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●五章-15.町の歩み、自分の歩み

第五章の最終話となります。


次回は少し強引になりますが、大変な目に遭ってもらいましょう。

彼らは観測のための目なのですから。


※前回のあらすじ

・貰った銃は迎撃能力を得ていました。凄い? よくわかんない。

-fate アキヒト-




 フィールドモンスター『ストーンゴーレム』への再攻撃の日取りが決まったそうだ。

 並行してさらに南、オアシスでは防壁の敷設が完了し、行動力のある探索者や商人が拠点を移し始めているという記事がカグラザカ新聞のトップを飾っていた。

 駆動機───工事現場などで土砂などを積んでいるようなトラックが扉の園とヘヴンズゲートを往復している姿を見ることも増えた。町中を走るこれらはおおよそエンジェルウィングスの物で、ヘヴンズゲート付近に設置された物資集積所からは所有者が各々の手段でさらに南へと運んでいく。


「新しい街、か」


 ターミナル第二都市となるオアシスの町。そこは決して安全な場所ではないだろう。俺が未だに生きている怪物を見たことが無いのは、探索者の皆さんが日々防衛任務で歩き回っているお陰であり、ここからでも良く見える高い防壁のお陰だ。しかし南のオアシスは突貫工事で作られた防壁が囲うだけ。クロスロードの物と違い、厚みも無ければ高さも無く、上に機銃なども設置されていない壁と、ここに比べれば僅かに過ぎる探索者だけだ。それでも日々意気揚々と向かう彼らは やはり『探索者』なのだろう。


「行くのですか?」

「行きませんとも」

「へたれー」


 後部座席からの問いに否定で応じれば、鳥が茶々入れをする。この鳥、使命か何かと勘違いしていないだろうか。悪意が無いのでタチが悪いとも言う。


「でもシノっちは興味あるんだよね?」

「はい」


 半年を経ても口数の少ない彼女が問いてきた以上、興味は明らかだ。新しい街は将来歴史書ができたならば大きく取り上げられる事間違いない『物語』なのだから当然ではある。


「ほらー?」

「ほらーって言われてもなぁ。せめて身の安全が確保できなきゃ不味いだろ。

 それに会社の指示ならともかく、ヴェルメに頼るわけにもいかないから移動方法も無い」


 言い訳をしながら ふと考える。

 シノが時々表に出す興味は彼女の生まれた理由に伴う物だろう。それが彼女にとってどれだけの重みがあるのかを俺は測りかねていた。もしも人間でいう所の三大欲求に近いのならば、我慢させ続ける事は危険だと思うのだけど、マッチョメンからは特に指摘されてはいない。


 ……うん。ここは聞こう。


「なぁ、シノ。

 シノにとってそういう光景を見に行く事ってどれくらい重要なんだ?」

「……」


 腰のあたりを掴む手から身じろぎした感触が伝わる。迷い、言い淀む前触れだ。


「実は食事と同じくらい重要って、倒れてから言われてもどうしようもないからな?」

「活動に支障が出る物ではありません。

 ……しかし、アキヒトの回復に影響がありますので」


 ……。


「ねぇ……アキヒト?」

「もしかして、アッキー……忘れてた?」

「ソンナコトナイデスヨ?」


 ヴェルメとニーナの呆れ声に喉が引き攣った。なんて説得力の無い響きなんだろう。

 ……迫真の演技ができても誤魔化せると思えませんけどね。

 ええ、忘れてましたとも。シノさんのそれはHPでなくMPを溜める行為って事だった。で、俺を助けるために使い尽くしてなお足りないから中途半端な状態になっているんでしたね、はい。


「もしかして、アッキーがもっと積極的に行動していたら、とっくに自由に行動できたんじゃ?」

「そ、それでも安全第一だ」

「間違っているとは言わないけどね。

 ただ、すでに結構な数の探索者が行き来しているし、エンジェルウィングスにも用事はあるから、トミナカに言えば仕事の一つも嬉々として回してくれるわよ?」

「……『俺の回復のため』なら、もう少し後の方が良いと思う。怪物の種類によってはヴェルメの速度や防御でもダメな事があるんだろ?」


 特に魔眼や、光属性の攻撃はヴェルメには鬼門だ。常識が鼻で笑われ過ぎて引き籠るようなこの世界でも、光を超える速度は滅多にない。

 ……『滅多に』の時点でウチの世界の物理学者は発狂しかねないよな? 喜びの方でって人も居そうだけど。いや、図書館地下を見てから世の学者の一割はマッドではないかという疑念がですね……


「そうすると年を越すくらいかしらねぇ」

「もう年越しって言葉が出てくるんだな……」


 9の月に足を踏み入れても空気が綺麗で塔以外の遮蔽物が少ないこの街では太陽の権勢が続いてはいるが、真っ盛りだった頃に比べれば涼しい日も増えてきた。

 南門に集積されつつある物資はオアシスを水源とする前線基地に町としての機能を与える意図が見える。すでに『衛星都市』という名前が関係者の中で使われ始めているとも聞く。

 途中の障害を排除し、レールを通して町を作り上げる。扉との距離と運用できる駆動機の数からして、素人計算でも2、3か月後というのは現実的な推測だろう。

 先ほどの会話の雰囲気からして、それまでに俺の魂が安定することは恐らくないだろう。しかしその事については何の問題も感じてはいなかった。こちらでの生活も何だかんだ『日常』と呼べるものが形成されている。もう『今更』という感想があっさりと胸中に浮かぶのだ。


 ……同時に、あちらに戻る事についても少し迷いを持ち始めている。

 戻って底辺に程近い大学生に復帰して、俺は何になるのだろうか。このままこちらで仕事を続けている方がよっぽど良いのではないか。

 慣れてきたからかもしれない。気持ち的には外国で就職したような物だ。いろいろな人の手を借りることにはなるけど、魂さえ完全になれば帰郷だってできるだろう。


「アキヒト?」

「……ああ、なんでもない」


 シノの呼びかけに我に返る。

 まだ回復の目途が立っていないというのに深く考え込む事でもないか。俺は余計な思考を振り払うように、改めて何でもないと伝えるように首を動かす。


「下手の考え休むに似たりー」

「お前、体を鸚鵡に変えて貰ったらどうだ?」


 少なくともこの喋る事をやめない鳥は連れて行くわけにはいかないだろうしな。




 そんな、『甘い考え』が圧倒的な暴威の前に晒されることになるとは、この時は微塵も思っていなかった。

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