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刀剣解放(ブレードリベレイト)①

刀剣解放ブレードリベレイト

それは選ばれし者のみが扱える究極の技。

通常解放を遥かに超える力を引き出し、刀の真の姿を顕現させる。

だが、その力を得るには最低でも二十年。

刀との鍛錬、そして対話を積み重ねなければならない。

故に、刀剣解放に到達できる者はごくわずか。

これは、そんな伝説の力を巡る物語。

そして――とある一本の刀から始まる物語である。

俺の名前は天城陽斗あまぎはると

どこにでもいる普通の高校生だ。

少し変わったことがあるとすれば、最近祖父から古びた刀を譲り受けたことくらいだろう。

黒ずんだ鞘。

年季の入った柄。

一見すると価値の分からない古刀だ。

だが、なぜだろう。

初めてその刀を見た時から妙な感覚があった。

まるで俺を見ているような。

まるで呼んでいるような。

そんな不思議な感覚だ。

結局、捨てるわけにもいかず、今は自室の一角に飾っている。

「行ってきます」

いつも通り学校へ向かい、授業を受け、友達と話し、何事もなく一日が終わる。

普通の日常。

少なくとも、表面上は。

だが最近、俺はある違和感を覚えていた。

帰り道。

住宅街を歩きながら、ふと後ろを振り返る。

誰もいない。

だが確かに感じる。

視線だ。

ここ数週間、ずっと何者かに見られている気がしている。

人なのか。

それとも人ではない何かなのか。

俺には分からない。

ただ、一つだけ確かなことがある。

それは日に日に近づいてきているということだ。

「……気のせい、じゃないよな」

夕焼けが街を赤く染める。

その時だった。

背筋を凍らせるような殺気が走った。

ゾクリ、と全身の毛穴が開く。

反射的に振り向く。

しかし、そこには誰もいない。

なのに。

確かに聞こえた。

耳元で囁くような声が。

『見つけた』

「……誰だ!」

周囲を見回す。

誰もいない。

だが次の瞬間――

家に飾ってあるはずの刀が、まるで呼応するかのように微かに震えた。

そして遠く離れた自室で眠っているはずのその刀から、声が響く。

『ようやく……見つけたか』

その日を境に、天城陽斗の日常は終わりを告げる。

誰も知らない刀の世界。

解放者たちの戦い。

そして、伝説の刀――

「陽炎」

との出会いによって。


私の名は陽炎

気が付くと、俺は見知らぬ場所に立っていた。

空は灰色に染まり、大地はひび割れている。

辺りを見渡した俺は思わず息を呑んだ。

「どこだよ……ここは」

無数の刀。

地面に突き刺さった刀が地平線の先まで並んでいる。

その周囲には折れた刀身や砕けた柄、錆び付いた破片が散乱していた。

まるで戦場の墓場だ。

「なんだよここは……」

その時だった。

俺の目の前に一人の人物が現れた。

長い黒髪。

どこか儚げな雰囲気を纏った女性。

しかし、その瞳だけは鋭く輝いていた。

「誰だ、お前は」

俺が警戒しながら尋ねる。

すると女性は静かに答えた。

「私の名は――陽炎だ」

「なん……だと?」

陽炎。

それは祖父から受け継いだ刀の名前だった。

「ここは何なんだ」

俺の問いに陽炎は周囲へ視線を向ける。

「これは私が見てきた景色」

風が吹き抜ける。

突き刺さった刀たちが微かに震えた。

「ここで、たくさんの仲間が消えた」

「仲間……?」

「ああ。かつて共に戦った刀たちだ」

陽炎の声には深い悲しみが混じっていた。

「お前には、ここで私たちを滅ぼした者を倒してもらう」

「そんなこと急に言われても……」

俺は首を振る。

「そもそも相手は誰なんだよ」

陽炎は少しだけ微笑んだ。

「今のお前に教えるつもりはない」

「は?」

