんな奇怪な所が変人だと評されていたわけだが……。

 そんな彼が、珍しく、無表情でも、楽しげでもない視線を、俺に向けた。


「僕はね、期待しているんですよ、レイ様に。

 ねぇ、レイ様。貴方はハインのこと、どう思ってますか?」

「どう……って? ハインは、ハインだよ」

「彼が何であれ、彼を受け入れられると、自分を信じることが出来ますか?」

「???」


 急に真面目に、そんなことを言い出したマルについていけない。

 同じ質問を、マルはギルにも贈った。


「九年の時間を信じることができますか?

 僕はね、全部が全部、幸せにならなきゃ駄目だと思うんですよ。

 だからね、ちょっと痛いくらいは、我慢してもらわないと。

 ハインの為だと思うんですよ? ずっとひた隠しにしておけることじゃないとも、思うんです。

 特に、レイ様はこれから、人目を引くことになりますからね。自ずとハインもその視界に収まってくることになるわけで、そうすると、彼のことに察しがつく人間も、きっと皆無じゃない。

 その時になって、第三者からもたらされた情報が、悪意によるものだったら……僕が今からやることより、酷い結果を招くと思うんですよ」


 それ、つまり酷い結果を招くこと自体は決定されてるってことなのか?

 だけど、それでも必要だって、言うんだな。


「それはそうと、俺が人目を引くことになるって、どういうこと……」

「あはは、そりゃそうでしょう。そうする為に動くって、僕、前言いましたよ?

 貴方の立ち位置をフェルドナレンに作るんですよ。そうなるに決まってるじゃないですか」

「え゛っ、決まってるってどういうこと⁉︎」

「身分でレイ様を守るんじゃないんですよ。人の目を向けることで貴方を守るんです。

 ですから、人の目が貴方を注目するのは必然です。避けられません」


 駄目だ……説明されても全然意味がわからない……。

 だけど、もう進み出してしまっているわけだから、今更どうにもならないんだよな……。


「……まぁ、良いけどね……。

 とにかく、今からハインにとって、知られたくないことを俺は知らされて、でもマルはそれを必要だって思ってるんだね?」

「はい」

「それは、前もって教えてもらうわけには、いかないんだ?」

「たぶんって言ったでしょう? 僕は特殊な嗅覚とか持ってないですから、情報からの判断しか出来ないんですよ。

十中八九、僕の考え通りだと思いますけど、確実ではないので、言いたくないです。それに、見ないと分からないとも思うんですよ」

「?」

「当事者同士でないと、分からないんですよ。

 それに、思ってても見てみたら違った……なんてことになるのも嫌なので」

「………言ってることの意味が全然分かんねぇよ……」


 ギルも分からないか……だよね。

 けれど、マルが、必要なことだって言うのなら……それは、信じて進むしか、ないってことだよな。

 ギルを見上げると、ギルも俺を見ていた。

 ハインとの九年。それは、ギルも同じく共有した九年だ。

 喧嘩ばかりしているけれど、二人に絆があることは、知ってる。


「俺にとって……ハインは、ハインだよ。何を知らされようと、俺の知ってるハインが、そうじゃなくなるわけじゃないだろ。俺は、ハインが好きだよ」

「……今更だろ。今から何が出てきたところで、たいして変わらねぇと思うけどな」

「じゃあ、それを、事実を知った後、ハインに伝えてあげて下さい。

 そうすれば多分、僕の首の皮も繋がります……。正直僕の命が掛かってるのでホント、お願いしますよ。

一応サヤくんにも守ってってお願いしておいたんですけどね……ハインが本気だと卑怯な手を駆使してきますから、サヤくんの腕を掻い潜ってくる可能性もあるんですよ!

 レイ様、お願いします。僕が刺される前に必ず止めて下さい」

「いや、もう命令してあるから……マルは刺されないよ。兇手の彼も」

「流石レイ様! 頼りになりますねぇ‼︎」


 だから僕の首、まだ繋がってたんですね! 実は六割の確率でハインに殺されると思ってたんですよ! と、いつもの調子に戻ったマル。

 言動が軽いからいまいち信憑性に欠ける……。けれど、彼が俺たちを一蓮托生だと言い、みんなが幸福にならなければいけないと言ったのは、その通りだと思うから……その言葉を信じることにする。

