●五章-4.我が身の事
前回の後書きに落書き程度のシノさん(案)を付けて見た。
気楽に描ける程度の腕が欲しい。小説も。
※前回のあらすじ
・お人形さんことティアロットさんを待つ間に南砦の中を見てました。
-fate アキヒト-
南砦の二階会議室には大中小様々なサイズで十部屋程ある。利用対象は探索者で作戦計画の話合いや拾得物の分配の相談などに使われている。もっとも大体の人はそこらで相談するためわざわざ会議室を借りることは無く、いつもガラガラの状態らしい。そのためこの部屋に人が集められるときは救助要請を推奨されている怪物の中でも特に厄介な物が現れた時がほとんどだそうだ。もしかしてここに来る前の視線の中にはそういう憶測の人もいたのかもしれない。
さて、小さなテーブルに椅子が6つ程度の小会議室に入った俺たちは向かい合うように2対2で座る。なおニーナは俺の頭から降りない。連れの女の人の視線がじっとニーナに向いている気がする。
「さて、率直に。
ぬしは現在、病院に搬送され面会謝絶。ミイラ男のような有様で生命維持装置に繋がれておる」
心の準備もへったくれも無い俺にティアロットさんは率直を体現した言葉を放つ。
「……へ?」
病院? あれ? 俺って死んだんじゃ?
いや、そうじゃなく、死んだのだけど体は元々の俺の物で元の世界に無いはずだ。なのに病院に居る?
「それがあっちの世界でのぬしの公式情報じゃ」
俺の混乱を他所に彼女はそう話を括った。明瞭完結。故に受け入れがたい。
「……どうしてそんな事に? 俺の体はあっちにあるんですか?」
問いながらシノを見るが彼女も驚いたように目を開いてこちらを見ている。まさか実はこっちに来た時上半身だけだったとかそういう事じゃないよな?
……流石にそれは死ぬか。こっちが不思議パワーでどうにかなったにしてもあっち側はどうやっても無理だろうし。
「そういう情報操作並びに偽装をされておるという話じゃ」
「偽装?」
つまり嘘。しかし俺は何の変哲もない一般人だ。そんな漫画のような単語に関与するような人間ではない。
彼女は俺の混乱をもっともな事のように表情を変えず「ふむ」と一つ零し、問いを向ける。
「レイファの話はしたの?」
「え? あ、はい。魔術師だったとか」
「うむ。『虚空系統』の魔術師じゃ。その偽装を行ったのはレイファじゃよ」
そういえば意外とファンタジーだった我が世界。その身近で最たる存在ならそういう事もできてしまうのだろうか。あっという間に豪邸建てるお金持ちなのだし。
「でも……こちらが一方的に知っているだけで、話したことすらない彼女がどうして?」
「彼女ら『虚空系統』という一派は異世界から迷い込む者を迎え、その知識や技術を集めることを主な活動にしておるのじゃよ。『虚空からの来訪者』を迎える者。という意味じゃ。
わしがあの世界に渡った時もアレは接触してきた」
「じゃあ、『扉』に俺が関係したから?」
「然様。それで調査に来たらユウヤの元学友だったことが分かり、事故やその結果こちら側に落ちたことも推測したそうじゃ。彼女らにとって警察などに扉を探り当てられるのも都合がよくない故、事故で身元の分かりづらい怪我人を用意したわけじゃな」
つまり病院に居るのは俺を騙った誰かって事か。家族が気付きそうなものだし、歯の治療記録とかで身元が分かるんじゃなかったっけか。
……いや、『ミイラのような有様で面会謝絶』と言うなら判別が付くほど近付けないということか。古典的なミステリー小説のような設定。医者もレイファさんの仲間って事か?