「知りたければ私を認めさせてみろ」

「認めさせる?」

「刀を極めろ」

そう言うと、陽炎は一本の刀を抜いた。

澄んだ音が静寂に響く。

「私を圧倒してみせろ」

「その時になれば教えよう」

陽炎は刀を肩に担ぎながら言った。

「私たちを滅ぼした者の名を」

その瞬間。

景色が崩れ始めた。

地面が砕け、空が割れ、無数の刀が光となって消えていく。

「待て! まだ聞きたいことが――!」

俺が叫んだ時にはもう遅かった。

世界は白く染まり――。

◇◇◇

「はっ!」

勢いよく目を覚ます。

気付けば自分の部屋だった。

荒い息を整えながら周囲を見回す。

夢だったのか。

そう思いかけたその時。

「……え?」

部屋の隅に飾ってあった刀へ視線が止まる。

違う。

昨日までとは明らかに違う。

古びていたはずの鞘は艶のある漆黒へ変わり、傷一つ見当たらない。

柄も新品のように美しく巻き直されていた。

まるで長い眠りから目覚めたかのように。

そして鞘には、昨日まで存在しなかった金色の文字が刻まれていた。

――陽炎。

その瞬間。

頭の中に声が響く。

『まずは見せてみろ』

『お前の覚悟を』

陽炎との契約は、既に始まっていた。


お前の覚悟を示せ

「俺の覚悟……」

俺は拳を握り締める。

頭の中には祖父の顔。

友人たちの顔。

家族の顔が浮かんでいた。

あの時見た光景。

折れた刀。

消えていった仲間たち。

そして陽炎の悲しそうな表情。

「俺は……」

自然と言葉が零れる。

「俺は、これ以上何も失いたくない」

風が吹く。

突き刺さった無数の刀が微かに震えた。

「だから教えてくれ」

俺は真っ直ぐ陽炎を見据える。

「刀の使い方を」

陽炎はしばらく黙っていた。

そして小さく頷く。

『分かった』

『ならば教えよう』

『刀の使い方を』

『そして、刀を極める方法を』

陽炎が右手を前に差し出す。

その瞬間、周囲に突き刺さっていた刀たちが光を放ち始めた。

『まずは私を呼べ』

『名前には力が宿る』

『刀の真名を呼ぶことで、初めて力への道が開かれる』

陽炎の瞳が俺を見つめる。

『私の名は――』

その言葉を聞いた瞬間。

なぜか最初から知っていたような感覚が胸を満たした。

俺は叫ぶ。

「陽炎ーー!!」

刹那。

世界が黄金色の光に包まれた。

地面に突き刺さった刀が共鳴するように鳴り響く。

キィン――。

甲高い音が空へと駆け上がる。

陽炎の髪が風になびいた。

そして初めて微笑む。

『契約成立だ』

『天城陽斗』

『今日からお前は私の使い手となる』

光の中で一本の刀が現れる。

それは部屋に飾られていた刀と同じ姿。

しかし、その刀身は燃えるような黄金の輝きを放っていた。

『握れ』

『そして感じろ』

『私の力を』

陽斗はゆっくりと刀へ手を伸ばした――。

「これが……陽炎」

俺は両手で刀を握る。

刀身は美しく、まるで生きているかのように微かに輝いていた。

『そうだ』

陽炎は静かに答える。

『私の力を使いたい時は――』

『【全てを隠し通せ】と言え』

『そうすれば、いつでも力を貸そう』

「全てを隠し通せ……か」

その言葉を胸に刻む。

「分かった。ありがとう、陽炎」

すると陽炎は少しだけ満足そうな表情を浮かべた。

『礼などいらん』

『それより、まずはあの木を切ってみろ』

陽炎が指差した先には一本の大木が立っていた。

「……あの木か」

『解放は使うな』

『今のお前の力だけで切れ』

「分かった。やってみる」

俺は刀を構える。

剣道の経験などない。

当然、刀を握るのも初めてだ。

だが不思議と恐怖はなかった。

深く息を吸う。

そして一歩踏み込んだ。

「はぁっ!」

シャキン――

刀身が空気を裂く。

次の瞬間。

バキッ

バキバキバキッ――!!

