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●四章-9.そして一応の

※前回のあらすじ

・教主様登場。

・殺さない方向で考えます。

-fate アキヒト-




 そうしてまた一週間ほどが過ぎた。

 今日も今日とて配達に勤しむ俺たちは、サンロードリバーを臨む店で昼食を取っていた。大河と呼ぶべき広さを持つこの川の流れは空気の流れも生み出す。ここは常に東から西へと緩やかな風の流れが生じており蒸散する水が熱を持っていくことも相まって比較的涼しい。

 ヴェルメは気にしないだろうけど、なんとなく自分たちだけ店内で涼むのも気が引けたのでオープンテラスの席だ。涼し気な風もあり、直射日光が当たらなければそれほど苦ではない。


「人がいないねー」


 風見鶏の如く周囲を見渡しているニーナの気の抜けた声。

 本日のニュートラルロードはまるでゴーストタウンに迷い込んだかと思うくらい通行人を見ない。平日休日の既定の無いこの街では自主休業も個人の判断だ。かく言う俺も朝、一歩玄関から出た瞬間に足を止め、今日は休みにしようか悩んだほどだ。朝の時点で躊躇うほどだった日光は時間と共に町に吸い込まれ、この時間まで来ると吸収できなくなった熱が陽炎を生み、彼方の光景を幻想のように歪めていた。心なしか今日はゴムの焦げた匂いが鼻に残っている気もする。戻ったらタイヤ交換が必要と言われても驚かない。

 しかしながらそんな状況でも防衛任務に穴をあけるわけにもいかない。町の外ではこの炎天下を歩き回っている人々が居るはずだ。きっと太陽を恨む気持ちは日陰で休める俺たちの数十倍だろう。心の底からお疲れ様です。


「ヴェルメって日光とかどうにかできないのか?」

「できると思うかい?」

「熱も光も波動だからできる気もするけど上手く説明できる気がしない」


 魔法は防げるのに直射日光は防げないとも思えないのだけど、自分にヴェルメの能力を渡されたとして、どう使ったら望み通りの結果になるかは検討も付かない。


「何も通さない傘、みたいな事ってできないのか? 実際風は防いでいるわけだし」

「どうなんだろうねぇ。実際私もどうやっているのか説明できないから何とも言えないよ」

「え?」


 あまりにも機械らしくない回答に思わず聞き返す。


「慣性制御と称しているが、最初から想定された機能じゃないのさね。

 『できると思ったからやってみたらできた』ってのは珍しい話じゃないらしいし、そういうもんと思う他ないね」


 『実際に出来ているから仕方ない』という研究者泣かせの現象が普通に存在するのがこの世界だ。その理由は『成長の三要素』と言われるようになってきた、アルカさんに聞いた話に関係するとされる。つまり『本人が思えば可能性が生まれ』、『他者がそれを否定、肯定することで補正が掛かる』。その上で『この世界のルールに抵触するか』という判断を経て結果を見ることになるらしい。

 これはヴェルメのように意志を持ってしまった製作物の場合、製作者の意図ではなく製造物の意図で変化することがあるということだ。ニーナのお気楽もその一例かどうかは知らない。


「氷の魔道具でも買う方が適切よ」

「商店で引っ張りだこだから今年入手するのは難しいらしいけどね」


 値段は科学世界の大量生産システムに支えられ、かなりお安くなっているらしいが、魔道具として組み上げるのは職人技なので生産が追い付いていないとの事。需要と供給のバランスは何時でも商人の課題のようだ。


「雑貨屋の厚意で水筒を買えただけマシか」


 腰のホルダに付けているペットボトルサイズの水筒は自動的に水を生み出すばかりか冷たく冷やしてくれる機能付きだ。防衛任務の探索者が血眼になって探しているアイテムだが、リザードマンのおばちゃんが入荷できたものを取り置きしてくれていた。嬉しくてちょっと泣きそうになった。

 そうこうしているうちに昼食の皿も綺麗になり、もう少ししたら再開するかとぼんやり考えていると、背にぞわりと鳥肌が立った。風が吹いたわけでもない。慌てて周囲を見渡す俺をニーナが不思議そうに見上げる。


