第441話 ヒーローをつくる
少し、時を戻す。
新開市中に《縦深》という言葉が流行し、政治団体も企業もヒーローもヴィランも、まるで昔から知っていた戦い方のように第一列を下げ、第二列を押し出し、退いた機体を側面へ回し始めるより少し前。御厨綴の隠し作業場には、まだ片腕を失っていない《LEDGER-01》と、組み上がったばかりの二機の新しいフレームが並んでいた。寄せ集めの試験体とは違う。三機とも、予測した地点へ先回りするための高応答脚、相手の重心だけを崩す多関節腕、殺傷ではなく姿勢と移動を奪う拘束器、近距離で視線・肩・腰・脚の予備動作を拾うセンサーを持つ。とはいえ、まだ同じ機体ではない。《LEDGER-01》には実戦データを積んだ結果として増えた補修跡があり、《LEDGER-02》はより軽く側面へ回るため脚部の応答性へ比重を置き、《LEDGER-03》はアンカーと拘束機構を多く積んでいた。ヴェラ・クラウスは三機を眺め、その一番奥にある作業机へ細いデータ端末を置いた。
「お土産」
御厨は端末を見た。
「どこからです?」
「新開市」
「広すぎますねえ」
「じゃあ、復旧関係」
御厨は端末へ触れ、データを開いた。最初の数行を見た時点で表情が変わる。《BLUEPRINT》の公開コアではない。縦深構築の基本アルゴリズムでもない。もっと先だ。後にマティアスが私的研究として書き始めた、《専用保全機による自律縦深戦列》。その中でも特に、道路や建物といった都市構造へ依存せず、複数機そのものがビーコン、アンカー、可動障害物、拘束線を配置しながら仮設の第一線、第二線、側面、予備を作る構想だった。
《都市構造非依存型・仮設縦深形成》
御厨は画面を一度閉じ、ヴェラを見る。
「これは公開資料ではありません」
「そうね」
「マティアスさんから?」
「違う」
「許可は?」
「ない」
少しの沈黙。
「盗みました?」
ヴェラは肩をすくめた。
「答え必要?」
御厨は再び画面を見る。前衛が接触し、決着を求めず後退する。第二列が斜めに前へ出る。最初の前衛は側面へ回り、第三列が後方で次の再編を待つ。地形がなければ自分たちでアンカーを打ち、軽量障害物を置き、仮想的な道路と狭路を作る。戦列は固定されず、一機ごとの役割は常に入れ替わる。マティアスが義弘から教えられた「一枚目で勝とうとするな」という思想を、ついには機械だけで持ち運べる形へ落とそうとしていた青写真だった。
「出所は記録してください」
ヴェラが御厨を見る。
「止めないの?」
御厨はすぐには答えなかった。違法に取得された可能性は高い。高いどころか、ヴェラの反応を見ればほぼ確実だった。使うべきではない。少なくとも、普通なら。しかし《LEDGER》はすでにオールドユニオンから追跡されている。《MAXIMILIAN》を一度拘束したことで、OU本国は国家安全保障案件として技術者と調査員を大量投入した。このままでは《LEDGER》が御厨の思い描く形へ到達する前に、機体ごと回収される可能性がある。それだけではない。Qbs.Bm.はもう自由に使えない。オールドユニオンは追う。アライアンスは自分の行動を止められる。真鍋は犯罪が起きる前には動かない。なら、自分が求める「被害が大きくなる前に犯罪を止める仕組み」は、外部の許可を待っている限り完成しない。
「……止めません」
ヴェラが薄く笑った。
「そう」
「ただし、記録します」
「本当にそこ好きね」
「出所を消したら、後で責任を追えません」
「違法取得でも?」
「だからです」
御厨は再び資料を開いた。しばらく読むうちに、表情が徐々に研究者のものへ戻っていく。
「これは……逃走にも使えますね」
「当然」