大木が大きく揺れ、斜めに裂けながら倒れていく。

「や、やった……!」

俺は驚いて自分の手を見る。

初めて振ったはずなのに、なぜか切れた。

だが陽炎は首を横に振った。

『木を切ることはできた』

『だが、まだ無駄な動きが多い』

「無駄な動き?」

『力任せだ』

『重心も乱れている』

『あれでは強敵と戦えば一瞬で隙を晒す』

陽炎は倒れた木へ視線を向ける。

『刀とは振るうものではない』

『流すものだ』

『力ではなく技で斬れ』

俺は黙って聞いていた。

『鍛錬を怠るな』

『一日怠れば一日分弱くなる』

『十日怠れば十日分遅れる』

陽炎の声は厳しかった。

だが、その言葉には確かな重みがあった。

「分かった」

俺は刀を握り直す。

「強くなる」

「お前に認められるくらいにな」

その言葉を聞いた陽炎は微かに笑った。

『ならば始めるぞ』

『地獄の鍛錬をな』

その瞬間――

俺はまだ知らなかった。

この鍛錬が、普通の人間なら一日で音を上げるほど過酷なものだということを。


刀の更なる力

『お前には刀剣解放を覚えてもらう』

「刀剣解放?」

俺は聞き慣れない言葉に首を傾げた。

『そうだ』

『刀剣解放だ』

陽炎は静かに頷く。

『刀剣解放とは、刀の力を極限まで高める技』

『解放を遥かに超える、刀と使い手の真の力だ』

「そんなに凄いのか……」

『無論だ』

『刀剣解放に至った者は数えるほどしかいない』

『才能ある者ですら習得に二十年はかかる』

「に、二十年!?」

思わず大声が出た。

「そんなに待ってられるかよ!」

『だから言っている』

『悠長に待っている時間はない』

陽炎の表情が険しくなる。

『奴が動き出している』

『本来なら二十年かけるべき道を、お前には数年……いや、それ以下で歩んでもらう』

「なんでそんなに時間がかかるんだ?」

俺の問いに陽炎は一本の刀を拾い上げた。

『最初から刀に名はない』

「え?」

『刀は生まれた時、ただの器に過ぎない』

『主人の傍にあり続け、想いを受け取り、時を重ねる』

『そして目覚めた時、初めて自らの名を得る』

俺は手に持つ陽炎を見る。

『私もそうだった』

『長い時を経て、ようやく陽炎という名を得た』

『それから何度も対話を重ねる』

『心を通わせ、互いを理解し合う』

『そうして初めて刀剣解放の基礎を教えられるのだ』

「なるほど……」

『だが、それで終わりではない』

陽炎は続ける。

『刀剣解放は完成された技ではない』

『使い手によって姿を変える』

『何度も使い』

『何度も鍛え』

『何度も限界を超える』

『そうすることで、自分だけの刀の形へ変化していく』

「自分だけの……刀の形」

『ある者は双剣』

『ある者は大太刀』

『ある者は槍』

『ある者は細剣』

『その姿は千差万別』

『同じ刀剣解放は二つとして存在しない』

俺は無意識に陽炎の柄を握り締めた。

「じゃあ、お前はどうなるんだ?」

陽炎は少しだけ笑った。

『それはまだ教えられない』

『今のお前では刀剣解放にすら届いていないからな』

「なんだよそれ」

『知りたければ強くなれ』

『私を超えるほどにな』

そう言って陽炎は振り返る。

その先には、今まで見えなかった巨大な石段が続いていた。

上空へ伸びるような果てしない階段。

『まずは第一歩だ』

『天城陽斗』

『刀剣解放への道は、ここから始まる』

その瞬間――

石段の上から何者かの殺気が降り注いだ。

陽炎の目が鋭く細まる。

『来たか』

「来たって……誰が?」

すると階段の頂上に、一人の影が現れた。

その人物の手には、一振りの刀が握られていた。


俺の名は宮本だ

『この階段の門番――宮本恒一だ』

陽炎がそう告げる。

「門番……?」

俺は石段の上に立つ男を見上げた。

黒い羽織を纏い、腰には一本の刀。

その目には歴戦の戦士だけが持つ鋭さが宿っている。

男はゆっくりと階段を下りてきた。

「俺の名は宮本恒一」

「ここ、試練の石段の門番だ」

一歩。

また一歩。

近づくたびに圧力が増していく。

「ここから先へ行きたければ、この俺を倒してみろ」

俺は思わず陽炎を握り直した。

「倒すって……」

「当然、本気で来るんだよな?」

恒一は口元を吊り上げる。

