刀剣解放(ブレードリベレイト)②
前回のあらすじ
刀剣解放――それは選ばれし者だけが扱える、刀の真の力を引き出す究極の技。習得には通常二十年以上の鍛錬と刀との対話が必要とされる。
高校生の天城陽斗は、祖父から古びた刀を譲り受ける。その刀は伝説の刀 「陽炎」 だった。ある日、陽斗は不思議な世界へ導かれ、陽炎と出会う。陽炎はかつて多くの刀が滅ぼされた戦場を見せ、「仲間たちを倒した存在を討て」と告げる。
陽斗は「これ以上何も失いたくない」という覚悟を示し、陽炎と契約。解放の言葉 「全てを隠し通せ」 によって、幻影や気配を隠す力を得る。そして刀剣解放への道を歩み始める。
最初の試練では門番の宮本恒一と戦い、解放能力「蟷螂」を破って勝利する。しかし第二の試練へ向かった陽斗の前に現れたのは、刀剣解放者を襲う組織 黒刻 の幹部を名乗る男 セルペンス・クロウ だった。
圧倒的な力で追い詰められた陽斗は、未完成ながらも陽炎の刀剣解放を発動。陽炎は双剣へと変化し、新たな技で激闘の末に敵を撃破する。
だが倒した相手は本物のクロウではなく、他人の姿と能力を模倣する黒刻No.15 「イミタティオ」 だった。さらに現場には、
『黒刻は陽炎を見つけた』
『No.1』
という不気味なメッセージが残されていた。
こうして陽斗は、陽炎を狙う謎の組織「黒刻」と、刀たちを滅ぼした真の敵の存在を知る。刀剣解放を極めるための試練と、世界の運命を懸けた戦いが今始まろうとしていた。
決死の攻防 明らかになる黒刻
「なんとか倒すことができたな……」
俺はその場に座り込む。
全身が悲鳴を上げていた。
(やばいな……)
(今のでかなり体力を使った)
(怪我も酷い)
右腕は震え、双剣も維持できなくなって元の陽炎へ戻っている。
『そう無理もない』
陽炎が静かに言う。
『相手は偽物だったとはいえ、黒刻の幹部クラスには変わりない』
「幹部クラス……」
『黒刻には数字が存在する』
『No.1から順に席次が与えられている』
『そして数字が低いほど強い』
「じゃあNo.1が一番強いのか」
『ああ』
『No.1は別格だ』
『私が知る限り、一国を滅ぼしかねない力を持つ』
思わず息を呑む。
そんな化け物がいるのか。
『だが気を付けるべきは上位だけではない』
『No.11以降も十分脅威だ』
『少なくともNo.30程度までは、解放状態でなければ勝負にもならん』
「そんなにか……」
俺は改めて現実を知る。
今の俺は未完成の刀剣解放を使ってようやく一人倒しただけだ。
しかも本物ではない。
『今のお前ではNo.30にも届かん』
『だから強くなれ』
『刀剣解放を完成させろ』
俺は拳を握る。
「なあ陽炎」
『なんだ』
「黒刻ってどのくらいいるんだ?」
陽炎は少し考え込む。
『正確な人数は分からない』
『奴らは常に姿を変え、拠点を変え続けている』
『だが――』
陽炎の表情が険しくなる。
『少なくとも百人はいるだろう』
「百人!?」
思わず声が裏返った。
「冗談だろ……」
『冗談ではない』
『そしてその全員が刀を持つ』
『解放者もいれば、刀剣解放者もいる』
『中にはお前では想像もできない怪物も存在する』
風が吹く。
黒い札が地面を転がった。
そこにはまだ「No.1」の文字が残っている。
『だが安心しろ』
「え?」
陽炎は珍しく微笑んだ。
『お前は既にその道へ足を踏み入れた』
『弱者ではない』
『未熟なだけだ』
俺は札を拾い上げる。
No.1。
そいつが黒刻の頂点。
