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●二章-25.祭の終わり(をすっ飛ばす)

寒い。冬眠したい。


※前回のあらすじ

・頼光VS酒呑童子決着

・金時、お前居残りな。

・アキヒト ダウン。

-fate アキヒト-



「ふむ」


 腕組をするとただでさえはち切れそうな服の袖がピチピチと音を立てるようだ。

 だがそんなことは意ともせず、マッチョメンは俺からの報告を頭の中でまとめている。

 さて、気絶した俺は念のためにとマッチョメンの病院に搬送されていた。目が覚めたのは朝。ついでとばかりの報告と診察を受けた次第。ヴェルメを返却する必要もあるため特に問題なければそのまま出勤するつもりだ。時間があるなら一回戻ってシャワーくらい浴びるべきか。

 長く苦しい、実際は数秒の時間を経て、マッチョメンは静かに判決を……じゃない、診察結果を口にする。



「経過は良好だと言える。君の魂はいずれ個の存在となる事はまず間違いない。

 ただ、それが何時になるか検討が付かない」

「前回と比べて、で推測はできないんですか?」

「比較は可能だが、完成形がわからんからな」


 魂は神種ですら解明できていない代物だ。分かっていることは世界の魂の質を高めることはその世界の神の力を増すと同義であるということだけ。

 最低値も最大値も、明確な形もわからない。ただ正常か異常かは判別可能。だから俺の魂がどの段階で完成となり、シノから離れられるか予想ができないということらしい。


「シノ君の権能は三千世界を見渡してもイレギュラーなものだ。

 しかも君とシノ君はあるべき世界も違うし、存在も違う。

 その上、君は科学系地球世界の出身者だ。元々有していた魂の質はかなり高いものかもしれん」

「例えるなら、西洋の前衛芸術家が日本の城を全部お任せで造るように依頼されたって事ですかね?」

「その例えが理解できるのは君だけだと思うぞ」

「ですよね」


 ちなみに日本の城の方が優れているという意味ではなく、様式が違うという意味です。あしからず。


「ニュアンスはなんとなく分かる。……まぁ、そういう感じだろう」

「でも、魂の質が高い、というのは皮肉にしか聞こえませんね」


 根源世界は科学系地球世界に近いと目されており、それと同系統世界では魂の質が比較的高い傾向にあるらしい。この理由は不明だが、恐らく根源世界に近いということは早期に分化した世界で、時間的な差ではないかというのが有力な説。

 もちろん数万の世界があれば例外もあり、その世界の中でも質の優劣が存在するため、俺個人がどうかを予測することは難しい。

 個々の魂の質が高いとどうなるか、というのも良く分かっていない。なにしろどんな魂も肉体に入ってしまえば肉体の性能に引っ張られるからだ。某ギリシア神話でやたらめったら動物に変えられてしまう事にはちゃんと意味があったという事か。他の世界の神話でも動物に魂を封じられたり、姿を変えられたりする罰があるとのこと。


「この世界で俺より弱いやつを見た覚えがないですからね」

「それについては精進したまえよ。この世界では肉体の限界をトレーニングで越えられる」


 三つの成長原理ですね。はい。運動部にも所属していない身としては筋トレの一つもなかなか着手できません。ヴェルメに甘えています。


「魔法の一つでも使えれば良いんですけどね」

「魂の質は魔術の才能に関与するとされているが、出力するのはやはり肉体だ。

 レイスなどになれば話は別だろうが、科学系世界の君が優秀な術師になろうとするならそれなりの修練は必要だろう」


 優秀な火薬を持っていても水鉄砲を拳銃に改造したところで銃身は衝撃に耐えられないということか。

 異世界転移でなく、異世界転生な話が多いのはそこが理由なんだろうか。魂が全力を発揮できる肉体を与える。そうすることでそれは化物じみた英雄として振舞えるとか?


「話を戻す。気になるのはその感覚強化がいつ始まったかだ」

「と、言われても初めての事ですから。

 ……少なくとも祭りの前は覚えがありませんね」

「とすれば、大図書館での知識摂取が……とは断言できんか」


 どちらかと言えば昨日の決戦の方がシノにとっては大きな価値があるように思える。

 確か「なるべく史実に近い話が良い」とか言っていたはずだ。目の前で起きた戦いなんて事実そのもの。しかも歴史に名を遺す二人の戦いである。


「とりあえず脳や目に損傷はなかった。

 また、前回の診察結果と比較しても君の体にこれと言って変化は見られない。人間種のままということだ」


 マッチョメンは軽く身を引く。

 何かと思えば目の前に暗闇があった。


「え?」


 ぶわりと、思い出したかのように風が顔を、髪をかき乱し後ろへと走り抜けていく。


「全く追い付いていないな。常時発動しているわけでもないし、君の任意で発動できるものでもないようだ。

 とすると、シノ君の補助器官として作用したと考えるべきだな」


 何のことも無いように戻される腕。そこで初めて視界を覆った闇がマッチョメンの拳であったと理解する。

 呆気に取られて怒る事もできない。いや、マッチョメンに怒るなんてマネできませんけどね。こわ……恩がありますので。あと、やり方はアレだけど診察の一環だし。

 ちなみにシノは隣の部屋に居る。物音はしないしまだ早い時間なので起きているかは不明。


「これも経過観察だな。君の望む望まないに関わらず発動する可能性がある点は注意すること。最悪シノ君に観測の中止を求めれば止められるかもしれんから、覚えておくように」

