●四章-2.ナンパ?
二千文字じゃ少ないなと思ってたら倍くらいになった。
うん。
※前回のあらすじ
・27号はニーナという名前になりました
・ウォーカーズナイトの景品の一つは卓上ゲーム詰め合わせ
・シノとニーナの頭に付いていけないアキヒトさん。
-fate アキヒト-
昨今の配達風景は少々シュールさが増している。
言うまでも無くニーナが俺の頭の上に鎮座しているからだが……さすがはクロスロード。三日もすれば誰も突っ込まなくなってしまった。
ちなみに普通に鳥の重量はあるので変に振り向いたり俯いたりすると首へのダメージがあるので注意が必要だ。
「なぁ、本当に頭に座る必要、あるのか?」
「信じよ。されど救われん」
「ダメじゃねえか!?」
振り払うように頭の上を薙げば、縄跳びするようにジャンプしてかわす。鳥の身になっても運動能力は俺よりも高い。本気で逃げるニーナは飛ばなくても捕まえられない。
「シノが静かな分、丁度いいのかねぇ」
どこか呆れたようなヴェルメの声。なお、遭遇初日はいつもの勢いと好奇心のままにくちばしで突かれまくった結果、キレてニーナを潰し謝らせたという一件があった。そのせいでヴェルメの上に乗るのを避けている気がする。流石に不可視の攻撃は対処できなかったようだ。
「頭がダメって言われても、アッキー肩幅狭いし、なで肩だし、ひよひよだし?」
「悪かったな」
ニーナサイズになるとアメフトやってるようながっちりとした人じゃなければ厳しいだろう。あとノンストップでしゃべり続けるので耳元が五月蠅いことこの上ない事になる。鸚鵡かお前は。
「っと、次か」
次の目的に到着し、ヴェルメが停車する。慣れた体はさっと降車して手紙を取り出す。宛先と店名を確認し、店の扉を開く。未だにクロスロード内での配送先はニュートラルロードを主とした大通りの店舗や事務所がほとんどだ。一週間に一度くらい個人宅当てがあるものの、大体は異世界からの手紙だったりする。それはそれで感慨深いのだが、ともあれ今の所クロスロード内での手紙のやり取りというのは余り無いようだ。携帯電話等遠距離通信が使えないため、需要が無い事もないのだろうが、広くても町一つの中。会おうと思えば会えるのだから手紙を出す意味は薄いということか。
「ごめんください」
「「あいよ。ああ、お疲れさん」」
開けてすぐのところで商品の整理をしていた双頭人の店主が振り返り、封筒を受け取る。
「まだ暑いのに外回りは大変そうだねぇ、右の」
「夜に配ればいいんじゃないのかい? 左の」
「開いてない店があるだろ? 非効率さ。右の」
「なるほど確かに。そういう事かい?」
「ええ。ケイオスタウン側だと夕方から配送開始らしいですよ」
俺の回答に「「ほう」」と声を漏らす。
不夜城のクロスロードだが、電気の無い世界の人たちの中には『日が暮れたら寝る』習慣を変えていない者も多いのだ。探索者の多くは飲み明かすため夜遅い者も多いのだが、関係ない飲食店以外の店舗主は早く店を閉める傾向にある。
「じゃあ、これで」
「おう、気を付けてな」
「がんばりなよ」
そんな声を背に受けて店から出る。彼(ら?)の言う通りカッと照り付ける日差しは九の月が見えてきた今日この頃とあっても衰えることは無い。少しだけ目を細め、停車していたヴェルメに戻ろうとして
「気に入った。俺の女にしてやる」
いきなりの言葉に俺は目を丸くする。
……もちろん俺が言われたわけではない。このクロスロードならわりとあり得るので念のため。性別は男女だけに限らないのがこの町だ。
それはともかく、不遜を体現したような薄ら笑いを浮かべ、シノに言い放ったのは成人前後の人間種だ。軽装の騎士と表現したら良いだろうか。剣も腰に下げている。
「なになになーに?」
ニーナのお気楽声に我に返る。シノがこちらに気付いて視線を向けているし、立ち尽くしているままとはいかないだろう。
「ヴェルメ、これ、どういう状況なんだ?」
「ここにいたアタシが分からない状況さね」
「何だ?」
それでもヘタレてまずヴェルメに声をかける。しかし敵意ですらない、鬱陶しい蠅か何かを見るような視線で男はこちらを睨みつけてきた。剣呑だ。しかしどうしてか不思議と怖さは感じない。するとそんな考えを察せられたのか、剣呑さが一段階上がった。
「なんだも何も仕事中で、ウチのバイクだよ、それ」
「アァ? 知るか鳥頭。すっこんでろ」
鳥頭とは失礼な。そして否定できない頭の上の鳥よ。
……男の目が一瞬妙な輝きを宿したのは気のせいか。疑問に思っているとニーナが俺の頭を小突く。そうだ。目の前のをなんとかしないと。
「突っ立ってないで。さっさと消えろ
怖気づいて動けもしないのか?」
「ねね、アッキー。そいつ、魔法で干渉してきてるけど?」
男の威圧を他所に小声で鳥がそんな事を言ってくる。小突いたのはそれを伝えたかったようだが俺が全く察しなかったので直接声に出すことにしたらしい。
「魔法って、さっきの変な感じか?」
「うん。レジストしておいたけど多分要らないくらい」
「レジストだと?
