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●六章-14.決壊

余計な事を描きすぎている気がするのですが

読む方としてはどうなんですかね?


※前回のあらすじ

・一般人には死体とか戦場とか辛いです。

・でもやれることはやります。

-fate アキヒト-




「がぁはっ!?」


 これまでにない轟音が響き、そちらへ視線を向ければ少し遅れて空から人が降って来た。

 驚きながらも体は動く。手にしていたポーションの栓を抜き、目の前に落ちてきた男に浴びせかける。その効果を確認する事なくボックスから追加で数本のポーションを引っ張り出し、横に立っていたシノに預けた。壁から吹き飛ばされ降ってきたのは一人だけでない。複数人が近くで転がっているのだ。


「アキヒト、少し下がるよ!」

「ポーションを掛けるくらいはする。ヴェルメ、サポートよろしく。鳥は何かあったら教えろ」

「ほいさ」


 ニーナが飛び立ち、俺は次の瓶の栓を抜く。次いで轟音。視界の端で固められた石が弾けたが、近くの負傷者にポーションを浴びせかける事を優先する。

 てきぱきと動く自分を他人のように見つめる自分が居る。刻一刻と激化から悪化に推移していく光景に精神は限界を超え、例のモードに突入していた。鈍重な思考を無理やり加速させて体を動かす。


「うっわ、巨人種、しかも大型!」


 無視できない言葉に顔を上げれば、壁に掛かった巨大な手があった。人が立って戦える幅の壁を掴むという時点でおかしい。更には手の掛かった箇所から壁にひびが走る。


「開放!」


 空舞う少女の声が凛と響く。巨人の右側面で6の氷槍が生まれ、その頭を容赦なく横殴りにする。しかしそこらの怪物を一撃で貫く槍を重ねて六連で受けたはずの巨人はぐらりと傾ぎはしたが、頭を砕くことは愚か、気絶させる事すらできず怒りを滾らせたに終わる。


「え、援護射撃! 白兵組は負傷者の救護を!」


 巨人種が手を掛けた近くで妖精種の女性が焦りと恐怖の入り混じった声を挙げるが、周囲の探索者達の動きは目に見えて鈍い。魔女の一撃を軽傷に留め、振り回した手は掠るだけで致命傷になりかねないという分かりやすい暴威を前にして、打つ手を必死に模索する。

 昼を跨ぎ、怪物の数は予想通りに激増した。処理が間に合わなければ拠点に取りつく怪物の数は加速度的に増えていく。しかし相反するように探索者達の切れ味は時間を追って鈍くなる。分水嶺がどこにあるかなんて俺には分からないが、確実にそこに近付いている事は嫌でも分かった。


「アキヒト、危険です」

「……っ!」


 救助すべき人は目を覆いたくなるばかりに転がっているが、俺の最優先事項であるシノの言葉は無視できない。小さな体を抱え上げ、壁から距離を取る方向に走る。


「がぁああああ!!! 早くあの巨人を止めろ!」


 背に届く号令、というよりも感情のままの叫びに数多の矢が、銃弾が、魔術が巨人を襲う光景が音で届く。


「巨人の背を登ってくるよ!」


 ニーナの警告に緊張が走った。振り返り見上げれば巨人の背を、頭を足場に怪物が跳んでいた。一匹二匹ではない。次々と怪物が壁の中に着地、即座に近くの者に襲い掛かる。


「迎撃しなさい!」

「巨人優先だ! あれを倒さないとキリがないぞ!」

「ンな事言っても、攻撃が効いてない!! 皮膚も骨もクソ堅ぇ!!」

「血は出ているんだ! とにかく攻撃しろ!」


 何かしらの動きを捉え視線が動いた。獣の一匹が炎を牙の間から漏らしながらこちらへと駆けてくる。傍まで追従してきたヴェルメにシノを座らせるとギャインと悲鳴が響く。飛び掛かってきたが障壁に阻まれたらしく鼻先を潰して転がっている。それを横合いからの矢が獣の頭を貫き仕留めてくれた。


「一旦大きく引いた方が良いんじゃないのかい?」


 迷う。ヴェルメの速度ならテントまで退くことは可能だろうけど、ここから離れることは果たして正解だろうか? 南側が崩れれば雪崩のように全体が崩壊していくことは容易に想像ができる。救援要請を見れば拠点の全周で手が足りない事は明白で、増援を望める状況でない。危険な事は間違い無いが、戦力の集中するこの場で少しでも手伝った方がマシではないか?

