●五章-14.忘れていた試し撃ち
PBWでやっていたスタート地点はこっそり超えております。
で、問題はこの章をどこで切るか。
……そしてアレをどう表現した物か。
※前回のあらすじ
・南のオアシスに配達してもらうことになるかも?
-fate アキヒト-
「……」
「……」
「……」
いや、自分でもシュールと思いますよ? この光景。
客観的に説明すると、俺が拳銃を構え、何も無い荒野に引き金を引き続けているのだけど、発砲音が無いのがまずシュール。しかも反動も無く、傍目には銃を構えて突っ立っている変な人になっている。
弾が出ていないのかといえばまた別で、どうやら銃弾らしきものは射出されているのだが、的も無いし、壁に当てるわけにもいかない。果てしない荒野にただ放ち続けるだけになっている。
さて、俺達が居るのはヘヴンズゲートを潜り、壁沿いに3分ほど歩いた場所だ。そんなところで何をしているかと言えば、例の拳銃の試し撃ちです。
「アッキー、コメントに困る」
「ンな事言われても」
「こっちに気付いた人が変な目で見てるよ?」
少し離れたところに居る数人がこちらを訝し気に眺めているので背を向ける。実はクロスロードのすぐ外というのは意外と人が多い。というのもクロスロード内部には意外と公園や広場という施設が存在しておらず、戦闘訓練や武器の試用を目的とした人が集まってくるのだ。こちらを見ている一行も剣術の生徒か何かのようで、種族はまちまちだが手には木剣を握っている。
「……シノ、何か気付いた事あるか?」
「……撃ち出されている何かは黒色ですが、恐らく非物質です。途中で消失していますので」
「途中って?」
「おおよそ300メートル先ですね」
流石は記録の使徒様、撃った本人すら追いきれない弾丸を完全に捉えているらしい。
「100メートルの壁を越えてるって事は非制御型射撃魔法かな?
重力には影響受けてる?」
「いえ、真っすぐ飛んでいるようです」
「アッキーの考える『弾丸』の曖昧なイメージが影響してるのかな? 黒であることも含め」
以前俺が読んでいた地球世界産の漫画を盗み見していた時に拳銃の描写があった。その事を言っているのだろう。
「俺のイメージ……射撃音が無いのは?」
「実際に火薬で撃ちだしているわけじゃないからじゃない?
てか、アッキー、地面を撃ってみたら?」
そういえばそうだと20メートル先くらいの地面に銃口を向けて、撃つ。
───ピシッと小さな音。
「……ショボ」
「うっせ!」
毒吐くも抱いた感想は全く同じだ。弾丸は狙い通りに地面に吸い込まれ、小さな穴を地面に穿ったがそれで終わりだ。近付いて確認すると人差し指の第二関節くらいまで入る程度の穴が開いていた。銃弾と思えば別におかしな結果ではないが、剣の一振りで真空波を飛ばし、地面に叩き受けてプチクレーターを作っている姿が見えるので居た堪れない。
「アッキーの特性で変化する武器なんでしょ?
