●六章-13.張りぼての英雄
まぁ、うん。ティア子は某ゲームのマイキャラなので設定すげえあるんです。
主役乗っ取られる・・・・・w
一応この話のシナリオは町と歴史なので、うんw
※前回のあらすじ
・思ったよりも超ヘヴィーな血生臭さと現実
-fate アキヒト-
不意に鳥が足踏みをするように俺の頭を蹴る。
「なんだ?」と、眉根を寄せつつも残りのポーションの確認を終わらせた俺は、ため息交じりに鳥を背中から掴んだ。
「なんだよ?」
「あっきー、もうお昼前だよ?」
「ああ?」
掴まれたことを意に介さず応じた鳥の言葉を脳がもっさりとした速度で分解する。
それから視線を上げるといつの間にか日は高く昇っていた。PBさんに確認すれば午前11時を回ったところ。つまり……
「ポーションをくれ! 二つでいい!」
「はい」
二瓶を取り出し手渡すと、碌に確認もせずに男は壁へと戻って行く。脇腹に鎧を引き裂いて傷があり、右足のズボンをどす黒く染めていた。一気飲みしたひと瓶を放り捨てながらも彼は迷わずに壁へ駆け上がって行く。
「ええと、なんだっけ?」
「しのっち、ちょいヤバくない?」
「ええ」
何が? という疑問がぼんやり浮かぶが、その前に新たな探索者が降ってきた。
『マナマナマナマナ タリリナアァアアアアイ』
青白い半透明の女性が両手を広げてそんな事を言う。アンデッド種レイス。ノラ夫妻の奥さんの方と同じ種だ。聞き取りにくいが言葉を話しているから入り込んだ怪物ではない。MPポーションを取り出すと不可視の力でそれが浮かび上がった。
『アリリガガァガアトォォォオオウウウウ』
造形は美人だがやはり幽霊と言うべきか。にっこりと言うよりもニタリと笑い、彼女は去って行く。
壁の上で幾つもの会話が、中には無意味な言葉の応酬が交わされているのは確認のためでもあるらしい。来訪者も怪物も、黙ってじっとしていれば見分けがつかない。
「ああ、そう。昼だっけ?」
「随分と摩耗したようじゃのぅ」
レイスの女性と入れ替わるように戻ってきた魔女の装いにも少なくない汚れが目につく。彼女自身に傷は無さそうだが土埃や返り血が彼女の半日を強く物語っていた。
半日。ああ、もう夜明けから六時間も経つのか。
「残りは?」
「ええと、2割を切っていますね」
魔女に揺らめく虹彩を秘めた宝石を渡すと、小さな手の中で握り砕く。もちろん彼女の握力が為した事でなく、そのうちに秘めた魔力を引き出されたために自壊したらしい。数を消費する彼女は水薬では腹に溜まって仕方ないという理由でポーションよりも非効率だがこちらを好んでいた。
「もう吐く事もあるまい。一度テントに戻るぞ」
「死体見ても顔色変わらなくなったもんねぇ。さっきのレイスにも全く驚かなかったし」
「……」
シノがシートに座ったままじっとこちらを見ていた。何か顔に付いたのだろうかと拭ってもよく分からない。
「まぁ、変わんないっていうより悪いままだからね」
「そう……か?」
確認しようと思えばヴェルメにミラーが付いているのだが、そんな気にはならなかった。悪いと言うなら悪いのだろう。
不意に、胃と肺からあふれ出るような感覚に不快感を覚えしゃがみ込む。
堪え切れなくなって嘔吐くも胃の中は空っぽだ。苦しさだけが肺から溢れ、喉を焼くのを堪えながら自らの胸ぐらを掴むようにして深く息を吐く。
「此度の騒乱の間はその状態でも良いかもしれんが……
ぬしは戦うわけでない。有事の判断はヴェルメとニーナがするじゃろうからもうちっと気を抜け」
頭が軽くなる。顔を上げればティアロットさんが鳥を引き取って胸に抱えていた。
「すみません」
ほんの少し現実に戻った理性が倫理観と死の観念を揺さぶり殴る。もうどれだけの血と死を見ただろうか。日本人なら医者や葬儀屋でなければ触れる事すら数えるほどしかない死がここには溢れかえっている。
最初に感じた楽観はあっという間に消し飛んだ。どんなに強くても急所を抉られれば死ぬ。いかに達人でも多方向からの一斉攻撃には対処しきれない。最良を選び続ける力がある人達がすべてジョーカーの局面を突き付けられて倒れていく。どうしようもなく理不尽で、どうしようもなく当たり前の事が、当たり前のように起きていた。
だから湧き上がる問いがある。
救援が来るまで持つのか?