 加速する思考に加熱する脳。酷い眩暈を覚えるが、ここで気絶するわけにはいかない。目を開いているなら勝手に動く眼球が、音を拾う鼓膜が、周囲の情報をかき集め、限界を超えて押し込んでくる。追い打ちのように把握した『五匹ほどの獣がこちらへ興味を向けている』という嬉しくない情報に意識を手放しかける。


「手が回るようになるまで守れるか?」

「……やるさね」


 腰のホルスターに触れる。迎撃専用の銃は果たしてどれだけ役に立つだろうか。もっと検証しておけば良かったと悔やんでも後の祭りだ。

 俺の意識が逸れた事、悔恨に表情を歪めたことを好機と見たか三匹の獣が飛び掛かってくる。その全てはヴェルメに阻まれたが、三匹目の攻撃が僅かに深く、こちら側に踏み込んだ気がした。その獣は弾かれた後もすぐに復帰してこちらに威嚇し始める。


「ヴェルメ、大丈夫か?」

「あれだけならね。

 それよりもアキヒト、あんたの顔色の方が酷いよ」


 分かっている。頭痛が酷い、鼻の奥に血の香りがする。このモードは俺に一般人らしからぬ力を与えているが、やっている事は同じモーターに大電流を流して無理やり回転数を上げているだけだ。ガリガリとヒットポイントを削る幻聴が耳に五月蠅い。しかし加減の仕方なんてわからない。


「こいつの手当てを頼む!」


 頭から血を流し、ぐったりと動かない武者鎧の男が無造作に放り投げられた。頭を打っている時は、なんて悠長なことを言っている場合じゃない。シノからポーションを受け取り、傷口に掛けて残りを口に流し込み、顎を押し上げる。

 窒息を起こしかねない危険な行為にも見えるが掛けて効くポーションは品質や種類にもよるが結構な速度で吸収されるらしい。そうでなければ戦闘中に使っていられない。


「ちょ! 眼球が矢を弾いたんですけど?!」

「マズいな。巨人であの強さだと亜神種……巨人で亜神種とか創造神系統の可能性が高いぞ……!」


 ティアロットさんが空で切り返し光の粉を振り撒く。触れた者を燃え上がらせる魔術だが、巨人種にはそれほどの痛痒を与えているようには見えない。巨人種の登場で対処しきれなくなった小物を処理するためのものだろう。


「それならこういうのはどうっ!?」


 小柄な女性が助走をつけて投げたのはポーション瓶。それが巨人の頭部に命中すると真っ赤な粉をばらまき巨人の頭を包んだ。

 一拍の後、突如咆哮を挙げた巨人が顔を何度も掌で拭うようにしながら、そのまま背中からすっ転んだ。


「呼吸をして粘膜があるなら激辛粉は牙を剥く!」


 きりっと決めポーズを取るグルグルメガネのホビット種。その直後に響いた轟音と、弾丸のように飛んできて掠めた石片に「ぴっ!?」と鳴いて尻餅を着く。壁の向こうでめちゃくちゃに暴れているのか、偶然壁に当たった一撃が壁の損傷を大きくした。


「オイオイオイオイ! 無茶苦茶に暴れているぞ!」

「いや、さっきよりマシだ! 今のうちになんか手段のあるやつ、何でも良いから試せ!