 ……まぁ、もうさ、マルの奇行は今更だし。部下にするって決めた時点で覚悟はしてる。だから、あれも用意したんだけどね……。


「交渉役は、何時頃来るの?」

「深夜です。人目を避けるとどうしてもそれくらいの時間になるのでね」

「そうか……で。兇手を使ってエゴンを救出するって話、マルは却下って言ったけど、結局どうしようと思ってるんだ?」


 兇手の彼らに『忍』という別の生き方を模索する話。

 そのついでに、エゴンを救出し、黒幕の殻を奪うと共に、横領の証拠を確保しようと提案した俺だったが、マルには、それでは足りないと言われ、却下されたのだ。

 結構良いこと思いついたと思ったのにな…。俺の天啓ってその程度でした。


「んふふ。レイ様の案も悪くはないんですよ? だけどね、もっと貧欲にならなきゃと思うんですよ。

 これも前、言いましたよね?最大限の利益を得るべきだって。

 わざわざ兇手まで使うんですよ? 相手と同じ土台に立つんです。なら、実力の差を見せつけてやらないとねぇ。反抗する気が起きないように」


 兇手社会は実力が全てですからね。と、マルは言う。

 使う兇手の実力差を見せるってことなのか?何か違う意味にも聞こえたが……マルの考えてることは複雑すぎて読めない……。


「まあ、任せて下さいよ。そこは僕がきっちり詰めときます。

 悪い様にはしませんから、大船に乗ったつもりでいて下さい。そのかわり、ハインの舵取りは任せますから。ホント、頼みますから」


 兇手よりハインが怖いのか……。まあ、あいつ恨むと長いしな……。

 エゴンを救出したら、サヤの腕の怪我についても謝罪してもらう方が良いかな……多分あれもまだ根に持ってるよな…。

 そんな風に考えながら、交渉役が出向いてくるまでの時間を待つこととなった。



 ◆



 何者かが訪れたのは、そろそろ日付が変わろうかという頃合いだった。

 ピクリと反応したサヤが、大窓の方に視線を向けたのだ。

 ギルさんっ、と、小声で名を呼び、扉を指差す。ギルは心得た様に、扉横に移動して、腰の小剣を抜刀し、ハインも俺の横に移動して来た。そしてサヤは、先ほど反応した大窓横に移動する。