「悪いな」

「俺は手加減ができない性分でな」

その瞬間。

周囲の空気が変わった。

「だから――」

恒一が刀の柄に手をかける。

「最初から全力で行かせてもらうぞ」

ゾクリ――

背筋を悪寒が走る。

陽炎も警戒したように呟いた。

『陽斗、構えろ』

「っ!」

俺は慌てて刀を構えた。

恒一は静かに刀を抜く。

そして――

「切り刻め――蟷螂とうろう

瞬間。

刀身が緑色の光に包まれた。

刀は大きく形を変え始める。

刃が二つに分かれ、まるで巨大な鎌のような姿へ変貌した。

「なっ!?」

『解放だ!』

陽炎が叫ぶ。

『気を付けろ!』

『あれは斬撃の速度に特化した刀だ!』

恒一の姿が消える。

「!」

次の瞬間。

キィィィン!!

激しい金属音が響いた。

俺の目の前に恒一がいた。

「遅い」

「ぐっ!?」

咄嗟に刀で受けたが、衝撃で数メートル吹き飛ばされる。

地面を転がりながら何とか体勢を立て直した。

「なんだよ……今の速度……」

『これが解放者だ』

『今のお前では勝負にすらならん』

陽炎の声は厳しい。

だが、その直後。

『だからこそ学べ』

『戦いながらな』

恒一が再び蟷螂を構える。

「いい反応だった」

「だが次は防げるか?」

無数の緑色の残像が現れる。

一人。

二人。

十人。

二十人。

どれが本物か分からない。

そして恒一は不敵に笑った。

「第二撃だ」

「生き残ってみろ、天城陽斗」――。


初めて見る刀剣解放 解放せよ陽炎

「全てを隠し通せ――陽炎!」

俺が叫んだ瞬間。

陽炎の刀身から黄金色の光が溢れ出す。

揺らめく炎のような光が周囲を包み込み、景色が歪み始めた。

『よくやった』

『それが解放だ』

俺の姿がぼやける。

足音も。

気配も。

まるで世界そのものに溶け込んでいくような感覚だった。

「これが……陽炎の力」

『隠蔽』

『それが私の本質だ』

俺は再び刀を構える。

「今度は完全に防いでやる」

恒一は不敵に笑った。

「面白い」

「やってやろうじゃねぇか」

蟷螂を肩へ担ぐ。

その瞬間だった。

「蟷螂」

「刀剣解放――一部解放」

ゴォォォッ!!

緑色の光が吹き荒れる。

巨大な鎌だった蟷螂が砕けるように分解し、無数の刃となって宙を舞う。

それらが再び集まり始めた。

一本に。

さらに長く。

さらに鋭く。

そして姿を現したのは――巨大な太刀。

刀身には蟷螂の羽のような紋様が浮かび上がっている。

「刀剣解放だと……!?」

思わず息を呑む。

『あいつの持つ蟷螂は』

『解放状態では巨大な鎌となる』

『そして刀剣解放で二本の鎌が一つとなり、巨大な太刀へ変化する』

陽炎の声にも緊張が混じる。

『あれは一部解放だ』

『本来の刀剣解放の力の一端に過ぎない』

恒一は太刀をゆっくり構えた。

「防いでみろ」

次の瞬間。

ドンッ!!

地面が爆発した。

「なっ!?」

速い。

先程とは比べ物にならない。

気付けば恒一は俺の目の前にいた。

巨大な太刀が振り下ろされる。

「ぐぅっ!!」

ガキィィィィン!!

俺は咄嗟に陽炎を構える。

火花が散る。

腕が悲鳴を上げる。

膝が沈む。

「まだだぁぁぁ!!」

押し返そうと力を込める。

しかし恒一は笑っていた。

「いいな」

「その目だ」

太刀からさらに力が加わる。

地面が割れ始める。

『陽斗!』

『正面から受けるな!』

『陽炎の力は隠すことだ!』

その言葉を聞いた瞬間。

俺の頭に一つの考えが浮かんだ。

「だったら――」

陽炎の光が一気に強まる。

恒一の目がわずかに見開かれた。

「消えた……!?」

俺の姿がその場から消失したのだった。

「陽炎――幻炎げんえん!」

黄金色の揺らめきが周囲へ広がる。

俺の姿は完全に消えた。

いや、それだけじゃない。

気配も。

足音も。

殺気すらも掻き消えている。

恒一は辺りを見回した。

「どこに行った」

その目が鋭く細められる。

「なるほど……隠す力か」

恒一はゆっくりと太刀を構える。

「ならば――気配探知」

ブワッ――

緑色の波動が周囲へ広がった。

草木が揺れる。

空気が震える。

「見つけたぞ」

恒一が右を向く。

「そこだ!」

ドンッ!!

