●五章-8.フィールドモンスター
九十話目。
個人的に百話がスタートラインだと思っている。
あ、プロット無いので百話目にどうこうと言う意味ではないです。はい。
※前回のあらすじ
・アラクネお姉さんのお店へ。
・新聞に載っていた怪物を倒した人が居るらしい?
-fate アキヒト-
この世界には何もない。
扉の塔と扉の園。その外側には何一つなかった。唯一サンロードリバーが膨大な水量を東から西へと送り続けているだけ。その元も果ても未だ不明だ。
はたして『何もない』なんてあり得るのだろうか。
そも、この世界の神は何のためにこの世界を創ったのか。地球に居た頃は哲学とかそういう分野の話だったが、神種の存在が明確な今、ごく普通の疑問だろう。
……普通かどうかはまぁ、さておき。
有力な説は『実験場』。自身と魂を管理する世界を有した神種が、世界間交流実験のためにサブで創った世界というもの。故にこの世界には何も用意せず、ただあらゆる種が共存できる環境だけを作り上げたという説。なるほどと頷いてしまう話なのだが、これが今回揺らいだ。
代わって注目を浴びたのは『この世界は滅びかけていた。最後のあがきで異世界から救援を招いた』という説だ。この世界に残されたのは塔と周りの土地だけ。怪物により、その他全ては消し去られたというものだった。
「……そういうわけで、明日明後日は会議に出なくてはならなくなりました。
事務が全くできなくなるのでお休みにしますね」
トミナカさんの手にはいつも通りカグラザカ新聞がある。その一面の見出しは「新たな水源を発見」。続いて「新たなる脅威 フィールドモンスターの存在」との文字が並ぶ。『フィールドモンスター』は先日の新聞にも載っていた「その場から離れない巨大怪物」の総称として定められた名だ。
「やっぱりエンジェルウィングスも関係するんですか?」
「物資輸送での協力が決まりました。会議はそれに関する事です。
四輪以上の大型車を運用するので、君たちの参加は予定していませんね」
ウチの事務所だとあの四輪駆動車か。そういえばここに勤め始めて半年になるが、未だに四輪駆動車を担当する職員と遭遇したことが無い。
……まさか、気付いていないだけ、とかないよな? 幽霊が普通に住民として暮らしているからあり得ない話じゃないところが『この街』だなと。
「俺たちは通常の配達ですか」
「その予定だよ。私も現場には出ないと思う。
規模の大きな作戦になるけど、倒す相手は一つだ。
一日、掛かって二日で終わるだろうから、そこまで大げさな物資量にはならないかな」
南方50キロ地点で確認したフィールドモンスターの討伐作戦を管理組合が発表したのは今朝の事だった。この決定は更に南方、クロスロードから約100キロメートル地点で探索者が接近するまで発見できず、一定エリアから移動しない怪物を発見、撃破した報告が前提になっているという。あのボロボロの服の持ち主だろうか。
討伐された怪物はミラージュドラゴンという幻影を操る竜種だった。古竜にも匹敵する強さらしい。一応PBさんにお伺いしたら『神種に喧嘩売れる強さになった竜』とのニュアンスを頂きました。神種もピンキリだが、一般人の物差しでは計ろうとする事が烏滸がましい次元の話だ。
問題は討伐後に起きた現象だ。その死体は他の怪物と違って突如消え失せた。直後、まるで最初からそこにあったかのように緑を湛える地面と樹木、そしてその中央にオアシスが現れたのだそうだ。この報告に50キロ地点で発見された同じ性質の怪物を討伐すれば何か現れるかもしれないと期待するのは当然だろう。そのオアシスについても拠点設営の計画が並行して告知されている。
「その作戦後になると思うけど、拠点となった後には配達をお願いする事もあるかもね」
「さ、流石に砦より向こうは荷が勝ちすぎますよ……」
「ヴェルメの防御性能と移動力ならそうでもないと思うけどね。
とはいえ、ある程度の安全が確保されてからじゃないとお願いしないから」
勿論観光気分程度ではあるが、そのオアシスを見てみたいという気持ちはある。だからと危険に足を突っ込むのは主義ではない。安全第一。
ヴェルメは未だ貴重な実験機だし、損失の可能性がある運用はしないと思う。
「それにしても怪物を倒したら何か出てくるってゲームみたいですね」
「まったくだね。世界によっては本当に人間が木の股から生まれてくるところもあるそうだけど」
「……」
何と答えていいやら。
よく考えたら神様が直接生み出した使徒種とそれから生まれた眷属が二人も居ますよ、ここに。
「若い神種の中には成長を加速させるために最初からある程度の文明社会を整えて、物の生産をゲームのようなものに設定した世界を創っている人も居ますよ。モンスターを倒すとお金や物を落とす世界だそうです」
「……それ、最後に物がインフレしませんかね?」
「流石に循環のシステムくらいは作っているんじゃないかな。自分の世界の中は比較的自由らしいからね」
やはりスキルやレベルがある世界もあるのだろうか。街角で探せばそんな世界出身者はすぐに見つかりそうな気がする。
ふと隣に立つファンタジー世界出身者を見た。
「シノの世界ってステータスとかレベルとかあったりするのか?」
「ありますが?」
「あるの?」
「……無いのですか?」
あれ? いきなり当たり?
「ステータス画面とかあるのか?」
「なんでしょうか、それは」
驚きを隠せない俺にちょこんと小首を傾げるシノ。
あれ? 画面じゃなくて頭に浮かぶとか?
「アキヒト君。ステータスもレベルもゲーム的じゃない意味がありますよ?」
やり取りを眺めていたトミナカさんが苦笑しつつ口を挟む。
……。鳥が笑いをこらえている気配がするが無視しよう。
「……そうでした」
「ちなみにステータス画面のある世界の住人もこの世界では表示が開けないそうですよ。
この世界に限らず世界を渡るとダメのようですね」
「管理外ということでしょうか」
「それも神種の設定次第ですから断言はできませんが。
まぁ、私はそういう世界は遠慮したいですね」
「そうなんですか?」
否定的なコメントをするトミナカさんは珍しい。
「才能が数値化されて表示される世界なんてゾっとしません。
努力もやる気も失せますよ」
「……ああ……」
成績の話は赤点か否か。親のお金で低ランク大学に滑り込ませてもらった身としては何とも言葉にし辛いが、明確な数値で「才能がない」と言われたら努力できる人などまず居ないと思う。なくてもできない人が出るくらいだし。
内心を察したか、優しい笑顔でトミナカさんが口を開く。
「若いのだから頑張れとは言いません。生き方は人それぞれ。
あえて言うなら振り返った時に苦しい思いをしないようにした方が自分のためですね。
後悔ほど苦しい物は早々ありませんよ」
「……はい」
人生を全うして、死の淵で第二の人生を貰ったからとこの街の郵便事業に尽力している人の言葉が重い。同じく拾った命なのに潰されそうです。
「ふふ、説教じみた事はやめにしましょう。
詳しい事は後日お伝えしますが、今日は普通によろしくお願いします」
「はい」
応じて頭を下げた俺はやや逃げるような足取りで更衣室に向かう。
後悔をしない人生、か。あの時死んだほうの俺は何一つ為した物の無い自分を後悔したのだろうか。
どこまで意味があるのか、「自分はそうならないように」と心の内で呟くと、着替えるためにロッカーへと手を伸ばすのだった。