……おかしい。俺はどこまでも一般人のはずなのにどんどん漫画の世界の住人のような扱いになっている。ここに居る時点で今更か。
「ええと……じゃあ彼女もこちらに?」
「いや、来ておらん。というのもレイファ達にとって異世界に渡るのは禁忌での」
「え? でも技術や知識が欲しいなら渡った方が早いのでは?」
「そも世界間を自由に行き来できる方が稀じゃ。大抵は偶然開いた穴に出くわした者が落ちる一方通行よ。ぬしの国では神隠しと言うであろう? 『隠して戻らぬ』現象よ」
そういえば『扉』のせいで自由に行き来できるイメージが出来ていたが、そんなに簡単ならとっくに異世界交流が始まっていただろう。
そういえばこの世界を経由して別の世界に行って体質が合わずに即死した話があったことを思えば、行き来が可能でも帰ってこられなかったケースもあるのか。
「わしが渡った事で行き来の安全性は保証されたようなものじゃが、それなりの伝統と歴史のある組織の長がおいそれ掟を破るわけにもいかんそうじゃ。
物凄く口惜しそうにしておったが」
危険に対する訓戒が掟になり、不合理でも破棄できない。よく聞く話だ。
「ともあれ扉の地域を買収し、管理施設を用立てるそうじゃ。
ぬしが戻るつもりがあるのなら暫く療養の真似事はしてもらうが復帰は可能じゃし、そちらの戸籍も用意できるじゃろう」
「……至れり尽くせりですね」
「どちらかというとそちらの使徒種の方を彼女らは歓迎するじゃろうな」
確かに知識の宝庫であるシノは『虚空系統』という組織にはこれ以上ない上客だろう。
「戻るつもりが無いのならば死亡扱いにすることもできる。
もう戻ってもすぐに第三者に見咎められることはない故、あちらで相談すると良いじゃろう。
が、まだ戻れぬのかえ?」
「ええ。十日ほど前の診断では」
魂の複製という神種でも安易に為せない事だからか、或いは俺が魂の質が高いとされる地球世界の出身だからか。未だ独立できそうな完成度には至っておらず、半年を経てなお繋がりを保たなければならない状態のままだ。ここまでのペースだけで考えれば数年がかりを覚悟する必要すら出てきたし、『使い魔』と似た状況であるため、繋がりがある状態が正しく、独立した魂としては未完成であることがゴールになるかもしれない。一方で明日ある一定の完成度を迎え、雪崩のように完成する可能性すらある。神のみぞ知るどころか神すら知らぬ現象に予測などできない以上、気長に待つしかない。
「何年も入院……というわけにはいきませんよね」
「それはぬしの方が詳しかろう。流石にぬしの代わりに生活する影武者を用立てるまでは難しいじゃろうから、一度死んだことにし、戻る時にこちら側の専門家に依頼する方が良いかもしれんな」
かつて考えた家族への手紙も文面に困って出さないままだ。『元気だけど帰れない。心配するな』なんて手紙を貰った日には信じても信じなくても面倒な展開しか予想できなかった。
レイファさんたちの活動から察するに、俺が家族にこちらの世界の事を伝える行為は好ましくないようにも思える。
「そういえば、ヴェールゴンドの大征みたいなことにはならないですよね?」
「さぁのぅ。野心を抱く者はどこにでもおるし、己の身の丈は存外わからぬ者じゃ。さりとてあの世界がそれを為しえるのなら、すでに他の世界が為しておるじゃろうよ」
地球の総戦力をターミナルに持ち込めたならクロスロードを制圧することもできるかもしれない。だが『扉』を通らなければならないという制約が安易な大規模戦力の集結を許さない。
個人で星を壊すような化け物を擁する世界もあるらしいが、やはり『扉』の制限でその実力が制限される。待ち構える側の無駄に優秀とされる管理組合を崩してクロスロードを制圧するというのは現時点では現実的ではないだろう。
「すでにこの土地は中立であることが望ましい状態に整えられておるからのぅ。
少しモノを考えられるなら、数多の世界とその技術、居座る神種を敵に回す愚は犯さぬよ」
俺の考えを読んだかどうか、彼女は薄い笑みを湛えてそう告げる。
クロスロードだけが相手ならば戦い様もあるかもしれないが、その後ろにはこの世界と繋がる事で利益を得ている世界もある。神種が命じれば世界一つが敵として参戦して死力を尽くす事もありえる。下手な真似は想像もつかないほど膨大な敵を作るだけということか。
「そのような大事をわしらが懸念しても仕方ない。ぬしはぬしの事だけ考えれば良い。
ぬしが行けぬままなら要望を伝えるくらいはするぞ?」
「……少し、考えさせてもらっていいですか?」
「構わんよ。館長殿あたりに言伝れば一月以上わしに伝わらんことは無い」
「分かりました。今回はありがとうございます」
俺が頭を下げると小学生低学年にしか見えない少女は透き通った笑顔を見せる。アルカイックスマイルとか言うやつか。見た目と言葉と思考がまったく一致しない不思議な人だ。
「良い。わしにも益のある話じゃったし、ぬしとの縁もあった。
レイファが堪え切れずにこちらに来るときは言い訳にユウヤの奴も連れて来よう。その時に相手してやってくれ」
「はい」
深窓のお嬢様じみた容姿に反し活動的だった彼女が何時か我慢できなくなるというのは何となく頷けた。先にも言った通り直接話したことすらないが、立花を間に挟むならば何とかなるだろう。
ふわりとティアロットさんが浮かぶ。装飾過多のフリルドレスのせいで見えないが最初から彼女は歩いておらずホバークラフト状態で居るようだ。隣の少女も立ち上がり、おずおずとこちらに一礼して部屋を出ていく。
俺たちもここに留まる理由は無くなった。窓の外はだいぶ夕暮れ近くなっている。
「……あ、そういえばまだ仕事中か」
「え? いまさら?」
頭の上の鳥が呆れた声を出すが、言い返せない。初めて門の外に来ていることだし、トミナカさんに要らない心配を懸けているかもしれない。
「シノ、戻ろう」
「……はい」
彼女の瞳が揺らめいていた。たまに表に出てくる俺への引け目。
半年。そう、あれから半年も経っている。迷走した果てに暴走までしたテーマパークのような町も彼女との毎日もすっかり日常になってしまった。
俺はテーブルの帽子を手に取りシノの頭に被せた。
「アキヒト?」
「今日の晩飯どうする?」
目を瞬かせる少女に俺はそんな問いを投げかけつつ、手を差し出したのだった。