そして恐らく、陽炎がかつて言っていた「仲間たちを滅ぼした者」にも関係している。
「ならやることは一つだな」
俺は立ち上がる。
傷だらけの身体を無理やり動かしながら。
「強くなる」
「黒刻を倒せるくらいに」
陽炎は静かに頷いた。
『その意気だ』
だがその時――
札の裏側に文字が浮かび上がる。
まるで誰かが今書き込んだかのように。
そこには一行だけ記されていた。
『第三の試練へようこそ』
そしてその下には。
『門番 No.27』
という文字が刻まれていた。
明かされる過去 見えゆく新たな敵
「門番……No.27?」
俺は札を見つめる。
黒い文字は消える気配がない。
「No.27って誰なんだ?」
陽炎は少しだけ目を伏せた。
『No.27は元々、我らと同じ解放者だった』
「元々?」
『ああ』
『だが、ある時を境に黒刻へ行ってしまった』
俺は眉をひそめる。
「なんで裏切ったのか分かるのか?」
陽炎は首を横に振った。
『分からない』
『誰にも理由を話さなかった』
『気付いた時には黒刻の一員になっていた』
静かな風が吹く。
陽炎の表情はどこか寂しそうだった。
『No.27の名は――』
『カエド・ファルクス』
「カエド・ファルクス……」
初めて聞く名前だ。
だが、なぜか胸騒ぎがした。
『斬撃を得意とする男だ』
『かつては数多の解放者の中でも屈指の剣士だった』
「斬撃か」
俺は陽炎を見下ろす。
「ってことは刀剣解放も斬撃系なのか?」
『それは分からない』
「分からない?」
『黒刻に入った者は変わる』
『新たな刀を与えられる』
『新たな刀剣解放を授かる』
『そして新たな術を習得する』
俺は驚く。
「そんなことができるのか」
『黒刻は普通の解放者とは違う』
『奴らは独自の技術を持っている』
『だからこそ危険なのだ』
俺はふと思った。
「じゃあ元々持っていた刀はどうなるんだ?」
『捨てる者もいる』
『持ち続ける者もいる』
『カエドがどうしたかは分からない』
『だが両方を扱うことは可能だ』
「二本持てるってことか」
『ああ』
『しかし代償もある』
『元々持っていた刀は少しずつ弱体化していく』
『黒刻の力に侵食されるからだ』
「侵食……」
陽炎は静かに頷く。
『刀は心の写し鏡だ』
『持ち主が変われば、刀も変わる』
『それが良い方向とは限らない』
俺は手に持つ札を握り締める。
カエド・ファルクス。
元解放者。
黒刻No.27。
斬撃を得意とする剣士。
そして次の門番。
「会えば分かるかもしれないな」
『何がだ?』
「なんで黒刻へ行ったのか」
陽炎は少しだけ黙る。
そして小さく答えた。
『そうだな』
『だが気を付けろ』
『裏切り者であっても、奴は弱くない』
『むしろ――』
陽炎の声が重くなる。
『お前が今まで戦った相手の中で、一番の強敵になるだろう』
その時だった。
ゴォォォ……
平原の先で巨大な石門が開き始める。
第三の試練への入口。
その奥からは、まるで剣が擦れ合うような音が響いていた。
まるで誰かが待っているかのように。
始まる試練
「ここが第三の試練か」
俺は石門をくぐり、中へ足を踏み入れる。
そこは今までの試練とは違っていた。
荒野でもなければ平原でもない。
無数の岩柱が立ち並ぶ巨大な渓谷。
風が吹くたびに岩と岩が擦れ、不気味な音を響かせている。
「ここにいるんだよな」
陽炎は静かに頷いた。
『間違いない』
『ファルクスはここにいる』
俺は周囲を見渡す。
だが人影は見当たらない。
「おい!」
声を張り上げる。
「出てこい!」