……暗殺向き?」
「……」
「ちょっと、アッキー。『もしそうなら、狙いはお前だな』みたいな目で見ないでよー?」
随分と察しの良い鳥だことで。
一時避難した鳥はさておき、今日まで使った試しのない……祭りの時は構えただけだもんな? この銃は貰った時と何も変わっていないのではないかという疑いが出てきた。精々弾丸らしき何かが銃弾っぽい黒に変わっただけ……という結果はむしろ妥当なくらいかもしれない。万国旗とか出てこなくて良かったと思うくらいだし。
「……実際の所、使い物になるのか、これ?」
「貫通力もそれほどなさそうだし、人間種の急所に当たったらそれなりに?」
「……当たる気しねえ……」
この街の住人はあたり前のように銃弾を叩き切ってくることも珍しくない。なまじ抜くのが間に合ったとしても狙いを合わせて撃って、なおかつ当たるなんてハードルが高すぎる。その前にこっちが酷い目に遭う事は想像に難くない。
「矢などと違って風や重力に影響されていないようですから、狙いやすくはあるのでは?」
「じゃあ」
地面に降りいた鳥が土を掴……がりがりとひっかき、ざらざらとかき回す。なにやら土遊びを始めたニーナが、ややあってこちらを見返した。
「握れない」
呆然とした声で呟く。
……鳥の四本爪でどうしてできると思ったのか。
「その足で頭の上乗るなよ?」
「アッキーの人でなし!」
「お前が考え無しなだけだろうが!」
「……土を的にしようとしたのですか?」
横合いからのシノの悪意のかけらも無い純粋無垢な問いにぱたりと倒れる鳥。
リアクションの意味が理解できず、首を傾げるシノに良くやったと頭を撫でる。
「しっかし……本当に土だけだな」
石と土の境界線などと言う小難しい話はさておき、投げて的にできるようなサイズの塊は、周囲はおろか見える範囲の先まで行っても無さそうだ。
「元の体があれば、圧縮するのに……くすん」
「お前の気楽さであの性能は改めて怖い」
以前のボディならこんな乾燥した土を的に出来るくらい強引に圧縮できたという意味だろう。その性能と気楽さで殺されかけた被害者がここに居るというのに、まったく懲りてないな。
「その鳥ボディがそもそも罰だろうが」
「そうだった!?」
「忘れてたんかい……」
普通の人間なら不自由この上ない、早く戻りたいと願うのだろうが、元々作られたばかりの人(?)工の魂。鳥の体にあっさり馴染んでいるらしい。
「ヴェルメさんに土を固定してもらえば良いのでは?」
俺たちのやり取りを見守っていたのか、呆れて見ていたのかは分からないけれど、当然ヴェルメもそこに居る。
言われてみればシノが乗る時の足場はヴェルメの力で作っているんだし、土を持ち上げるくらいはできそうだ。
「できるか?」
「できるわよ?」
言うなり停めていたヴェルメ傍の土が持ち上がり、宙に浮く。
ちらり鳥を見ると不貞腐れて転がっていた。まぁ、放置。
「撃っても良いのか?」
「どうぞ?」
一つ深呼吸して銃口を土の塊に向ける。
改めて狙おうとして、この銃の標準は銃口の先の出っ張りを合わせれば良いのかと数秒悩むが、撃ってみるしかないかととりあえず一発。銃弾が近くを掠めたのを確認。若干修正して撃つと命中したが、弾丸の方が弾けて消えてしまった。
「よっわ!」
鳥が足元で八つ当たりのような声を上げるがやっぱり無視。もう何発か撃ってみる。わざと外すと、大体外したところに飛んだ。一旦腕を下げて再び狙うと、一発目は外れる。
「誘導能力とかは無いみたいだな。
……ヴェルメ、威力が分かるか?」
「そうね。あなたの頭に当たれば致命傷になる程度はあるかしら?」
土に撃った時の所感と同じだ。普通の拳銃並みの威力はあるということだろう。そしてその程度ではヴェルメの慣性制御を突破することはできない、と。
「銃弾のようなエネルギーを飛ばす武器になった、ってところか?」
「だとすると、動く的に当てるの、アッキーには無理じゃない?」
機嫌の悪さを滲ませる言葉だが、尤もだ。さっきの構え治しての一発目が如実に物語っている。
