●五章-3.南砦
影の方、近いうちに更新します(書き書き
※前回のあらすじ
・なんかすごい怪物倒したらしいお人形さんと遭遇
・用事があるってさ
-fate アキヒト-
「こういうの、職員室近くに必ずあったよなぁ……」
南砦を模したジオラマを前にしてポツリ呟く。確か図書館とかそういう公共設備にも必ずあった気がする。設置義務でもあるのだろうか?
それはさておき、俺たちは南砦にある建物に入り込んでいる。空調の利いたその建物内部は一言で評するならば『区役所』だ。役割ごとの窓口とその前に並ぶ待合用の椅子。多くの探索者が素直に椅子で、或いはそこらをぶらつきながら順番待ちをしている。
『受付番号219番、時間5分前です。準備出来次第出発してください』
僅かなざわめきの満ちる中、数分おきにそんなアナウンスが流れる。これは防衛任務の出発案内。怪物をクロスロードに近付けないための防衛任務だが、数十人が団子になっては警戒範囲に穴が生まれてしまう為、こうして順繰りに送り出している。壁に掛けられていた説明によると5つくらいルートがあり、受付のタイミングで割り振られるそうだ。
さて、壁際を順番に見ていくと色々な資料やポスターが展示されている。こういう所も公共施設っぽい。『続きはWebで』ではないが、お知らせのコーナーでは『●●についての最新情報を更新しました』という文章で省スペース化を図っている。PBで確認しろということだ。便利で気が利くPBさんだが、聞かれないことは答えない仕様でもあるため、こういう方法を採っているのだろう。
そんな公的な告知とは別に自由掲示板のような場所もある。特定の怪物の死骸の買い取り希望や仲間募集などが主で所狭しと貼られている。ちなみに受付で臨時パーティを組むこともできるのだが、危険度は低いとはいえ戦闘は何時でも起こりえるし命を落とす事さえある仕事だ。信頼できる固定パーティを組みたいと思うのは当然だろう。
「オークのMOBが出たってよ」
「ばっか、そんな事よりデモニックトロウルの話聞いてないのかよ」
他にも初心者講習の案内、二階にある貸し会議室の空き状況表などを順繰り眺めていると探索者たちの会話が聞こえてくる。目下その多くは先ほどのトロウル討伐の事だ。PBさんの解説からも厄介極まりない怪物だったが、実際前線に出る彼らにとっては一際衝撃的なニュースらしい。
「聞いたけど、アレ、二人で何とかできる物なのか?」
「二度目だし効果的な手段でも確立したんじゃないのか?」
「だったらPBで検索できるはずだよな?」
「実地テストとか、かな……或いは真似できない方法とか?
まぁ、魔女コンビだしなぁ」
防衛任務の従事者には救援要請をするための発煙筒が支給される。そして救助要請が推奨されている怪物を発見した際には必ずそれを使用し、砦に知らせるルールとなっている。
救援要請を推奨される怪物にはその理由となる厄介な特性がある。代表的なのは先ほどのトロウルのような呆れるほどの再生能力、物理無効や魔法無効などの限定的な無敵、毒や病気をばらまく者、石化や麻痺、魅了などの魔眼持ちなどだ。これらは適切な対抗手段を持っていないパーティは一方的な蹂躙を受けることになりかねない。遭遇した段階で周囲に知らせることで二次災害を防ぐ意味合いもある。
「それにしても怪物って何なんだろうな」
「陣取り合戦の駒じゃないかって ますたぁは言ってたよ。どっちかの塔が壊れるまで続くんじゃないかって」
かつてこの街ができる前、この地を襲った大襲撃は南から殺到したという。今現在も怪物は南から来る数の方が多い。それ故に南には扉の塔と同じく怪物を吐き出す一つの塔があるのではないか、という噂がまことしやかに語られている。その塔は扉の塔とは違う加護を与える。つまり飲食不要、疲労無効、扉を破壊する能力だ。その代わりに怪物は意思疎通能力を或いは意志その物を奪われ、ただ侵略するために荒野を彷徨う存在に変えられてしまっているのではないかとの仮説はそれなりに支持されているそうだ。
