●五章-2.魔女との再会
そろそろ番外の方も更新しないとなー(ぽわぽわ
※前回のあらすじ
・ちょっと南砦までお遣い行ってきて
-fate アキヒト-
「ではこちらにお願いします」
倉庫に到着。別段変わった様子も無い倉庫らしい倉庫だ。そういえばアニメなんかでよく見るアイテムボックス的な倉庫は無いのかと聞いたところ、空間拡張関係は100メートルの壁に関する制限の対象らしく、使用不可能とのこと。異空間という場所への転移扱いになるらしい。確かにそれが使えるなら探索範囲はもっと広がっていただろう。
俺はヴェルメから降りるとヴェルメの力が及ぶギリギリに立ち、飛んできた箱を受け取っては壁際に積む。この辺り何も言わずともそういう流れに自然となるのは慣れだなぁと体を動かしながら思う。
口に出すと何か言われそうなので黙って三十個近い段ボールケースを積み終わると、見ていた担当者の下に戻る。
「はい、ご苦労様です」
PB越しの受領を行った管理組合職員がどこかホッとしたように段ボールの山を見る。ちなみに3ケースは近くにあった台車に積まれている。すぐに建物内に持っていくそうだ。
「今日は特に暑いですからね。飲料水の売れ行きが良すぎて。
下手すれば暴動ですよ」
「気持ちは分かります」
誰も彼もマジックアイテムを所有しているわけではない。そして夕暮れも近いというのに日差しは未だに強烈だ。持ち合わせた水を飲み尽くし、転がり込むように帰ってくる探索者も居るのだろう。
「おーい! 大物が来たんだが、冷凍庫の空きはあったか!?」
遠くから呼びかけてくる声に振り返り、倉庫関係全般が担当なのか急ぎ頭を下げて去っていく管理組合職員。俺も返礼してヴェルメに跨る。
「もう戻るのかい?」
「それで構わないと思うけど……シノは何か見て回りたいとかあるか?」
「……いえ、今日でなくても良いと思います」
ちらり空を見るシノ。クールな使徒種もこの暑さには相容れないらしい。
「ヴェルメも居るし休みの日でも良いか」
「怖気づいていたのに、余裕じゃないかい」
「まぁ、ここまでなら、ね?」
治安はさておき怪物に限定すれば子供が散歩できる程度には安全な場所になっているのだから、露骨な尻込みは逆におかしいだろう。
雑談をしつつ裏手を出て広場へと出る。このまま何もなければ会話の通り元来た道を辿り、クロスロードに帰るだけだったのだが
「そこ! 場所開けてください!」
管理組合員の声が耳を突く。発生源を追えば広場の真ん中で指示をする管理組合員が目に入る。それから指示を受けた探索者たちが従いつつも南の空を見上げている事に気付き倣ってみれば、空から何かがゆっくり近付いてくる光景がある。
「あれは?」
「……竜が何かを運んでいるようです」
確かに一つの物体でなく手が翼になっている竜、来たときにも見たワイバーンが足で自分の体躯とそう変わらない何かを掴み、こちらへと運んできているようだ。
……巨大な人型の生物、だろうか。恐らく身長は3メートル程度。人間と比較すると筋肉だか脂肪だかわからない膨れ上がり方をした四肢が目立つ。しかしそれは力無くだらんと地に向けて垂れ下がっていた。
眺めているうちにそれは南砦の直上にまで到着。ワイバーンが起こす風に目を細めるがきっちりヴェルメが防いでくれたのでそのまま観察する。
「落とすぞ! 下に誰も居らぬな!」
ワイバーンの巨躯に阻まれ見えないその背から広場に放たれたのは少女の声。
若く、むしろ幼いとさえ思えるその声音にはひどく覚えがあった。
「大丈夫です。どうぞ!」
ワイバーンは伺うように背に乗っている誰かを振り返り、それから広場にその巨人を落とす。ズンと僅かばかりに地が揺れ、土煙がもうもうと立ち昇る中、それを攪拌しながら飛竜本体は少し離れたところに着陸する。
着陸したワイバーンは頭の位置が二階建ての屋根ほどにある。それとほぼ同等に見えた巨人は砦中の視線の中、もうもうと立つ土煙の中から姿を現した。
岩のような鼠色の肌、これでもかと膨れ上がった四肢、腹は膨れ上がっているが肥満のそれとは違い、触れればきっと硬いだろう事はここからでも察せられる。
「おい、あれって……」
「デモニックトロウル。要注意リストに掲載されている怪物だな……
なんでも以前、防衛部隊に大きな被害を出したことがあるとか」
野次馬の言葉が耳に入ったので、PBさんに解説を求める。
デモニックトロウル。
元々はトロウル、或いはトロールと呼ばれる妖精種で日の光に当たると石化する弱点はあるが、手足を切り飛ばされようとも、首を跳ねられようとも再生する存在の亜種。
トロウルは八岐大蛇よろしく傷口を炎や酸で焼くことで再生を止められるとされているが、これのタチの悪さはその遥か上を行く。まず弱点であるはずの日の光で石化することは無い。更に傷口を焼かれても酸を浴びせかけられてもお構いなしに再生する。つまり分かりやすく不死身の化物なのだ。しかも単純な馬鹿力と瞬発力、己の体の損傷を厭わない暴力は生半可な防御を打ち破り、砕いてしまう。野次馬の話の通り、以前これが現れた時に多くの探索者がこれを倒すために挑みかかったが、何をしても瞬く間に再生する怪物を前に大きな被害をだした。
その戦いの果てに判明した弱点は『体のどこかにあるコアを打ち抜く』こと。しかし見た通りの岩のような肌は生半可な攻撃を防ぐし、届かなければやはりすぐに再生する。しかも体の中でコアは移動させることができるそうだ。
倒し方が分かってもとてもではないが抗し切れる相手ではないため、遭遇した際には救援を要請することを推奨されている。
「しかし……どうやって殺したんだ、あんなバケモノ?
まさか二人だけってでって事じゃないよな?」
「効率的な倒し方でも判明したとかじゃないのか?
……それにまぁ、魔女コンビだからなぁ」
ワイバーンの背からふわりと飛び降りた白いフリルドレスの少女と、麦わら帽子を被ったパンツルックの女性。どう見ても探索者の装いとは程遠いが、その片方は声から察した通り以前会った『お人形さん』だ。
彼女は駆け寄ってきた別の管理組合員と何か言葉を交わしていたが、不意にこちらを見た。
『ちと用がある。待てるか?』
耳元で囁くような声に驚き、耳を庇うように触れる。声の主とは50メートルほど離れているはずなのだが、魔法か何かだろうか。100メートル以内とも言えるし。
「お人形さん……ええと、ティアロットさんだっけ。用事があるらしいんだけど、少しいいか?」
「構わないよ。アンタの故郷の事じゃないかい?」
そういえば俺がどういう扱いになっているのか、調べてくれるような話もあった。あれから数か月経過しているし、もしかすると俺の世界に渡ったのかもしれない。
「そうかもな」
俺が頷きを返すと彼女は建物の方を見て管理組合員に視線を戻す。建物で待っていろという事か。ヴェルメも見ていたらしく建物の傍に車体を進める。
予定変更となったが、彼女の用事が済むまで建物内を見学することにしようかな。