「交渉役か?」

「分かりません……外は、雑音が多くて……でも、一人じゃないです」

「あれ? 複数なの?」

「チッ。なら、兇手の方かもな」

「わざわざ起きてる時に来るかな?」

「知らん。俺は兇手に狙われたことねぇんだから」

「ごもっとも」


 言葉少なにやり取りしつつ、警戒は怠らない。

 俺も、腰帯に挟んである小刀を手に取った。

 襲撃の日からは一応、念入りに鍛錬し直してる。多少マシになっている筈だ。守られる立場とはいえ、隙があれば加勢くらいしても良いだろう。


「交渉役なら、扉から来ると思うんですけどねぇ…」


 と、相変わらずの緊張感無い声音でマルが言い、あ。と、気付いた様に顔を上げた。


「片足が無いですから、変則的な足音でしたら、交渉役ですよ」


 それを聞いたサヤが、即座に床に寝そべった。


「…………はい。杖? のような音がします」

「義足でしょう。なら交渉役ですね」


 床に伝わる足音を聞いたらしい。起き上がったサヤは、窓の外にもう一度警戒を飛ばしつつ、逡巡する素振りを見せた。するとギルが「俺が行く」と、扉の外に向かう。

 扉を開け放したまま、出て行ったギル。暫くすると「あらぁ? 気付かれたのねぇ」と、女性の声がした。え⁈ 女性⁇


「思ってたより手練れなのねぇ。そんな匂いじゃなかったんだけど……。はぁい、マルクス。約束通り来たわよぅ」


 部屋に入って来たのは、黒い外套を纏った、長身の女だった。

 女だということは、声で分かるのだが……顔は見えない。鼻から下だけが見える、陽除け外套の様なものを纏っているからだ。

 背が高かった。ハインと同じくらいか。義足だというが、足取りに不安定さは皆無で、コツリと鳴る左足が実際見えていなければ、気付かなかったかもしれない。

 左足は、太腿からが、棒だった。


「やぁ、お昼ぶりだねぇ。悪いね。ちょっと遠かったでしょ」

「どってことないわよぉ。三本足になれば、走るのだってさして支障無いんだからぁ」


 符丁か? 三本足の意味が分からない……。

 ギルがパタンと扉を閉め、俺の方を見てギョッとしなければ、俺は気付くのにもう少し、遅れていたと思う。


 ハインが、蒼白だった。

 だが、そんな彼の状態になど頓着せず、マルと交渉役の会話が始まる。


「外にいるのは誰?」

「あらぁ? そこにまで気付かれてるのぉ? でもそっちの子は、そこまで敏感そうじゃ無いわよぉ?」

「サヤくんがね、手練れなんですよ。全盛期の貴女を思い出すくらいにね」

「へぇ……興味深いわぁ。外にいるのは草。横槍が入らない様に、張っててくれるって言うから、連れて来ただけよぉ」


 交渉役の視線が、サヤに向いた。スンスンと、鼻を鳴らす。少し首を傾げてから、今度は視線が俺の方に向いて、にまぁと、口元が笑った。


「この坊やが……レイ様なのねぇ」

「ええ、僕の主人です」

「良かったわねぇ。貴方みたいな人の主人になってくれる人、奇特だわぁ」

「ホントですよねぇ」


 なんか……気の抜ける会話だ……。二人とも口調が間延びしているからかな……。

 とりあえず、このまま世間話みたいなのが続くのもいただけないので、口を挟むことにする。


「あの、マル……とりあえず、お互いの自己紹介が必要だと思うんだけど」


 だが、俺の差出口は、お気に障った様だ。


「あらぁ、あたしは貴方たち、知ってるから問題無いわぁ。あたしの自己紹介なら、必要無いでしょう? 知らない方が身のためだろうしねぇ」


 嘲る様な、値踏みする様な視線を向けられる。

 目は見えないのだが、チリチリとした視線を感じるのだ。

 一瞬、ゾクリと背中を撫でられた。けれど……異母様の視線に比べれば、害意なんて、無いも同然だ。あの視線に晒されて来たことを、幸運だったと思えたのは初めてだな。そう思いながら、見返す。

 彼女の名前、俺は知らないと困ると思う。彼らとの取引を必要としているのだから。


「俺は知らないと困りますよ。貴女方と取引をする気で、来て頂いたので。

 ここで名乗るのが無理だと言うなら、場所を移します。俺と、貴女と、マルの三人で話をしましょう。それなら、名乗って頂けますか」

「レイ!」

「ギルは、聞かない方が良いよ。お前は使用人を沢山抱える身なんだしね。

 場所を移しましょうか。それとも……」

「駄目です‼︎」


 ガシリと、腕を掴まれた。

 ギリギリと締め上げる様な、強い力。

 視線をやると、ハインが、懇願する様な顔で俺を見ていた。


「お願いですから、やめて下さい……。貴方を、関わらせたくない……」

「あらぁ、酷い言われようだわぁ。貴方の主人、もう関わってるようなものじゃなぁい?」


 交渉役の言葉に、ハインは酷く、傷付いた顔をした。

 俺を掴み、締め上げていた手の力が緩む。


「もう九年も関わっているのでしょぉ? その間、よくバレなかったわよねぇ?

 まぁ、貴方の血、随分と薄い様だから、殆ど人と変わらなかった……からかしらねぇ。

 でも……それでもやっぱり、違うんだもの。普通なら、誤魔化せなかったと思うわぁ。その坊やと、そっちの商人さん、余程人が良いのか、鈍感なのか……ねぇ?」


 怯えた様に、視線が彷徨う。

 こんな状態のハインは、あまり見たことがない。けれど、二度ほど経験がある。印象に残っているから、よく憶えている……。

 俺を刺した直後と、置いていくと、言った直後。

 だから、とっさに腕を振り解いて、掴み返した。


「大丈夫だ」


 怯えなくていい。

 お前が怖がる必要なんて無いんだ。何を聞かされたって、今までのお前が、お前じゃなくなるわけじゃないだろう?

 瞳を覗き込んで、言い聞かせる。そんな俺たちのやり取りをよそに、交渉役は、急に動いた。


 部屋を風のような速さで突っ切り、サヤに肉薄する。

 片足が義足だとは思えないような素早さだ。

 それに対し、サヤも動いた。彼女は油断してはいなかった。俺たちの会話の間にも、集中を切らさなかったのだ。

 迫って来た交渉役の右腕が胸元に伸びた。その腕を、半歩だけ後退したサヤの左手がふんわりと掴む。次の瞬間、交渉役の膝が崩れていた。


「ぃっ⁉︎」


 くぐもった悲鳴。交渉役の腕を離し、飛び退るサヤ。そして、俺を背に庇い、前に立つ。


「次は、関節を外します」

「いったぁ!今のなにぃ⁇」

「あぁ、だから言ったのに。サヤくんは手練れですよって。

 彼女の体術は特殊ですから、予測は難しいと思いますよ?」

「それにしたってぇ、あたしに土をつけるだなんて、尋常じゃないわよぉ〜。草が変な動きするから、絶対人じゃねぇだろって言うからぁ、この娘も獣人だと思ったのにぃ」

「匂い、どうでした?」

「人だったわぁ。ちょっと変だったけどぉ」

「そうでしょうねぇ」


 獣人?


 ギルが、息を詰めたのが分かった。

 俺の掴んでいたハインの腕に、グッと、力が篭るのが伝わってきた。

 獣人……。ハインは…………人じゃ、ない?

ううぅぅ、今日もギリギリ…。

マルのターンにハインも絡んでくることとなりました。

書き溜め出来ないまま1ヶ月…溜めたいのにっ!全然増えない、増えても書き直すからだけど!

えらいところで切ってごめんなさい。次週も遅れないように頑張りますので、しばしお待ち下さい。

来週の更新も金曜日を予定しています。今回も、読んで下さってありがとうございます。

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