「追跡者の次の行動を《LEDGER》が予測する。追跡者が右へ来るなら、右に見つかりやすい囮を置く。そこで第一縦深へ入れる。次の分岐で第二の反応を見せる。追う側は、自分で選んだつもりの経路をこちらへ選ばされる」
「そう」
「それなら本体は、別の層を通れる」
「幽霊らしくなるでしょ」
御厨は少しだけ笑った。
「亡霊ではありませんよ」
「じゃあ何」
御厨は《LEDGER-01》を見る。まだ新開市では顔のない怪談としてしか知られていない。悪いことをしていると現れる。逃げても先にいる。殺さず、拘束し、治安機関が来る前に消える。
「……ヒーロー」
ヴェラが眉を上げた。
「何が?」
「《LEDGER》です」
「警察じゃなくて?」
「逮捕しません」
「軍?」
「違います」
「じゃあ何でヒーロー」
御厨は自分でも答えを確かめるように言った。
「悪いことをしている人のところへ現れて、誰も殺さず、被害が出る前に止める。逃げれば先へ回り、危険な場所から人を遠ざけ、最後は治安機関へ渡して消える」
一拍。
「ヒーローでしょう?」
ヴェラは少しの間、御厨を見ていた。
「あなた、結構夢見るわね」
「そうですか?」
「うん」
御厨は三機へ視線を戻した。《LEDGER-01》の横で、ロールアウトしたばかりの《LEDGER-02》《LEDGER-03》が静かに待機している。
「犯罪者を狩る機械ではありません」
「分かってる」
「悪いことをする前から捕まえる機械でもない」
「今のところは」
御厨がヴェラを見る。
「今のところ、ではありません」
ヴェラは笑った。
「そういうことにしとく」
*
最初の実証は、戦闘ではなかった。
オールドユニオンの追跡を振り切ること。
それだけだった。
地下構造体にはOUの調査班が増えていた。旧物流路、保守区画、再開発途中の空洞、工事用地下道路。技術者がまとめた目撃地点と《LEDGER-01》の推定行動半径を基に、捜索班が巡回し、《MAXIMILIAN》も各経路の遮断要員として配置されている。以前なら、御厨は《LEDGER-01》を長時間動かせなかった。今度は違った。
《OU捜索班A:北地下路へ進出可能性 76%》
《MAXIMILIAN-2:音響反応後、西側連絡路へ合流可能性 63%》
《捜索班B:第一接触後、最短経路追跡を選択する可能性 81%》
御厨はその数字を見て、縦深配置を入れる。
「02。第一接触」
《LEDGER-02》が暗い通路の端へ一瞬だけ姿を出す。
OU側のセンサー。
反応。
『接触!』
02。
下がる。
追跡班。
追う。
「03、第二層」
別の通路で《LEDGER-03》が短く通信ノイズを残す。
『別反応!』
MAXIMILIANが進路を変える。
その間、《LEDGER-01》は反対側の細い保守路を抜ける。
02。
そのまま逃げない。
第一層を抜けた追跡班の後ろへ側面移動する。
03。
一度後退。
今度。
別の分岐。
第二層。
作る。
OU捜索班は、一機を追っているつもりだった。だが一つの接触を追えば次の反応があり、その反応を追えばさらに別の道が開く。どの経路も自分たちで選んだように見える。実際には、その選びそうな場所だけに情報が置かれていた。
『待て』
OU技術担当が通信へ割り込む。
『進路を止めろ』
『対象を追跡中です』
『違う。我々が追っているんじゃない』
一瞬。
通信。
止まる。
『追わせられている』
御厨はその言葉を遠隔傍受で拾った。
初めて。
本当に。
嬉しそうに笑った。
「できました」
ヴェラが横で見る。
「何が」
「捕まらずに」
一拍。
「犯罪を止められます」
ヴェラは少しだけ御厨を見る目を変えた。アライアンスに止められず、オールドユニオンにも捕まらず、真鍋の許可を待たず、自分が正しいと思う「事件の前」を守る。そのことまで御厨は《LEDGER》という防犯システムの性能に含め始めていた。
*
それから少し後。
