●五章-9.作戦直前
作戦については裏の連中も参加予定じゃないので
どっちかの閑話でやろうかしら。
一応この街の一つの大きな歴史的事象ですしおすし。
※前回のあらすじ
・南方五十キロメートルに確認された巨大怪物の討伐作戦、はじまります。
・ステータス=身分 レベル=水準
-fate アキヒト-
毎日町を見続けてきたからだろうか。町の動きが変わったことを感じ取る。
例えばニュートラルロードに出る辺りの店で朝食を摂っている探索者を最近見ない。例えば事務所直前ですれ違う眠そうな顔の男が居ない。例えば「吾輩今日も絶好調である!」と叫びながら走るピンクの子豚が居な「吾輩今日は遅刻である!」あ、これは居た。例えば丁度通り過ぎる時間に開店していた店が一時間ばかり早く開くようになっている。
俺たちが決まった時間に家を出るように、こんなトンデモ世界でも日常は自然と形成されている。それがここ数日で大きく変化していた。
「……拠点計画、かぁ」
ニュートラルロードの先端、正面にそびえる巨大な門を見上げる。
管理組合の発表後、人やモノの動きは大きく変わった。主に作戦に従事する人たちの動きが変わり、引きずられるように町全体に変化が生じている。
ヘヴンズゲート前には物資の集積場が設けられ、数台の駆動機の姿を必ず目にするようになった。一日二日で終わるはずの討伐作戦には余りにも多いそれは、その後の拠点建築用の資材だそうだ。まだ倒してもいないのに随分な皮算用だと思うが、それだけ意欲が高いとも取れる。補給の問題が引いた『見えないライン』を安易に踏み越えられない現状は、毎日壁の向こうで果てしない地平線を見てきた探索者に閉塞感を与えていたのかもしれない。町全体が高揚しているとさえ思う。
エンジェルウィングスは保有する多くの駆動機を駆使してそれらの物資運搬に従事している。当初の予定よりも物資の量が段違いに増えたため、事務所の四輪駆動車は長期出張中だ。ヴェルメで運べるサイズの小包運送が俺たちの仕事に加えられたのもまた変化の一つだった。
「それでも町の外の事はあまり実感わかないな」
「見に行く?」
「行かねえよ?」
野次馬根性なんて大体迷惑なものだ。それが分かってなお他人を不快にさせる趣味は無い。
「それに行くったってせいぜい南砦の物資集積場が精々だよ。入ったら逃げられないボス部屋仕様なフィールドモンスターの見学とか以ての外だしな」
扉が閉まって逃げられないのではなく、物理的に逃がしてもらえない可能性が高いという恐怖空間なんぞ素人が足を踏み入れていい場所ではない。
「行くなら拠点ができてからだろうけど……いくら許可を貰っているからって、私用で外を走って良い物なのか?」
『構わないんじゃないかね。できてからの話になるから明言はできないけど、道ができて往来が生まれれば相対的な危険性は減るからねぇ』
南のオアシスは待望の水源だが、町を作って機能するかと言えば否だ。なにしろ食べる物もなければ武器弾薬も無いが、怪物は変わらず襲い掛かってくる。オアシスを拠点として維持するなら二点間を結ぶ物流経路は相当太くないといけないだろうし、その維持管理には莫大な費用が掛かるだろうことは素人の俺でも想像できる。一方でそれだけの管理がなされた道になるなら俺たちでも往来は可能になりそうだ。
『アキヒトにその気が無くても、いずれ仕事で行くことになるんじゃないかね?』
「……絶対にないとは言えないよな」
俺はへなちょこだが、ヴェルメの慣性制御防御は優秀だ。それこそ防御力の一点だけならそこらの探索者を圧倒するほどに。他の駆動車よりは安全性が確保されている以上、受ける受けないは別にしてそういう機会は巡ってくるだろう。
丁度ヘヴンズゲートが見えるところまでやってきた。やはり人混みはいつもより濃い。
準備のためか近隣の武具店で店主と話している者も心なしか多く感じた。
「おや、ご苦労さん」
「忙しそうですね」
そんな店の一つ、以前鎧と同じような効果を発揮するペンダントを貰った店を訪ねる。
「ああ。降って湧いた掻き入れ時だよ。
相当に危険な怪物だって話だが、怖気づくようなヤツは存外少ないようだ」
昔の人が考えた金星人フォルムの店主が楽しそうに言う。
「ここに居る人以外も参加するんですよね?
いくら強くても流石に一方的になるんじゃないですか?」
「だと良いんだが。でかいってのはそれだけで暴力だ。無敵の盾を持っていても頭上から踏みつけられたらどうしようもない。
なるべく多く無事で帰ってきてもらいたいものだが、全員とはいかんだろう」
この世界では百メートルの壁が遠距離からの一方的な蹂躙を阻害する。ましてやフィールドモンスターはある一定距離まで近づかなければその姿を捉えることもできない。聞く話によればそれでも遠距離からの砲撃を試してみるそうだが、結果がどうなるかはそれこそやってみないと分からない。
「この世界は妙なところで意地が悪いからな」
「……そうですね」
『意地が悪い』という表現には素直に頷いてしまう。非常にしっくりきた。
「そういえば、お前さん。以前渡した銃はどうだ?」
「あっ」
急な話題転換についていけず、店主の不意の問いに思わず声が出た。きゅっと唇を結ぶがもう遅い。
「あって、何だ。あって」
「いや、その……正直使う機会の無いほどの幸運に恵まれています」
荒事には何度か巻き込まれたが、武器を抜くなんて考えつく余裕も無い事態ばかりだ。それでも五体満足に居られるのは果たして幸運と言うべきか。
「……まぁ、それはそれでアリか」
「アリなんですか?」
「前にも説明した通り、お前さんの行動から変化する銃だからな。一応持ち歩いては居るようだし、そろそろ何かしらの変化は出ているだろう。
どこかで試し撃ちしたら結果を教えてくれ」
テストの依頼料という感じでペンダントを貰った手前、嫌とは言えない。仕事の無い日にでも少し外に出て試そうとPBさんの忘備録に登録をお願いする。
「わかりました。あと、郵便です」
「おう。管理組合からか。ご苦労さん」
作戦に纏わる依頼書や明細だろうか。ここ数日、いくつかの商店に管理組合からの郵便物があり、特にヘヴンズゲート周辺の店宛は目立って多い。これからぐるりと顔を出すことになるだろう。
フィールドモンスターの討伐作戦は二日後。
その結果がこの街にどんな変化を齎すのか。俺には全く見当が付かなかった。