「どしたん?」

「いや……」


 気のせいと続けようとして、それを見つけた。陽炎の中、まるで亡者の行進を連想させる足取りで歩く人影。ギラギラと凶悪な光を反射する白銀の鎧を纏う騎士を俺は知っていた。


「なんか、ヤバくないか……?」

「なんで鎧着こんでんだろうねぇ……」


 キラキラとしたエフェクトを纏いそうな端正な顔に汗が幾条も流れ、黄金色のウェーブがかった髪がべったりとくっついている。目は虚ろでしかし顔は赤く、口は半開きのまま。折角の美貌が台無しを通り越してホラーの領域に達していた。

 ふらふらと、本当に幽霊のようにこちらへと歩み寄ってくる女騎士はやがて俺の横を通り過ぎた。


「あれ?」


 てっきり俺に用事があるのかと身構えていたのだが、危なげしかない足取りのまま彼女は向こうへと歩き去ってしまった。いや、不意に足が止まる。ぎゅんと効果音が付きそうな勢いで振り返る女騎士の目には赤い光が宿ったかのように血走っている。ホラーを加速させるようなその動きに「ひっ!?」と情けない声が漏れるのは仕方ないと思う。

 まるで怪物に見つかった瞬間。襲われる!?と身構える俺が見た物は、振り返る勢いのまま足をもつれさせ、ぶっ倒れる姿だった。


「ちょ!?」


 ガラン!と金属鎧が派手な音をかき鳴らす音に我に返り、駆け寄ろうとするが肩を見えない力に押さえつけられる。続くヴェルメの駆動音。少しだけ落ち着きを取り戻しヴェルメと共に動かない彼女の元へと向かう。道の真ん中でうつ伏せに倒れた彼女はピクリとも動かない。流石にまずいと仰向けにさせようとして


「熱っ!?」

「そりゃ金属鎧だもん」


 焼いた鉄板そのものの熱にジンジンと痛む指を振りながらニーナの声を聞く。俺は水筒の存在を思い出して鎧に掛けると『じゅわっ』という音が響き、あっという間に蒸発してしまう様に顔を引き攣らせた。


「駄目だこりゃ。ヴェルメ、日陰まで動かせる?」

「あいよ」


 彼女もまた呆れたような声音だが、応じてくれた。ひっくり返すと肩口くらいを掴んだように店が作る日陰へと移動させ、壁に背を預けるように座る姿勢にしてくれた。鼻と額が赤く焼けているのが痛々しい。


「アキヒト」


 いつの間にかやってきていたシノから差し出されたのは水のピッチャー。受け取り、少し悩んで頭から掛ける。再び起こるじゅわっという音。上がる蒸気に身を引きつつも思い切って蓋を取り、一気にぶちまけた。


「何の音だい?

 って、このお嬢さん、どうしたんだい?」


 食事をしていた店のオーナーが騒音に気付いたらしく顔を見せた。ピッチャーの水を気を失った女性にぶちまけている図はともすれば犯罪臭漂う光景だが、むせ返るような熱気に未だ残る蒸気が何もかもを説明してくれていた。


「熱中症みたいです」

「いや、そりゃ分かるけど。なんでこんな日に鎧なんか着て歩いてんだい? ダイエットか何か?」

「知りませんよ」


 いっそ目の前の川に放り込むべきかとも考えている間にオーナーが追加のピッチャーを二つ持って来てくれた。再び頭に掛けると「うぅ」と反応があった。


「大丈夫か?」

「あ……痛っ……」


 首筋などが日焼けじゃなく、火傷のような有様になっているのを見て最近持ち歩くようにしたポーションを取り出す。


「飲めますか?」

「……う」


 反応が薄い。どうしようかと迷っているとポーションの瓶が浮き、中身が飛び出して水球になる。それが女騎士の口に自ら流れ込み、


「げぼぉっ!?」


 あんまりの光景に思わず視線を逸らす。


「ヴェルメ、やりすぎ」

「気付けついでだよ」


 むせて悶える女騎士。ただでさえ体力を失っているのにこれは酷い。しかし背中をさすってやろうにも日陰でも輝きを失わない鎧がそれを阻む。

 そうしているうちに今度は何だと小走りで戻ってきたオーナーがこっちを咎めるようにひと睨みし、濡れたバスタオルを女騎士の頭に掛ける。濡れネズミになった上に憔悴と酷い咳き込みで体力を持っていかれた女騎士は以前見た姿とは最早別人だ。鎧の煌びやかさがその落差に拍車をかけているとさえ思う。