一瞬で距離を詰める。

「蟷螂一突き!」

鋭い刺突が放たれる。

だが――

貫いたのは俺ではなかった。

「なっ!?」

目の前の俺が揺らぎ始める。

幻影。

幻炎が生み出した偽物だった。

その背後から声が響く。

「残念だったな」

恒一が振り返る。

俺は既に背後へ回り込んでいた。

龍炎りゅうえん――おぼろ

陽炎の刀身に黄金色の炎が宿る。

炎は激しく燃えることなく、まるで霞のように静かに揺らめいていた。

そして――

斬。

静かな一閃。

恒一の目が見開かれる。

「……見事だ」

バタン――

恒一はゆっくりと地面へ倒れた。

太刀も光となって消えていく。

静寂が訪れる。

俺は大きく息を吐いた。

「勝った……のか」

恒一は倒れたまま笑う。

「いい技じゃないか」

「まだ未熟だがな」

そう言うと、その身体は光の粒子となって崩れ始めた。

『良い戦いだったな』

陽炎が静かに呟く。

「ギリギリだったけどな」

『それでも勝ちは勝ちだ』

『お前は試練を乗り越えた』

目の前の石段が光り始める。

今まで閉ざされていた先の道が開いていく。

その先にはさらに高く続く階段。

そして頂上には巨大な鳥居のような門が見えた。

『先を急ぐぞ』

陽炎の声が少しだけ重くなる。

『この程度の相手は序章に過ぎん』

『真の強者はこの先にいる』

俺は刀を握り直した。

「分かってる」

「まだ始まったばかりなんだろ?」

陽炎は小さく笑う。

『ああ』

『刀剣解放への道は、ここからが本番だ』

そうして俺たちは、第二の試練が待つ石段へ足を踏み入れた。


始まる新たな試練 

「ここが第二の試練」

辺りを見回す。

何もない。

ただ平坦な地面がどこまでも続いているだけだ。

「ところで今更だけどさ」

俺は隣を歩く陽炎を見る。

「なんでお前は俺以外には見えないんだ?」

『刀の解放を重ねれば、こうして使用者の傍へ現れることができる』

『だが基本的には使用者以外には見えない』

『強い絆で結ばれた者や、一部の例外を除いてな』

「へぇ」

俺は適当に返事をする。

「ところでここには人はいないのか?」

『いや、いるはずだ』

「なら――」

俺は目を閉じる。

「気配探知」

感覚を広げる。

風の流れ。

地面の振動。

生命の気配。

「どこにいる――」

その瞬間。

『!!』

陽炎が目を見開いた。

『陽斗!!』

『逃げろ!!』

「え?」

ゾクッ――

首筋に冷たいものが走る。

背後。

真後ろだ。

「よく気付いたな」

振り返る。

そこには黒い男が立っていた。

いつ現れたのか分からない。

最初からそこにいたような錯覚すら覚える。

男は静かに刀を抜く。

「締め付けろ――黒蛇」

刀身から黒い蛇が溢れ出す。

「なっ!?」

蛇は一瞬で俺の足へ絡み付いた。

動けない。

