●四章-3.異世界召……誘拐?
何で地球の神様は異世界召喚されてもオールスルーなんですかね?
って多分思った人は少なくないと思うんだ。
もちろん「こまけえことは良いんだよ」の精神で作品は楽しむべきだと思います。
※前回のあらすじ
・シノがナンパ?された
・ナンパした自称勇者ドナドナされる。
-fate アキヒト-
「アキヒト、あんた体調でも悪いんじゃないだろうね?」
午後三時過ぎ。今日の仕事が終わって事務所に到着すると同時に訝しそうな問いが向けられた。
「体調? そんなことは無いと思うけど……」
「ただの油断って言うなら怒るけど……人一倍心配性のあんたらしくもない。
その鳥に何か悪影響でも受けているわけ?」
「アタシは無実だー!!」
ばさばさと翼をはためかせて抗議するニーナ。もちろん頭に留まったままなので鬱陶しいことこの上ない。
ヴェルメが言っているのはあのナンパ野郎(?)の一件だろう。俺らしくないと言われると少々戸惑うが、自分でも少なからずおかしいと感じる部分はある。
どうにも形にならない言葉を探しながら暴れるニーナを押さえつける。
「実際どうなんだ?」
「アッキーまで!?
あたし防御はしても干渉はしてないもん」
「本当にかい?」
「むきー!」
ヴェルメが重ねて問うほどに俺の行動は心配をさせてしまったようだ。
確かに、帯剣した武装状態の男に敵意を向けられていたのに全く身構えていない。それどころかヴェルメが居なければ首を飛ばされていたかもしれない。ヴェルメの防御は信頼しているけど、言い訳になるレベルでない迂闊さだ。
どうしてそこまで警戒を抱かなかったのか……あの男がそういう能力を持っていたというのは都合の良い考えにすぎるし、精神的な干渉ってやつになるだろうからニーナの対応範囲内のはずだ。
「……張りぼて」
あの一件を思い起こしながら不意に口からこぼれた言葉。
そう、あの時俺は全く恐怖を感じていなかった。敵意を向けられているのに。剣を抜かれそうになってなおその感情……侮り? は消えていない。
「張りぼて?」
背を掴まれて押しつぶされたままのニーナが復唱する。ちなみに大して力は入れていないので苦しくはないはずだ。逆に鉤爪が少し頭に刺さって痛い。いい加減無理にでも爪切りするか。
「何と言うか……その、見た目と違い過ぎるというか、俺よりも強いのは間違いないんだけど……」
言葉が定まらない。見た物を見た物通りに表現できない。思いつく言葉のどれもが自分で否定してしまう。
「ニーナ。あの男、強いと思ったか?」
「弱いよ。あたしでもラクショー。
アッキーよりは強いと思うけど」
迷わずの断言に苦笑が漏れる。悔しさを感じないのも問題なのだろうか。
「弱い、ってのは間違いないね。速度は別だけど動きはどうにも素人臭かった。
でもその鳥の言う通り、アキヒトが油断して良い相手じゃなかったはずさね」
共に辛辣であるが、俺の認識と一致する見解だ。
この数か月の間で見てきた人たちと比べて素人目に見ても弱い。けれども一般人を地で行く俺よりは明らかに強い。つまり俺は侮ってはいけない相手だ。
「どうしました?」
帰ってきても事務所内に来ない事を疑問に思ったか、トミナカさんが窓から声を掛けてきた。
「トミナカにも話を聞いてもらうかい?」
「そうだな。我が事ながらどうにも言葉にならないよ」
ヴェルメが起きたことを簡潔に纏めて伝える。改めて聞くと本当に迂闊な事をしていると思う。
静かに聞いていたトミナカさんは「怪我はありませんね?」と先に問うて来てから顎に手を当てた。
「二つほど気になる事がありますね」
「なんですか?」
「一つはその男性、日本語を使っていましたか?」
予想外の質問でもあるが、言語の加護が当たり前になりつつ俺には思い返しても判断が付かない。
変わりにヴェルメが「そういえばそうだね」と応じる。流石は機械データ。人間の記憶でなく記録なのですぐに確認が取れたのだろう。
「なるほど。次にシノ君」
「はい?」
自分に話が回ってくるとは思っていなかったのか、後部座席に座ったままのシノが少しだけ声を上ずらせた返事をする。
「君はその男性についてどう思いましたか?」
「……ちぐはぐ、でした」
「ちぐはぐ? アキヒトの言ってた張りぼてと同じような意味かい?」
「……似たようなものかと」
「なるほど。
あくまで私の推測ですから次の診察の時に医者には報告してください」
トミナカさんは丁寧にそう前措いて続きを口にする。
「シノ君の分析をアキヒト君が受け取り、自分の感想と混ぜてしまったのではありませんか?」
トミナカさんの言葉にシノが身動ぎした。
「ああ、これはシノ君が悪いとかそういう話じゃないよ。
特に被害が無いときに分かって良かったと、そうなるかもしれない話だね」
とりあえずと、トミナカさんは柔らかく微笑み、
「まずは降りたらどうだい?