 弱らせることはできないのか!」

「デバフ系が全然通らないわ! 抵抗強すぎ!」

「手が無い人は周りの除去に回って! 魔女だけじゃ処理が間に合わない!」


 壁の上に居る事も難しくなり、その間隙に怪物が入り込む。巨人の対処に向かうどころかひっきりなしに侵入してくる怪物への対処に手一杯となる中、突如遠雷のような音が北の方から響く。

 振り返ると立ち昇る煙がいやがおうにも目に付いた。救援要請の色付きの物でなく、あれは土煙だ。


「北も何かあったのか?」

「冗談じゃないわよ!」


 動揺、混乱。いかに百戦錬磨が紛れ潜む探索者たちでもできる事には限りがあるし、本来の力が大きければ大きいほど制限を受けている。そして、百戦錬磨故に、状況の悪さを理解してしまう。幸か不幸か、それでも抗う胆力があるために戦線は未だ保たれているが、分水嶺へとまた一歩、大きく近づいた事は確かだ。


「治療を優先しよう。逃げてもどうにもならない」

「はいよ。ニーナ、ある程度はカバーするから、負傷者をこっちに誘導するさね」

「おっけー」


 動き出す。誰も彼もがまだ動けるから動く。疲労に、困難に体の動きが鈍ろうとも、命があり、為すべきことがあるから動く。雄々しく戦う者が居る。負傷者の救助に専念する者が居る。牽制やサポートに専念する者がいる。ポーションの飲み過ぎによる吐き気を眩暈を堪えながらも魔術を紡ぎ、撃ち放つ者が居る。

 気を抜けば胸を満たす無力感に抗うように動く。少しでも動く必要がある。何の役にも立たない一般人の俺でもポーションを引っ張り出して渡すくらいでも意味がある。少しだけ、距離制限を煩わしいと思った。


「ちょっ!? 竜種来た! 地竜! 突撃してくる!」


 ニーナの焦った声。ややあって聞こえてくるドドドドというすさまじい音。


「錬金術師! 修復準備しろ!」


 誰かが叫んだ瞬間、まるで世界が揺れたような振動が俺たちを襲った。次いで崩壊の音。壁の一角が土煙に飲まれた。ズンと響く足音。次第に晴れる土煙の中かから現れたのは四足歩行のフリルの無いトリケラトプスのような姿だった。そのサイズは大型トラック程もある。そんな巨体が通れるほどに壁が崩されたのだ。しかも、その割れ目に横から手が伸びた。目を真っ赤にした巨人種が憤怒の形相で、壁の内側を睥睨する。

 まるでかくれんぼでもしているかのような緊迫と静寂。戦場が凍り付いた。

 亜神種と竜種。ターミナルに措いて神種に次ぐ高位存在。そう思われているが故に、他者投影により一定の強さが保証されている。そんなのがこの期に及んでセットで並ぶなど冗談にも程がある。現に巨人の怪我はあれほどの猛攻があったにも関わらず、軽傷の域を超えているように見えない。


「ひぃい!?」


 激辛粉を投げた小柄な女性が緊張に耐えかねて情けない悲鳴を上げた。どうやら巨人にロックオンされたらしい。どけと竜種の胴を叩くと、五月蠅そうにしながらのしと地竜が前へ。崩れた壁を胴体で砕きながら拠点内に踏み入ってくる。


「いぃぃいいよっしゃぁあああ! 竜種特攻舐めんなよ!!」


 緊迫を粉みじんにするようなはっちゃけた声と共に無謀にも数人の戦士が竜種へと躍りかかる。対する地竜は僅かにも動じず、右前足を挙げて踏みつぶす構え。その時を狙いすましたかのように真横から槍が奔り、左前足を抉って貫いた。前足の支えを失った巨体が咆哮を挙げながら顎から地面に叩きつけられる。


