●六章-16.三日目
今年最後の更新となります。
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※前回のあらすじ
・救援到着して気が抜けたらぶっ倒れた。
・シュテンさんや金時さんも来たようだ。
-fate アキヒト-
この地に来て三日目の朝が来た。
「ホントに見渡す限りうじゃうじゃ!」
場違いな明るさで翼を広げて力説する鳥に周囲からも苦笑いが漏れた。
それにしても、『万を超える』とは何度も聞いたが実際どれほどの数が居るのだろうか?
2万や3万で見渡す限りの荒野を埋め尽くす事などできるのだろうか?
コミケのニュースで見た上空からの映像を思い出すと、『見渡す限り』を実現する数というのは百万でも足りない気がする。そもそもクロスロードの住居数が三十万人を想定しているという話だし、見渡す限りが二日以上続くのであれば百万や一千万の世界ではなかろうか。
もはや数字でしか見た事のない世界の話を頭から振り払う。
「南が深刻じゃのぅ」
「もう掘り返す事もできませんね」
そしてティアロットさんが語っていた現象がその数により再現されていた。
壁を作る材料としても掘り起こされ、相当深くなっていたはずの堀が数多の死体で埋まり、その上にも怪物の死体が目に見えて山積し始めたのである。
「ゴーレムで押しのけようとしても、押し寄せる怪物に力負けします。巨人種を並べても難しいですね……」
「燃やす類はどうじゃ?」
「灰になる程の熱量を密閉でない場所で生じさせるのは困難です。それを実現するほどの魔力や燃料があるなら攻撃に回すべきです。
加えて視界の悪化と逆に怪物を集めてしまう事が懸念されます」
「これ以上集まりようもない気もするがの……死霊術の類は?」
「土魔術師に代わってダウン中です。
それに何の処置もせずに施した即席の術では押し返す事はおろか、この場から立ち去らせる事すら難しいですね」
精鋭の援軍により戦況を見守りながら会話するだけの余裕を取り戻せはしたが、いつ終わるとも知れない防衛戦は続いている。不安は募るばかりで、逆に余裕ができた分、余計な事を考えがちな気がする。
「ぬしが壁を作るのに見せた規模の土魔術であれば、可能であるように思えるのじゃが、使わん理由は聞いても良いかの?」
「使用回数制限が尽きたとだけ。元々壁を早く作るために用意された物です。
少なくともここに居る限りは同規模の行使はできません」
「……ふむ。万が一のためにもう一度だけ、という所かえ?」
「……かないませんね」
「やめておくことじゃ。そんな事をしたらアレが生存者狩りを始めかねん」
「そこまで馬鹿ではない、と言えない所がですね……
まぁ、その懸念はもう意味がありません。来てしまいましたし」
会話の相手、この防衛戦の指揮官役でもあるアースさんの視線を追えば、壁の上に自然体で立つ青年が一人。手にするのは槍。登ってきた怪物を全て一撃で絶命させ、叩き落としている。そればかりか、いきなり壁の向こうに飛び降り、何食わぬ顔で帰ってくるのだ。
これには壁の上で戦っていた探索者達も思わず手を止めてぽかんと眺めてしまう。
「イルフィナかスーが来るべき状況で、何を考えているのか」
「何って、おぬしの事じゃろうに」
「……」
照れる素振りも無く深々と溜息を吐く。彼の名はセイ・アレイ。西砦管理官であり、雰囲気から察するにアースさんの恋人のようだ。つまり恋人の危機に居ても立っても居られず駆け付けたというドラマのような話だが、それでも彼女に溜息が漏れる理由は彼が完全な近接戦士である事だろう。でもそれ、問題になってない気がします。
「壁を越えられてしまえば持つまい?」
「それは間違いなく。今のうちにシェルターを作って、限界前に避難してやり過ごす事も考えているのですが」
「危険じゃな。土地そのものが少し前までは怪物の姿をしておったことを考えれば」