御厨の警戒網へ新しい接近が表示された。
《ALICE》
《SHUVALOV》
《MAXIMILIAN ×3》
《MULTIPLE SMALL CONTACTS》
ヴェラが画面を見る。
「来たわよ」
御厨の表情から先ほどまでの喜びが消える。
「撤退します」
「また?」
「交戦理由がありません」
「アリスは追ってくる」
「追跡を縦深で切ります」
ヴェラは画面を拡大した。先頭の白いフード。その横に、黒い巨体。《シュヴァロフ》。新開市で初期からアリスを守り続けてきた家族機。Qbs.Bm.のような最新制圧機には特定領域で明確に遅れを取るようになった。それでもヴェラの目には、まだ別の価値が見えていた。
「シュヴァロフ」
御厨。
「旧世代化しています」
「それでも強い」
「知っています」
「アリス系の近接機で、まだあれを明確に越えたの見た?」
御厨は答えない。
ヴェラが少し笑う。
「私はない」
「戦わせる理由にはなりません」
「そうね」
「アリスは犯罪をしていません」
「そうね」
「ですから逃げます」
「分かった」
ヴェラは素直に頷いた。
御厨は《LEDGER-01》へ撤退指示を出した。
そして。
ヴェラは別回線を開いた。
*
アリス側は、最初から追跡をしなかった。
「勝手に前、行かないで」
地下構造体へ入る前にそう言われたOUの移動脅威評価部隊は、今回は従っていた。前回の敗北以来、本国からも未知機への単独突出は避けるよう指示されている。三機の《MAXIMILIAN》はアリスの周囲へ厚めの三角形を作り、前方にはシュヴァロフ、さらにバンダースナッチの小型偵察機が床、壁、天井、細い保守管へ散っていた。
アリスは端末を見る。
「いる」
OU現地指揮官が聞く。
「本体ですか」
「違う」
一拍。
「見せてる」
「囮?」
「たぶん」
バンダースナッチの一機が、先の分岐で微弱な非登録通信を拾う。
アリスは進まない。
次。
別の方向。
反応。
出る。
それでも進まない。
「やはり追跡しない?」
「うん」
「では対象が離脱します」
「離脱させる」
指揮官が少し驚く。
「目的は捕獲では?」
「捕まえたい」
「なら」
「でも」
アリスは前方の暗い通路を見る。
「追わせたい」
「と思ってる」
その瞬間。
シュヴァロフ。
顔。
ない。
頭部。
少し。
横。
向く。
一機。
細い。
影。
立つ。
《LEDGER-01》。
アリスの赤い目が細くなる。
「いた」
*
《LEDGER-01》はすぐには動かなかった。
アリスも。
動かない。
前回と違う。
MAXIMILIANも出ない。
地下の狭い空間で、双方が少し距離を置いたまま互いを見る。
アリス。
「止まって」
返事。
ない。
「話」
「したい」
LEDGER-01。
一歩。
下がる。
アリスは追わない。
「逃げる?」
もう。
一歩。
下がる。
アリス。
違和感。
持つ。
前回。
この機体はMAXIMILIANへ積極的に制圧を仕掛けた。
今。
違う。
退路。
作る。
こと。
優先。
してる。
「……お前」
一拍。
「戦いたくない?」
遠隔で聞いていた御厨の指が一瞬止まる。
ヴェラが御厨を見る。
「気づいた」
「勘が良すぎますねえ」
LEDGER-01は左へ動いた。
そこへ。
MAXIMILIANの一機が下がる。
退路。
開いた。
よう。
見える。
LEDGER-01。
そっち。
行く。
次。
右側のMAXIMILIAN。
斜め。
前。
出る。
後ろの一機。
さらに。
下がりながら。
第二線。
作る。
《敵縦深形成》
御厨の画面に表示が出た。
アリスが少しだけ眉を上げる。
「……お前ら」
OU兵。
「何でしょう」
「上手くなった」
「前回の教訓です」
「流行ってるな、縦深」
