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●四章-5.鍛錬の道と

久々にTRPGしてきました。

ウィザードが槍を投げてゴブリンキングの頭を消し飛ばすRPG

多分何か間違ってる。


※前回までのあらすじ

・シノさんから何か情報を送受信しているのは知っているけど実感が薄い。

・鍛えたらどうよ?

-fate アキヒト-




「とりあえず走れ」


 翌日。

 お昼頃にまた遭遇した金時さんと共にオープンテラスのカフェで昼食中だ。実際の所、酒の事を聞きたくて待ち伏せしていたのである。午前中は大体ニュートラルロードのお店が配達の中心になるので知っていれば待ち伏せは容易い。

 ちなみにお酒の事は帰り際にシノが忘れずに聞いてくれていたのだが、シュテンさんが自分で作っている事が判明した。売り出しているという話も無く、彼から譲ってもらうほか無いとのこと。それを聞いた彼は五分くらいしかめっ面で呻った後、考えるのをやめて大盛りのサンドイッチに逃避し始めた。コンビニに売っていたサイズの三角形サンドイッチをスナック菓子感覚で口に放り込んでいる。


「妖術に頼らぬ武は足が第一だ。足運びが出来ねば届かぬし威を込められん。下半身が安定せん奴の攻撃など避ける必要すら無くなる」


 そんな中、そのまま沈黙が続くのもどうかと思ったので、話題の一つとして「鍛えようと考えている」と口にすれば、そんな答えが返ってきた。


「剣ならば第二に手首。太刀は左手で奮い、右手は添えて筋を制御するもの。切っ先がふらついては打ち込みもままならん。槍にしても突の際に捻じり、払いの際に捻る。

 俺のような力任せに叩き切るような剣でもこれを会得しているかどうかで太刀筋が全く違う。

 頼光様に拾われた後に散々仕込まれたものよ」


 力の象徴のようなイメージを持つ彼だが、暴威の塊のような力を鬼をも斬る技に昇華している事は知っている。時々賞金稼ぎとして戦っている姿を見るのだけど、決して怪獣映画のようなドカンドカンとした動きではない。


「武術の指導ならば卜部が適任なのだがな……

 繰り返しになるがお前の場合は指導云々の前に走り込め。そんなんじゃ槍衾を担う兵にもなれはせん」


 朝から晩まで鍬を奮うお百姓さんは自然と武術の基本たる体が作られていくのだろう。日本の戦国時代は兵士の数がおかしいと言われるらしいが、それが所以だろうか。いや、農作業自体はどこも変わらないから別の理由なのだろう。


「ただ、単に強くなるなら呪術具や呪術を学ぶのも手ではあろうよ。

 部屋から出ずに呪い殺す術も力は力よ。

 或いは獣使い、妖異使いという者も居る。相応の修練はあるが、道の一つであろうな」


 テーブルの上で豆を食べているニーナが視線を受けて顔を上げ、翼の先で否定の意を込めて「無理無理」と振る。もしかするととは考えたけど、そこまで期待してはいない。あと動きの芸が細かい。


「結局のところ『何を目的に術を会得するか』が定まらねば教える側も困る。

 人間と戦うのに砲は要らぬ。鳥を落としたいのに斧を担いでも間に合うまい。部屋の中で要人を守る者が長槍を手にしては失笑を受けよう。そこを明確にすることだな。

 走り込みは別だぞ。全ての武に通ずる。妖術師とて最後は己の足で動いて避けるしかない。致命の一打を受けなければ反撃もできる。健康で体力がある。重要な事だ」


 もっともすぎる意見に反論の余地は無い。

 俺が力を得たい理由は『安全のため』であることは迷いなく言える。今のこの身としては自分だけでなくシノも安全でなければ自身の安全を守れない。

 俺が全く強くなくても、シノを担いで助けが来るまで逃げ続けられるのならば、それは十分な力と言えるのだろう。


「明確に強さを思い描けんなら体を動かせ。手を伸ばせば届かぬ距離も見えてくる。それを何で埋めるかはそこから考えればよい。

 お前に似合うとは思えんが、豪の剣、鬼斬りの太刀を習いたいと思うなら俺が教えてやる」


 体育会系の思考、というわけでもないだろう。お金でも権力でも同じことだ。


「他の武術なら、ここで知り合った賞金稼ぎ連中で─────」


 言葉の途中で巨体が後ろに飛ぶ。椅子をひっくり返しながら手は腰に。正面から見れば滑稽にも思えるが、彼の目に遊びは無い。やがて両の足を地に付くと同時に腰を捻って抜刀し、銀線を描いた刃が金属音を奏でる。


「物騒だな」


 豪の太刀筋に対して涼やかな音が余韻として残る中、金時さんは不快感を滲ませて言い放つ。

 大太刀と相対したのは折れなかったのが不自然なほど細い剣。それを手にするのはファンタジー作品のヒロインを張れそうな美人さんだった。お姫様然した顔立ち、過多になりすぎない程度に装飾された鎧が陽光に輝いている。


