●六章-17.災害
本年もぼちぼちやっていきますのでよろしくお願いします。
※前回のあらすじ
・三日目の突入
・50km地点で救世主が見つかったらしい
・でもあてにできないっぽい?
-fate アキヒト-
「敵の勢い、未だ衰えず。だな」
休憩だと言ってドカリと座り込んだ金時さんに水筒を渡すと、ニィと擬音が付きそうな男臭い笑顔で受け取った。
「水だけは困らない事が幸いだな。血の匂いで鼻はとうに馬鹿になっているが」
彼の服はすでに血を幾重にも被り、赤黒く染まっていた。彼だけでない。近接攻撃を主体とする来訪者達はおおよそ同じような様相になりながらも己の武器を奮い続けている。
ここ南側では死体による山を崩すため、壁の下部に穴を開ける作戦を決行した。当然補強はするが、元々土を押し固めただけの壁だ。その周囲は脆くなるし、怪物もその穴から入り込んでくる。近接攻撃主体の者は入り込んできた怪物の駆除、遠距離攻撃主体の者は壁の上から大物狙いという分担で防衛を続けていた。
「しかし、本当にウジャウジャ出てくるな。ちっとも作業が進まん」
壁にトンネルを開けた向こう側は血と肉と骨が上からの圧力で形成肉のステーキのようになっていた。崩落を考慮し、ゴーレムによる切り出しを行っているが、運び出されるシロモノには極力視線を向けないようにしている。この数日でグロ耐性はカンストしたと思っていたのだが、明確に生物であったと分かるパーツが無造作に混じっているのは精神にクる。コズミックホラーでSANチェックを要求される理由が良く分かった。
勿論俺の脆弱な精神を基準に躊躇などしていられない。作業は続けられる。
いや、すでに正気度を失った集団がいる。切り出されてきた死体ブロックに狂喜乱舞する錬金術師たちは危ない薬でもやったのかというレベルでハイテンションだった。
「おっほ! 何だこれ!? 骨? 水晶みたいじゃねえか!」
「植物系の残骸を寄り分けろ! ポーションの材料探すから!」
「それから飲み薬作るつもりか? それよか、弾薬になる素材優先しろよ。矢弾が全然足りねえんだから!」
「余った肉でフレッシュゴーレム作るわ。掘削作業進めないと」
『真面目に仕事しています!』という演技をしながら笑顔で頬に血や油を付けながら死体ブロックに群がる人々を俺だけでなく周囲の来訪者もなるべく見ないようにしていた。
「百鬼夜行が可愛く見えるな」
「百鬼じゃ済みませんからね……」
「それと、やはり不気味に過ぎる」
口をへの字にして呟き、水を飲み干す。
「俺も防衛任務に出ているが、その時に出くわす怪物はもう少し生き物らしい」
「……前に言っていた話ですよね?」
「敵を前にすれば思考する素振りを見せる。仲間が殺されれば憤慨をする事もあるし、怯えを見せる事もある。
だが、壁の向こうの連中はそういった心が見えん」
盲目的にただ押し寄せる様は津波と変わらない。それが大襲撃を『攻撃』でなく『災害』と称する理由だろうか。
「……操られている、って事ですか?」
「かもしれんな。外法師に操られた死人に近い気はする」
怪物にどこまで普通が通じるのかは甚だ疑問だし、そも他の怪物を仲間と認識しているかどうかもわからない。金時さんの経験もそう見えただけかもしれない。それでも莫大な死が築いた丘を前にしてもなお盲目的に進む姿に生命が持つ死への恐怖も、自己保存の本能も感じられない。
「死兵のような進退窮まった必死さも無い。心無く目的しか無い。操られているというのはあながち間違いではないかもしれんな」
それが正しいならあちらに撤退は無い。或いは、操っている何者かがそう判断するまでは。
「でも、操っているとするなら大雑把過ぎますよね」
「常に誰かが操作しているのでなく、この世界に現れた時点で定められているのかもしれんな。
ああ、イナゴの群れ。アレに近い」