 それでも少しずつ息を整え、髪とタオルの間からこちらを見上げる。顔は拭いたようです。


「ここ、は?」

「サンロードリバー傍の道ですよ。意識ははっきりしていますか?」

「……あ、ああ。

 ……お、おお!?」


 焦点が合い驚いて身を引いたが後ろは壁だ。ガンと痛々しい金属音を立てた上に後頭部を強打する。あなたそんなキャラでしたっけ?


「なんか面白くなってる?」

「明らかに熱中症のせいだから見なかったことにしてあげようよ……」


 流石にニーナの言いようは居た堪れない。

 混乱から回復するまでたっぷり二分ほど猶予を与えると、女騎士は頭に掛かるタオルに触れつつ今度はしっかりと顔を上げた。


「アキヒト殿、ですね」

「え、あ、はい」

「……」


 唇が迷うように動き、何故か滅茶苦茶落ち込んだ。双子の妹さんとかそういうオチじゃないよな?


「で、出直してきます」

「いや、無理しないでくださいよ。下手したら死んでましたから!」


 立ち上がろうとする女騎士を無理やり押し留める。まだ肩の鎧は随分な熱を持っているが脱がせるわけにもいかない。ジワリと広がる掌の痛みを我慢して彼女の抵抗がなくなるまで堪えた。


「鎧、脱いだ方がいいですけど、やれますか?」

「……そう、だな」

「なんならウチに入りな」


 先ほどから色々と持って来てくれている店長さんが窓を開けて手招きする。

 ヴェルメに視線を送ると彼女を持ち上げた。


「なんだ?!」

「店の中に運びます。暴れるとまた気分が悪くなりますよ」


 ヴェルメと並行して歩き、店の入口に入ったところでゆっくり下ろすと店長さんがわきの下に腕を入れて中まで引きずり込んでくれた


「体の熱が随分あがってるじゃないか。自殺行為も良いところだよ」


 未だに立ち上る熱に顔をしかめつつ、鎧の留め具を外していく店長さん。人間種のようだが、ファンタジー系世界の出身者なのだろうか。手馴れている。ちなみに女性です。

 そうして外された鎧を横に置き、カウンターの向こうからカップを一つ持ってくる。一つ残ったピッチャーをシノが差し出したので注いで女騎士に手渡すと、彼女は恐る恐るといった手つきで受け取り、一度嘗めるように飲んだ。