入口付近ならヴェルメにも声は届くからね」
そういえばまだヴェルメに跨ったままだ。そそくさと降車し、地面を踏みしめる。
シノも見えない足場を使って降りる。こちらへ視線を向けないようにしているのはトミナカさんの一言を気にしているからか。
「まず君が遭遇した人については恐らく拉致された地球世界人だね」
「え?」
拉致という言葉に面食らうが、トミナカさんの言葉を反芻すると思いつく単語が一つあった。
「異世界召喚ってやつですか?」
「そういう言い方もできるけど、推奨はされていないね。実際誘拐と何も変わらないから。
中には神々が交渉の上で魂をトレードすることもあるらしいけど」
「魂の格が高い方がとかそういう話ですよね?」
「そう。おおよそ根源世界に近いとされる地球世界は他の世界よりも早期に生まれている事が多く、傾向として魂の格が高い場合が多いと言われているね」
ダティアマーカさんに聞いた話だ。性能の高い魂は性能の高い体を動かせる。世界の創造主である神種にとって優秀な肉体を用意する事は優秀な魂を育てるに比べて格段に簡単なのだろう。確か魂の格が高いと魔法も強くなるって言ってたからファンタジーの世界なら俺でも優秀なのかもしれない。
いやまぁ、地球世界の全てがすべてそうではないらしいので、期待は抱かないようにしよう。俺の場合は模造品のようなものでもあるし。
「中には……言葉は悪いですけど種馬として引き入れることもあるということです。
神種は世界から離れられない事が多く、一度攫われてしまうと取り返しづらい事も助長して、『スリのようなもの』と評されていましたね。
この世界が生じ、神々もアバターを使って交流ができるようになった昨今、この問題は大きく取り沙汰されているそうですよ」
或いはこの世界の『扉を開く』という行為も拉致の一つではないかと思ったが、現状神種にとっては有用な世界として扱われているのかな。
「今日遭遇した奴もその一人、と?」
「言動や『勇者』というワードからすれば可能性はありそうですね。
選ばれた者を『勇者』と呼ぶのは日本特有の事らしいですよ」
「どういう事ですか?」
「普通は英雄や英傑。英語でいう所のヒーローだね。
勇気ある者なんて戦士なら当然。日本に限ってはテレビゲームの影響で勇者と言う言葉に特別な意味が備わったって所だね」
俺じゃなくても知っている某RPGシリーズの事か。
確か勇者の方はブレイバーって評している英訳もあったっけ。和製英語の方かもしれないけど。
「どうにも日本人というのは地球世界の中でも特異らしくてね。非常に誘拐……かどわかしやすいらしい。内々に不満を抱え込んでいるから応じてしまうそうだ」
「応じたのなら拉致じゃないのでは?」
「神種にとってはそうも言ってられないね」
魂というのは創造系神種の一部。勝手に出ていかれては困る、か。
「ターミナルの特性上、使命を果たした勇者の前に扉が現れるケースがあってね。
その彼はそういう流れてこの世界に来たと思われる。
それなら『ちぐはぐ』や『張りぼて』という感想を抱いたことも推測が付く」
話が繋がらずに眉根を寄せる。
「与えられた力で好き勝手した後にこっちへ着て、この世界のルールに縛られて力をうまく扱えない状態になっているってことかい?」
「好き勝手かどうかわからないけど、その力に頼り切りだったのだろうね。
『与えられた力』というの『本人の力』でなく、武器や防具と同じ扱いになることがあるそうだ。
その場合、扱うための能力が足りず、上手く扱えなくなるケースがあるのだと」
彼の言動からここ数日、もしくは今日この地に降り立った可能性は高い。まだ現状を理解しないまま俺tueeeeee!感覚で居たと。
「誘拐はさておき、今の問題は彼にその力が宿ったままであるだろう点だね。
つまり修練で扱えるようになるという事だ。