「竜種は怖いが、特攻武器の数も桁違いと知れ!」

「なんで巨人種は任せたわ!」


 嬉々としてという言葉がぴったりなハイテンションで数人の戦士が地竜を囲んで殴る。戦車砲の一撃もびくともしないと言われる竜種の鱗が紙のように裂け、その動きがただの矢にしか見えない一撃に封じられる。ドラゴンスレイヤーというやつだろうか。しかしあのテンションは一体……

 呆気にとられたのも束の間、やっと道が開いたと巨人種がその全容を見せた。体長5メートルはあるのではなかろうか、一歩前に大きく足を踏み出せば俺の所まで届きそうで怖い。


「何かできるヤツ! もったいぶらずになんとかしろ!」


 破綻した空気が一瞬で緊迫する中での破れかぶれの叫び。

 当然そんな事ができるならとっくに行動に出ている。そんな心の叫びを幻に聞い─────


「おうよ。任された」


 巨体が跳んだ。いや、空を蹴って走った。


「気が乗らなかったが、なんだ、思ったよりも楽しそうなのが居るじゃねえか」


 無手だった右手に部品が集まり、大太刀が組みあがる。巨人が叩き落とさんと手を振り上げると、更に空を蹴ってその掌を大上段から斬り落とした。


「神種だか亜神種だか知らんが、削るぜ?」


 『光明喰らい』

 相手の加護やエンチャントを削って喰らう魔法の太刀。それは矢や銃弾を当たり前のように弾いた巨人の皮膚をいともたやすく切り裂き、人差し指と親指を切り飛ばした。


「シュテンさん!」


 ちらりと大鬼がこちらを見る。目を細め、今はただ前へ。

 痛みからか、怒声を撒き散らす巨人種の懐に身の丈半分程の鬼は恐れず潜り込み、腹を真一文字に引き裂く。誰もが手を出しあぐねいていた巨人をたった一人で圧倒する。


「だが、技ってもんがなけりゃ鬼には勝てんな」


 返り血を浴びるよりも早く横に抜け、身を翻すと同時に膝裏を深く斬る。たまらず膝を折り、手を突いた巨人の横に再び大上段に大太刀を構えた鬼の姿。

 刹那ほどの暇も与えず巨人の首が飛ぶ。思い出したかのように盛大に噴き出す血。痙攣する頭を失った巨体を背に彼はこちらへと向き直る。


「てなわけで、クロスロードからの援軍ってヤツだ」


 静まり返った戦場。あまりにも悠長すぎる数秒の停滞と沈黙。


「おぬしが出てくるとは思わなんだ」


 その傍らにティアロットさんが降り立つ事で、誰もが抱いた『都合のいい幻想』という疑念から解放された。

 湧き上がる歓声。未だ無事な者は僅かに足取りを軽くし、破壊された土壁の前で突破を防ぐために奮戦を再開。錬金術師が壁の修復に取り掛かる。


「雷神様に頭を下げられたとあっては無碍にできんでな」

「なるほど。他は?」

「四百ほど。まぁ、十分だと思うぞ」


 シュテンさんが視線を向けた先、こちらに走ってくる一段の姿があった。

 白い統一された制服だがエンジェルウィングスのものではない。あれは……律法の翼?


「ウルテか」


 意外を含ませる響きで魔女が言う。

 確か、シュテンさんと共にティアロットさんが挙げた『英雄』の一人ではなかったか。

 と、

 強い眩暈にぐらりと体が傾いだ。気が抜けたらしい。


「大丈夫ですか?」

「……気を失う程じゃない」


 強がっては見たが堪え切れなくなり座り込む。肺の奥に溜まった淀んだ何かが溢れるように出た。膝が笑って力が入らない。すぐに立ち上がる事は諦めてヴェルメに背を預けた。

 和服を纏う大鬼の背中が酷く頼もしい。ティアロットさんの言葉が改めて理解できた。


 英雄が来た。


 ならばここから好転するのだろうか。

 意識をなんとか繋ぎ止めながら、俺は目を見開き戦場へと目を向ける。

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