●六章-2.状況説明
引き続き落書きなど。
絵が上手くなりたいと言いながら全く練習しないダメ人間がこちらです。
※前回のあらすじ
・なんだかよく分からないうちに呪われたっぽい
・でも倒れたのはニーナ
・オアシスに行かなきゃ解けないらしいけど、まずは相談。
-fate アキヒト-
「事の次第は分かりました。
しかし……」
赤黒い輝きを放つ文字を首に纏ったまま事務机の上に置かれた鳥を見る。苦しんでいる様子は無く、ただ意識がないままだ。
あれから俺たちはまっすぐ事務所に戻り、起きた事をトミナカさんに説明したところだ。
「呪い、ですか。その手の専門家と言うと……シュテンさん達は掛ける方ですからね。
聖魔殿などになるでしょうか」
呪いを解くなら教会へ。確かに何とかなりそうな気はする。
「しかし、それよりも大図書館に行くべきですかね」
「大図書館ですか? そこに専門家が居るとか?」
確かに地下の研究施設にはいろいろな専門家が居そうだ。
「ニーナさんは大図書館で預けられたのでしょう? その方に診てもらう方が確実と思いますから。
知識の深い館長も居ますから状況を推し量るには最適でしょう」
なるほど一理ある。俺に掛けるつもりだった呪いがニーナに掛かったような事も言っていたし、ダティアマーカさんには診てもらった方が良いだろう。
「もしその女性の言葉の通りならば急を要することになります。その時はいちいち戻らず、そのままヴェルメを使って構いません」
「……。ありがとうございます」
思わず問い返そうとする言葉を飲み込み頭を下げる。
「いえ、職務中の事故は労災ですからね。職場責任者として対応するのは当然ですよ」
クロスロードで労災を認めていたらとんでもない事になりそうだと思いながらも、トミナカさんなりのジョークだと理解する。
「はい、では急いでください。
こちらでもその女性について、本社と管理組合に問い合わせてはみます。
怪物との遭遇確率は低いと聞きますが、その制服のまま行ってください。
大図書館へは諸所の処理が終わったら私も伺います。結果はそこで聞くので行くと決まったらそのままどうぞ」
「わかりました。行ってきます」
「ええ」
ニーナを抱き上げ、裏口から出ると、声の届く位置で停車していたヴェルメに触れる。
「そういうわけだ。大図書館まで頼む」
「はいよ」
俺がヴェルメに跨ると、シノも続く。ニーナは配達物を下ろした後の前籠に布を詰めて入れる事にする。
窓から見送ってくれるトミナカさんの視線を背に受けつつ、ヴェルメに発進を促した。
「それにしても、外に出る事に躊躇いが無いじゃないかい」
「そんな場合じゃない、だけだよ」
あっという間に時速百キロ近くまで加速したヴェルメの言葉に、俺は苦笑い強くして応じる。
「幸いと言うべきか。明日がストーンゴーレム再討伐の実行日なんだろ?
その地点までは往来があるし、安全もいつもにも増して確保されているはずさね」
直接関係のある事ではなかったので忘れていたが、確かに明日がその決行日だ。目的地ではないから関係ないはずなのだけど、何か嫌な感じがする。
胸に湧いた不安を打ち消す間もなく大図書館の敷地に入る。何一つ遮る物のないまま本館玄関前に到着すると、ニーナを抱き上げた。
喫茶店に向かうべきかとも考えたがダティアマーカさんにも連絡をする必要がある。だとすればまずはカウンターに向かうべきと図書館内へ。本特有の香りと空調の肌寒さが顔を撫でた。
「あら、シノちゃん、アキヒト君。こんにちは」
司書院の一人が俺たちに気付き軽い挨拶を向ける。すっかり常連になっているため、俺も半分くらいのスタッフ名は覚えたと思う。彼女は確か人間種のはずだ。
「こんにちは。すみません、地下研究室のダティアマーカさんを呼ぶ事はできますか?
あと、館長にも相談があるのですが」
「……わかりました。館長は多分喫茶店の方ですのでダティアマーカ氏にそちらへ向かうようにお話します。
用件はその子の事ですよね?」
いつもは図書館でも騒がしい鳥を見て笑顔を神妙そうにひそめた司書に頷きを返す。
彼女は備え付けの電話を手に取ると、目で外を促した。俺は小さく会釈して喫茶店へと向かう。
「いらっしゃい。……おや?
