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●五章-1.追加の配達

ここから第五章とします。正確には次の話の前振りです。

ようやくPBWでやっていた頃の開始地点が見えてきました。


※前回のあらすじ

・とりあえず勇者騒動は一件落着したと思いたい。がんばれ猊下

-fate アキヒト-




「アキヒト君。一つ緊急の配達を頼まれてくれないかな」


 夏も終わりかけたある日の事。

 それでも日中の日差しは鋭く、汗の染みたシャツに若干の不快感を覚えながらも事務所まで戻ってきた俺にトミナカさんが待ってましたと声をかけてきた。


「いいですけど、どこですか?」

「南砦だよ」


 言われて暫しの沈黙。そんな店名あっただろうかと考えていると『クロスロード南方約十キロメートルの位置にある砦です』とPBさんがフォローしてくれて、


「え?」


 と驚きを漏らす。


「実はある業者の駆動機が故障したらしくてね、南砦まで品物を代わりに届けてもらいたいと依頼が来たんだ。

 そうなるとヴェルメが適任でね」


 彼の視線を追えば何回か使った事のあるオプションの荷台に段ボールケースが山積みになっていた。


「南砦までなら危険は皆無だけど、手当は付けるよ」

「そんな手当あるんですか?」

「規定はされているね。遠方を巡る探索者のために中継基地を作る計画は昔からあるんだ。もしそれができたならば我々の業務にはそこまでの配達が追加されるだろう」


 現時点でも町から四方10キロメートル先にある四方砦と呼ばれる場所には日々防衛任務のために人が集まり、必要な物資が送り届けられている。エンジェルウィングスにもそれ専用のチームは配置されているとの事。


「品物はジュースとかの飲料だから、多少荒っぽくても問題ないよ」

「……シノ、良いか?」

「はい」


 拒否するとは思っていないが、一応質問し、予想通りの同意を得る。


「わかりました。行ってきます」

「ええ、よろしくお願いします」


 早速ミュスフェルさんがヴェルメに荷台を取り付け始める。それが終わるまでは休憩するかと俺たちは一旦事務所に入った。




-fate アキヒト-




「緊張するなぁ……」

「大げさだよ」


 思わず漏れ出た言葉にヴェルメの呆れ声が応じる。

 ここは町の最南端。ヘヴンズゲート前。巨大すぎる門は開かれたまま多くの人々が特に気負うことなく行き来をしていた。

 トミナカさんの言う通り、日々防衛任務に従事する人たちのお陰でクロスロードから十キロメートル以内は安全な区域とされている。まれにMOBと呼ばれる大集団が防衛網を突破することがあるが、集団でないと脅威足りえないMOBの一部と遭遇して危険と思う探索者はまず居ない。俺にしてもヴェルメが居る以上脅威ではないと見做せる。

 それでもこの街をぐるりと囲む巨大な防壁、その上に設置された機銃などの防御兵器に守られたこの街から出るというのは緊張して仕方ない事だと思う。


「さっさと行くよ」


 駆動音と共にヴェルメが外と中の境界を越えた。

 体に感じる振動は整備された道から荒野に出たことを意味する。何万もの足が作り上げた天然の街道が真っすぐ南に向かって道を作っているのでオフロードという程でもないが半年近く慣れ親しんだ感覚は如実に変化を捉えていた。


「ひろーい」


 鳥の気の抜けた感想。しかしその通りだ。右も左も正面も、地平線がぐるりと取り囲んでいる。岩も木も高低差すらない平坦な荒野。それが判明している限り百キロメートル以上広がっているという。山がちの日本では北海道あたりでないと見られない光景らしいが、取り残されたような怖さを感じる。

 振り返ればどんどんと防壁は遠ざかっていくが空を突き刺すような威容を誇る扉の塔は不変とばかりにそこにあった。大航海時代の船乗りが灯台を見つけたときに得る安心感について言及した物語を前に読んだことがあるが、今まさにそれを実感した。そこに町があり、人が居るという事は大きな安心感を与えてくれる。

 お遣い程度の距離で大げさなだと笑われるかもしれない。正面に広がるただひたすらの荒野は迷子が抱く心細さを何倍にも増幅して叩きつけてくるようだった。


「俺に探索者は無理だわ」

「何よ急に」

「大丈夫、知ってる!」


 とりあえずニーナを小突いておく。

 踏み固められ道となったそこを幾人もの探索者が歩いている。俺たちを知ってか知らずかは分からないが誰もが物珍しそうな視線を向けてくる。

 時間にして十分未満。とうに背にあった防壁は見えなくなり、四方が地平線という世界の果てに建物の頂を見つける。


「十キロをこんなに遠く感じたのは初めてだよ」

「マラソンの時は?」

「意味合いが違うだろ」


 次第に明確になってきたのは防壁に囲まれた建築物だ。砦と言うには現代的な、公民館を思わせる三階建ての建物がある。防壁の高さは建物の一階部分を見えなくする程度。敷地は結構な広さがあるようで、そこに一匹のワイバーンが着陸する様を見る。


「あれ? 空って危険じゃなかったっけ?」

『緊急対応時に出撃する部隊のものです。彼らが出撃する際には砦から観測を行う事でロストを防いでいます』


 誰も見ていない場所で空を飛ぶと消える。それはこの世界に居るならたとえ飛べなくても知っておくべき事柄だ。返せば誰かが見ている限りロスト現象は発生していない。緊急の応援部隊を派遣する手段として成立しているのだろう。

 それでもロストの原因が未だ分かっていないため、100%確実ではない。従事する人たちは相応の覚悟が求められるという。この世界の法則は極端なほどに寛容で、一部においては病的に厳しい。


「ね、ね! アッキー! お店があるよ」


 次第に近づいてくる南砦。ようやくその全容が見えると砦よりもその周囲に展開する屋台や御座が目についた。それらは壁の内側に無くもしも怪物が現れたらひとたまりもない事は明白だ。


「砦の中でやらないのか?」

『砦は防衛を目的として作られており、有事の際の敷地を確保する必要もあるため敷地内での店舗の敷設は一部を除いて許可していません』


 一部というのは今運んでいる飲料に関係している。南砦で働くスタッフ向けの飲食物や、ポーションなどの消耗品を販売する売店のようなものはあるらしい。ただあくまでも応急的な目的のため品揃えはそれほど良くない。そこに目を付けた商人が既定の無い砦の外に店を展開しているという事だ。商魂逞しいとはまさにこの姿だろう。中には鍛冶屋まで居るのだから驚きだ。科学世界の技術で作られたコンパクトで持ち運びができる鍛冶台や炉を用意しているらしい。


 そんな屋台群を横目に開かれた門を潜る。遠目に見た通り公民館のような建物と広場があり、百程度の人々が行き交い、或いは車座に座って会話をしていた。誰も彼も文化は違うが戦うための装束を身に付けており、街で見かけるよりも『探索者』というイメージを強く受ける。

 そんな中、管理組合の制服を着た人を発見し、近づくと用があると気付いたか獣人種の男性が足を止めた。


「すみません。エンジェルウィングスです。代理輸送で後ろの荷物を運んできました」


 PBを差し出し、相手へと情報を送る。それを確認し彼は「ご苦労様です。お手数ですが裏の倉庫へお願いします。担当が倉庫内に居ますので声をかけてください」と指さし教えてくれた。


「あんまりおもしろいものは無い?」


 お気楽に周囲を見渡すニーナが拍子抜けしたと言葉を漏らす。

 まぁ、戦うための或いは補給地点としての場所に面白さは要らないだろう。

 まずは荷物を渡すべく俺たちは倉庫へと向かうのだった。

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