お前ごときが?」
聞こえたらしい。青年がゆらりと身を翻し、こちらに相対する。
別に進学校でも無かった中高時代。昭和時代のそれとは違うが不良のカテゴリーに分類すべき生徒は何人か居た。雰囲気はそれに近い。自分が上位者であることを疑わない、しかし何一つ根拠は無く、その威勢を保つ事が全て、そんな感じ。
一応言っておきますけど避けていましたよ。ええ。喧嘩の経験なんて小学生以来覚えが無いからな。
流石にそういう人間が目の前で威圧してくればビビる俺だと思っていたのだけど……
「アレに比べれば」という事例を何故か複数回経験してきた俺は思った以上に動じていない。
慣れって怖いな。
様々な「アレな」回想を思い返すが、しかし結局傍観者だった自分に解決策は無い。どうしたものかと悩んでいる間にも彼は魔法か何かで威圧してきているのは分かった。しかし通じていないのは明らかで、青年の表情に困惑が滲み始める。
「お前って結構役に立つのな」
「えへん
って結構ってひどくなーい!?」
ついそんなやり取りをしてしまうくらい心には余裕があった。
その瞬間、背筋にぞわりとした寒気が走る。同時にぐしゃりと生々しい音。驚いて正面を見れば砕けて血に塗れた拳が眼前にあり、「ぐぁあああああ!?」と苦痛の叫びを上げのけ反る青年の姿があった。
「アキヒト、流石に気を抜きすぎよ」
ヴェルメの窘める声。青年が問答無用で殴り掛かってきたのを防いでくれたようだ。
「助かった。
見ていても避けられる気しないけど」
「そういう問題?」
「ま、マジックアイテムか! 卑怯な真似を!
恥ずかしくないのか!」
なんだろう、この、なんだろう。
血走った目。殴り掛かった結果自爆してなお、圧倒的上位者であるような立ち振る舞い。
このシチュエーションとても覚えがあるような……
「ああ、この前読んだ漫画の、やられ役の台詞」
「貴様ぁあああああああ!!」
迂闊だった。ヴェルメとニーナが居るからという油断もあったし、今までの修羅場(巻き込まれただけ)のせいで変な度胸がついてしまったのもいけない。
いや、全部まとめて自分の油断なんだけど、この男の行動がどことなくシュールというか、ちぐはぐなのだ。眼光も威圧感も確かにある。でもそのどれもがハリボテの演技のように見えてしまう。
後から思えば呑気な思考をしている俺の前で男は左足を引きながら剣に手を走らせていた。拳の傷をものともせず、抜刀術のような振り抜きざまの一撃を首目掛けて放とうとしている。
それは分かった。しかし勿論俺の一般人スキルではとても回避できそうにない速さだ。しかし同時にヴェルメの「はぁ」というため息のような声が応じた。加速を始める手首が押し留められ、彼の行使しようとした力が手首に大変痛そうな音を強要する。ぐぎりと、まるでアニメのSEのような音が耳に届いた。
「ぎゃぁあああああ!?」
どれほどの力を込めていたのだろう。止められた手首を軸に体が回転し、痛みのせいでバランスを崩して足元に転がる。近くにいるとまだ何かしてきそうなので俺は慌てて距離を取った。
改めて青年を見る。黒目黒髪の黄色人種。つまり日本人的な風貌だが、身に着けているのは先ほど見た通りファンタジーの王道を行くような装備だ。普通の兵士や騎士は付けないだろう中途半端な鎧が更に漫画然とした雰囲気を醸し出している。
「なんなんだよ一体……」
「本当にねぇ」
「貴様、よくも……よくも……!」
手を突いて起き上がる目はヤバイくらいに血走っていた。人殺しの目という表現が正に当てはまる。
「よくもって……アンタの自爆じゃない」
「さっきから声だけで……!