「お前が言うか……?」

「殺気を隠さずに近づいてくるのだ。当然の対応だろう?」

「ふん……。ヒデオ・ハタガワを知っているな?」


 問いのようで確信を持った言葉だが、問われた金時さんはしばしの沈黙。それから少しだけ首を傾げて言い放つ。


「いや、全然心当たりがない」

「誤魔化すか!」


 細身の剣が大太刀を道として滑り、女騎士の体を金時さんの懐へと走らせる。だが、そこに待っていたのは彼の左手だ。相撲のツッパリのような、或いは破城槌のような一撃が容赦なく彼女の頭を狙う。

 さらに一段姿勢を下げた女騎士の髪が指か、或いは風圧に負けたか結い上げている紐を散らし、綺麗な髪が宙に花咲いた。再度の上半身の捻り。右に握った太刀が風を巻くように奮われれば女騎士は左手を突きながらも横合いに飛んで間合いの外へと逃れた。


「怖い嬢ちゃんだな。容赦なく腹を裂きに来たぞ」


 大太刀を引き戻しつつ武士がぼやく。彼女の左手にはいつの間にか大きめのナイフが備わっていた。


「人の首を圧し折ろうとして何を」

「退いて話し合う事を選ばんからだ」


 どっちかというと金時さんが正しいと思う。先に仕掛けたのも金時さんだが、敵意丸出しで近づいてきたらしいのでそういう事なのだろう。

 しかしこのまま大通りで斬り合いを開始するのは不毛に過ぎる。差し出口かもしれないが俺は声をあげた。


「見たところ世界が違うみたいですけど、金時さんが知っているっていう理由があるんですか?」

「我らが神の気、その残滓を貴様らが帯びているからだ」


 突拍子も無い言葉に眉根が寄るも『貴様ら』という事は俺も含まれているわけで。

 となれば共通する人物には心当たりがある。


「昨日の小僧か」

「ですかね……。

 すみません、いきなり難癖付けられただけで名前も知らない勇者さんなら昨日会いましたけどその人でしょうか?」


 俺の言葉に今度は女騎士が眉をひそめる。それから暫し考えて金時さんから更に一歩分離れて剣を引いた。


「黒目黒髪で聖衣アーヴェルハーディエンと神剣ルーファイアスを持っていたはずだ」

「武具の名前は分かりませんが、目と髪の色はその通りです。

 『加護を受けた勇者』だと自称する人でした」

「……その男はどこに?」

「管理組合の詰め所に預けた。その後は知らん」

「詰め所? 警備隊のようなもの……か? どうやって」

「どうもこうも、普通にぶん殴ってだな」


 女騎士が信じられないとばかりに目を見開く。


「勇者を殴って倒したというのか……?」

「勇者か何かは知らん。俺から見ればお前の方が数倍強いように思えるがな」


 それは素人目に見ても同感だ。昨日よりも明らかに本気な彼の一撃に彼女は拮抗し、すり抜けて見せた。


「信じられん」

「信じるも信じないも、今の話で思い当たるのはそれくらいです」

「……どこに行けば会える?」

「PBは持っていますよね? 問い合わせれば回答は貰えるかと」

「一応中央の建物までは持って行ったぞ」


 手首のあたりに触れて沈黙。ややあって小さく頷き彼女はゆっくりと剣を収めた。


「情報には感謝しよう。しかしもし匿っているなら悪いことは言わない。引き渡してもらいたい。彼は大罪人だ」


 言いたい事を言うとさっと身を翻し中央へ向かって歩いて行ってしまった。金時さんの横を通り過ぎる時だけは緊張が垣間見えたが彼も動かずに視線だけで見送る。


「謝りもしないとはね」


 ヴェルメが気に障ったとばかりに不機嫌な言葉を漏らす。彼女は彼女で万が一に備えていたのだろう。いつもありがとうございます。本当に。


「貴族連中と同じだな。謝ったら島流しにでもされると思っているのだろう。

 死罪を申し付けられてなお、非を認める事をできん。心が歪んでいるでなく文化であり貴族の業だと頼光様は仰られていたが」


 剣を収め、倒した椅子を戻しながら大男が嘆息交じりの愚痴を漏らす。

 

「アッキー、また何かに巻き込まれたの?」

「その言い方だと、お前も巻き込んだ側だからな?」


 ふいっと視線を明後日に向ける鳥。


「勇者……英雄なのに大罪人ですか」


 相変わらず静かに様子を見守っていたシノがぽつりと呟く。

 それを珍しそうにしながらも金時さんは誰かを思い出しながら鼻で笑った。


「割とよくある話だ。権力者側の制御できん英雄は悪だと。

 頼光様や狐野郎に掛けられた冤罪など数えるのも馬鹿馬鹿しい」


 それらは部下である彼らにも及んでいるのだろう。忌々しげに、だが最早呆れている事だとばかりの様相で残ったサンドイッチを口に放り込んだ。


「ともあれ気を付けておけ。さっきの女は相当に焦っていた。

 追い詰められた貴族と同じだ。顔に余り出ていなかったが所作が荒かった。どんな行動に出るか分からんぞ」


 金時さんの冗談のかけらも感じない言葉に寒気を覚える。同時に物凄くいいタイミングでヴェルメがこちら預かりになったものだと苦笑を漏らす俺だった。

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