異常発生すると食欲のままに全てを食い尽くすという。俺は歴史の漫画でしか見た事は無いが、現代の地球でも未だ発生している事だと言う。
ちなみに日本ではイナゴの群れは語られるほど発生していないそうだが、大陸から渡ってきた妖怪にそのような存在が居て、討伐に難儀したらしい。
「……じゃあ、定期的に起こるって事ですか?」
「二度目があったのだ。怪物が存在し発生し続ける以上、三度目以降も必ず起こるだろうな。
怪物が如何に発生するかを究明するまで、どうにもならん事だが」
金時さんは肩を竦めると胡坐をかく自分の太ももをばんと叩いて立ち上がる。
「それもこれもこれを凌いだ後に学者連中が考えればいい話だ。
さて、また行ってくる」
「はい。お気をつけて」
太刀を手に散歩にでも行くような軽い足取りでトンネルの方へ赴く武者の背を見送り、残された水筒を回収する。律法の翼の面々のサポートのお陰でポーション需要はかなり抑えられていて、俺たちの運ぶ荷物に水や簡易食糧が混じるようになっていた。それが良い傾向なのか正直判断できない。相変わらずこの拠点の周りには怪物がひしめいており、脱出する事はできない状況が続いている。再度の救援も未だ無い。戦いの音は止むことなく、これから日が暮れ、辺りが闇に沈む中でも続くことは疑いようも無かった。
「七日間続くとすれば、持つのか……?」
言葉の通り外堀は埋まり、壁の価値は刻一刻と失われつつある。それに対して拠点は応急手当しかできていない。
クロスロードはこの拠点を見捨てない。そうは思うが手詰まりと判断すればそこに無為な犠牲を送り込む事も無いだろう。今、この場所がその境界からどの程度の位置にあるのか。推し量る事の出来ない身としては不安ばかりが募る。その上見つかったという救世主、先の大襲撃を終わらせた力は沈黙し、動かないという。
戦う者達を見る。
自分にもあそこに立つ力があれば、解決のしようのない不安にぐじぐじと思い悩むことも無いのだろうか。
またネガティブな思考に流されようとした時、切迫した声がそれを断ち切った
「南より大型の竜種が接近! 数2!」
壁の上から放たれた言葉は俺だけでなく、声の届いた全ての探索者に空を仰がせる。
「なっ! 最低でもエルダークラスだぞアレ!!」
少し前に竜に喜んで斬りかかっていた一人が悲鳴じみた声を響かせる。年齢を重ねるごとに老化せず純粋に強くなり続ける竜種のランクを示す言葉で、最上位のエンシェントに続く物だ。一体で国一つを滅ぼすというそれはここから見ても巨大だと分かる。ジャンボジェット機くらいはあるのではなかろうか。
「おい、竜狩り連中、出番だぞ!」
「おう、無茶言うな。エルダーとか死ぬわ!」
軽口の叩き合いにも聞こえるが、声音に余裕がない。竜狩りと呼ばれるほどの来訪者は当然世界に制限を受けている。十全の力を奮えてなお強敵である存在を前にして戦意こそ失っていないが、戦慄に身を震わせていた。
「それでもやるしかあるまいよ。出し惜しみなしで叩き込むぞ。なに、無敵ってわけじゃない」
「怪物連中は待ってくれねえんだ! 手出しできないヤツは目の前を蹴散らせ!」
鼓舞する声が上がる中、俺はティアロットさんの姿を探す。
見つけた彼女は壁の上で他の人々と同じく竜の姿を見据えていた。その傍らにニーナが留まり何か会話を交わすと、鳥だけがこちらへと戻ってくる。
「ブレスの危険があるからテントまで戻れって」
俺の頭に着陸したニーナがそう告げる。
再びティアロットさんを見れば、向こうもこちらを見ていた。一つ頷き竜へと視線を戻す。
「……行こう」
「はい」
ここで逆らう意味も理由もない。
俺たちはなおも戦いに赴く彼らの無事を祈りつつ、竜に背を向けテントまで撤退するのだった。
そのつもりだった。
-fate ???-
「なんであの子たちに執心するのか知らないけど、狙う方が面白くなりそ?」
そろそろ第二次大襲撃も終幕に向けねば(=ω=)