締め付けがどんどん強くなる。

『陽斗!!』

『解放しろ!!』

陽炎が叫ぶ。

『そいつはここの門番じゃない!!』

男が笑う。

「ほう」

「そこまで分かるか」

そして蛇のような瞳で俺を見た。

「なら名乗ってやる」

「俺の名はクロウ」

男は絡みつく黒蛇の上に立ちながら笑った。

黒刻こっこくNo.6――セルペンス・クロウだ」

「黒刻……?」

聞いたことのない名前だった。

だが陽炎の表情は一変していた。

『陽斗、気を付けろ』

『黒刻は我々刀剣解放者を襲い、その力を奪い、悪用する組織だ』

「なんだって……」

クロウは肩をすくめる。

「悪用とは失礼だな」

「俺たちはただ、この世界の真実を知ろうとしているだけさ」

『戯言を』

陽炎の声に怒気が混じる。

『奴らは多くの刀を破壊し、多くの解放者を殺してきた』

『そして――』

陽炎はクロウを睨み付けた。

『あやつは幹部クラスだ』

その言葉を聞いて、俺の背中を冷たい汗が流れた。

第一の試練で戦った恒一とは比べ物にならない圧力。

立っているだけなのに息苦しい。

クロウは嬉しそうに笑う。

「へぇ」

「俺のことを知ってるのか」

『知らぬはずがない』

『黒刻No.6』

『黒蛇のクロウ』

『幾人もの解放者を葬った男だ』

クロウは刀を肩へ担ぐ。

「光栄だな」

「だが安心しろ」

「今日は殺しに来たわけじゃない」

「は?」

「俺の目的はお前だよ、天城陽斗」

その瞬間。

クロウの瞳が鋭く細められた。

「陽炎の適合者」

「まさか本当に現れるとはな」

『っ!』

陽炎が息を呑む。

「どういうことだよ!」

俺が叫ぶ。

しかしクロウは答えない。

代わりに刀をゆっくり構えた。

「試してみたくなった」

「伝説の刀が選んだガキがどれほどのものか」

黒蛇が地面を這う。

一匹。

二匹。

十匹。

百匹。

平原が黒い蛇で埋め尽くされていく。

『陽斗』

陽炎の声が低くなる。

『気を抜くな』

『こいつは今までの相手とは違う』

クロウは不敵に笑った。

「さあ見せてくれよ」

「陽炎の力を――」

黒蛇たちが一斉に牙を剥いた。


現れた黒刻 初めて見る術

「全てを隠し通せ――陽炎!」

黄金色の光が広がる。

俺の姿が揺らぎ、気配が薄れていく。

「噛みつけ――黒蛇」

無数の蛇が襲い掛かる。

だが――

「幻炎!」

俺の姿が幾重にも分裂した。

蛇たちは幻影へと食らいつく。

「やった!」

だがクロウは鼻で笑った。

「無駄だ」

その声に嫌な予感が走る。

クロウは刀を地面へ突き立てた。

「我が刀に宿る黒蛇よ」

黒い霧が足元から溢れ出す。

「今一度我のもとに集い」

蛇たちが一斉に動きを止める。

「逃げゆく敵を捕らえたまえ」

蛇が渦を巻き始める。

「――黒牢(こくろう)

ドォォォン!!