渓谷に声が反響する。
「ここにいるのは分かってる!」
……
静寂。
風の音しか聞こえない。
「出てこないな」
『あやつは昔から気配が薄かった』
陽炎が辺りを警戒しながら言う。
『近くにいるはずだ』
『探してみろ』
「分かった」
俺は目を閉じる。
気配探知を発動する。
呼吸を整える。
風を感じる。
岩の振動を感じる。
生命の流れを感じる。
「どこだ……」
一つ。
二つ。
三つ。
小動物の気配がある。
鳥の気配もある。
だが――
人の気配がない。
「おかしい」
『何か見落としている』
陽炎の声が鋭くなる。
『もう一度探れ』
俺はさらに意識を広げた。
その時だった。
カラン――
どこからか石が転がる音が聞こえた。
「!」
俺は反射的に振り向く。
だが誰もいない。
「今のは……」
『陽斗!!』
陽炎が叫ぶ。
『上だ!!』
「なっ――」
見上げる。
そこには。
岩柱の頂上に腰掛ける一人の男がいた。
灰色の髪。
黒い外套。
そして膝の上には一本の刀。
いつからそこにいたのか分からない。
まるで最初から景色の一部だったかのように。
男はゆっくりと立ち上がる。
「やっと見つけたか」
その声は静かだった。
だが底知れない圧力を秘めている。
「お前がカエド・ファルクスか」
男は答えない。
代わりに刀へ手を添えた。
「天城陽斗」
「陽炎の適合者」
「思ったより早かったな」
俺は刀を構える。
「質問がある」
ファルクスは無表情のままこちらを見る。
「なんで黒刻に入った」
しばし沈黙。
風だけが吹き抜ける。
やがて男は小さく笑った。
「そんなことか」
そして。
「なら――」
刀を抜く。
キィン――
澄んだ音が渓谷へ響く。
「俺を倒してから聞け」
次の瞬間。
ファルクスの姿が消えた。
激突のファルクス
「そんなものか」
低い声が響く。
いつの間にかファルクスは俺の背後に立っていた。
「陽炎の継承者は」
「っ!」
振り向くよりも早く刀が振り下ろされる。
「はぁあっ――闇討」
黒い斬撃が地面を裂きながら迫る。
「くっ!」
反射的に陽炎を構える。
だが速い。
避けきれない。
『陽斗!』
陽炎が叫ぶ。
『幻炎を使え!』
「幻炎!」
黄金の光が弾ける。
俺の身体が揺らぎ、複数の幻影へ分裂した。
ズドォォォン!!
闇討が岩柱を粉砕する。
砕けた岩が雨のように降り注ぐ。
「危なかった……」
俺は距離を取る。
すると陽炎が呟いた。
『よく守れた』
『だが気を抜くな』
『闇討はこやつの技ではない』
「何?」
『黒刻で手に入れた術だ』
『本来のファルクスはもっと鋭い』
煙の向こうでファルクスが笑う。
「流石だな」
「だがまだまだだ」
ファルクスはゆっくり刀を掲げる。
その刀身に蒼い光が宿った。
「蒼蓮」
空気が変わる。
周囲の岩柱に蒼い紋様が浮かび上がる。
「邪の刻」
刀身から禍々しい気配が溢れ出す。
俺は思わず後退した。
「なんだ……この圧力」
『陽斗!』
『来るぞ!』
ファルクスが刀を振り下ろす。
「邪性進撃――」
蒼い光が爆発する。
「三の撃」
ドンッ!!
地面が抉れる。
蒼い斬撃が三重に重なりながら一直線に迫った。
一撃目が大地を裂く。
二撃目が空気を切り裂く。
三撃目が全てを呑み込む。
「まずい!」
俺は陽炎を強く握る。
避けるか。
受けるか。
それとも――。
解放者同士の戦い
「全てを隠し通せ――陽炎!」
黄金の光が広がる。
俺の姿が霞み、気配が薄れていく。
迫り来る三重の斬撃。
その寸前で俺は横へ飛び退いた。
ドォォォン!!
