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●二章-24.再戦と今宵の決着

アキヒトの目が追い付かないと言ったな。

あれは本当だ


※前回のあらすじ

・たそかれさんお久しぶり?

・頼光Vs酒呑童子 開戦

-fate アキヒト-




 不思議なほどに静かな戦いだ。

 シュテンさんの鉄塊のような剣は暴風のように振り下ろされているのに、頼光さんの太刀は金属音の一つも奏でることなくその威力を受け止めている。


「正直な、お前と戦うのは嫌いだったんだ」


 まるで世間話を始めるかのように、平坦な声音が鬼から放たれる。


「その武器はこちらの武器をあっさりと割る。その権能は容赦なく鬼の力を削ぐ。

 そこまで有利なくせに、てめぇときたら狂ったように斬りかかってくるだけだ。

 いや、本当に狂っていた。鬼の前で狂うなよ。そりゃこちらの領分だ」


 無造作に、しかし一撃一撃は人の体を容易くミンチにしてしまうだろう。それを継ぎ目無く振り下ろし、斬り返し、横薙ぎに変じさせながら鬼は言葉を重ねる。


「まっとうなら俺はとうの昔に首を獲られていた。重ね重ねそう思ったもんだ」

「口数が多いな」

「聞きもしない相手に言葉を重ねる意味がなかったからな。

 俺が寡黙とでも思っていたか?」


 唐竹の一撃を頼光さんは受けるように見せて流して避けた。そのまま懐に滑り込み、淡く輝く太刀を鬼の腹に振りぬこうとしたところで空けていたシュテンさんの手が無造作に伸びる。刃の方が先に届くだろうに頼光さんは咄嗟に下がる。空を掴んだ手を引き戻しつつ大太刀を肩に担いで鬼は僅かに膝を落とす。


「ああ、思った通りだ。お前が頭働かせて戦うならそこに剣術が加わる。

 こうなれば最悪だ。ただ当てるだけ。その獲物に触れればそれで大怪我なんてインチキに過ぎる」


 大太刀を頼光さんに突き付けて鬼は笑みを濃くする。


「だから対策はさせてもらった」

「それがその奇怪な大太刀か?」

「おうよ。銘は『光明喰い』。エンチャントの効力を食らう武器だそうだ。

 それ以上にお前の武器でも割れん刃だ」


 まるで玩具を自慢する子供のように、シュテンさんは楽しげに語る。


「ついでに術もいくつか学んだ。

 鬼は呪う以外の術を苦手とするが世界は広い。俺に合う術というものがあってな」


 シュテンさんが踏み込み、半分の距離を詰める。頼光さんがすかさず突きの構えを取ろうとして僅かに息を飲み半歩後退。鬼の二歩目が空中を踏んだのだ。突きでは当たらない。鬼の次の一歩は前のめりになりながらの跳躍。宙で反転しながらその足が天を向いたところで踏みしめた。


「小細工程度だが、奥が深い」


 反転した巨躯。見えない足場で曲げられた膝。太ももの筋肉が速度と膂力を溜め込む。

 ぎらりと鬼の双眸が闇夜に輝く。担いだままの大太刀がそれを引き継いだかのように輝きを見せる。

 大上段に構えようとし、咄嗟に手首を捻って切り上げ───逆袈裟の一撃が振り下ろされる大太刀と交わり、がぎんと、初めて金属音を響かせた。


「相殺……武を殺し、力を殺し、技を殺すその技に、拍子を読めない攻撃は厄介だろう?」


 堪えたのは一瞬。流石に無理が過ぎたのだろう。腕が沈み、膝が沈む。それでも体を捻じり太刀に火花を散らしながら体を逃がし、大太刀の一撃を地面へと逸らす。鬼は地に着くなり掬い上げるように体当たりを入れた。続けざまに浮いた体へ空いた左拳を叩き込む。もはや体勢もあったものでないはずなのに、頼光さんは太刀の柄を拳と体の間に滑り込ませる。

 左足が地を噛み、体を前に倒しながらも刃を追撃と迫る鬼へと向ける。


「今しがた削ったばかりだぞ?」


 鬼の手が刃を掴み、捻じる。

 ジ、と焼けるような音。鬼は眉根を寄せてそれを突き放つ。


「ううむ。力を削いでなおこれか。しかも刃の鋭さはこいつでは食えぬか」


 確認した手に焼け焦げたような跡。それから刃で傷ついたのか血が流れだしていた。

 見逃された形になった頼光さんは予備の小太刀を抜こうとして、ぐらりとふらつく。


「なぁ、頼光」


 再び大太刀を担ぐようにして無造作に武士へと歩を進める。


「ここに残れ。お前なら半年で俺に追いつくだろうよ」

「何を」

「京は住みにくかろう。いや、あの世界は住みにくかろう?」


 シュテンさんの背が青や赤の光に照らされる。百鬼夜行の本隊がここまで辿り着いたのだ。大蜘蛛の上に昨日と同じ姿となった狐が居て。彼女の周りの火が二人を煌々と照らす。


「この世界は、お前に向いているぞ?」


 頼光さんから鬼気迫るような圧が薄れる。しかし立ち上がった彼は両の手で太刀を握り、構えをとる。が、限界は誰の目にも明らかだ。無造作のひと薙ぎで木っ端のように吹き飛ぶだろう。