「ヴェルメ、動かしてもらう事ってできるか?」
「それほどの速度じゃなければ」
土の塊が歩くくらいの速度で動き出す。距離の制限があるからか、こちらに向けて丸を描く軌道だ。試しに撃ってみると……難しい。握り拳くらいの塊なのだが、全然当たる気がしない。
「ゲームだともう少し当たった気がするんだけど」
「ゲームと一緒にするのはどうかと思うわよ?」
そりゃそうだが、真っすぐ飛ぶ弾丸だと、わかしゲーム要素が強い気がする。
と────
「てりゃあ!」
ニーナが何やら奇声を上げた瞬間、的に当たらず彼方に消えて行っていた銃弾の一つがあり得ないぐらい鋭角に曲がり、小さな爆発音を響かせる。突然の事態、続く音に驚き、たたらを踏んでしまう。次いで「うわっぷ!?」というニーナの慌てた声が耳朶を撃つ。
「何が起きたんだ?」
「弾丸が急に曲がったわね」
「ニーナが投げた土に当たり、散らしました」
「当たった?」
ニーナが転がっているのは俺の右手側。つまり射撃した方向から90度右だ。見ると、土を被った鳥がぶるぶると首や体を振って土を払っていた。土が自分に降り注いだらしい。
「状況から察すると、迎撃能力、かねぇ?」
俺の周りに三つの土のボールが浮かんだ。その一つが急に弾けて、俺は思わず腕で顔を守るが、隙間から飛び込んだ土が口の中に入り、慌てて吐き出す。頭や体にも盛大に浴びせかけられた。
「っぷ!? ヴェルメ、何するんだよ!?」
「その銃の実験なんだろ? どうやら自動的に弾が出るわけでもないようだね。今度は合図するからやってみな」
頭や肩にかかった土を払い落としつつ批難の目を向けるが、気にしているかどうかもわからない。ヴェルメは危険でない範囲で割と短気というか、説明や手順を省略する事があるよな……もちろん悪意は無いのだろうけど。色々と浮かぶ文句を飲み込んで俺は素直に銃を構えた。
「2、1、はい」
玉の一つがレモンのCMのような噴き出し方で土を射出すると同時に引き金を引く。次の瞬間、目の前で力が弾け、土が向こう側へとはじき散らされた。
「おー……」
ろくに狙ったわけでもないのにこちらに降りかかってくる土は無い。心なしか命中直前に少し弾が軌道を上げたようにも見えた。
「迎撃能力で間違いなさそうだね……アキヒトらしい性能っちゃ性能だ」
「変に人を傷付ける性質よりはマシだよ……」
もう一発撃ってみるが、今度は先ほどまでと同じで弾丸は真っすぐに飛び、先ほどと同じ程度地面に穴を開けるのみだ。弾けたりもしていない。
この銃、連射しようと思えば引き金を引く速度だけ連射が可能だ。どの程度の威力まで防げるかは分からないけど、シノの能力、頼光さん達の戦いを目視できるようになる力を借りるような事態なら、頼れる存在なのかもしれない。
……できればそんな事態に出くわさないのが一番だけど。
「報告できる内容が出来て良かったと思うべきか。
とりあえず報告して帰ろう。土を落としたいし……」
「あいよ」
結構な勢いで拳大にまとまった土が射出されたのだから、髪の奥まで土が入り込んでいる。もう少し払い落とそうと頭に手を伸ばしたタイミングで無遠慮に鳥が着地し、その勢いに頭がぶれる。
「ちょ! お前!」
「もう変わんないっしょ?」
むんずと頭を掴んでさっさと座る鳥を追い払おうとしたが、偶然と悪意があったとはいえ、この銃の性質が分かったのはニーナが切っ掛けだからと溜息で済ます。
「お前も風呂だからな? シノに土を落としてもらえよ」
「じっとりは嫌!」
鳥の羽は水をはじくが、水鳥ではない彼女の羽は許容量以上に濡れるとしぼみ、抜け毛だらけのように見えるみすぼらしい姿になる。一度その姿を不意に見せられて爆笑してから、どうにも風呂は嫌いになったようだ。とはいえ、部屋で毛繕いなんぞされたら掃除が大変だから必須事項です。
いつも通りの言い争いだか、掛け合いだかをしつつ、シノを促す。まずは拳銃を寄こした店に報告に行こう。