まだ14時じゃよな? 仕事が早くおわったのかね?」
休みの日なら朝から、仕事の日なら16時頃が俺たちがここにいる時間だ。郵便配達でここに来たのなら喫茶店の方に顔を出すことは無い。
「……と。ニーナ君に何があったのかね?」
カウンターの向こうで顔を上げた館長がニーナの状態に気付く。眉根をひそめ、席側へと出てきた。
「良く分からない女性に呪いを掛けられました。ただ、何故かニーナが身代わりになってしまって……」
「ダティアマーカ氏には?」
「先にカウンターで呼んでもらいました」
「宜しい。しかし……見た事の無い文字じゃな。そこのテーブルに置きなさい」
館長の指示に従って包んでいた布を敷布にニーナを置く。鳥の場合横たえるとか寝かせるとかの表現が微妙だとか、どうでもいい事が脳裏を過ぎった。
……事態は深刻だと思うのだけど、怪我や病気と違って何をどう心配すればいいのか分からないというのが理由だろうか。怪しい模様さえなければ寝ているだけにも見える。
「とりあえず落ち着いてはおるようじゃな。
命に別状はなさそうじゃが……呪い、のぅ」
「呪いだと何か問題があるんですか?」
「いや、このクロスロードで呪いというのは100メートルの壁のせいで使いづらいシロモノとされておるのじゃよ」
「……と、言いますと?」
「数多の世界がある故、一概には言えぬが、呪いというものは少しずつ毒を飲ませるようなものじゃ。一定以上の毒がたまれば致死量になるし、止めても毒の作用は残るし、解呪できても後遺症が残る。そういうシロモノという前提で話をしよう」
おおよそ明るい話題が続きそうにない言葉の羅列に閉口してしまう。
「呪術に措ける『毒を飲ませる行為』は『因果を結ぶ』事じゃ。
おぬしも丑の刻参りの藁人形は知っておるじゃろ?」
勿論呪いの代名詞のようなシロモノだ。頷きを返す。
「あれは『人の形』である人形と人間である対象を因果で結ぶ事で、人形に釘を打ち付ける事は対象に釘を打ち付ける事を同意として対象を苦しめる呪術じゃ。
君の時代では珍しくなったが雛祭りの雛人形。あれも本来持ち主と因果を結び、厄を引き受けさせて川に流す雛流しが元で、根源となる意味合いは藁人形と同じじゃ」
雛流しという言葉はどこかで聞いた覚えがある。良くは覚えていないけど。しかしあの人形、かなり高価だって聞いたけど、川に流すのか? と思ったが、高価な人形を飾り始めた事で雛流しは廃れたとの事で、昔はもっとチープな物だったらしい。
「ここで重要なのは人形と人間の因果を結ぶ事。雛流しは厄を移した後に川に流す事で因果を切り、厄災からも縁を切るのじゃが、このターミナルでは100メートル以上離れればその因果も勝手に切れるのじゃよ」
「じゃあ、呪いを掛けた相手は近くに居る……?」
思わず周囲を見渡すが、それほど広くない喫茶店の店内に他の客の姿は無い。
「ヴェルメ君の速度に付いてきて、図書館の敷地内に気付かれずに入ってくるような輩であればどうしようもないがのぅ。
恐らく既に儀式的な行為は完成しておるのじゃろう。先の例で言えばニーナ君でも致死量に相当する毒を注ぎ込まれたと見える」
「それって……」
「ニーナはこれでも創生神直下の使徒が造った従属体だ。呪いに対する抵抗は身体能力を制限した代わりに大きく向上させている」
言葉と共に入ってきたエルフに似た美青年が真剣な面持ちでニーナの元へと歩み寄る。
「待たせてすまないね。詳しい話を聞かせてほしい」
「はい」
と、俺の視線は続いて入ってきた杖と、それを持つ少女へと向けられた。
「どうしてティアロットさんが?」
「彼女は異常事態の専門家だからね。同行願った」
「どういう意味じゃ、それは」
ダティアマーカさんの言葉に何故か少女の方が眉根を寄せて咎める。しかしダティアマーカさんは意外そうな顔をした。
「天然のトラブルサーチャーだと聞いていたけど」
「初めて聞いたわ、そのような評価」
行く先々で殺人事件を発生させる探偵のような物だろうか。この街には割とそういう人が多く居そうな気がしないでもない。
それ以上の文句は続けず不機嫌そうな表情のまま手近な椅子に腰かけるフリルドレス姿の少女は視線で話の続きを促してきた。
「すみません。上手く話せるかどうか分かりませんが……」
何しろ『良く分からない』が全てだ。あの不気味で奇妙な光景を、肺の中をかき混ぜるような甘い呼気を、魂の奥底まで覗き込もうとする眼球を思い出す度に鳥肌が立つのを抑えられない。
それでも俺は、記憶に残る限りの状況を彼らに説明しはじめた。