蒼い斬撃が大地を抉る。
岩柱が崩れ落ち、砂煙が舞い上がった。
「ほう」
ファルクスが口元を歪める。
「それが陽炎か」
視線だけで周囲を探る。
「面白い」
「実に面白い」
蒼い瞳が狂気にも似た光を帯びる。
「なんとも興奮する」
俺は構えを取る。
陽炎の刀身に熱が集まる。
今ならいける。
そう直感した。
「陽炎――抜刀術二式」
黄金の炎が刀身を包む。
「白熱」
踏み込む。
一瞬で距離を詰める。
斬撃が閃く。
しかし――
ファルクスは避けようともしなかった。
「そんなちっぽけな炎で」
蒼蓮を軽く振る。
ガキィィン!!
俺の斬撃が弾かれた。
「俺を斬れると思ったのか?」
「っ!」
重い。
今まで戦った誰よりも重い。
ファルクスは失望したように首を振る。
「実に呆れたよ」
その瞬間。
蒼蓮とは別の刀を抜く。
黒い刀。
いや、黒というより影そのもの。
「!?」
『陽斗!』
陽炎が叫ぶ。
『それが黒刻の刀だ!』
ファルクスは静かに笑う。
「ようやく気付いたか」
二本の刀を構える。
蒼蓮。
そして黒刻から授かったもう一振り。
「掻き切れ――隠軌怒」
刀身が黒い霧へ変わる。
次の瞬間。
無数の黒線が空間を走った。
「なっ――」
空間そのものが切り裂かれる。
岩柱が崩壊する。
地面が裂ける。
そして――
俺の背後からも斬撃が現れた。
「ぐあっ!」
咄嗟に避けたが肩を切られる。
鮮血が舞う。
『陽斗!』
「大丈夫だ……!」
だが傷は浅くない。
ファルクスはゆっくり歩いてくる。
「理解したか?」
「これが黒刻の力だ」
「解放者ごときが届く領域ではない」
蒼蓮と隠軌怒。
二振りの刀を構えながら告げる。
「さあ見せろ」
「陽炎の継承者」
「お前の限界を」
そしてファルクスの足元に、蒼い紋様と黒い紋様が同時に広がり始めた。
『陽斗……』
陽炎の声が重くなる。
『あやつ、本気を出す気だ』。
「刀剣解放――!」
黄金の光が爆発する。
陽炎は二振りの双剣へと姿を変えた。
未完成。
それでも今の俺にできる最大の力。
『行け、陽斗!』
「ああ!」
俺は地面を蹴る。
一瞬でファルクスとの距離を詰めた。
「陽炎――抜刀術二式!」
双剣を交差させる。
「朧月!!」
黄金の斬撃が月光のような軌跡を描く。
ガギィィィィン!!
ファルクスは蒼蓮で受け止めた。
衝撃で地面が砕ける。
だがファルクスは笑っていた。
「それが刀剣解放ってやつか」
蒼い瞳が細まる。
「懐かしいな」
「実に懐かしい」
「お前も刀剣解放を使えたのか?」
俺が叫ぶ。
ファルクスは答えない。
ただ遠くを見るような目をした。
「使えなかった」
その言葉には僅かな寂しさが混じっていた。
だが次の瞬間、その表情は消える。
「だが――」
蒼蓮と隠軌怒が同時に唸る。
周囲の岩柱が震え始めた。
「ここで終わりだ」
『陽斗、離れろ!』
陽炎が叫ぶ。
ファルクスの背後に巨大な蒼黒の紋章が現れる。
「まさか……!」
『まずい!』
『あやつ、刀剣解放を使う気だ!』
ファルクスはゆっくりと二本の刀を交差させる。
「蒼蓮」
「隠軌怒」
二つの刀が共鳴する。
蒼い光と黒い光が渦を巻き、一つになっていく。
大地が割れる。
空が軋む。
まるで世界そのものが拒絶しているかのようだ。
「刀剣解放――」
陽炎の表情が凍り付く。
『陽斗……!』
『防御に回れ!!』
『まだ真正面から受けるな!!』
ファルクスは静かに告げる。
「顕現せよ」
蒼黒の光が爆発する。
「――蒼影断界」
その瞬間。
渓谷全体が巨大な斬撃に包まれた。
驚きの事実 敵の刀剣解放
「俺の刀剣解放は光と闇だ」
蒼黒の空間の中心で、ファルクスは静かに語る。
「解放者だった頃に手に入れた蒼蓮」