「ゾッとしないな。俺たちもあちらの塔から出てくる可能性があったって事だろ?」
「ほんとーにあるかわかんないけど、人間種や亜人種の怪物も確認されてるし、あり得ない話じゃないんだろーね」
『102番の方、査定窓口までお越しください』
先ほどとは違うアナウンスが流れた。これもここに来てから定期的に流れてくる。
この世界で害悪の象徴とされる怪物だが、100%害でしかない存在というわけでもない。むしろクロスロードにとっては必要不可欠な存在だ。
先ほどの掲示板にもあったが怪物の死骸というのはターミナルの数少ない『資源』だ。荒野は農業しようにも土は水も栄養も保持しないし、どれだけ掘り返しても鉱物の一つも見つかったことは無い。何一つ得る物のない不毛な大地。そこを渡り襲い来る怪物には希少な物資を保有する者も少なくない。魔法系生物ならば各種器官が薬になったり魔道具の素材になったりするし、機械系ならば体を構成する金属や保有する武器がそのまま資源になる。中には大金を積んでも食べたいと言われる肉を有する者や、俺でも知っている『ユニコーンの角』を獲得した者も居る。大襲撃を除けば怪物としては数度しか目撃例のない竜種は全身が超高価な資源のような物で出現したと知れば我先にと討伐に向かう姿があったそうだ。
防衛任務中に倒した怪物は倒した者に所有権があり、その処理は自由だ。管理組合の窓口や町のポータルで買い取りを行っているが別の商人などに相場以上に高く売るのも自由でる。或いはそれを素材として武器防具を作る事もできる。いわば防衛任務の追加ボーナスのようなものだ。倒せれば。
「怪物はクロスロードを崩壊させに来るけど、怪物が居ないとクロスロードは崩壊しかねないって。
変な関係だよね」
ニーナが珍しく、しみじみとした声で言う。
クロスロードにとって外敵たる怪物だが、多種多様な世界から集う来訪者の『共通の敵』で、協力する理由でもある。三世界による覇権戦争も大襲撃が無ければ未だ集結していなかったかもしれないし、新たな参入者を生み続ける泥沼になっていたと言われる。ありとあらゆる世界の交差点は貿易都市として莫大な富を生み、想像すら叶わなかった技術の集約点になる。如何な犠牲を払っても手中に収めたいと願う者は尽きることは無い。管理組合が軌道に乗った今でも怪物が現れなくなったと判明すれば鼻息荒く乗り込んでくる世界は十や二十では利かないとされている。実際二の月くらいまでは管理組合転覆を狙ったテロが横行し、町の治安は今とは比較にならないくらい悪かったと聞いている。今でもそんな世界のスパイが町中に散らばっているそうだ。俺でも生きていける程度に平和な日々からは想像もできないが、内外共に多くの敵を抱えた危うい均衡の上にあるのがクロスロードという都市だと、いつか新聞で読んだ内容が思い出した。
ロビーを振り返り夕暮れ間近のこの時間から防衛任務に赴く探索者の背を見る。
怪物は二十四時間構うことなくこの地へと向かっている。深夜、何も無い荒野を歩き、町を守る人々がいるのだと思うと感謝の念が自然と湧いた。
そんならしくも無い感傷に浸っていると、ロビーのざわめきがぴたりと留まり、一段潜めた物に変わる。何事かと周囲の視線を追えば『お人形さん』の姿があった。そのすぐ後ろには背まであるブロンドの綺麗な女性が付き従っている。
「待たせたのぅ。会議室を借りた故、そちらで話そうか」
「故郷のことですか?」
「うむ」
やはり彼女は俺の世界へと行ったらしい。いろいろな思いが脳裏を過ぎるが案ずるより産むがやすしとはこのことだろう。聞かない事には始まらない。
こちらを見上げるシノに少しだけ表情の陰りが見えた。俺は彼女の手を取ると、貸し会議室の並ぶ二階へと先行した二人を追うのだった。