卑怯者め、姿を見せろ!」
ここはニュートラルロードだ。これだけ騒げば流石に野次馬も集まってくる。そんな人々が堪え切れずに爆笑した。そりゃそうだろう。何だかんだこの通りでは俺たちはエンジェルウィングスのスタッフで、ほぼ毎日この通りをヴェルメという目立つ手段で走っているため有名人だ。
ヴェルメがすぐそこに鎮座していてのこの発言は本人の必死さと合わさって、笑いを誘うには十分過ぎた。
「アッキー、こいつ面白い」
「面白いで済めばいいんだけど……」
気になるのは起き上がりざまに突いた手。剣を握った時もそうだが、捻るか、最悪折っていたはずの手はすでに元通りのようだ。再生というレベルの回復力は果たして本当に人間種なのだろうか?
「警告するよ。
これ以上業務妨害するならあんたにエンジェルウィングスの名前で賞金を懸ける」
「ハ! 今度は国家権力か! つくづく卑怯な!」
「国家って……」
まぁ、予想はしていたが昨日今日ここに来たばかりらしい。
腕には一応PBが備わっているので説明くらいは受けたはずだけど、理解している様子は無い。あっちのPBさんは警告とかしないのだろうか?
「おう、アキヒトじゃねえか。
往来で何をやってんだ?」
どう場を収めるべきか。当初からの難問に未だ答えを出せないまま困り果てた俺に人垣より頭一つ大きな男が顔を出し、声を掛けてくる。
「あれ? 金時さん。こんにちは」
「おう。どういう事態だ?
その男は殺気ばら撒いているが」
「ええ、まぁ……」
新たな人物に殺意のこもった眼光を向けた青年だが、パァンと小さな音を響かせて尻餅をついた。
「なんだ?」
「なんだって、金時さんがやったんじゃ?」
「いや、鬼の威圧みたいのが来たと思ったから返しただけなんだが……
それで倒れる道理が分からん」
ぼりぼりと首の後ろを掻きながら近づいてきた武士はしゃがみ込んで青年を観察しようとすると、先ほどまでの威勢はどこへやら、立ち上がる事もできずに金時さんから距離を取ろうと後退った。
「……珍妙な奴だな。妖術の類で身体強化をしているようだが」
「よ、妖術だと! ふざけるな! これは選ばれし勇者に与えられた加護だ!」
「ふむ? その勇者とやらが往来で寝転び何を騒いでいるのだ?」
煽るわけでもなく嘲るわけでもなく、本当に純粋な疑問としての問いに青年の顔が信号機のように赤くなる。
「い、言わせておけば……!」
「まぁ、どうでもいいか。
アキヒト。酒呑童子が頼光様に渡した酒の仕入れ先を知らんか?」
怒りに満ちた視線をあっさり無視され気色ばむ青年。しかし金時さんどころか誰一人として彼を警戒する様子は最早ない。実際威勢は見せても腰を浮かせることすらできないようだ。
「え、えっと……シュテンさんに直接聞けば良いのでは?」
「ふた月かそこらでそう気安くできるものか」
「シュテンさんはまったく気にしないと思いますけど……
あ、トミナカさんなら知っているかも」
「本当か!?」
話を弾ませる金時さんだが……足元の青年、どうしよう。
本当にどうでも良いらしく既に存在すら忘れ去っているようだ。
「飲み仲間らしいので」
「そりゃ期待が持てるな。悪いが分かったら教えてくれ。
あと、このガキはどうするんだ?」
「あ、忘れてなかったんですね」
「未だに殺気を放っておるからな。動けば首の一つも捩じ切ろうと思ったが、それだけの胆力も無いらしい」
酒の相談の続きのように物騒なことを言う平安武士。
「賞金の仮申請しておくから詰め所に連行してくれない?
報奨金が出るはずよ」
「おう? そうか。じゃあやっておこう。
酒の件、頼んだぞ」
言いながら身を翻し、顔面くらい軽く掴んで握りつぶせそうな手が握りこぶしを作る。
滑らかな動きで曲線を描いたそれは何の躊躇も無く青年の腹に突き刺さるのを俺は呆然と見るしかない。食らった青年すらその無駄の一切ない拳の軌道を呆けたように見つめていたくらいだ。
恐らく俺が食らったら内臓破裂の上に背骨まで折れただろうが、流石に戦士らしい青年。吐しゃ物をまき散らしてぐったりするに留まった。
「なんだだらしない。
腹に力を入れる事すらできんのか」
失敗したとばかりに眉根をひそめた彼は、吐しゃ物に触れないようにベルトを掴んで持ち上げる。
そのまま荷物を運ぶかのような適当差で彼は軽く手を挙げ去っていった。
「なんだったんだ、結局?」
「シノが告白された……って言わないわね、あれは」
「どこかの貴族か何かかな……勇者とか言ってたけど」
野次馬も解散していく中、いつまでもここに居ても仕方ない。
気にはなるがもうどうしようもない。
さっさと仕事を済ませるべく、俺は頭を切り替えてバイクにまたがるのだった。




