●六章-10.静寂と闇と寒気の中で
朝からパソコンに向かっているのに一向に進まない。
いつも通り同じところを延々と書き直すワタシ。
※前回のあらすじ
・ヴェルメを寄こしやがれ! ヤー! グワー 哀れ商人()は爆発じゃない……消失!
・心を強くもとうね
・まぁ、まずは休憩だ。
-fate アキヒト-
日は落ち暗闇に沈んだ拠点の中、灯火の全くない中に数多の人の動きを感じる。
あれから一時間ほど経過しただろうか。俺たちは中心となっているサーカステントの傍で座り込んでいた。
「流石に冷えるなぁ……」
思わず漏れた呟きに自嘲を浮かべる。頭の上の鳥が何やら言いたげに身動ぎしたが、口にするのは止めたらしい。単に寒くて動きたくない可能性もあるのだけど。まぁ、言わんとしている事は解っているつもりだ。
サーカステント内は暖房を焚いているわけではないが、区切られた空間に少なくない人が動いているため充分に暖かい。それでも外に居る事を選んだのは俺だ。それは先ほどの商人だか強盗だかわからない小人の一件からヴェルメの傍を離れるべきではないと考えたからだが……別にヴェルメをテント内に持ち込んでも問題ない気もする。それよりも大きい幻獣種キマイラも普通に居るのだし、排気ガスを出すわけでもないし。今更なのでティアロットさんを待っている態で行こう。うん。
ありがたい事に管理組合の職員さんが毛布を一枚貸してくれたので、地面に敷いてシノと並んで座っていた。最初は肩に掛けておこうと思ったのだが、シノから地面に敷かないのかと問われたのだ。地面が奪う熱というのは非常に大きく、夏場でも相当な体温を奪われる。原生生物の発見されていないターミナルでは不要な心配だが、虫などから体を保護するためにも野宿の際には敷物の方が重要とされているそうだ。実際毛布越しでも尻が冷たく感じている。寝てしまえば更に体温は下がるため、そのまま永眠してしまう可能性すらあるとの事。
すでに季節は冬に足を突っ込んでいる。クロスロード周辺は日本に近い温帯だが、熱を溜め込む物が一切無いし、湿度もそれほど高くないので夜は放射冷却で非常に冷える。ヴェルメの防御では寒気を防げない事もあり、比較的厚着をしていたのは幸いだった。
「お?」
PBさんからの情報更新のお知らせに都会っ子(?)のプチ野宿体験の感想は一旦横に置く。
内容は管理組合からの情報連絡とこれからの行動方針について。
まず情報のその1。約二時間前の時点でフィールドモンスター討伐戦は完了していない。
これは前回の戦いでストーンゴーレムを一旦撃破してもまだ続きがある事が予想されていたため異常事態ではないが、大襲撃規模の怪物の動きが発生したことにより問題になってしまった。日の落ちてしまった今、無事に終わってくれていると良いのだが。
情報その2。今時点までの怪物の観測数と過去の記録から、今回の怪物の大発生は大襲撃規模、或いはそれ以上と推測され、それを前提に防衛計画を立案すると決定した。すでに怪物はこの拠点の周辺をかなりの数移動しており、拠点にぶつかった一部は壁に攻撃するなどしている。これに対し拠点は灯火を極力絞り、隠密特化の布陣で迎撃を行っていた。怪物がウヨウヨとする中。壁の外で戦っている人が居るというのだから頭が下がる。
情報その3。怪物たちは来訪者と同じく数多の世界からやってきたと考えられている。つまり多種多様で足の速さも移動方法も違う。つまり拠点周辺に居るのは足の速い個体が主と考えられている。まだ序の口。その本隊というべき集団は明日の正午くらいに訪れると予想される。
「……」
耳をすませば、抑えてはいるのだろうが色々な音が聞こえてくる。その音は作られたばかりの壁に阻まれ外には余り届かないと思いたい。