巨大な黒い檻が出現した。

蛇同士が絡み合い、逃げ場のない牢獄を形成する。

「なっ!?」

幻影ごと閉じ込められる。

『詠唱だ!』

陽炎が叫ぶ。

『陽斗、避けろ!!』

「避けても無駄だ」

クロウの表情に余裕は崩れない。

むしろ楽しんでいるようだった。

「天空に舞う力の権化よ」

空が暗くなる。

ゴロゴロと雷鳴が響いた。

俺は空を見上げる。

黒雲が現れていた。

いつの間に。

「我のもとに集まり」

雷光が雲の中を駆け巡る。

「敵を殲滅せよ」

クロウの刀が天へ向く。

そして――

雷霆らいてい

轟音。

空そのものが裂けた。

『なっ――』

陽炎の顔が凍り付く。

『二重詠唱だと!?』

黒牢で逃げ場を封じながら、同時に雷霆を完成させていた。

普通の解放者なら不可能。

一つの術に集中するだけでも膨大な精神力を使う。

それを二つ同時に。

「終わりだ」

クロウが指を鳴らす。

次の瞬間。

天から数十本もの雷が降り注いだ。

平原を白い閃光が飲み込む。

轟音が世界を揺らした。

『陽斗!!』

陽炎が叫ぶ。

煙が立ち込める。

黒牢の中心。

そこに陽斗の姿は――。


初めての刀剣解放 限界を超えろ陽斗

雷光が消える。

荒れ果てた大地の中央で、俺は膝をついていた。

「はぁ……はぁ……」

全身が痛い。

腕も足も思うように動かない。

『生きているか、陽斗』

「ああ……なんとかな」

俺は陽炎を杖代わりに立ち上がる。

向こうではクロウが舌打ちしていた。

「ちっ……倒しきれなかったか」

その目は先ほどまでの余裕を失っている。

「詠唱破棄――混沌のこんとんのかみなり

黒い雷が刀へ集まり始める。

『陽斗』

陽炎の声が響く。

『刀剣解放だ』

「できるのか、俺に」

『できるにはできる』

『だが未完成だ』

『本来の姿には程遠い』

『脆く、壊れやすい』

『それでも今はやるしかない』

俺は陽炎を強く握る。

「……分かった」

深く息を吸う。

そして叫んだ。

「刀剣解放!!」

轟音。

黄金の光が爆発する。

陽炎の刀身が砕けるように分裂した。

右手に一振り。

左手に一振り。

二本の黄金の刃。

「これが……」

『陽炎の刀剣解放』

『双剣だ』

俺は自然と構えを取る。

不思議だった。

初めて握るはずなのに、身体が動きを知っている。

「陽炎――双剣」

黄金の光が刃を包む。

「抜刀術二式」

一歩踏み込む。

朧月おぼろづき

斬撃が月光のような軌跡を描いた。

クロウの身体が大きく吹き飛ぶ。

だが――

クロウは笑っていた。

「これはまだ未完成だ」

「まじかよ……」

俺は思わず呟く。

「陽炎の刀剣解放は、全力でやり合っても勝てる気がしない」

『当然だ』

『お前はまだ入口に立っただけだ』

クロウはゆっくり立ち上がる。

「だが面白い」

「実に面白い」

俺は嫌な予感を覚えた。

今の一撃でも倒せない。

このまま戦えば負ける。

「ここは潔く撤退した方がいいな」

そう判断した瞬間だった。

「逃がさない」

黒い雷が迸る。

『陽斗!』

『抜刀術を使え!』

「陽炎抜刀術三式――」

双剣を交差させる。

全身の力を込める。

焉殲えんせん!!」

黄金の閃光。

黒い雷と正面から衝突する。

世界が白く染まった。

クロウの顔から初めて余裕が消える。

「まずい――」

後退する。

「逃げなければ」

慌てて刀を掲げた。

「詠唱破棄――刻のさ――」

最後まで言い終わらなかった。

轟音。

そして――

「うわぁぁぁぁぁ!!」

閃光が全てを飲み込んだ。

◇◇◇

しばらくして。

「はぁ……はぁ……」

煙が晴れる。

俺は倒れた影を見つめた。

「倒せたのか……?」

そこには焼け焦げたクロウの姿があった。

だが陽炎は首を振る。

『見ろ、陽斗』

「え?」

『こいつはクロウじゃない』

「なんだって!?」

俺は慌てて近づく。

すると男の顔が崩れ始めた。

まるで粘土細工が溶けるように。

黒髪だったはずの頭部も、身体も、別人の姿へ変わっていく。

『やはりな』

陽炎の声は重かった。

『こいつは黒刻No.6ではない』

『黒刻No.15』

『模倣のイミタティオだ』

「模倣……?」

『他人の姿や能力を一定時間だけ再現する刀を持つ解放者』

『恐らくクロウを模倣していたのだろう』

俺の背筋を冷たい汗が流れる。

「待てよ……」

「ってことは」

『ああ』

陽炎の表情が険しくなる。

『本物のセルペンス・クロウはまだ生きている』

風が吹く。

倒れたイミタティオの身体が灰となって消えていく。

その手には、一枚の黒い札だけが残されていた。

そこには不気味な文字が刻まれている。

『黒刻は陽炎を見つけた』

そしてその下には――

『No.1』

という文字が記されていた。


To be continued

あとがき

どうも、作者の夜城こはくです。

本作を読んでくださって本当にありがとうございます。

本来は学園ものを書こうと思っていたのですが、書いているうちに「やっぱりバトルものの方が書きやすいな」と思い、思い切って方向転換しました。

すると予想以上に筆が進み、なんと3日でここまで書き上げることができました。

主人公・天城陽斗はこれからどのように成長していくのか。

そして、敵組織「黒刻」の真の目的とは何なのか。

さらに、陽炎が語った過去や刀剣解放に隠された秘密とは――。

気になる方は、ぜひ第2巻も読んでいただけると嬉しいです。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。

それでは、また次回お会いしましょう。

           夜城こはく


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