●五章-13.一般住民の視点から
久々のアキヒト君たちです。
※前回のあらすじ
・ストーンゴーレム討伐戦撤退。
・ストーンゴーレムが倒れた時に見た物とは?
……救世主の話題は第二回討伐戦の後カナw
-fate アキヒト-
この数日、町は非常に騒がしかった。
祭りの時のそれとは違い、会話、意見の応酬が至る所で見受けられた。
「失敗だって言う人、一気にいなくなりましたね……」
「元々失敗ではありませんからね」
話題の中心はストーンゴーレムの討伐戦と撤退と言う結果の是非と今後についてだ。夜の酒場や食堂になるとテーブルを越えて議論が交わされていた。管理組合などから経緯と結果が公表されてから数日は「撤退しなければ勝利できたのに、資源を無駄にしただけ」と主張する人も居たのだが、数日経った今、一連の結果は「失敗ではない」という意見が主流になっている。
「失敗ではないという理由は俺も理解していますけど、そう主張していた人が一気に居なくなったので」
「ああ……まぁ、そうですね。決めつけるわけではありませんが、彼らの多くは雇われたアジテーターでしょうから」
「え?」
俺の驚きにトミナカさんが目を細めて笑う。
「君が来た頃には一度鎮静化していましたけど、二の月くらいですかね、ああいう手合いが良くいたのですよ」
「……確か、テロとかが頻発した時期、でしたか?」
「ええ。アキヒト君。君は今、管理組合がクロスロードでどういう立場だと思っていますか?」
「……実質上の統治組織ですよね?」
「はい。つまりこの土地が欲しい側にとっては倒さざるを得ない敵ということになります。
ですが、我々のようなただの来訪者にとっては、非常に便利で都合のいい組織ですよね?」
便利というか、ありがたい組織だ。無いと困る。なにしろインフラの大半を握っているのだから当然だ。もし管理組合がストライキを起こしたら町が心不全を起こしてしまう。
「……管理組合の評判を下げたい人たちの情報操作って事ですか?」
「はい。管理組合の監査機関を立ち上げて介入したい。軍事力に不安を持たせ、自分の世界の軍事力を持ち込む大義名分が欲しい。というのがシュテンさん達の見解でしたねぇ」
先日飲み会があったらしいので、そこでもこの話題になったのだろう。
俺はいつだか夕飯時に店で議論を交わしていた人たちを思い出す。
曰く、この段になってクロスロードを武力制圧することはほぼ不可能だ。何故なら魔法世界に措いては決戦戦力である英雄などはこの世界の法則に縛られ力を大きく落とすし、科学世界から十分な数の兵器をこっそり持ち込むことは非常に困難。数の暴力に頼ろうとも入口が扉の塔並びに扉の園に限られているし、そこは管理組合の監視下にある。汚染や病気を除去する魔術も存在するため、征服前提の化学兵器、生物兵器では有効打になりえないだろうという話だ。
「……支配したいだけなら、移民を大量に投入して実効支配するという手段があるとか?」
「その通りですね。管理組合は建前上その手段を防ぐことはできません。
ですが、単純なその方法を達成できた世界は今の所無いようですが」
背がゾワリとした。クロスロードの現総人口10万人など軽く超える人員を投入することが可能な世界、国家はいくらでもあるだろう。地球でも実際にチャイナタウンは世界中にあるらしく、数千数万人が移住しているし、命がコイン一枚より安い封建社会なら何人死のうと構わない勢いで人を送り込む事は容易だろう。
でも、そんな単純な方法が実行できていない。誰もやっていないというのは流石に無いと思う。
「管理組合が防いでいるって事ですか?」
「侵略目的の大規模移住や、棄民政策には対処していると聞いたことがありますね。
実際どういう事をやっているかは知りませんが」
何が行われているのかは気になるが、知らない方が良い気もする。
「まぁ、その辺りは管理組合に任せておけば良い話です。
それよりもアキヒト君。南のオアシスに行ってみたりしませんか?」
「え?」
南のオアシスと言うと、話題の地点からさらに50キロメートル先、初めて討伐されたフィールドモンスターから変化した場所のはずだ。
つまり荒野のど真ん中であり、いつ怪物に遭遇してもおかしくない場所である。
「いや、無理ですよ!」
「はは。今すぐと言う話ではありません。鉄道計画はご存知ですか?」
それはもちろん耳にしている。
すでに南のオアシスには拠点の設営が開始しており、物資の輸送が行われている。その途中には話題のストーンゴーレムが居る地点があり、何らかのポイントになると目されている。クロスロードから直線に並ぶその三点を結ぶ鉄道路線を引くという計画が持ち上がっているそうだ。
「敷設開始から完了までの間、連絡要員として協力願えないかという事です。
その期間は探索者がルート上の警備を行う事になっていますから、一定の安全は確保される見込みです。
君たちであれば往復二時間掛かりませんし、怪物と遭遇した場合でも逃げ切れる可能性が高い。ヴェルメで防げない精神干渉系への抵抗力も高いと聞きました」
「……なんでそれを?」
それが話題に上がったのは大図書館地下での話だ。俺に関してはシノのお陰でしかないので自慢できることではないから、誰かに話した覚えはない。シノが使徒種であることは知っているだろうから、シノについてなら分かるが……
と、視線が俺の頭の上に向いている事に気付き
「ぐぇ」
「コレ、からですか?」
「はは。まぁ、そうですね」
飛び立とうと立ち上がった鳥の首を掴んで前に突き出すと、トミナカさんは苦笑を見せて頷く。
「まだ警備体制が明確になっていませんし、十分な安全が見込めないなら私から断るつもりです。
今はそういう話があるとだけ」
「……わかりました。そういう事なら前向きに考えておきます」
鉄道計画は途中地点のストーンゴーレム討伐が完了してからになるそうだ。早くても秋口、遅ければ11の月に突入するくらいになるだろう。ストーンゴーレムを討伐した後に何が出るかでは計画が大きく変わる可能性もある。なにしろストーンゴーレムの正体は大襲撃を終わらせた『救世主』の1人、ならぬ1体ではないかという噂もある。それを狙ってか、独自に討伐に向かった探索者も居るというが……まぁ、結果が出ていない以上、どうなったかは言うまでもない。
ともあれエンジェルウィングスには本当にお世話になっているので、トミナカさんが行けると判断したならば応じるべきだろうとは思う。
「さて、そろそろ出発ですか」
トミナカさんが俺越しに作業台を見ると、まとめ終わって太い輪ゴムで留める少女の姿。
「……、シノさん。ほとんど任せてごめんなさい」
「? 問題ありません」
俺が会話している間にも配達順に並べる作業を黙々と続け、ほとんどを一人で片付けたシノに深々と頭を下げると、彼女は不思議そうに小首を傾げた。
この作業をシノが積極的にやっている事は分かっているし、黙々と作業しても七割以上シノさんが終わらせてしまうのだが、もう少し手を出せるように頑張ります。はい。