 呆れたように武士を見た鬼は嘆息のようなものを見せたのち、大太刀をゆらり上段へと持ち上げようとする。


「大将」


 決着の一手。その瞬間を刹那に迫ったタイミングで二人の間に金時さんが入り込んだ。武器は抜かないままシュテンさんへと対峙する。


「ご命令を」


 主君に背を向けたまま、問いかける。


「……」


 鬼の10メートルほど手前で百鬼夜行の足が止まる。揺らめく火、数多の視線。静まり返った世界で彼は主君の言葉を待つ。


「……金時、お前にこの世界の調査を命じる」

「……え?」


 戦え。援護しろ。そんな言葉を待っていただろう武士は予想の外の言葉に思わず振り返る。目を丸くして不用心に体を捻じっては素人目に見ても隙だらけだ。まぁ、シュテンさんに斬りかかるつもりが見られないからか。


「それがお前の答えか頼光。融通の利かん奴だ」

「お前と違って私はまだ退場できる身の上ではない」


 源頼光。源氏に生まれた彼は源氏の礎の一人として歴史に名を残している。


「調べたのか」

「それが私の星とは異なるとしても、私は家のために生きねばならぬ」

「大将……」


 一方で金太郎こと坂田金時は実在があやふやな存在とされるそうだ。誰かの別名やあだ名と解釈されることもある。もちろん目の前に坂田金時を名乗る人物が源頼光に仕えて存在しているので、実在する世界は確かにある。


「本当は季武を残したいのだがな。お前が一番この街に合っている」

「……それ、褒められてないですよね?」


 シュテンさんが大太刀で肩をトントンしながらちらりと背後を振り返る。そろそろ立ち往生も限界なのだろう。


「綱がこの世界に至れなかった理由。そして技術と政治を調査せよ」


 細身で和弓を背に負った男が頼光さんの傍に現れ、その肩に体を滑り込ませて跳躍する。


「無様だな鬼殺し。また敗走とは」

「戻れば疼きに苛まれよう。が、それも楽しみになった」


 頼光さんの返答に鬼は驚きを見せる。

 小柄な武士も金時さんも同じだ。彼がそんな事を言うとは思わなかったのだろう。

 「季武」と頼光さんが呟くと、我に返った弓持ちの武士が彼の補助をしてなお軽やかに屋根の上へと昇り、そして何処かへと消えていった。

 ぼりぼりと困ったように頭を掻く鬼。締りが悪いと俯いた表情に浮かんだ苦笑を殺し、大太刀を天へと向けた。


「我らの勝利だ。此の百鬼夜行を止められる者無し!」


 おおおおおおおと、勝鬨が挙がる。百鬼夜行の列からでなくありとあらゆる方向から、人の物とも獣の物とも、それ以外の何かとも知れぬ声が、だ。


 そこまでに至って、俺は大きく息を吐く。

 それから堪え切れない眩暈に額を抑え、すっかり氷の溶けたアイスコーヒーを震える手で掴む。


「なぁ、シノ?」

「……はい」

「さっきの戦い、目で追えたんだけど、理由分かるか?

 あと、会話もばっちり聞こえた」


 そこまで言ってもう一度深く息を吐き、コーヒーを流し込む。じわりと胃の中に冷たさが広がり、背に掻いていた汗を改めて知る。

 戦いは広いニュートラルロードの真ん中で行われていた。道の脇に居る俺の視力と聴力で一部始終を捉えられるはずが無い。


「……このような事態は初めてですが、私の記録するための能力をアキヒトも使っていたのでしょうか?」

「……俺もそんな感じかなと思う。これも先生に報告だな」


 某野菜な星のスーパーな人たちの戦いを見る一般人視点しか持ってない俺が目で追える事は異常だ。しかし、どうもその異常に体が付いて行っていない。頭が痛い、というより熱い。目がチカチカする。薄明りすら鬱陶しく感じて俺は強く瞼を閉じた。


「大丈夫ですか?」

「ちょっと休めば平気と思う。いざと言うときはヴェルメ、悪い」

「はいよ」


 そういえば先生が使い魔になると身体的強化を受けることがあるとか言ってたっけ。

 そんな記憶を最後に、俺の意識はストンと落ちてしまった。

まとめを挟んで二章終了の予定です。

60話近く費やしてアキヒトがこの世界に来てまだひと月しかたってない件

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