「はい」


 今回は傍にヴェルメが居たから良かったが、街中で倒れたりすればどんな目に合うか分からない。裏路地の一件が示す通り、誰も彼もが優しい世界ではないのだ。


「それで、何か聞きたい事でもあるのかね?」

「……ええと、ですね」


 この壁、向こうの音が聞こえたりしないだろうか。という不安からか声が小さくなる。


「なんだ、はっきり言わんか」

「いや、その……俺、こっちに来てひと月くらいなんですけどね」

「そうだな」


 なんだろう。この閻魔様の前で申し開きするような圧迫感。

 それでも、やはり問うておかねば色々と精神衛生上良くない。


「……。一回も致してないんですよ」

「……ん?」


 巌の顔のレベルが上がった。


「致すとは?」


 まさか問い返されるとは思わなかった。

 てっきり巌の顔のレベルが上がった理由は『何下ネタ言ってんだ?』という意味かと思ったが、『意味が分からん』の方とは。


「いや、その」

「……ああ、そういう意味か」


 どう説明したものかと言葉に迷っているうちにマッチョメンが思いついたらしく眉を跳ねさせた。

 理解していただけたらしい。


「いや、すまんな。我々は生殖行為を行わない種故、その点の確認を怠っていた」


 何やら要らない知識をいただきました。え? 何? マッチョメンって分裂して増えるの?


「……物凄く失礼な想像をしていないかね?」

「あ、いえ、そんな事はありません」


 けっしてコピペしたマッチョメンが笑いながら集団で走るイメージなんて、うっ、眩暈が。


「ふむ。それで?」

「いや、そのままです」

「それは性欲が無くなったという事かね?」


 ズバっと切り込んでいらっしゃる。


「それが分かりません」

「分からないとは妙だな。不能になったという意味かね?

 それとも女性に興味を持てなくなった?」

「……女性に興味を持てなくなったわけではないと思います。

 最近まで気付かなかったくらいですし」


 入市管理所のエルフおねーさんとかイバラギさんとか、「おおっ!」って思う事はちゃんとあったし。


「ならばどうして気付いたのかね?」

「……あー、それは……」


 あれ? と思ったのはシノと感情の共有ができるとかそういう話をした時。

 美人がそこらに居て、グラビアの水着写真ビックリのきわどい衣装の女性まで普通に闊歩しているこの街は目の保養が十分過ぎる。シノに指摘されるようなレベルで凝視とかしたことあったっけ?と記憶を探っているうちに気づいた次第。

 小学生にしか見えないアルカさんに抱き着かれたときもドキドキしたものの何だかんだ平静を保てた。小さい子に興味があるわけではないはずだけど、ビックリするくらいの美少女に抱き着かれれば女性への耐性があまりない身としては、ねぇ?


「シノが俺の感情が分かるって事が判明した時に思い返して、ですね」

「ふむ。環境が変わったことによる緊張から、と言う可能性はあるが……

 シノ君についてはどう思っているのかね?」

「シノについて?」

「一番近くに居るのはあの子だ。

 容姿も非常に優れている。見た目の年齢差というのも社会的倫理観からの話で、生物的興味とは別だろう?」


 確かにドキッとすることはあります。なにしろシノは比喩表現でなく『神の造形』の美貌を持っている。街を歩けばスカウトをダース単位で引き寄せてしまうだろう。そんな子に告白されたら大体の男性は二つ返事で応じるか、何かしらの陰謀を疑うに違いない。


「シノに対しては……妹と同じような感覚なんですよね。

 なんというか……『それはダメだろ』って」

「ふむ……。

 考えられる理由はいくつがあるが……可能性が高いのは、シノ君の使い魔である以上、シノ君に害を及ぼしうる情欲や機能が封印されている、というものだな」

「……それ、俺の体大丈夫なんですかね?」

「下腹部に違和感が無いなら当面問題あるまい」


 軽く言われるが、専門外だから知らないってわけじゃない……な。いろいろツッコミどころはあるが今まで出会った中で一番医者らしい医者だと思う。なんだかんだこの街で一番信頼しているのはこのマッチョメンだ。すみません。名前はまだ覚えていません。いい加減覚えよう。うん。


「歓楽街にでも行って確かめてくる。と言うわけにもいくまい?」

「罰ゲームにも程がありますね」


 そも強い感情とその方向性が察知できると分かったのだ。仮にこの身が正常でも無理です。


「生物的にも出さなくてもそれほど問題は無いらしいので、自覚症状があったら言いなさい」

「了解です」


 ……今はまぁ、気まずい思いをしなくて良いと思うべきなのかな。


「これもシノと魂が分かれたら治るんですかね?」

「わからん。今のも状況からの推測だ。

 何かね。すぐにその機能を取り戻す必要があるのかね?」

「いや、そういうわけではないですけど」


 アニメだとグサっと頭か心臓に矢が刺さる表現入る質問はやめてください。死んでしまいます。いや、これ、シノに手を出すつもりかと聞かれてるのか? 滅相もございません。


「ならばこれも経過観察だな。状況が出揃ってからでも問題あるまい」


 いろいろと男として引っかかる部分はあるが、頷かざるを得ない。

 異世界にやってきてそろそろ一か月。

 季節は夏に移り変わる。いろいろな意味で俺の春は遠そうだ。

 これにて第二章終わりです。

 以降作品内時間1~2か月ごとのお話になる予定です。次は夏の日のお話ということ。

 終わりについてはあまり考えていないのですけど、たぶん新暦4年くらいまでやる事になるかなーと。

 2章の時点で新暦1年6の月です。

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