《LEDGER-01》は回避する。だが今度は、自分がいつもやっていたのと同じように、一枚目を抜けても次がある。MAXIMILIAN三機は正面で決着を求めない。一機が退けば一機が出る。追えば別の角度へ流される。
御厨は撤退路を再計算する。
「01、右へ」
LEDGER-01。
右。
入る。
MAXIMILIAN。
追わない。
先。
横。
出る。
「……」
御厨。
画面。
見る。
「抜けません」
ヴェラ。
「だから言ったでしょ」
「まだ再構築できます」
その時。
OU指揮官の声が地下へ響く。
「対象を捕獲する」
アリスが振り向いた。
「待って」
「千載一遇の機会です」
「待って」
「一号機、前進。二号機側面。三号機、退路を」
「だから待て!」
MAXIMILIAN。
出る。
アリスは舌打ちした。
*
LEDGER-01の動きが変わった。
攻撃。
ではない。
拘束。
でもない。
ただ。
下がる。
側面。
抜ける。
MAXIMILIANが腕を伸ばす。
LEDGER-01は避ける。
でも。
反撃。
浅い。
関節。
押す。
機体。
傷つける。
より。
退路。
作る。
優先。
する。
アリス。
「やっぱ」
一拍。
「戦いたくない」
MAXIMILIANの一機がさらに踏み込む。
「退け!」
アリス。
叫ぶ。
でも。
OU側も今度こそ未知機を手に入れたい。
一度。
敗北。
した。
その相手。
目の前。
しかも。
包囲。
してる。
指揮官。
「拘束します!」
LEDGER-01。
追い詰められる。
御厨。
「撤退経路が狭い」
ヴェラは画面を見る。
「だから援護出した」
御厨が振り向く。
「何?」
「もう着く」
御厨の顔色が変わる。
「ヴェラ」
「01だけじゃ無理」
「戻してください」
「無理」
「命令していません」
「私がした」
「何を――」
地下。
二つ。
新しい。
影。
出る。
*
「未知機二!」
OU兵の声。
アリス。
見る。
一機。
軽い。
細い。
もう一機。
腰部。
アンカー。
多い。
《LEDGER-02》。
《LEDGER-03》。
当然、アリスはその名を知らない。
「増えた」
02。
前。
出る。
03。
後。
残る。
01。
中央。
次。
01。
下がる。
02。
斜め。
出る。
03。
アンカー。
床。
壁。
二点。
打つ。
01。
側面。
回る。
アリスの顔が変わる。
「……マティアスの」
マティアスが第445話で見せた映像。
一列目。
下がる。
二列目。
出る。
最初の列。
側面。
回る。
機械。
だけ。
縦深。
作る。
完全。
同じ。
「BLUEPRINT」
OU側はその意味を考える暇がなかった。
三機。
動く。
*
最初のMAXIMILIANが前へ出る。
LEDGER-02。
後退。
する。
追う。
MAXIMILIAN。
次。
03。
アンカー。
引く。
機体。
進路。
僅か。
ずれる。
01。
側面。
入る。
関節。
押す。
MAXIMILIAN。
踏ん張る。
強い。
出力。
上。
突破。
する。
でも。
03。
アンカー。
一本。
捨てる。
次。
位置。
打つ。
02。
今度。
横。
回る。
第一線。
第二。
第三。
順番。
ない。
相手の動きに合わせて。
入れ替わる。
MAXIMILIAN一号機の右脚が拘束を振り切る。
その瞬間。
LEDGER。
予測。
《高出力前方突破:72%》
02。
退く。
道。
開ける。
一号機。
前。
出る。
そこ。
03。
アンカー。
交差。
する。
01。
肩。
押す。
巨大。
MAXIMILIAN。
姿勢。
崩れる。
壁。
近い。
OU兵。
「姿勢制御!」
出力。
上げる。
脱出。
する。
その。
出力。
まで。
読まれてる。
02。
反対。
脚。
当てる。
03。
拘束索。
限界。
超える。
切れる。
でも。
切れた。
反動。
MAXIMILIAN。