蒼い光が揺れる。
「そして黒刻に入って手に入れた隠軌怒」
今度は黒い影が蠢いた。
「この二つを合わせることで莫大な力を手に入れられる」
空間そのものが震える。
俺は双剣を構えたまま睨み返す。
「だが、これには回数制限がある」
「回数制限?」
「蒼蓮は長い間解放できない」
ファルクスは蒼蓮へ視線を落とした。
「解放するたびに蒼蓮の寿命が減る」
「寿命……?」
『刀にも寿命はある』
陽炎が呟く。
「その代わりに隠軌怒が強くなる」
「つまりどういうことだ?」
ファルクスは小さく笑った。
「等価交換だよ」
蒼い光と黒い光が交わる。
「寿命と生命のな」
その言葉を聞いて、俺は初めて理解した。
こいつは力を得る代わりに、自分の刀を犠牲にしている。
だがファルクスは表情を変えない。
まるで当然のことのように。
(こうやって長い間喋っているが……)
(刻一刻と寿命が縮まっている)
(このままならいつか崩壊する)
その瞬間だった。
「今、崩壊するだろうと思ったか?」
「!?」
背筋が凍る。
心を読まれた。
「こいつ……!」
ファルクスは笑う。
「残念だが、この解放はあと三日持つ」
「三日だと……」
『三日も維持できるのか』
陽炎ですら驚いている。
普通なら数分。
長くても数時間。
それほど危険な力なのだ。
「もうそろそろいいか」
ファルクスが刀を掲げる。
「行くぞ――蒼影」
蒼蓮と隠軌怒が共鳴する。
「ルクス・イン・テネブリス」
瞬間。
世界から光が消えた。
完全な暗闇。
上も下も分からない。
距離感すら消失する。
「暗黒空間だと!?」
『まずい!』
『感覚を奪う術だ!』
陽炎が叫ぶ。
だが俺は双剣を握り直した。
「こんなもの――」
呼吸を整える。
気配を探る。
敵の位置を読む。
「すぐに破ってやる!」
黄金の光が双剣へ集まる。
「陽炎――抜刀術二式」
光が膨れ上がる。
「応用」
暗黒空間が揺れた。
「朧月――断空!!」
双剣を同時に振り抜く。
黄金の三日月が出現する。
それは斬撃でありながら光そのものだった。
ズガァァァァン!!
暗黒空間が真っ二つに裂ける。
光が差し込む。
「なに!?」
初めてファルクスの表情が変わった。
蒼黒の世界に巨大な亀裂が走る。
『やったぞ陽斗!』
陽炎が叫ぶ。
だが。
亀裂の向こうで。
ファルクスは静かに笑っていた。
「そう来ると思った」
その背後には。
先ほどまでなかった巨大な紋章が浮かび上がっている。
「だから準備しておいた」
蒼蓮と隠軌怒が再び光る。
そしてファルクスはゆっくりと告げた。
「第二段階だ」
再び広がる暗黒 陽斗の秘策
「灯れ――ルーメン」
蒼い光が空間を満たす。
「広がれ――グルゲス・アテル」
次の瞬間、その光は漆黒へと反転した。
光と闇。
相反する力が混ざり合う。
渓谷全体が軋み始めた。
岩が砕け、空間そのものに亀裂が入る。
「これを使うと俺とお前は――」
ファルクスが静かに告げる。
「体が崩壊する」
「なん、だと」
俺は思わず顔をしかめる。
「でも俺は復活できる」
「何?」
「俺たち黒刻はもしものためにクローンや復活の刻印を用意している」
その言葉に陽炎の表情が険しくなる。
『まさか……』
「だから俺たちは永遠の生を手に入れることに成功した」
ファルクスは笑った。
だがその笑顔にはどこか狂気が混じっている。
「何があっても復活できる」
「欠片さえあれば復活できる」
「どこからでも何度でも復活できる」
蒼黒の空間がさらに広がる。
「だからもう終わりだよ」
空間の崩壊が始まる。
地面が砕ける。
空が割れる。
俺の腕にも細かな亀裂が走った。
「まだ終わってなんかない!」
俺は叫ぶ。
双剣が光る。
しかしその瞬間――