管理組合から照合確認が行っているだろうけど、こちらからも本部に連絡を入れておくよ。逆恨みしかねない性格でもありそうだからね」
言われて怖くなった。俺はあの男を『漫画で見た やられ役』と評したが、まさにそのものの性格であれば不意打ちでも誘拐でも正当性をこじつけてやってきかねない。配達中はヴェルメと制服の防御があるが、私生活は無力な一般人のままだ。
「くぁああああ」
今更抱いた不安をあざ笑うかのように、話に飽きた鳥が大きな欠伸をする。自分でも楽勝と言いながら戦闘面では期待するなとも称しているので、いざというときは上空に逃げそうだな、こいつ。
「丁度いいと言っては何だが、前から提案しようと思っていた件があってね。
アキヒト君、ヴェルメを私用でも使ってくれないかな」
安全策を考え始めた俺にトミナカさんがそんな提案をする
「え?」と声を漏らしたのは俺だけだ。ヴェルメが何も言わないのは先に話を聞いていたのだろうか。
「もちろんヴェルメがエンジェルウィングス所属であることは変わらない。ただ、君たちが傍に居ないと意味がない事は今更言うまでもないだろう?」
「そうですけど」
「その代わりと言ってはなんだけどね。今後は一時間早く出勤して郵便順組み立てもやってもらいたいんだ」
年賀状配達の経験のある俺はそれが何の作業を指しているかは察しがついた。というか言葉の通りだ。移動ルート順に手紙を並べ替えてカバンに詰める作業で、これをしておかないと町中をぐるぐる回る事にもなりかねないし、一度行った家にもう一度行くはめにもなりかねない。郵便局だと配達順を記したカードがあって、その順に並べてから配達する。それが郵便順組み立てた。今まではトミナカさんがやってくれていたようだ。
「というのもね、ここ数か月で結構郵便物の量も増えてきたんだ。
それに伴って事務作業が増えてきていてね、できれば助けてほしい。
その一時間があればヴェルメのメンテも十分できるからね」
ヴェルメにとっても行動範囲が増える事は望む所だろう。もはや口に出すことは無いが、彼女が決して諦めていない事は察している。
「出勤ペースは今の所変更無しで大丈夫かな。
君の立場上社員になるかというお誘いは控えておくけどいつでも大歓迎とは言っておくよ」
「社員になると何か変わるんですか?」
「お給金が増えるくらいかな。出勤日で無理をお願いしやすくなるかなというのは私の皮算用程度で今の状況なら大して変わらないよ。
会社的には囲い込んでおきたいというのが第一の理由かな」
日本でも郵便と宅急便があるように即配達を売りにした小さな運び屋は既に存在しているらしい。エンジェルウィングスに喧嘩を売るような真似はまだしないだろうけど、「まだ」でしかない可能性も捨てきれない。
「……わかりました、ヴェルメの件はありがたく受けさせてもらいます。
足としてもありがたいですし」
「ニュートラルロード以外の交通機関もまだ検討段階らしいですからね。
では次回に組み立てをレクチャしますので。まぁ、PBのフォローもあるので気負う程のものでもありませんけどね」
本当にPB様様である。
湧いて出てきた問題に不安は覚えるが、この街が危険な事は今に始まった事でもない。今が慣れてきた一番危ないころなのかもしれないし、気持ちを入れ替えよう。
ともあれニーナに続いてヴェルメもうちの居候のようなものになる事になったのだった。
……さて、無表情ながらも浮かないように見えるシノのフォロー、どうしようかな……
【クロスロードの居酒屋での会話】
神A:魂の一つ二つ誘拐するのはまだいいんだ
神B:腹立たしいけどな。
神A:どっちかというと処理できなくなった魔王とか魔改造した勇者()を投げつけないでいただきたい。
神B:ほんそれ
がん細胞叩き込まれるような物ですからなぁ