さらに。
回る。
壁。
激突。
関節。
破断。
内部。
電源系。
一瞬。
明滅。
次。
消える。
《MAXIMILIAN-1 OFFLINE》
地下。
静か。
なる。
ほんの。
一秒。
OU指揮官。
「一号機!」
返事。
ない。
無人。
機体。
だから。
死者。
いない。
でも。
壊れた。
最新鋭。
MAXIMILIAN。
一機。
完全。
停止。
した。
*
アリスの顔から、追跡者の好奇心が消えた。
「管制」
OU指揮官が見る。
「何を」
「残り」
一拍。
「二機」
「こちらの指揮下です」
「知ってる」
「では」
「貸して」
「陛下」
「陛下じゃない!」
LEDGER-02がさらに前へ出る。03が次のアンカーを打つ。
シュヴァロフ。
アリス。
前。
出る。
「早く」
OU指揮官は一瞬迷い、通信を切り替えた。
「MAXIMILIAN二号、三号。臨時管制権をアリツェ・ヴァーツラフコヴァーへ」
アリス。
「シュヴァロフ」
黒い巨体。
中央。
立つ。
MAXIMILIAN二機。
左右。
入る。
御厨の《LEDGER》側。
予測。
始める。
《MULTI-ACTOR PREDICTION》
《SHUVALOV》
《MAXIMILIAN-2》
《MAXIMILIAN-3》
アリスが画面の向こうにいることを知る御厨は、少し息を詰めた。
でも。
アリス。
違う。
こと。
する。
「三つ」
OU兵。
「はい?」
「いらない」
「何が」
「一個」
一拍。
「にする」
*
シュヴァロフと二機のMAXIMILIANから、別々の判断が消えた。
正確には、個別制御は残っている。だが戦術判断をアリスが一つへ束ねた。
右。
行く。
三機。
右。
行く。
止まる。
三機。
同時。
止まる。
一機が拘束を受ければ、別機が「助ける」のではない。その拘束された機体自体を足場、盾、支点として全体の一部へ変える。
LEDGER側。
予測。
分岐。
減る。
《対象群協調度:極高》
《独立行動主体数:低下》
御厨。
「……逆」
ヴェラ。
「何が」
「前回は」
「対象が増えた」
アリスはMAXIMILIAN一機の中に、電子支援と周辺設備という複数の行動主体を作った。
今。
逆。
「三機を」
一拍。
「一機にしています」
ヴェラの顔が少し楽しそうになる。
「面白い」
*
LEDGER-02。
第一。
前。
出る。
次。
下がる。
アリス側。
追う。
でも。
左右。
行かない。
中央。
真っ直ぐ。
来る。
03。
アンカー。
二本。
打つ。
進路。
狭める。
アリス。
変えない。
MAXIMILIAN二号。
拘束索。
受ける。
そのまま。
前。
出る。
シュヴァロフ。
二号機の肩。
足。
かける。
巨大。
黒。
腕。
伸ばす。
MAXIMILIAN三号。
後ろ。
押す。
三機。
質量。
出力。
一方向。
集まる。
アリス。
低く。
言う。
「読めるなら」
一拍。
「読めば」
03。
アンカー。
軋む。
「止めてみろ」
第一縦深。
抜く。
LEDGER-02。
横。
回る。
MAXIMILIAN三号。
そっち。
向かない。
肩。
受ける。
そのまま。
前。
行く。
第二縦深。
03。
下がる。
01。
斜め。
入る。
アリス。
進路。
変えない。
縦深。
相手。
選択肢。
使う。
戦術。
でも。
選択。
しない。
ただ。
一方向。
来る。
まるで。
破城槌。
だった。
LEDGER-03が小型ビーコンを投げる。
シュヴァロフ。
巨大腕。
払う。
MAXIMILIAN二号。
アンカー。
踏む。
壊す。
03。
別。
位置。
下がる。
アリス。
下がらせない。
追う。
縦深を構成する節そのものを、一つずつ物理的に潰していく。
御厨。
「01、側面」
LEDGER-01。
シュヴァロフ。