陽炎が震え始めた。
『陽斗……!』
「どうした!?」
『力が……溢れている』
黄金の光が双剣から噴き出す。
今までとは違う。
未完成だった刀剣解放が、何かに引っ張られるように変化していく。
「なに……!?」
双剣が融合を始めた。
一本の刃へ。
長く。
鋭く。
そして神々しく。
「刀剣解放――太刀」
黄金の大太刀が姿を現す。
刀身には無数の炎の紋様。
まるで生きているかのように脈動している。
ファルクスの目が大きく見開かれた。
「ここで新たな刀剣解放とは……」
初めて動揺が見える。
俺自身も驚いていた。
だが不思議と扱い方が分かる。
『陽斗……』
陽炎の声が聞こえる。
『これは未完成の先にある可能性だ』
『本来ならまだ到達できない領域』
ファルクスは静かに笑った。
だがその笑みは先ほどまでと違う。
剣士としての純粋な喜びだった。
「やはり」
蒼影断界を構えた
「陽炎の継承者は格が違う」
崩壊する世界の中。
光と闇が激突しようとしている。
そしてその時。
陽炎が小さく呟いた。
『思い出した……』
「何をだ?」
『ファルクスが黒刻へ行った理由を』
ファルクスの表情が変わる。
『お前は――』
陽炎は信じられないものを見るように言った。
『No.1と戦ったんだな』
その一言で。
ファルクスの笑みが消えた。
明かされる過去 流鬼守と蒼蓮
――数年前
俺の名は流鬼守。
解放者であり、第三の試練の門番でもある。
今日も第三の試練は平和だった。
風が吹き、岩が揺れ、退屈な時間だけが流れていく。
「今日も何もないな」
俺は岩の上に寝転がりながら空を見上げる。
「なんか楽しいことないかな」
腰に差した刀へ話しかけた。
「ねぇ、聞いてる? 蒼蓮」
『聞いてる、聞いてる』
気の抜けた返事が返ってくる。
「ならよかった」
すると蒼蓮が呆れたように言った。
『そういえば最近鍛錬してないようね』
『流石にそろそろしたら?』
「えー」
俺は大きなため息をつく。
「めんどくさいし」
「疲れるもん」
「やだ、したくない」
『こんなのが自分の主人とは認めたくない』
「ひどくない?」
『事実よ』
容赦がない。
だが確かに最近は鍛錬をサボっていた。
門番の仕事も慣れてしまい、緊張感が薄れていたのかもしれない。
「でもなぁ……」
『でもじゃない』
『やりなさい』
「分かったよ」
俺は重い腰を上げる。
「流石にしないとな」
「仕方ない、鍛錬でもするか」
『その意気だ』
『頑張れ』
◇◇◇
数時間後。
「もういいよな……」
地面へ大の字になる。
汗が止まらない。
腕も足も鉛のように重い。
「流石にもう動けない」
『お疲れ〜』
蒼蓮がどこか楽しそうに言う。
『そろそろ休んだら?』
「その言葉通りに休ませてもらいますよ」
目を閉じようとした。
その時だった。
ピーッ――
伝令、伝令。
ピーッ――
伝令、伝令。
応答せよ。
「ん?」
俺は飛び起きる。
嫌な予感がした。
通信機を手に取る。
「こちら第三の試練」
「門番の流鬼守です。どうぞ」
ノイズの向こうから緊迫した声が響いた。
『こちら試練守護隊』
『第一の試練付近で黒刻の反応あり』
『至急急行せよ』
『繰り返す――』
そこで通信を切り替える。
「まずい状況だな……」
俺は眉をひそめた。
ほとんどの門番は別地域で発生した黒刻討伐任務へ向かっている。
現在こちら側に残っている門番は――
俺と第四の試練の門番だけ。
だが第四の試練の門番は重傷を負い休養中。
実質、戦える門番は俺一人だった。
『行くか?』
蒼蓮が静かに聞く。
俺は立ち上がり刀を握った。
「ああ」
「行かないとな」
再び通信機を起動する。
ピーッ――
「流鬼守行きます」