約十二時間後、太陽がこの拠点を照らし始めれば目視可能範囲内の怪物たちが殺到するだろう。クロスロードが目的であっても途中で遭遇した来訪者を無視する事は無く、むしろ積極的に襲い掛かってくるのだから。
きゅうと締め付けられる胃の痛みを感じながら情報の続きを確認する。
情報その4。クロスロードからの救援計画は不明だが、こちらからの報告が届いたことは確認できた。というのも日が暮れる前に手紙を仕込んだ砲弾を拠点内へ叩き込んで来たらしい。矢文ならぬ砲文か? なんとも乱暴な方法だがそれでも怪物がひしめく荒野から正確に打ち込んできたって事だから、凄いというか何と言うか。
基本隠し事はしない管理組合だ。そして俺たちがクロスロードに戻っていない以上、みんなに心配を懸けているんだろうなぁと。胃の痛みが強くなった。
深く息を吐く。
ここからは連絡というか要請。夜間はこのまま明かりや音を絞り、拠点の防御に徹する。本格的な防衛は夜明けから。こちらに興味を向ける個体が増えるとともに怪物の密度も増すと予想されるため、戦わなくとも物資輸送の手伝いなども募集していた。まだ小さい拠点とはいえ、防壁は直径一キロ近い円を描いている。ここから壁まで物資を輸送するにしてもそれなりに距離がある。負傷者の搬送なども必要になってくるだろうし、炊き出しの手など猫の手も借りたい状況は容易に想像できる。妖精種ケットシーが目の前を通り過ぎたのは偶然か?
夜明け前までは極力音や光の出る行為を避け、夜間防衛に参加しない人たちは休息に努めるように、との事だ。
それからテント内でも聞いたが食料品や寝具の提供は無償で行っている。必要に応じて受け取るようにとの通達。
最後に、拠点内での不審な行為を見かけた場合、極力管理組合への報告を優先するようにという依頼だ。また、今回の大襲撃については怪物が今までにない行動を採る可能性が懸念されているため、防衛任務等で培われた固定観念にとらわれないようにとの警告が付属していた。
「……最後のはどういう事だ?」
「あたしらのせいだと思うよ?」
思わず漏れた言葉に鳥が反応する。
「なんで?」
「いや、だって出来過ぎてるもん」
「何が?」
「え? アッキー、本気で言ってる?」
ばさりと驚きを表現しているのか翼を広げ、呆れるような声音で煽ってくる。
しかしすぐに羽は収めた。やっぱり寒いようだ。
「フィールドモンスター討伐戦と大襲撃が重なるまでは偶然かもしれないよ? 二度目だしね。でも、謎の第三者によってこのタイミングでここにあたしらは誘導されてるんだよ?」
言われてみればその通りだ。あの不気味な女は大襲撃が起きる事を知っていたと、そう考えるのが妥当な状況。俺たちがここに来た理由はティアロットさんからアースさんや管理組合に伝わっているだろうから、踏まえての警告……って事か。
ばらばらに攻めてくるのと纏まった『軍事行動』では脅威の具合は全く違う、というのは軍事関係に詳しくなく漫画やゲームの受け売り程度の知識しかない俺でも察せられる。この大襲撃に指揮官が居るのだとしたら、余り想像したくない状況もあり得るという事だ。
「……なんにせよ、夜明けから、かな?」
「だといいねぇ」
暗い想像は際限がない。思考を切り捨てるような言葉に鳥が不安を煽るような物言いを差し込んできた。咎めようと唇は動くが、少なくとも何らかの理由で俺たちは狙われた事実に言葉は生まれなかった。不可解な一件があの目を見つけた事で終わったという確証はどこにもない。
暗闇の中でぼんやり浮かび上がる赤を基調としたフリルドレスに視線を向ける。なんとかなる、と自信に言い聞かせるように胸中で唱えながらも吹き込む寒気にもう一つ吐息を紛れ込ませるのだった。
次回から第二次大襲撃に突入できそうデス。