 それから一口口に含み、ゆっくりと嚥下する。


「お手数をおかけしました」


 いろいろと手際よく対応してくれた店長に頭を下げるとひらひらと手を振り、一旦奥に引っ込んでしまった。

 視線を戻せば女騎士はとても気まずそうにこちらをチラチラ見ている。


「もしかして、俺に用ですか?」

「……ああ。すまない。

 いや、感謝する。謝罪に来たというのに……」


 「穴があったら入りたい」を全身で表現するかのごとき居た堪れなさ。美人なのでこちらの罪悪感が酷いという理不尽を感じつつ話を進める。


「謝罪と言いますと?」

「先に貴殿に剣を向けた事。勇者が迷惑をかけた事のだ。それと猊下より望まれるなら顛末を説明せよと命じられている」


 一週間前に出会った只者でないオーラな教主様を思い出す。


「謝罪については……気にしていなかったのですけど受け入れますってことで。

 顛末は、そうですね。勇者さんは生きていますか?」

「ああ。元気だ」


 理不尽に殺されるということは無かったらしい。元気なのは逆に不安ではあるが。


「あれから勇者と話し合い、彼には王女と婚姻を結んでもらい骨を埋めてもらう事で合意した。次の魔王復活は百年以上先のはずだからそれで問題ないということになった」

「……だったら最初からそうしてれば穏便に済んだのでは?」


 俺たちが最初に遭遇した勇者は殺されるとは思っていなかっただろう。彼女が殺すつもりで相対しなければ素直に戻っていた可能性は十分にあると思う。


「……猊下の指示のもと、各国は改めて過去の記録を確認した。

 するとかつての勇者が元の世界への帰還を強く望み、その方法を求め世界中を荒らしまわったという事例があったことがわかった。その勇者は旅の仲間に見限られて暗殺されたが、魔王との戦いで疲弊した世界を更に追い詰めた勇者の存在は無視できず、各国の王は勇者を取り仕切るローアイタス教に強く迫ったそうだ」

「その宗教も知らなかったのですか?」

「伝わっていなかった理由は不明だが……恐らく勇者の管理に失敗した事例故、どこかで隠蔽されたのだろう。

 今回判明したのは秘境に住まう古アルフの長老が生き証人として覚えていたからで、どの国にもそれを思わせる内容こそあれ、明確な記録は残って無かった。

 各国としても勇者が犯人と国民に説明できなかったらしい」


 アルフというのは知らないが響きからエルフの親戚みたいなものだろうか。きっとものすごく長い時間を生きている種なのだろう。


「勇者も帰還の意思があるわけでなく、この世界へも偶然落ちただけだ。

 いろいろと悶着はあったがそれで落ち着いた」

「それは、良かったと言うべきでしょうか」

「ああ。貴殿は巻き込まれただけだ。その上で色々と迷惑を掛けてしまった事を深くお詫びする」


 身を起こし、立ち上がろうとするがまだ無理だろう。首を横に振って肩をセクハラにならない程度に押し留めると少し泣きそうな顔をした。立派な騎士様っぽいので相当情けない気分満ちているのだろう。


「……このような有様で、う、……その、あ、改めてお詫びに伺わせていただく。礼もしなければならないだろうし」

「あー、良いですよ。丸く収まったようですからそれで気も晴れましたし」


 シノを見ればどこか満足そうな様子がうかがえた。シノさんが満足してくれているのでこれ以上臨むことはありません。


「しかし……!」

「勇者さんが浮気してシノにちょっかい掛けないようにしてくれればそれで良いです。

 教主さんや貴方を見る限り、結構自由に行き来できるようですし」

「……」


 この世全ては自分の思うがまま、という雰囲気丸出しだった勇者は元の世界では神に与えられた権能を十二分に奮えるのだろう。それ故に起こりうる暴走を想像したのか、女騎士は沈痛な面持ちで「約束する。猊下と王陛下へと陳情しよう」と応じた。


「配達屋さんは仕事があるんだろ? この子はこっちで面倒見るよ」


 ジュースらしき物を手に三度やってきた店主がそう提案してくれる。確かにまだ配達は残っているのであまり長居はしたくないが、いろいろと巻き込んでしまって離脱して良いものか。


「今日はどうせ客も少ないしね。夕暮れになったら帰らせるよ」

「様子、見に来た方が良いですか?」

「この子も気が引けるだろ」


 居た堪れなさと情けなさが天井をぶち抜いているであろう彼女に追い打ちをかける事になる、か。

 聞くべきことは聞いたし、勇者の事はお願いした。後日改めてと言うなら彼女に任せたほうが良いのかもしれない。


「ご厚意感謝します」

「あいよ。あんたも気を付けるんだよ」


 外の日差しは留まる事を知らない様相を呈している。しっかりと帽子を被りつつ頭を下げた俺はシノを伴い店を出るのだった。


「一件落着?」

「そういうフラグ臭いこと言うなよ」

これにて第四章は終わりのつもりデス。

イベントで何度も遭遇する村人Aを主軸にするのは難しいのでやらない方が良いですよ?(吐血


皆様も夏の金属鎧は命に係わる事がありますので、用法要領を守って正しく着用しましょう。

決して砂漠の温度を20度下げるような超常現象で解決しようとry

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