右。
入る。
シュヴァロフ。
右爪。
振る。
01。
予測。
《RIGHT CLAW ATTACK》
避ける。
でも。
右爪。
本命。
じゃない。
MAXIMILIAN三号。
後ろ。
押す。
シュヴァロフの巨体が予測より半歩深く滑る。
01。
再計算。
する。
遅い。
シュヴァロフ。
左。
巨大腕。
伸びる。
01。
拘束。
される。
離脱。
方向。
MAXIMILIAN二号。
いる。
退路。
消える。
御厨。
「01!」
シュヴァロフ。
腕。
振る。
LEDGER-01。
右腕。
根元。
破断。
金属。
飛ぶ。
壁。
当たる。
床。
転がる。
《LEDGER-01 RIGHT ARM LOST》
御厨の顔色が変わった。
「01!」
ヴェラが横を見る。
「落ち着いて」
「撤退!」
「まだ戦列は」
「全部下げて!」
「御厨」
「撤退です!」
声。
初めて。
強い。
なる。
*
LEDGER-02が前へ出た。
今度は。
攻撃。
ではない。
盾。
なる。
01。
中央。
下がる。
03。
後ろ。
アンカー。
打つ。
第二。
撤退。
縦深。
作る。
02。
下がる。
01。
さらに。
奥。
03。
側面。
回る。
戦列。
壊れても。
次。
作る。
その時。
アリスの端末。
別。
信号。
拾う。
バンダースナッチの小型機が、地下通信設備の端で一瞬だけ強い中継波を捕まえた。
「……」
アリス。
手。
止まる。
「OCM」
OU指揮官。
「何?」
「通信」
一拍。
「海外部門」
その瞬間、遠くの保守ゲートが勝手に開く。
規格。
OCM。
古い。
通信。
痕跡。
残る。
別の場所。
小型飛行支援機。
一瞬。
映る。
完全な。
EAGLE。
ではない。
でも。
OCM海外部門が使う中継仕様。
アリス。
確信。
する。
「いる」
LEDGER三機はその支援を利用して、さらに奥へ戦列を作り直す。
OU指揮官。
「追撃します!」
アリス。
「駄目」
「一機喪失しています!」
「だから」
「今なら対象は損傷しています!」
「だから!」
アリスが振り向く。
「今」
一拍。
「一番」
「追っちゃ駄目」
指揮官が黙る。
「あいつら」
アリスは暗い奥を見る。
「追う奴」
「読む」
「地形」
「作る」
「OCM」
「いる」
「それに」
床。
落ちた。
LEDGER-01。
腕。
見る。
「壊れた」
一拍。
「逃げてる」
指揮官。
「だからこそ」
「違う」
アリス。
「窮鼠」
一拍。
「今追うと」
「噛む」
地下。
狭い。
退路。
相手。
知ってる。
こちら。
知らない。
しかもMAXIMILIAN一機をすでに失った。
OU指揮官は悔しそうに奥を見る。
でも。
命令。
「追撃中止」
アリスはシュヴァロフへ合図する。
黒い巨体。
床。
落ちていたLEDGER-01の腕。
拾う。
「十分」
指揮官。
「捕獲対象は逃走しました」
「でも」
アリス。
腕。
見る。
「幽霊」
一拍。
「腕」
「置いてった」
*
壊れたMAXIMILIANも回収された。
一号機は右脚と腰部構造が大きく破損し、主電源が落ちている。完全喪失ではない。だがそのまま自走できる状態でもない。二号機と三号機が左右から保持し、ゆっくり地上へ搬送する。
OU兵たちの空気は重かった。
一度目。
一機。
拘束。
された。
二度目。
三機。
投入。
一機。
破壊。
された。
アリス。
その顔。
見る。
「持って帰る」
指揮官。
「当然です」
「直せる」
「直します」
「じゃあ」
一拍。
「次」
地下。
奥。
見る。
「地上で」
「捕まえる」
「地下ではなく?」
「相手の庭」
「行かない」
指揮官は少し考えた。
「了解」
アリスは手元の腕を見る。外装にメーカー表示はない。内部部品は混成。だが制御基板の一部、近距離センサー、通信バッファ、拘束機構の残存ログ。十分に物的証拠になる。