喉の奥で何度も飲み込んだ問いが渦巻き、喉を「ぐ」と鳴らせた。
魔女は間に合うと答えるだろう。しかしそれまでに何人死ぬのか。続く問いを聞く勇気はない。ティアロットさんは気休めを言う人ではないから現実に即した回答が出てくるだろう。その言葉を受け入れる自信が無かった。
壁に視線を向ける。心強かったはそれにはすでに無視できない損傷がいくつも刻み込まれていた。修復を繰り返してはいるが突破されない事が最優先のため、上に行くほど修復は雑で、壁の上で戦う人たちが足を取られる事態が発生しているようだ。しかし錬金術師にも、その精神力にも限りがあるため割り切らざるを得ない。
「アキヒト、行きましょう」
「ああ」
シノに促され、残ったポーションを箱ごと降ろしヴェルメに乗る。
俺たちに出来る事はティアロットさんを送り、補給物資を届ける事だけだ。できない事を思い悩んだ所で良い事なんて何もない。念仏のように無言で唱え、無心に浸ろうとする。
それでも一度戻った理性は、嫌な言葉ばかりを突き付けてきた。どうして俺はこんな場所に居るんだろう。どうして俺はこんなことをしているのだろう。
どうして、俺は、何もできない俺はここに居るのだろう。
「もどかしいです」
「であろうな」
ついぞ漏れた言葉に魔女が同意を示す。
「分かるんですか?」
トゲが出た。一見か弱い真相の令嬢という風体だが百戦錬磨の猛者が集うクロスロードで名の知れた魔術師に俺の気持ちが理解できるのかと。
「描いた理想に遠く及ばぬ。他人が描いた理想であるならばなおさら苦しい」
多くの期待が彼女に向けられている事は傍目から見ても分かる。しかしそれに確実に応えている少女はそれが愚かだと言わんばかりに自嘲の響きを乗せた。
「ぬしもわしに幻想を抱いておるようじゃがな。
わしは間違って失敗して、大事な人たちを傷付けて、転がって転がって、ここに辿り着いた。
誇れるものなぞ何もない。小癪にも拾い得たもので無様に立ち回っているだけにすぎん。またどこかで蹴躓くのじゃろうと、いつも怯えておるよ」
俺は何度も彼女が戦う姿を見た。彼女の救援を喜び、並び戦う意思を燃え上がらせた人を見た。死と紙一重で交差し、それすらも予定通りの手順と言わんばかりに怪物を打ち倒す少女の姿は怯えなど微塵も感じない。
「英雄はな……わしの見た英雄は、斯様な戦場にあって嗤う。
万難の前に立ち、嗤って剣を翳し、ただ前に進む。迷いなぞ、畏れなぞ知らぬとばかりに、微塵も見せぬ。故に付き従う者は当然とそれに続く」
ヴェルメの後方。壁に視線を投げながら、いや、ここでないどこかを、或いは俺たちの知らない誰かを見ながら言う。
「それは、今日のティアロットさんも同じでは?」
「そう、見えるかや?」
批難の音は無い。ただ、ため息のような物が僅かに混じったように思えた。
「……少なくとも、周りの人たちは心強く思っているようでした」
「そうかえ。悪いとは言えまいなぁ」
そこでテント前に到着し、少女はふわりと地に足を付ける。
「不安を与えるよりはよっぽど良い。が、心苦しいものじゃ」
「……誇らしいでなく?」
「わしは神に揶揄されるほどに強欲で野心家なのじゃよ」
言葉遣いも影響しているのだろうけど、欲とは無縁の仙人のような振る舞いを見せる彼女は、まったく反対の表現で己を評する。
「彼らが真に望む英雄になれぬ弱さが恨めしく、もどかしい」
真に望まれた英雄。それは漫画のヒーローのように何でもかんでも一人でハッピーエンドを作ってしまう存在を指しているのだろうか。そんなのは無理だ。不思議パワーの満ちたこの世界でもそんな都合の良い超人は見た事が無かった。
「真に英雄たるは計算だ、効率だなどと言わぬ。
小賢しい理屈を蹴飛ばして壁に留まり、傷と疲労に表情を曇らせる事も無く、今も檄を飛ばし戦い続ける者が居る。あやつらの事じゃ。
崩れず、折れず、潰えぬ者。死すら気付かず、死してなおその姿が先を示す者の事よ」
それは単に無謀なだけではないかと、そう考えた時点で俺もまた英雄と呼ばれる存在とは遠いのだろう。
「酒呑殿や元帥、ルマデア殿やマリスの何れかが居れば、もっと被害は抑えられたであろうよ。わしもアースも軍の戦いには小賢しすぎる」
百鬼夜行の夜。無数の妖怪を引き連れたシュテンさんの姿が脳裏に浮かぶ。その姿も、立ち居振る舞いもただ心強く力強い。何もかもが混沌として考える暇もない戦場では百の言葉よりも、その背を追えばよいと思える一挙一動の方がわかりやすく支えになるのだろう。
「とはいえ、嘆けば得られる物ではない。されども膝を抱える時でもない。
今は張りぼてでも望まれているのなら英雄を演じ続ける他あるまい。
手早く支度を済ませて戻るぞ」
「……はい」
管理組合員が段ボールを手にこちらに駆けてくる。
やる事とやれる事があるうちは、ただそれを為そう。彼女が言う通り『張りぼての英雄』であっても、俺はそれを信じて付き従えるから。
今も戦っている人が居る。例えそれが俺の居るべき場所でないとしても、嘆くのはずっと後でも構わない。
シノを降ろし、俺も降りて段ボールを受け取る。
足にも腕にも力は入る。その確かさを感じながら、俺は積み込み作業を行うのだった。