「ええ。オアシスが消え、地上に押し出された我々が万の怪物とフィールドモンスターに囲まれる結果があり得ます」
「二次以降の救援は?」
「計画はされていますが、50キロ地点の場所の防衛にも手を割かねばなりません」
救援部隊の齎した情報の中には同時に行われていたフィールドモンスター討伐戦の成功という朗報も含まれていた。その結果生まれたのは大きな穴。その奥は延々と道が続いており、恐らく迷宮ではないかと推測されているそうだ。しかし現状考慮すべきはこの土地もその迷宮らしき場所も怪物に埋め尽くされれば再びフィールドモンスターに変貌する可能性があるという事だ。
「流石に手放せぬか」
「ええ、見つかった物が見つかった物でしたから」
一度討伐に成功したのだから仮に大襲撃で再び怪物に戻ったとしても、また倒せばいい。素人考えだが外の惨状に苛まれた身としては当然の意見だろう。しかしその決断に踏み切れない理由がある。
まず、50キロ地点のフィールドモンスターは二体居た。
一体は既知のストーンゴーレムだ。そしてもう一体はその足元に潜んでいた超巨大アリジゴクだった。ストーンゴーレムの崩壊と共に動き出したアリジゴクは莫大な数のマッドゴーレムを生み出し探索者達に襲い掛かったが、前回その存在を察していた討伐隊はその討伐にも成功した。
その結果、アリジゴクは迷宮へと変わった。
では、ストーンゴーレムはというと
「『救世主』のぅ」
前回の大襲撃の最後に現れ、異常な力で怪物を蹴散らした四人の救世主。そのうちの一つは「人」と数えて良いか分からない存在だった。
一言で言えば『巨大ロボット』。全長20メートルを超す金属の塊は、歩くだけで竜種すら踏みつぶし、搭載された兵器で怪物を蹂躙したという。
その姿は戦闘終了後に南へと消えたとされていたが、どういうわけかフィールドモンスターとなってそこにあった。
その調査は真っ先に行われたが巨大ロボットは全く動く気配が無く、目下ただの置物となっているようだ。しかしクロスロードとしてはこれを放置するわけにはいかず、予定よりも強固な防衛をせざるを得なくなったというわけだ。
「かつての活躍を期待したいものじゃが……」
「操縦席に行くための機構があるという事でしたので、動力よりも操縦者不在である可能性があります。前回の大襲撃から一年近く。怪物に変化するという現象がどういう物かは不明ですが、反応がありませんし死亡していると見るべきでしょうか。
神器を超える性能を見せた以上、万人に扱える物とも考えづらいですから期待は薄いですね」
「救世主が足を引くか」
二人ともその馬鹿げた巨体、そして質量が蹂躙をする光景を知っている。だからこそ期待外れの落胆は大きいのかもしれない。
「……壁に穴を開け、死体を取り込み内部で処理する。
錬金術師は余裕が出てきておるのじゃろ?」
「ええ。物資の補充にもなりますし、多少入り込んできても何とかなる戦力は得られました。
余り物は砲弾に加工する、ですね」
ティアロットさんが頷くと彼女はこちらへ視線を向け、黙礼して去って行った。ティアロットさんと一緒に居るとはいえ、木っ端の一般人は放っておいていただいてもよろしいのですが。
「暇そうじゃな」
「ええ、幸い、ですね」
俺が暇ということはポーションの需要が無いという事。魔術師達に交代で休憩に入る余裕ができているという事だ。それそのものは良い事だろう。
「うむ。長丁場も止む無しじゃ。ぬしも気を張り過ぎるでない」
「一度倒れてますからね。これからどうしますか?」
「暫くはここで様子を見る。アースが方針をまとめて動き出したら多少は忙しくなるじゃろ」
日は中天近くにまで昇っている。このまま何とかなる事を願いつつ、俺は頷きを返した。
-fate ????-
「まぁ、思った通りの流れではあるんだけどさ」
嗤う。それは果て無き先を眺めながら、ただ嗤う。
「ちょっと、刺激足りないよね?」