「詳細をお願いします」
今度は情報管理局の声だった。
『了解』
『敵戦力は十五体』
『そのうち一人、とびきり高い刀剣指数を観測』
『おそらく幹部クラスと思われます』
俺は思わず口笛を吹く。
「いきなり大物か」
『現在戦闘可能な人数は約二十名』
「まあまあな人数だな」
『敵到着予想地点は第一の試練付近』
『以上です』
俺は頷いた。
「それだけ分かれば十分だ」
通信を切る。
そして蒼蓮を抜いた。
「行くぞ」
『ええ』
『久しぶりの実戦ね』
夕暮れの空を見上げる。
この時の俺はまだ知らなかった。
この任務が――
俺の人生を変える戦いになることを。
戦い前の静けさ
ピーッ――
「こちら守備隊」
「情報管理局と通信願います」
すぐに応答が返ってくる。
『こちら情報管理局』
『どうしました』
「敵の正確な人数を確認したい」
数秒の沈黙。
おそらく各地の観測情報を照合しているのだろう。
そして。
『確認しました』
『敵の正確な人数は三十名』
俺の表情が険しくなる。
予想より多い。
『その中に幹部クラス三名を確認』
「三名だと?」
周囲にいた守備隊員たちもざわついた。
『幹部クラスは――』
『No.1』
『No.5』
『No.15』
『以上三名を確認』
空気が一変する。
No.15だけでも十分危険だ。
それが三人。
しかもNo.1までいる。
『それ以外は一般クラスと断定』
「了解」
通信を切り替える。
「各隊へ通達」
俺は深く息を吸った。
「敵の正確な人数は三十名」
「そのうち幹部クラスは三名だ」
守備隊員たちの顔が引き締まる。
「気を付けて戦闘を行え」
「決して無理はするな」
『了解!』
複数の声が重なる。
俺は続けた。
「守備隊第五十三隊は第一試練の守備を担当」
『了解!』
「守備隊第六十八隊は石階段下の守備を担当」
『了解!』
「その他各隊は住民避難および迎撃準備」
次々に指示が飛んでいく。
そして最後に。
通信の向こうから低い声が響いた。
『流鬼守』
「なんだ」
『お前は幹部クラスの対応を頼む』
俺は苦笑した。
「そうなると思ったよ」
『特に――』
通信の声が重くなる。
『No.1には気を付けろ』
その名前が出た瞬間。
周囲が静まり返った。
黒刻最強。
その存在を知らない者はいない。
『奴だけは別格だ』
『遭遇した場合、単独交戦は推奨しない』
『可能なら即時撤退しろ』
俺は空を見上げた。
夕焼けの向こう。
黒い雲が集まり始めている。
「分かった」
そう答えたものの。
なぜだろう。
胸の奥がざわつく。
まるで何かに呼ばれているような感覚。
『流鬼守』
蒼蓮が静かに声をかける。
『嫌な予感がする』
「奇遇だな」
俺は刀の柄を握る。
「俺もだ」
遠くで爆発音が響いた。
敵が来たのだ。
そしてこの戦場で。
後に黒刻No.27となる男、
流鬼守の運命は大きく動き始める。
to be continued
あとがき
どうも、作者の夜城こはくです。
感の鋭い方なら気づいているかもしれませんが、この作品を書いていると「どこかで見たことがあるような……?」と思う部分がちらほら出てきます。
実は「刀剣解放」という設定を考えて書き始めた後に、「あれ、似たような言葉を聞いたことがあるぞ」と気付き、少し焦りました。
それでも、この作品なりの世界観や物語を作っていけたらいいなと思いながら、楽しく執筆しています。
まだまだ未熟な作品ではありますが、天城陽斗や陽炎たちの物語を最後まで見届けていただけると嬉しいです。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
それでは、また次回お会いしましょう。
さようなら。