そして。
OCM。
通信。
痕跡。
ある。
BLUEPRINT。
縦深。
ある。
線。
繋がる。
始める。
*
御厨たちは、さらに奥の退避拠点へ戻っていた。
《LEDGER-01》は片腕を失ったまま固定台へ載せられている。《LEDGER-02》と《LEDGER-03》が左右に立ち、まるで損傷した一機を守っているようにも見えた。
ヴェラが整備担当へ言う。
「右肩から交換。接続面ごと見て」
御厨。
動かない。
01。
見る。
ヴェラが振り返る。
「MAXIMILIAN一機落とした」
「……」
「三機相手に縦深成立。シュヴァロフもかなり読めた。成果は大きい」
御厨。
「腕」
「直せる」
「そういう話では」
自分。
言って。
止まる。
ヴェラ。
見る。
「じゃあ何の話?」
御厨は答えられなかった。
さっき。
画面。
腕。
飛ぶ。
見た。
思わず。
「01」
呼んだ。
番号。
だけ。
なのに。
機材。
壊れた。
だけ。
なのに。
怖かった。
御厨は少し前、自分で言った。
『ヒーローでしょう?』
悪いことをしている人の前へ現れる。
誰も殺さない。
被害が出る前に止める。
そして。
消える。
自分。
作った。
ヒーロー。
その腕。
壊された。
だから。
怖い。
御厨の指が、無意識にLEDGER-01の壊れた肩の外装へ触れる。
「……直しましょう」
ヴェラ。
「もちろん」
「もっと」
一拍。
「強く」
ヴェラの目が少し細くなる。
「そうね」
「でも」
「何」
御厨は少しだけ顔を上げた。
「次は」
一拍。
「アリスさんと」
「戦わせません」
ヴェラ。
笑う。
「本当に?」
御厨。
答えない。
*
地上へ戻ったアリスは、トミーから通信を受けた。
『捕まえた?』
「逃げた」
『また?』
「腕」
『何』
「腕だけ」
『幽霊の?』
「うん」
トミー。
少し。
間。
『強かった?』
アリスは壊れたMAXIMILIANが搬送されていくのを見る。
「一機」
一拍。
「壊された」
『……MAXIMILIAN?』
「うん」
『三機いたよな』
「いた」
『面倒だな』
「すごく」
『誰のだった』
アリスは手元の《LEDGER-01》の腕を見る。
「まだ」
一拍。
「でも」
地下で拾った通信記録を開く。
「OCM」
次。
《LEDGER》三機が作った縦深戦列を思い出す。
「《BLUEPRINT》も」
一拍。
「いる」
『繋がった?』
「ちょっと」
『御厨?』
アリスは少し黙った。
まだ。
証拠。
ない。
だから。
「分からない」
でも。
あの。
動き。
人。
見る。
感じ。
あの。
攻撃。
浅い。
ためらい。
誰か。
奥。
いる。
そして。
OCM。
いる。
アリスはLEDGER-01の腕をシュヴァロフへ渡した。
「調べる」
『女王の仕事は?』
「三岐いる」
『怒られるぞ』
「もう怒られてる」
『最近それ便利にしてない?』
「してない」
トミー。
笑う。
*
その夜、新開市の地下には二つの傷が残った。
一つは、片腕を失った《LEDGER-01》。
もう一つは、動力を失って地上へ運ばれた《MAXIMILIAN》。
どちらも。
まだ。
終わってない。
御厨綴は、自分がヒーローを作ったと思い始めていた。
マティアス・ヴァン・ローンが考えた縦深は、そのヒーローへ逃げ道と戦場を与えた。
ヴェラ・クラウスは、その二つが噛み合った先に、新しい世代の戦い方を見ていた。
そしてアリスは。
そのヒーローの腕を。
物的証拠。
として。
持ち帰った。
亡霊は。
もう。
怪談。
ではない。
腕。
ある。
壊れる。
逃げる。
誰か。
守る。
そして。
その誰かは。
地下の奥で。
次。
もっと。
強い。
ヒーローを。
作ろう。
としていた。




