●四章-4.確認
ノンプロットでひょこひょこ書いているので過去の話と矛盾していないか怖くなります。
今回それで書き直しました(ぉい
※前回のあらすじ
・あの男は誘拐されて勇者になった人かもしれない
・神から与えられた能力は装備扱い
・ぶきやぼうぐはそうびしないといみがないよ(要 装備条件クリア)
-fate アキヒト-
エンジェルウィングス ロウタウン事務所裏手の駐車場兼整備場。
そこで俺は壁を見つめていた。
「ほい」
勿論理由は分かっている物の、ただ壁を見つめる行為というのは虚しさというか、余計な事を考えすぎて悲しくなってくるのは俺だけだろうか。
そんな良く分からない感傷に捕らわれつつある背中にニーナの軽い声が響く。
「どっち?」
「どっちって……」
繰り返すが俺は今壁を見ている。コンクリっぽいけど違うような、でこぼこの全くない灰色の壁が視界一杯にあるだけだ。
「シノっち、ちゃんと見てる?」
「……見ています」
「うーん? じゃあ無意識でなく、伝えようとしたりできないのかい?」
「……どうなのでしょうか?」
ニーナと同じくらいの距離で交わされる会話。無関係ではないのだけど距離が蚊帳の外感を作り出している。
「緊急時限定とかかね?」
「じゃあ、攻撃する?」
「ちょっと待て!」
どこか他人事のようにぼうとしていたらとんでもない発言が飛び出したので慌てて振り返る。あの鳥に限っては本気でやりかねない。
振り返った先、約五メートルほどの距離を隔てて左羽をぴんと開いたニーナと、それをじっと見るシノの姿がある。
何をしているかと言えばニーナが片羽を挙げる姿をシノが見て、俺に伝わるかという実験である。御覧の通り結果は失敗のようだが。
お互いの感覚が分かるようになっているとは大分前にマッチョメンから言われたが、今の今まで忘れていたほどに実感が無い。シノに読まれて不味い感情を抱いた事が無いか、慌てて記憶を精査したほどだ。
コホン。
今日までシノの感情がテレパシー的な何かで伝わったという感覚に覚えはない。
「そういえば祭りの戦いはちゃんと認識できていたんだろ?」
「まっち……医者の言う通りならシノの知覚を借りてたかもって事だけど」
あの時は低スペックな俺の体が付いていかなかったからか最後に気を失う事になった。その事例からすればシノと俺の見聞きした情報が共有できることはほぼ間違いないだろう。
それが常時発動していないことはほぼ間違いないが、切り替わったタイミングにも実感は無い。
「シノの方でオンオフはできないのかい?」
「……すみません。よくわからないのです」
ヴェルメの問いにシノは俺の顔をじっと見る。
確か、祭りの時に俺が問えば、シノにも自覚が無いような回答だったはずだ。俺に掛けられている使い魔を作る術は本来死体を使ったものということだから、許可を採る事も拒否される事も想定していないのかもしれない。
「無意識にやってるってことー?」
「だとすれば、シノが必要と思った時に作用しているのかもしれないねぇ」
「無自覚ならシノっちが焦った時とか?」
全員の視線を受けて少しだけオドオドとした動きを見せるも表情はほとんど動かない。その内心が届いてくる感じもしない。俺が鈍いだけなのか、行動に出ていても心はさざ波程度しか揺れていないのか。後者のような気がするなぁ……
「アキヒトはあの男に気付いてからもあまり警戒はしてなかったように思えるね」
「でもシノっちがあの男をすっごい雑魚って思ったのが伝わったの?」
「弱いとは思いませんでした」
「そなの?」
「『ちぐはぐ』と言ってたからね。強さを感じる部分もあったってことじゃないかしら?」
「そう、だと思います」
「それで曖昧な情報を受けたアキヒトが間違った判断を下したってことかしらね」
記録を見ながらだろうか。ヴェルメが言葉を紡ぐ。
シノが俺をじっと見続けているのは何かを伝えて見ようとしているのだろうか。俺もシノを見返すばかりだがそんな兆候はやはりない。
「シノがどう思おうともアキヒトの思考が乗っ取られたわけじゃない。そういう事さね?」
「じゃあ結局アッキーの油断だよねそれ」
「返す言葉も無い」
結果を見ればヴェルメが圧倒できる相手だったからシノから「弱い判定」的な何かを受けていたとしてもそれは正しい情報だ。ならばニーナの言う通り俺の判断ミスに他ならない。
ひとつ深呼吸。
やはり俺は臆病くらいで丁度いい。
詳細はマッチョメンに後日相談するとして、気持ちを改めるようにしよう。注意一秒怪我一生。
一秒も持たない化物が普通にそこらを闊歩しているのがこの街だ。そう思えば随分気安くなったものだなと苦笑が漏れた。
「っていうか、アッキー、鍛えようよ?」
「考えておく」
「それ、やらない人の台詞」
天井どころか一段目が高すぎて手を伸ばす気にもならないんです。
……言い訳だけどな。
「さっきのトミナカの言葉なら、魔法はうまく使えるんじゃないのかい?」
「ああ、地球世界系の大体の人間は体が魔法に適していないそうです。世界や素質に大きく左右されますよ」
窓の向こうからトミナカさんのコメントが飛んでくる。魂の格がどうであれ能力は体に左右されるの法則か。しかし、先日であったお人形さん。もといティアロットさんの話で俺の世界で魔法の存在が判明している。もしかしてワンチャンあるのかもしれない……のか?
「ただ、このターミナルであれば地球世界で訓練するよりは素質に左右されないはずです。
挑戦してみるのも良いかもしれませんね。
さて、そろそろヴェルメは点検を受けてください。ミュスフェルさんも含めて何時まで経っても帰れませんよ」
「はいよ」
自分で車庫の方に向かうヴェルメを見送り、俺たちもいい加減制服から着替えるべく事務所に戻る。
「千里の道も一歩から。存外一歩を踏み出せば行きつくところまで行くものですよ」
書類をトントンとまとめるトミナカさんが微笑みながら告げる言葉に俺は視線を泳がせ、苦笑いと共に頷きを返す。
「良い先生が居たら教えてください」
「この街は強い人は多いですが、良い教師は少ないのですよね……」
なんとなく感じていたことだが、どうやら間違っていなかったらしい。天才過ぎて凡人には理解できない的な人や人間と性能が違い過ぎて参考にならない人なら俺にだって心当たりがありすぎる。
「ちょっと聞いてみますよ」
「ついで程度でお願いします」
「紹介したらアッキー断れないから惰性で入門するに一票!」
「着替えるからそこらに居ろ」
余計な、しかしとても正しいコメントをする鳥の首を掴んで机に置くと、俺は着替えるべく更衣室に向かうのだった。




